Curse
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俺はしがない高専職員である。
「なぁ」
「ん〜?」
スマホ片手に気だるそうに返事するのは俺の友人だ。
こいつも職員の1人で今日はたまたま休日が被り、俺の部屋に来てはゲームをしたりとダラダラとくつろいで過ごしている。
「この間気になる話聞いたんだけどよ」
「うん」
相変わらず気の抜けた片手間の返事である。
「高専内に夏油さんが手負いの女術師を囲い込んでるって話。」
「…へぇ?」
お、さすがに高専内で知らない人はいないと言っても過言ではない人物の話は気になったようでスマホの画面を落とし、こちらに顔を向け暗に続きを急かして来た。
「なんでも夏油さんにはお気に入りの術師がいたらしいんだが、ある日戦闘不能の怪我を負ってしまい高専内に誰にも見つからないよう部屋を作って保護してずっと世話しているらしい」
「…そんな話データベースには無かったはずだが確かなのか?」
まさか信じられないとでも言うような怪訝な顔。
まぁそうだよな。
俺も半信半疑だよ。
「いや、俺も直接見たとかそういう訳じゃねぇ又聞きの範疇なんだけどな?任務帰りに女物の化粧道具や服やら買ってるのを見たって人が何人も居てよ。プレゼントって訳でもなくいつも同じメーカーを買ってたり包装なしで高専に持ち帰ってくるのだと。他にも外泊申請出てないのに部屋にも同期の部屋にも居ない日があったりするんだとか。五条さんなら申請出してないだけだろ、ともなるけどあの夏油さんだからよ…直接聞ける強者もいないし。」
「なるほどな…その女を実際に見たってやつはいねぇのか?」
「…いない、という訳でもない。」
俺の煮え切らない曖昧な答えに眉を顰め真意を探ってくる。
「…その心は?」
「…ある術師がいたらしいんだ。夏油さんがその女を世話しているのを見たと高専内で色んな人に言って回ったことがあったそうなんだ」
「へぇ。」
「だが、その術師は次の日、いつもなら余裕のはずの格下呪霊を祓う単独任務で何らかの予想外に見舞われ、精神を壊して今は物言わぬ傀儡になったかのように喋ることも出来ず意思もなくなってしまい、術師を退職してどこか遠い病院でずっと入院生活を送っているんだと。」
どちらかともなく茶化すことの出来ない重苦しい雰囲気に黙り込んでしまう。
流れた静寂を切ったのは友人だった。
「そういえば」
「ん?」
「その、夏油さん、確か今日OFFだよな」
俺はつい面食らってしまい開けっ放しになってしまった口を慌てて戻す。
おいおいおい。
この流れでそれを言うということは、お前が言わんとしていることが嫌でもわかる。
わかるがな…
「……お前、まさかとは思うけど」
「……その"まさか"だ」
そうであって欲しくなかった予想通りの答えに頭を抱えた。
確かに職務上不明なことがあるといざと言う時に困るのはこちらだが、きっとそれを上回っているであろうこいつの好奇心やには恐れ入るしかない。
少し考えた後、答えを紡ぐ。
「俺から話したくせに申し訳ないけど、さすがにそれは付き合えねぇよ」
「やっぱそうだよな〜」
そこからはこれ以上話すことは無いと2人とも判断したのかいつの間にか当たり障りのない世間話に切り替わり特に変わりのない一日を終えたのだった。
友人が帰ってから俺も風呂に入って寝た。
そこまではいつも通り。
予想外といえばこんな明朝から扉が乱暴に叩かれる音で目覚めたことだ。
今を何時だと思っているんだ。
まだ俺の勤務時間にはかなりの時間があるというのに。
眠い目をこすりながら渋々起き上がり扉を開くとそこに居たのは親しくしている同僚だった。
なんだよ仕事の話ならメッセージで済ませてくれ、とボヤきを入れるがどこか様子がおかしい。
なにやら息を切らして血相を変えて来たようだ。
不審に思い、とりあえずと招き入れ飲み物を出してやるとそれを一気に煽り、声を震わせ時折突っかかりながらもぽつりぽつりと話し始めた。
こいつは昨日のヤツと俺との唯一共通でプライベートも仲良くしている知り合いだ。
今思えばその時点で俺は気がつくべきだったのかもしれない。
そいつの話をまとめるとこうだ。
友人が昨日解散した後の深夜、高専内で魂を抜かれたかのように膝をつき失禁しながら震えているのを補助監督に保護されたというものだった。
どう考えても俺の直感がヤバイ、と言っている。
どうやら保護された友人は医務室に運び込まれたらしい。
