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今年もどうせ毎年恒例平々凡々で当たり前のありきたりな日常、だと思っていた。
今日も音を出さない最小限でありながらけたたましく鳴り、色濃いシーツの上を光りながら這い回る目覚ましに心の内で悪態をつきながら目を覚ました。
否、口にも出ていたかもしれない。そんなこと知ったこっちゃないが。
ディスプレイには9月12日6時00分と出ている。
「…あ゙〜…もう朝か…」
この時ばかりはいつも憂鬱だ。このまま二度寝して全てすっぽかせたらなと思いながらも起き上がり手早く乱れた温もりの残るシーツを整える。
その次は適当に髪を結い、洗面所で顔を洗いながら考えるのは朝食のこと。
確か昨日の夜仕込んでおいたものがあったはずだ。それを朝に使い、昨日の宴の残りに軽く手を加えた物を弁当に詰めよう。
目を閉じたまま脳内でシュミレートし終わりの合図とばかりに合わせた手のひらを振り傍に置いておいたタオルへと手を伸ばす。
ふんわりとしたタオルへやさしく顔を埋めそっと押し付け、肺いっぱい吸い込めばせっけんの香りが肺を満たす。
顔を上げ鏡に映る自分に喝を入れタオルをカゴへと放った。
「ハァ〜〜……よし」
寝惚けているカリムをどうにか叩き起こし、着替えさせて顔を洗わせてる間に朝食と弁当を手早く用意し味見と兼ねて毒味をする。
盛り付けたものを戻ってきたカリムの前へ。目が覚めたのかおめでとうとしきりに何度も鳴いて煩い。煩いって言ってんだろ、おい、聞いてないな。
あいつが食ってる間にキッチンへ戻り鍋に残る自分の分を胃に流し込んでは咀嚼しながら洗う。
朝は一分一秒が戦いだ、行儀とか構っていられるか。
手元にあるものが洗い終わる頃にはカリムの使った皿がキッチンに上がってくるので頃合いを見て毒味まで済ませた食後の茶を用意、キッチンまで皿を持ってきてくれた寮生に引き換えで預ける。
洗い終わり、カリムがゆっくり茶を飲んでる間に今度は俺の支度だ。
荷物は昨日のうちに用意してあるから身支度だけ。急いで自室に駆け込み手早く着替えては適当に結んだ髪紐を解きいつもの髪飾りを用意してマジカルペンに魔力を込め脳内で指示を出す。瞼にアイシャドウを入れアイラインを引き紅を足す。よし。
「カリム」
「あれ?もう行く時間か?」
「あぁ。」
ここまで来れば後はただ授業を受けるだけだ。正直学校にいる時のほうがだいぶ楽だ。昼にはカリムに飯を食わせて午後の授業は大体夕食の献立を考えている。合間にアズールがニコニコしながら近づいてきて祝って去っていった。なんなんだあいつは、不気味だな。
確か今日の夕食は痛みそうなものがあったはずだ。あれを先に使い切らなきゃならないな……
〜♪
授業終了の合図が鳴る。
「終わりか、行くぞカリム」
「あ!!いいいいや、あれ、そ、そうだ今日は少しどこか行っててくれないか?」
「はぁ〜??……あ〜……まぁいい、俺は図書室行ってるから誰かに呼びに来させろ」
めんどくせ〜。大人しく図書室で宿題済ますか。
「誰もいないな……」
椅子に座り宿題をするでもなくぼんやりと考える。
一体何を隠しているんだあいつは。
「あ゙〜……めんどくさ」
何を隠そう今日が俺の誕生日だというのは隠す気があるのかわからんうちの寮の連中のせいで察したどころか結局自分で今日の宴の支度に手まで出しているのでさすがに知っている。
どうせ帰ってすぐ宴するんじゃないのか。なんだかんだ去年もそうだっただろう。あーそういや去年のあのカリムの壮大なサプライズを思い出してしまったなクソ……
とてもじゃないが宿題する気にならない。仕方ないからなんか読んで待つか。適当に棚から1冊取り文字に視線を這わせる。
誕生日だからって特別なことは望まない。
今日一日平穏に過ごせれば俺はそれで充分。
とはいえ普段はこういう一人の時間すらもあまりない、静かにいられる時間すらもありがたいものだ。明日の寮生への食事は豪華にしてやろう。なんて進まない右手をよそに薄らと笑みを浮かべた。
あれからどのくらい経ったのか知る由もないが扉の開く音に顔を上げるとうちの寮生が顔をのぞかせていた。恐らく準備が出来たから呼びに来たのであろう。いつの間にか窓から見える空は赤らんでいた。
「どうしました、副寮長?」
「あぁ今行く」
連れられるまま寮への鏡をくぐるとどこからかスパイスとバターの香りがした。寮生が作ってくれると言っていたカレーと、これはクッキーの匂いだろうか。ふと、誕生日にクッキーを焼いてくれたいつぞやの妹を思い出しながら歩を進めた。
