夢幻 震える夜を溶かしてよ
会いたい。会いたい。
ただ、会いたい。その名が零れ落ちそうになったその時ー
「呼んだか」
「--!」
「ひ、えい」
久方ぶりに見る蔵馬の顔は、あまりにも予想外で-
予想外という言葉以外に飛影の頭には何も浮かばなかった。
こんな表情を-していただろうか。
飛影は言葉をなくし、蔵馬を見詰めた。
人間界に来たのは気まぐれだったが、そこからが、
今日は違っていた。
形の定まらないもののようにゆらゆらしたモノを感じ、
焦りにも似た気持ちで屋根を駆けてきた。
不意に現れた人に、言葉をなくしたのは蔵馬も同じだった。
不意打ち過ぎて、一瞬で喉がからからに渇いてきた。
蔵馬はほんの僅かに飛影を見上げて、立ち上がった。
「電気、つけますね」
部屋の隅まで行くだけなのに、やけにゆっくりと見えた。
じっと蔵馬を見ていた飛影を、言いようの無い
もどかしさが襲った。
パチンと音がして、光が広がる一瞬前・・・
「--」
何かに怯えるように蔵馬の瞳が揺れた。
「くら、ま?」
自分が知っている蔵馬は、こんな風だっただろうか。
遠いものを見るように、飛影は蔵馬を見た。
丸く澄んだ瞳は何度か揺れて、そして飛影を見詰めた。
上手く形にならない、モノを秘めて。
「あの…」
何か、食べますか、といつものように言おうとして、
そこから先は空に舞った。
「-どうしたんです、か」
その言い方に、飛影は驚いて、蔵馬に近づくことが
出来なかった。