夢幻 震える夜を溶かしてよ
「はあ、はあ・・・」
走って走って、蔵馬はいつの間にか南野秀一の部屋にいた。
長い長い道をずっと走っていたような気もするが、
それはただ、高揚した気持ちで何かに向かって走るのとは違う。
-逃げている感じ。そう、逃げている感じだった。
何から、--何から。
そんなこと、考えたくも無かった。
逃げている、それは解っても、止まりたくなかった。
もがいて逃げているような、気持ち。
明るくする気持ちは起きなくて、そのまま部屋の隅に
ひざを抱えて座り込む。
今は、暗いほうが、良い。安心するわけでは無いけれど。
そう思って、膝に顔を埋める。
-ああ。ダメなんだ。
解った。-どこまでも追いかけてくるような視線が、
自分はダメなのだ。
今更解った。
長い髪が乱れたままなのもそのままに、瞳を閉じて観る。
すると--その中で、思考の中で、自分の姿が揺れていた。
揺れている自分の-そして後ろから執拗な視線を
感じた。
強い力を持ったそれを感じて振り向くと--
『鴉!』
ふわりと揺れて、鴉が微笑んでいた。そしてその姿は
黄泉になり--
『--!』
あの人の名を呼んだ所で、はっと我に返った。
-ああ、と思った。