寮生の先導で扉が開かれたその瞬間
パァンッ パンッと不揃いで疎らでありながらも大量に聞こえる破裂音に驚いて思わず1歩身を引く。
「っうわ!なんだびっくりした、クラッカーか」
「おめでとうございます副寮長!」「おめでとうございます!」とかけられる声にはにかんで返しながら用意された席につく
「今日は俺がご主人様だ!ありったけのごちそうを持ってこい!なんてな」
ごちそうを目の前にしてふざけて見せたら不意に聞き慣れた声が聞こえた。
「あの、ジャミル先輩」
「……えっ?……は?なんで君がここに」
「実は校内新聞でお誕生日の人にインタビュー特集を組むことになって…すいません。お誕生日おめでとうございます」
「ああ……ありがとう。嬉しいよ。」
宴の食事を味わいながら俺は先程の彼女を思い出していた。
インタビューの内容は当たり障りのない割と普通なものだった。せっかくの彼氏の誕生日だというのに、それは当たり障りのない内容だった。
だから途中飼ってみたい動物を問われて、かつ何という言葉を覚えさせたいかと聞かれ、少し意地悪でもしてやろうという魔が差してしまい挑発するように「ご主人様」だと答えた。
呆れたように見せかけたつもりだろうが耳が少し赤くなって俯いていたのが可愛くて可愛くて仕方ない。
だが、髪飾りのことを聞いてきたのは思わぬ収穫だな。これから鈴の音を聞く度に彼女は俺を思い出すだろう。そう思うととてつもなく気分がいいな。
インタビューが終わり次第彼女はそそくさと
「インタビュー内容をまとめて来なきゃなので一旦失礼しますね!また来ますね!」
と足早に行ってしまった。相変わらず嵐のようなやつだ。インタビュー内容をまとめるのは本当だろうがあの反応では照れ隠しも含まれているだろう。
寮生が戻っていく監督生を見るなり「行かせていいんですか?!」と言わんばかりの視線を送ってくるから軽く手を挙げて制する。
生憎俺は好きな物は最後までとっておいて熟成させて更に好みの味付けして食うタイプだ。
今日はどう甘やかしてもらおうか、なんて考えながらグラスを手に取った。
宴が1番賑わっている頃彼女は戻ってきた。
みんなどんちゃん騒ぎしていて誰も監督生には気付かない。そーっと入ってきてとてとてとこちらに真っ直ぐ駆けてくるのを胡座をかいて座ったまま手招きをして自分の横に座らせる。
「お待たせしました」
「あぁ。君食事は?食べたのか?」
「いえ、何も」
「じゃあせっかくだし、取り分けてやるから食べるといい」
目の前に小皿に分けたものを置いてやると口いっぱいに頬張ってもぐもぐと幸せそうに眦を溶かしながら咀嚼している。
小動物みたいで思わずこちらも顔が緩む。
「口に付いてるぞ」と指摘すればあわあわと反対側をぺたぺた触っているので指で拭って見せつけるように舐めればボンッと音が聞こえんばかりに、食事が詰まっている頬も相まって真っ赤なリンゴになってしまった。美味そうだな。
「それ、食べ終わったらでいいが、君も祝ってくれるよな?」
「は、はい」
人前で恥ずかしいのだろうか、今にも消えそうな声で言うものだからたまらず腰を引き寄せて「"どう"祝ってくれるか楽しみにしている」と耳元で囁いた。
それから俺はただただもくもくと食べているのをグラス片手に眺めている。それだけなのにこんなに癒されていいのだろうか。可愛い可愛いと脳が周りのことなどお構い無しに彼女で埋め尽くされていく。
どうせ誰もこちらを見ちゃいないから味見してもいいだろうか。いいよな、今日は俺がご主人様だ。
ちょうど食べ終わったのか、グラスの飲み物を一気に飲み干し水分で艶やかに潤う唇に目が奪われ我慢ならず唇に噛み付いた。
「え、せん、ん?!…」
「ん、ふ…なんだ?」
唇を食み、唇同士を合わせたまま至近距離故にぼやけていてもわかる動揺する瞳を見据えて答えを促す。
「ん、んぅ…みん、な、いまふ…」
「誰も見ちゃいないさ、見てたとしても見せつけてやればいい。ほらそれより集中しろ。舌を出せ」
ぺしぺしと俺の胸を叩いてくる手を掴み首へ回させ、俺も後頭部と腰に手を回すと観念したのか大人しく腕を俺の首後ろで組み薄く開いた唇から舌が覗いた。
それを絡め取れば見開かれていた瞳が蕩け、それを隠すように双眸に幕が下りたので俺も閉じ彼女の唇を堪能する。
動きが止まりがちな舌をぬるぬると一通り絡めて吸ってやって、なおも貪欲に求めようとする舌を窘めてやり丁寧に歯茎に舌を這わせ上顎も擦ってやれば身体が幾度となく跳ねる。息も上がってだいぶ良さそうだ。