同僚を宥め、落ち着くのを待って一緒に医務室に行くことにした。
自分のものを作るのと一緒に同僚の分も朝食を用意し暖かいものと一緒に出してやれば少しづつ口にして落ち着きを取り戻したようだ。
そんなこんなして時間を見ればあっという間に始業時間30分前。
一目だけでも、と俺は同僚を連れて医務室へと向かった。
医務室の扉を開けようと手をかけた時同時に扉が開いて医師が出てきた。
「もしかして彼の友人か?」
「はい。入っても大丈夫ですか?一目でも顔を見たくて。」
「ああ、今はだいぶ安定しているから構わないよ。ただ相当ショッキングなものを見たのか記憶の混濁が見られるから何があったのか、など具体的に思い出させるようなことはしないでくれると助かる。それ以外に異常はないから休めば元通り復帰も可能だし心配しなくて大丈夫だよ。」
「そうですか…わかりました。ありがとうございます。」
医師が立ち去るのを見届け、俺は扉を開いた。
そこには虚ろな顔をして四肢を投げ出しベッドに横たわる痛々しい友人の姿があった。
同僚がすぐさま駆け寄り容態を聞くが答えはなく、弱々しくこちらを見つめるだけであった。
怪我はないようだが声が出ないのかもしれない。
机に置かれて開かれた新品のノートの上にはボールペンが1本とミミズが這うような文字がいくつかあった。
手の痺れでもあるのか、震えているような筆跡。
俺はといえばかける言葉も見つからず立ち尽くしていた。
同僚は一目見て命に別状がないことを分かると1歩先に彼の変わりの仕事をどうにかせねばならないと仕事へ向かった。
幸いにまだ俺は時間ある。
もう少しここに居ようと手近にある椅子を引き寄せ傍に座った。
何もせずただ同じ時間を過ごしていた。
突如友人が震える手でボールペンを握り、ノートへ何か文字を書き連ねるのを黙って見守った。
ようやく書き終わると、言うことはもうないという意思表示なのかベッドに体を沈め目を閉じた。
とりあえず書かれたページに目を通し、即座にちぎると乱雑にポケットに詰めて眠った友人を起こさないように音を立てないよう配慮して外へ出た。
[ 今 は 使 わ れ て な い 棟 に あ る 倉 庫 に は 近 付 く な ]
そして
[ 誰 に も 悟 ら れ る な ]
とも書かれていた。
きっと友人は昨日解散したあと、良からぬことを知ってしまったのだろうと予測ができた。
一日中仕事をしながら悩んだ。
やはり友人が誰かにやられた可能性が捨てきれない以上見て見ぬふりしろというのも難しい。
あんな目に遭うなんておかしいじゃないか。
敵かもしれないなら放っておいたら大変なことになりえる。
自分の目で確かめに行くべきなのではないか、と。
仕事が終わり、日が落ち切る前。
俺は使われていない塔へと足を進めていた。
倉庫の扉を開くとなんとも言えぬ古びた匂いがした。
対しておかしい所はないように見える。
「あれ…」
壁に継ぎ目がある。そして色が少し違う。
壁に見えるようにしてある隠し扉か?
なによりこの扉、外からしか開けられないようになっているじゃないか。
怪しさ満点だ。
扉を開くと薄暗い部屋に似つかわしくない大きさの一台のベッドとそこに寝そべる女性の姿。
幸い、眠っていてこちらには気がついていないようだ。
内装はフリルやレースがふんだんに使われた"女の子"の部屋という感じなのに女性に繋がれた首輪と手錠がアンバランスだ。
置き去りにされた冷えてしまっているであろう食べかけの食事が床に置かれたままにされており、彼女にかけられた首輪では届かない位置に置かれている。
あろうことか蓮華に1口分が盛られている。
まるで誰かが自ずから食べさせてあげていたかのようではないか。
えもいえぬ気持ち悪さに身震いをする。
1番遠い机には錠剤やサプリメントなど当たり障りのないものから注射器、メスや針というまるでオペでもするかのような専門的医療器具もある。
…まさかな。
目を疑わざるを得ない。
寝ている彼女には膝から下が無かったからである。
突如フッと俺の足元にある己の影が広がる。
それは俺の背後に人が来たことを暗に伝えている。
今になって全てを悟ったがもう後の祭りだ。
「君は一体、ここで何をしているんだい?」
俺は硬直してしまったかのようにその場から動けなくなった。
声をかけてきた男が俺の横をゆっくり通って過ぎ、彼女の元に跪くと背に手を回し抱き起こし、慈しむかのような愛しさを孕む笑みを称え
「綺麗だろう?」
とこちらへ歪んだ笑みを向けた。