肩に乗った腕の重量感が増しているのに気が付き、力が抜けきっているのを内心ほくそ笑みながら咥内を余すことなく堪能する。
夢中で絡み合う直接的な粘膜の感覚とどろどろとしたお互いの唾液が混ざり合う感覚、それを嚥下する彼女の喉の音。
後頭部に添えた手を頬や耳に持ってきて撫でてやると小さく跳ね、ふるふると俺の舌の動きひとつで熱を拾う体に心臓がドクドクと鳴りもっと、もっと、という欲がどんどん湧いて占めていく。
正直気持ちよすぎてもっと堪能したいくらいには惜しいが流石にこれ以上は、と最後に軽いキスを落として唇を離したら彼女は真っ赤になって俺の肩に額を押し付けゼーゼーと浅い息を繰り返していたので背中を摩ってやる。まだ慣れないのか。それどころか背中を摩る動きにすら感じてるのか微かに声が漏れている。本当可愛いやつだな。
ふと刺さる視線を感じ見回すと周りの寮生がニヤニヤと手のひらを口に当てこちらを見ていたのに気がついて慌てて腕の中に閉じ込める。この表情を他のやつに見せてたまるか。
「ハァ……見世物じゃないんだが。すまないけど先に部屋に帰らせて貰う。片付けは頼むよ。」
「そのまま捕まってろ」とだけ声をかけ監督生を横向きに抱きあげて寮生を掻き分け扉に向かえば今日一番の笑顔をしたカリムに「明日は朝ゆっくりでいいからな!」と叫ばれたので「余計な世話」だと否定もできずムカつくのでとりあえず中指を立てておいた。鋭いのか鈍いのかわからんやつだ。
部屋に着いてベッドに下ろせばようやく落ち着いたであろう監督生がぷりぷりと文句を垂れた。
「もう!だから言ったのに」
涙目になりながら垂れた威嚇にならない目でキッと睨む彼女に平謝りしながら自分もベッドに腰掛けた。
「どうしても我慢できなかったんだ許してくれ。それで、誕生日の彼氏に特別な何かは無いのか?」
「……色々考えたんですけど何を贈っても私の買える物では見劣りしちゃうかなって思ったので直接聞くことにしてまだ用意してないんです。」
「ほぅ、今ねだれば君が何でも送ってくれるって?」
「えっ!その、あんま高価な物は…」
「ふふ、そんなに慌てた顔をするなよ。冗談だ。」
「〜ッ!」
ムカついたのかべしべしと俺の腕を叩いてくる所すら愛おしい
「そうだなぁ、じゃあ手始めに甘やかしてくれ」
「ふふ、いいですよ。今日もお疲れ様です。」
膝立ちで胸で包み込むように俺の頭を包み込み撫でられている。
正直、最高だ。
「もっと言ってくれ」
「今日もいっぱい頑張りましたね」
「ああ」
「いつも偉いです」
「ああ」
「結婚しますか?」
「ああ…………は??」
は?今なんて言った??ガバッと顔を上げると今までないくらいに真剣な顔をした彼女の瞳とぶつかった。これはどうも冗談じゃなさそうだ。いや、訳が分からない。ちょっと待ってくれ。
「えっ君、そもそも元の世界は」
「……実は学園長から話を聞いていたんですが、もし一方通行で向こうに戻っても私の存在が残ってる確証がないらしく、どうにか行き来できる方法を探している状態です。行き来出来なければ、その、熱砂の国に……。」
どんどん尻すぼみになって行く言葉を聞きながら反芻する。それってつまり
「……いいのか?俺で。勿論国籍を熱砂の国に作ることは出来るし絶対幸せにする事は誓えるが、俺の籍に入れるとなれば君にも将来の子にもバイパーの名前を背負わせることになってしまうだろう」
「ふふ、子供のことまで考えてくれるんですね。」
「きっ、君なぁ……!」
「一番、というか……私の唯一は要りませんか?」
なん……??夢か?夢ではないだろうことは分かっているがいっそこの際夢でもいい。
脳が理解をしていく度頬に熱を持つのがわかる。
「君の気持ちはよくわかった。その時が来たらきちんと俺から言うから、だからもう勘弁してくれないか……あぁくそ今フードないじゃないか。やられた……」
「えへへ、喜んでもらえて良かった。」
クスクスと笑う姿に俺は勝てそうにない。それならもう開き直って享受しておくか。
「俺は君がてっきり帰るつもりだとばかり……そうか…………なぁ、抱いてもいいか。」
「えっ、い、いきなりですね」
「嫌か」
「い、いや、じゃ、ない……ですけど」
「そうか。それじゃあ末永くよろしく頼むよ」
顔を赤くして視線をキョロキョロと惑わす彼女に手を差し伸べる
「それじゃあ俺のプリンセス、俺と一緒に素敵なバスタイムを過ごしませんか」
「〜ッもう!」
「はは」
照れながらぺし、と1つ降ってきた手を絡め取って一緒に部屋に備え付けのバスタブに湯を張りに行く。
美肌効果のある入浴剤を適当に放り投げ、踵を返しベッドに戻り、呼ばれるまでの間腕の中に愛しい彼女を閉じ込め額や髪や耳、首へ、とあちこちキスの嵐を降らせる。擽ったそうに照れ笑いをするこの可愛い生物はなんなんだ。俺をどうする気だ
そんなこんなしていたらあっという間に風呂からけたたましく沸いたと急かすような音が鳴る。
どことなく早足で手を繋いで脱衣所に向かって扉を閉めたらもうここは言葉も必要ない二人の世界。
どちらからともなく触れ合うだけのキスをして見つめ合い、時々キスしながらお互いのタイを解きジャケットを脱がせてパサリと音を立て落とす。
シャツのボタンを外していく彼女の指が微かに震えているのか外すのが手間取っているのでその間にベストとシャツのボタンを外しきった後は彼女の体を摩りながら待つ。
抱き合うように肌を合わせ彼女は俺のカマーベルトの金具を外し俺は彼女の下着のホックを外す。
お互いの瞳から片時も離せないままスラックスのボタンを外し重力のまま任せる。彼女が下着の肩紐から腕を抜いている間に跪き、外し終わった方の手を肩に置かせ靴下と残った下着をじっくりゆっくりと見せつけるように脱がせた。彼女の目に段々熱が宿っていく。
「体冷えるから先に浸かって待ってろ」
先に入っているよう扉を開けて促せば素直に従ってちゃぷんと湯に足を入れていたので俺も靴下と下着を脱ぎ捨て、ジャケットのポケットを漁りマジカルペンを出して髪を解く。あぁ焦れったいな!
さぁようやくお待ちかね。意を決して扉を開ければ背中側に隙間を開けて座って小さく湯船に浸かっている背中が見えた。
隙間に腰を下ろせば2人分の体積でザァッと湯が溢れ出して行く。
「君もそんな小さくなってないで。ほら。」
腹に腕を回して自分の胸に凭れさせ丸ごとぎゅっと抱きしめる。
「今更俺はこんな幸せでいいのか心配になってきたよ」
「ふふ、いいんですよ。先輩のことはこれからも私が幸せにしますから。」
振り返ってふにゃっと笑った彼女の頬に言葉に出来ない気持ちを全て込めたキスをひとつ落とす。
「さぁ、洗ってやるからここに腰掛けてくれ」
「え、今日は先輩の誕生日だから私が!」
「いいや甘やかしたい気分でもあるんだ。変なことは"まだ"しないから安心してくれていい。」
「じゃあ……お願いします」
ボディータオルで念入りに泡立てて強くならないように肌を滑らせる。
「ああそうだ、下も洗うから恥ずかしかったら肩にでも顔を埋めておいてくれ」
言い切るが早いか否かスポンジから泡だけ取り泡で優しく包み込むように撫で付けた。慌てて俺に抱きついて顔を隠しながら、それでも微かに肩が跳ねるのは彼女の可愛い所だ。
全身の泡を丁寧に流してやって頭も同じように優しく洗ってやれば気持ちがいいのかふにゃっとした顔を浮かべている。これはなんというか、毎日でも世話したくなるな。
「よしいいぞ。俺も洗うから浸かって待ってろ」
とは言ったものの、ちょこんと座って体ごとこちらに向けて俺が洗ってる姿をじっと見ているものだからわざと髪をかき上げながら口パクで「すけべ」と言ったら真っ赤になって声にならない声を上げて顔を覆ったまま動かなくなってしまった。自覚がないのか?
「やりすぎたか。可愛いからつい、な。」
目をつぶって髪を洗っていても気付くほど、さすがに穴が空くのではないかと言うほど刺さる視線に嫌が応でも熱が上がる。
「本当に君は俺のことが好きだな」
「そりゃあ、好きですよ…」
「なんだやけに素直じゃないか」
「今日だけです」
「いつもこれくらい素直だといいんだがな。君の照れ隠しはいささか難しい」
髪を流して適当にまとめて彼女の隣に沈む。
隣に同じように横向きで座ったからだろうか。こちらにキュッと向き直ってじーっと見つめてくるのでこちらに向けて開いて伸ばした足の上に俺の足を乗せ、そのまま踵で限界まで腰を引き寄せてロック。
隙間が無く触れ合う肌をじんわりと感じてこのまま貪りたい衝動を抑えて首元にキスをひとつしただけに留めた。これ以上はさすがの俺も我慢が効かない。
「上がろうか。髪も手入れしてやらないとな。」
どうにか体の熱を鎮めるために丁寧に髪を乾かしてケアもしてやり大きなタオルで包んでベッドに座らせ手早くいつもの容量で己の髪の毛も手入れする。
終わった髪を手早くサッと後ろにまわした。
「いま、全身先輩と同じ匂いだ。へへ」
「君なぁ、煽ってるのか?煽ってるなら乗ってやらなきゃ失礼だよな」
「え゙!」
使ったドライヤーとヘアオイルを洗面台に戻しその足でバスローブの紐を緩く解きながら彼女に真っ直ぐ向かう。