'21/03/04 公開
「なぁ」
「ん〜?」
スマホ片手に気だるそうに返事するのは俺の友人だ。
こいつも職員の1人で今日はたまたま休日が被り、俺の部屋に来てはゲームをしたりとダラダラとくつろいで過ごしている。
「この間気になる話聞いたんだけどよ」
「うん」
相変わらず気の抜けた片手間の返事である。
「高専内に夏油さんが手負いの女術師を囲い込んでるって話。」
「…へぇ?」
お、さすがに高専内で知らない人はいないと言っても過言ではない人物の話は気になったようでスマホの画面を落とし、こちらに顔を向け暗に続きを急かして来た。
「なんでも夏油さんにはお気に入りの術師がいたらしいんだが、ある日戦闘不能の怪我を負ってしまい高専内に誰にも見つからないよう部屋を作って保護してずっと世話しているらしい」
「…そんな話データベースには無かったはずだが確かなのか?」
まさか信じられないとでも言うような怪訝な顔。
まぁそうだよな。
俺も半信半疑だよ。
「いや、俺も直接見たとかそういう訳じゃねぇ又聞きの範疇なんだけどな?任務帰りに女物の化粧道具や服やら買ってるのを見たって人が何人も居てよ。プレゼントって訳でもなくいつも同じメーカーを買ってたり包装なしで高専に持ち帰ってくるのだと。他にも外泊申請出てないのに部屋にも同期の部屋にも居ない日があったりするんだとか。五条さんなら申請出してないだけだろ、ともなるけどあの夏油さんだからよ…直接聞ける強者もいないし。」
「なるほどな…その女を実際に見たってやつはいねぇのか?」
「…いない、という訳でもない。」
俺の煮え切らない曖昧な答えに眉を顰め真意を探ってくる。
「…その心は?」
「…ある術師がいたらしいんだ。夏油さんがその女を世話しているのを見たと高専内で色んな人に言って回ったことがあったそうなんだ」
「へぇ。」
「だが、その術師は次の日、いつもなら余裕のはずの格下呪霊を祓う単独任務で何らかの予想外に見舞われ、精神を壊して今は物言わぬ傀儡になったかのように喋ることも出来ず意思もなくなってしまい、術師を退職してどこか遠い病院でずっと入院生活を送っているんだと。」
どちらかともなく茶化すことの出来ない重苦しい雰囲気に黙り込んでしまう。
流れた静寂を切ったのは友人だった。
「そういえば」
「ん?」
「その、夏油さん、確か今日OFFだよな」
俺はつい面食らってしまい開けっ放しになってしまった口を慌てて戻す。
おいおいおい。
この流れでそれを言うということは、お前が言わんとしていることが嫌でもわかる。
わかるがな…
「……お前、まさかとは思うけど」
「……その"まさか"だ」
そうであって欲しくなかった予想通りの答えに頭を抱えた。
確かに職務上不明なことがあるといざと言う時に困るのはこちらだが、きっとそれを上回っているであろうこいつの好奇心やには恐れ入るしかない。
少し考えた後、答えを紡ぐ。
「俺から話したくせに申し訳ないけど、さすがにそれは付き合えねぇよ」
「やっぱそうだよな〜」
そこからはこれ以上話すことは無いと2人とも判断したのかいつの間にか当たり障りのない世間話に切り替わり特に変わりのない一日を終えたのだった。
友人が帰ってから俺も風呂に入って寝た。
そこまではいつも通り。
予想外といえばこんな明朝から扉が乱暴に叩かれる音で目覚めたことだ。
今を何時だと思っているんだ。
まだ俺の勤務時間にはかなりの時間があるというのに。
眠い目をこすりながら渋々起き上がり扉を開くとそこに居たのは親しくしている同僚だった。
なんだよ仕事の話ならメッセージで済ませてくれ、とボヤきを入れるがどこか様子がおかしい。
なにやら息を切らして血相を変えて来たようだ。
不審に思い、とりあえずと招き入れ飲み物を出してやるとそれを一気に煽り、声を震わせ時折突っかかりながらもぽつりぽつりと話し始めた。
こいつは昨日のヤツと俺との唯一共通でプライベートも仲良くしている知り合いだ。
今思えばその時点で俺は気がつくべきだったのかもしれない。
そいつの話をまとめるとこうだ。
友人が昨日解散した後の深夜、高専内で魂を抜かれたかのように膝をつき失禁しながら震えているのを補助監督に保護されたというものだった。
どう考えても俺の直感がヤバイ、と言っている。
どうやら保護された友人は医務室に運び込まれたらしい。
同僚を宥め、落ち着くのを待って一緒に医務室に行くことにした。
自分のものを作るのと一緒に同僚の分も朝食を用意し暖かいものと一緒に出してやれば少しづつ口にして落ち着きを取り戻したようだ。