体を包んだバスタオルをキュッと掴んで視線を泳がせているのはただ恥ずかしいだけで拒否じゃないことを俺は知っている。
「ぅ、その、」
「なぁユウ、手退けて全部を俺に見せてくれるか」
目の前まで来て旋毛しか見えない彼女に声を掛けるが思ったより声が甘く優しくなってしまい俺も大概だなと自嘲する。
でもユウはきっとNOとは言わない。
ほら、目線を逸らしながらも震える指がそっとバスタオルを手放して胸の前でクロスした腕すらゆっくりと開いていく。
あぁなんていじらしいんだ。もっと甘やかして苛めて俺に乱されてるのが見たい。
恥ずかしいのか肌が赤く染まっているのが更に俺の欲を煽る。
さっきまで彼女に巻きついていたバスタオルを床に落としてベッドに腰掛けたままの彼女をそっと抱き上げベッドの中心に寝かせてる。
そのまま彼女を跨いで見下ろす。どこを見ても美味そうだ。全身余すことなくキスして舐めて優しく噛み付いて吸ったらたまらないのだろうな。よし。
「……いただきます」
「ひぇ、お、お手柔らかにッ」
「それは無理な願いだ。諦めろ。」
「えっ、わっちょっ、ひ?!んぅ!?」
「ん゙……」
今日も音を出さない最小限でありながらけたたましく鳴り、色濃いシーツの上を光りながら這い回る目覚ましが朝を知らせる。
今日はそれを消して俺の腕の中でぐっすりと眠る俺だけのプリンセスの寝顔をぼんやりと眺める。
あぁ目の下にクマができてしまっているな。そういえば昨夜は今までにないくらい無理をさせてしまっただろうと思うから起こさずもう少しこのままでいよう。今はこの体のだるさすら心地良い。
きっと今日は目が覚めても1日起き上がれないだろうからつきっきりで世話してやらなきゃな。なんて自然と笑みが漏れる。
今年は何者にも替えられない物を貰った。これから毎年の誕生日が保証されたも同然だ。楽しみにすら思える。
彼女と出会うまで俺もどうせ卒業後は政略結婚か世継ぎのために見合いさせられることになるだろうと思っていた。男子校に出会いなんかあるはずがない。その中突然舞い降りた例外。ちょっと柄じゃないけど自惚れて運命だと思ってもいいだろうか。
「ん……ジャミル先輩……?」
「起こしたか?昼前には起こしてやるからまだ寝てろ。愛してる。」
「私もです、お誕生日おめでとうございます」
'20/09/21 公開
'21/03/13 再掲
今日も音を出さない最小限でありながらけたたましく鳴り、色濃いシーツの上を光りながら這い回る目覚ましに心の内で悪態をつきながら目を覚ました。
否、口にも出ていたかもしれない。そんなこと知ったこっちゃないが。
ディスプレイには9月12日6時00分と出ている。
「…あ゙〜…もう朝か…」
この時ばかりはいつも憂鬱だ。このまま二度寝して全てすっぽかせたらなと思いながらも起き上がり手早く乱れた温もりの残るシーツを整える。
その次は適当に髪を結い、洗面所で顔を洗いながら考えるのは朝食のこと。
確か昨日の夜仕込んでおいたものがあったはずだ。それを朝に使い、昨日の宴の残りに軽く手を加えた物を弁当に詰めよう。
目を閉じたまま脳内でシュミレートし終わりの合図とばかりに合わせた手のひらを振り傍に置いておいたタオルへと手を伸ばす。
ふんわりとしたタオルへやさしく顔を埋めそっと押し付け、肺いっぱい吸い込めばせっけんの香りが肺を満たす。
顔を上げ鏡に映る自分に喝を入れタオルをカゴへと放った。
「ハァ〜〜……よし」
寝惚けているカリムをどうにか叩き起こし、着替えさせて顔を洗わせてる間に朝食と弁当を手早く用意し味見と兼ねて毒味をする。
盛り付けたものを戻ってきたカリムの前へ。目が覚めたのかおめでとうとしきりに何度も鳴いて煩い。煩いって言ってんだろ、おい、聞いてないな。
あいつが食ってる間にキッチンへ戻り鍋に残る自分の分を胃に流し込んでは咀嚼しながら洗う。
朝は一分一秒が戦いだ、行儀とか構っていられるか。
手元にあるものが洗い終わる頃にはカリムの使った皿がキッチンに上がってくるので頃合いを見て毒味まで済ませた食後の茶を用意、キッチンまで皿を持ってきてくれた寮生に引き換えで預ける。
洗い終わり、カリムがゆっくり茶を飲んでる間に今度は俺の支度だ。
荷物は昨日のうちに用意してあるから身支度だけ。急いで自室に駆け込み手早く着替えては適当に結んだ髪紐を解きいつもの髪飾りを用意してマジカルペンに魔力を込め脳内で指示を出す。瞼にアイシャドウを入れアイラインを引き紅を足す。よし。
「カリム」
「あれ?もう行く時間か?」
「あぁ。」
ここまで来れば後はただ授業を受けるだけだ。正直学校にいる時のほうがだいぶ楽だ。昼にはカリムに飯を食わせて午後の授業は大体夕食の献立を考えている。合間にアズールがニコニコしながら近づいてきて祝って去っていった。なんなんだあいつは、不気味だな。
確か今日の夕食は痛みそうなものがあったはずだ。あれを先に使い切らなきゃならないな……
〜♪
授業終了の合図が鳴る。
「終わりか、行くぞカリム」
「あ!!いいいいや、あれ、そ、そうだ今日は少しどこか行っててくれないか?」
「はぁ〜??……あ〜……まぁいい、俺は図書室行ってるから誰かに呼びに来させろ」
めんどくせ〜。大人しく図書室で宿題済ますか。
「誰もいないな……」
椅子に座り宿題をするでもなくぼんやりと考える。
一体何を隠しているんだあいつは。
「あ゙〜……めんどくさ」
何を隠そう今日が俺の誕生日だというのは隠す気があるのかわからんうちの寮の連中のせいで察したどころか結局自分で今日の宴の支度に手まで出しているのでさすがに知っている。
どうせ帰ってすぐ宴するんじゃないのか。なんだかんだ去年もそうだっただろう。あーそういや去年のあのカリムの壮大なサプライズを思い出してしまったなクソ……
とてもじゃないが宿題する気にならない。仕方ないからなんか読んで待つか。適当に棚から1冊取り文字に視線を這わせる。
誕生日だからって特別なことは望まない。
今日一日平穏に過ごせれば俺はそれで充分。
とはいえ普段はこういう一人の時間すらもあまりない、静かにいられる時間すらもありがたいものだ。明日の寮生への食事は豪華にしてやろう。なんて進まない右手をよそに薄らと笑みを浮かべた。
あれからどのくらい経ったのか知る由もないが扉の開く音に顔を上げるとうちの寮生が顔をのぞかせていた。恐らく準備が出来たから呼びに来たのであろう。いつの間にか窓から見える空は赤らんでいた。
「どうしました、副寮長?」
「あぁ今行く」
連れられるまま寮への鏡をくぐるとどこからかスパイスとバターの香りがした。寮生が作ってくれると言っていたカレーと、これはクッキーの匂いだろうか。ふと、誕生日にクッキーを焼いてくれたいつぞやの妹を思い出しながら歩を進めた。
寮生の先導で扉が開かれたその瞬間
パァンッ パンッと不揃いで疎らでありながらも大量に聞こえる破裂音に驚いて思わず1歩身を引く。
「っうわ!なんだびっくりした、クラッカーか」
「おめでとうございます副寮長!」「おめでとうございます!」とかけられる声にはにかんで返しながら用意された席につく
「今日は俺がご主人様だ!ありったけのごちそうを持ってこい!なんてな」
ごちそうを目の前にしてふざけて見せたら不意に聞き慣れた声が聞こえた。
「あの、ジャミル先輩」
「……えっ?……は?なんで君がここに」
「実は校内新聞でお誕生日の人にインタビュー特集を組むことになって…すいません。お誕生日おめでとうございます」
「ああ……ありがとう。嬉しいよ。」
宴の食事を味わいながら俺は先程の彼女を思い出していた。
インタビューの内容は当たり障りのない割と普通なものだった。せっかくの彼氏の誕生日だというのに、それは当たり障りのない内容だった。
だから途中飼ってみたい動物を問われて、かつ何という言葉を覚えさせたいかと聞かれ、少し意地悪でもしてやろうという魔が差してしまい挑発するように「ご主人様」だと答えた。
呆れたように見せかけたつもりだろうが耳が少し赤くなって俯いていたのが可愛くて可愛くて仕方ない。
だが、髪飾りのことを聞いてきたのは思わぬ収穫だな。これから鈴の音を聞く度に彼女は俺を思い出すだろう。そう思うととてつもなく気分がいいな。
インタビューが終わり次第彼女はそそくさと
「インタビュー内容をまとめて来なきゃなので一旦失礼しますね!また来ますね!」
と足早に行ってしまった。相変わらず嵐のようなやつだ。インタビュー内容をまとめるのは本当だろうがあの反応では照れ隠しも含まれているだろう。
寮生が戻っていく監督生を見るなり「行かせていいんですか?!」と言わんばかりの視線を送ってくるから軽く手を挙げて制する。
生憎俺は好きな物は最後までとっておいて熟成させて更に好みの味付けして食うタイプだ。
今日はどう甘やかしてもらおうか、なんて考えながらグラスを手に取った。
宴が1番賑わっている頃彼女は戻ってきた。
みんなどんちゃん騒ぎしていて誰も監督生には気付かない。そーっと入ってきてとてとてとこちらに真っ直ぐ駆けてくるのを胡座をかいて座ったまま手招きをして自分の横に座らせる。
「お待たせしました」
「あぁ。君食事は?食べたのか?」