そんなこんなして時間を見ればあっという間に始業時間30分前。
一目だけでも、と俺は同僚を連れて医務室へと向かった。
医務室の扉を開けようと手をかけた時同時に扉が開いて医師が出てきた。
「もしかして彼の友人か?」
「はい。入っても大丈夫ですか?一目でも顔を見たくて。」
「ああ、今はだいぶ安定しているから構わないよ。ただ相当ショッキングなものを見たのか記憶の混濁が見られるから何があったのか、など具体的に思い出させるようなことはしないでくれると助かる。それ以外に異常はないから休めば元通り復帰も可能だし心配しなくて大丈夫だよ。」
「そうですか…わかりました。ありがとうございます。」
医師が立ち去るのを見届け、俺は扉を開いた。
そこには虚ろな顔をして四肢を投げ出しベッドに横たわる痛々しい友人の姿があった。
同僚がすぐさま駆け寄り容態を聞くが答えはなく、弱々しくこちらを見つめるだけであった。
怪我はないようだが声が出ないのかもしれない。
机に置かれて開かれた新品のノートの上にはボールペンが1本とミミズが這うような文字がいくつかあった。
手の痺れでもあるのか、震えているような筆跡。
俺はといえばかける言葉も見つからず立ち尽くしていた。
同僚は一目見て命に別状がないことを分かると1歩先に彼の変わりの仕事をどうにかせねばならないと仕事へ向かった。
幸いにまだ俺は時間ある。
もう少しここに居ようと手近にある椅子を引き寄せ傍に座った。
何もせずただ同じ時間を過ごしていた。
突如友人が震える手でボールペンを握り、ノートへ何か文字を書き連ねるのを黙って見守った。
ようやく書き終わると、言うことはもうないという意思表示なのかベッドに体を沈め目を閉じた。
とりあえず書かれたページに目を通し、即座にちぎると乱雑にポケットに詰めて眠った友人を起こさないように音を立てないよう配慮して外へ出た。
[ 今 は 使 わ れ て な い 棟 に あ る 倉 庫 に は 近 付 く な ]
そして
[ 誰 に も 悟 ら れ る な ]
とも書かれていた。
きっと友人は昨日解散したあと、良からぬことを知ってしまったのだろうと予測ができた。
一日中仕事をしながら悩んだ。
やはり友人が誰かにやられた可能性が捨てきれない以上見て見ぬふりしろというのも難しい。
あんな目に遭うなんておかしいじゃないか。
敵かもしれないなら放っておいたら大変なことになりえる。
自分の目で確かめに行くべきなのではないか、と。
仕事が終わり、日が落ち切る前。
俺は使われていない塔へと足を進めていた。
倉庫の扉を開くとなんとも言えぬ古びた匂いがした。
対しておかしい所はないように見える。
「あれ…」
壁に継ぎ目がある。そして色が少し違う。
壁に見えるようにしてある隠し扉か?
なによりこの扉、外からしか開けられないようになっているじゃないか。
怪しさ満点だ。
扉を開くと薄暗い部屋に似つかわしくない大きさの一台のベッドとそこに寝そべる女性の姿。
幸い、眠っていてこちらには気がついていないようだ。
内装はフリルやレースがふんだんに使われた"女の子"の部屋という感じなのに女性に繋がれた首輪と手錠がアンバランスだ。
置き去りにされた冷えてしまっているであろう食べかけの食事が床に置かれたままにされており、彼女にかけられた首輪では届かない位置に置かれている。
あろうことか蓮華に1口分が盛られている。
まるで誰かが自ずから食べさせてあげていたかのようではないか。
えもいえぬ気持ち悪さに身震いをする。
1番遠い机には錠剤やサプリメントなど当たり障りのないものから注射器、メスや針というまるでオペでもするかのような専門的医療器具もある。
…まさかな。
目を疑わざるを得ない。
寝ている彼女には膝から下が無かったからである。
突如フッと俺の足元にある己の影が広がる。
それは俺の背後に人が来たことを暗に伝えている。
今になって全てを悟ったがもう後の祭りだ。
「君は一体、ここで何をしているんだい?」
俺は硬直してしまったかのようにその場から動けなくなった。
声をかけてきた男が俺の横をゆっくり通って過ぎ、彼女の元に跪くと背に手を回し抱き起こし、慈しむかのような愛しさを孕む笑みを称え
「綺麗だろう?」
とこちらへ歪んだ笑みを向けた。
'21/03/04 公開
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