「いえ、何も」
「じゃあせっかくだし、取り分けてやるから食べるといい」
目の前に小皿に分けたものを置いてやると口いっぱいに頬張ってもぐもぐと幸せそうに眦を溶かしながら咀嚼している。
小動物みたいで思わずこちらも顔が緩む。
「口に付いてるぞ」と指摘すればあわあわと反対側をぺたぺた触っているので指で拭って見せつけるように舐めればボンッと音が聞こえんばかりに、食事が詰まっている頬も相まって真っ赤なリンゴになってしまった。美味そうだな。
「それ、食べ終わったらでいいが、君も祝ってくれるよな?」
「は、はい」
人前で恥ずかしいのだろうか、今にも消えそうな声で言うものだからたまらず腰を引き寄せて「"どう"祝ってくれるか楽しみにしている」と耳元で囁いた。
それから俺はただただもくもくと食べているのをグラス片手に眺めている。それだけなのにこんなに癒されていいのだろうか。可愛い可愛いと脳が周りのことなどお構い無しに彼女で埋め尽くされていく。
どうせ誰もこちらを見ちゃいないから味見してもいいだろうか。いいよな、今日は俺がご主人様だ。
ちょうど食べ終わったのか、グラスの飲み物を一気に飲み干し水分で艶やかに潤う唇に目が奪われ我慢ならず唇に噛み付いた。
「え、せん、ん?!…」
「ん、ふ…なんだ?」
唇を食み、唇同士を合わせたまま至近距離故にぼやけていてもわかる動揺する瞳を見据えて答えを促す。
「ん、んぅ…みん、な、いまふ…」
「誰も見ちゃいないさ、見てたとしても見せつけてやればいい。ほらそれより集中しろ。舌を出せ」
ぺしぺしと俺の胸を叩いてくる手を掴み首へ回させ、俺も後頭部と腰に手を回すと観念したのか大人しく腕を俺の首後ろで組み薄く開いた唇から舌が覗いた。
それを絡め取れば見開かれていた瞳が蕩け、それを隠すように双眸に幕が下りたので俺も閉じ彼女の唇を堪能する。
動きが止まりがちな舌をぬるぬると一通り絡めて吸ってやって、なおも貪欲に求めようとする舌を窘めてやり丁寧に歯茎に舌を這わせ上顎も擦ってやれば身体が幾度となく跳ねる。息も上がってだいぶ良さそうだ。
肩に乗った腕の重量感が増しているのに気が付き、力が抜けきっているのを内心ほくそ笑みながら咥内を余すことなく堪能する。
夢中で絡み合う直接的な粘膜の感覚とどろどろとしたお互いの唾液が混ざり合う感覚、それを嚥下する彼女の喉の音。
後頭部に添えた手を頬や耳に持ってきて撫でてやると小さく跳ね、ふるふると俺の舌の動きひとつで熱を拾う体に心臓がドクドクと鳴りもっと、もっと、という欲がどんどん湧いて占めていく。
正直気持ちよすぎてもっと堪能したいくらいには惜しいが流石にこれ以上は、と最後に軽いキスを落として唇を離したら彼女は真っ赤になって俺の肩に額を押し付けゼーゼーと浅い息を繰り返していたので背中を摩ってやる。まだ慣れないのか。それどころか背中を摩る動きにすら感じてるのか微かに声が漏れている。本当可愛いやつだな。
ふと刺さる視線を感じ見回すと周りの寮生がニヤニヤと手のひらを口に当てこちらを見ていたのに気がついて慌てて腕の中に閉じ込める。この表情を他のやつに見せてたまるか。
「ハァ……見世物じゃないんだが。すまないけど先に部屋に帰らせて貰う。片付けは頼むよ。」
「そのまま捕まってろ」とだけ声をかけ監督生を横向きに抱きあげて寮生を掻き分け扉に向かえば今日一番の笑顔をしたカリムに「明日は朝ゆっくりでいいからな!」と叫ばれたので「余計な世話」だと否定もできずムカつくのでとりあえず中指を立てておいた。鋭いのか鈍いのかわからんやつだ。
部屋に着いてベッドに下ろせばようやく落ち着いたであろう監督生がぷりぷりと文句を垂れた。
「もう!だから言ったのに」
涙目になりながら垂れた威嚇にならない目でキッと睨む彼女に平謝りしながら自分もベッドに腰掛けた。
「どうしても我慢できなかったんだ許してくれ。それで、誕生日の彼氏に特別な何かは無いのか?」
「……色々考えたんですけど何を贈っても私の買える物では見劣りしちゃうかなって思ったので直接聞くことにしてまだ用意してないんです。」
「ほぅ、今ねだれば君が何でも送ってくれるって?」
「えっ!その、あんま高価な物は…」
「ふふ、そんなに慌てた顔をするなよ。冗談だ。」
「〜ッ!」
ムカついたのかべしべしと俺の腕を叩いてくる所すら愛おしい
「そうだなぁ、じゃあ手始めに甘やかしてくれ」
「ふふ、いいですよ。今日もお疲れ様です。」
膝立ちで胸で包み込むように俺の頭を包み込み撫でられている。
正直、最高だ。
「もっと言ってくれ」
「今日もいっぱい頑張りましたね」
「ああ」
「いつも偉いです」
「ああ」
「結婚しますか?」
「ああ…………は??」
は?今なんて言った??ガバッと顔を上げると今までないくらいに真剣な顔をした彼女の瞳とぶつかった。これはどうも冗談じゃなさそうだ。いや、訳が分からない。ちょっと待ってくれ。
「えっ君、そもそも元の世界は」
「……実は学園長から話を聞いていたんですが、もし一方通行で向こうに戻っても私の存在が残ってる確証がないらしく、どうにか行き来できる方法を探している状態です。行き来出来なければ、その、熱砂の国に……。」
どんどん尻すぼみになって行く言葉を聞きながら反芻する。それってつまり
「……いいのか?俺で。勿論国籍を熱砂の国に作ることは出来るし絶対幸せにする事は誓えるが、俺の籍に入れるとなれば君にも将来の子にもバイパーの名前を背負わせることになってしまうだろう」
「ふふ、子供のことまで考えてくれるんですね。」
「きっ、君なぁ……!」
「一番、というか……私の唯一は要りませんか?」
なん……??夢か?夢ではないだろうことは分かっているがいっそこの際夢でもいい。
脳が理解をしていく度頬に熱を持つのがわかる。
「君の気持ちはよくわかった。その時が来たらきちんと俺から言うから、だからもう勘弁してくれないか……あぁくそ今フードないじゃないか。やられた……」
「えへへ、喜んでもらえて良かった。」
クスクスと笑う姿に俺は勝てそうにない。それならもう開き直って享受しておくか。
「俺は君がてっきり帰るつもりだとばかり……そうか…………なぁ、抱いてもいいか。」
「えっ、い、いきなりですね」
「嫌か」
「い、いや、じゃ、ない……ですけど」
「そうか。それじゃあ末永くよろしく頼むよ」
顔を赤くして視線をキョロキョロと惑わす彼女に手を差し伸べる
「それじゃあ俺のプリンセス、俺と一緒に素敵なバスタイムを過ごしませんか」
「〜ッもう!」
「はは」
照れながらぺし、と1つ降ってきた手を絡め取って一緒に部屋に備え付けのバスタブに湯を張りに行く。
美肌効果のある入浴剤を適当に放り投げ、踵を返しベッドに戻り、呼ばれるまでの間腕の中に愛しい彼女を閉じ込め額や髪や耳、首へ、とあちこちキスの嵐を降らせる。擽ったそうに照れ笑いをするこの可愛い生物はなんなんだ。俺をどうする気だ
そんなこんなしていたらあっという間に風呂からけたたましく沸いたと急かすような音が鳴る。
どことなく早足で手を繋いで脱衣所に向かって扉を閉めたらもうここは言葉も必要ない二人の世界。
どちらからともなく触れ合うだけのキスをして見つめ合い、時々キスしながらお互いのタイを解きジャケットを脱がせてパサリと音を立て落とす。
シャツのボタンを外していく彼女の指が微かに震えているのか外すのが手間取っているのでその間にベストとシャツのボタンを外しきった後は彼女の体を摩りながら待つ。
抱き合うように肌を合わせ彼女は俺のカマーベルトの金具を外し俺は彼女の下着のホックを外す。
お互いの瞳から片時も離せないままスラックスのボタンを外し重力のまま任せる。彼女が下着の肩紐から腕を抜いている間に跪き、外し終わった方の手を肩に置かせ靴下と残った下着をじっくりゆっくりと見せつけるように脱がせた。彼女の目に段々熱が宿っていく。
「体冷えるから先に浸かって待ってろ」
先に入っているよう扉を開けて促せば素直に従ってちゃぷんと湯に足を入れていたので俺も靴下と下着を脱ぎ捨て、ジャケットのポケットを漁りマジカルペンを出して髪を解く。あぁ焦れったいな!
さぁようやくお待ちかね。意を決して扉を開ければ背中側に隙間を開けて座って小さく湯船に浸かっている背中が見えた。
隙間に腰を下ろせば2人分の体積でザァッと湯が溢れ出して行く。
「君もそんな小さくなってないで。ほら。」
腹に腕を回して自分の胸に凭れさせ丸ごとぎゅっと抱きしめる。
「今更俺はこんな幸せでいいのか心配になってきたよ」
「ふふ、いいんですよ。先輩のことはこれからも私が幸せにしますから。」
振り返ってふにゃっと笑った彼女の頬に言葉に出来ない気持ちを全て込めたキスをひとつ落とす。
「さぁ、洗ってやるからここに腰掛けてくれ」
「え、今日は先輩の誕生日だから私が!」
「いいや甘やかしたい気分でもあるんだ。変なことは"まだ"しないから安心してくれていい。」
「じゃあ……お願いします」
ボディータオルで念入りに泡立てて強くならないように肌を滑らせる。
「ああそうだ、下も洗うから恥ずかしかったら肩にでも顔を埋めておいてくれ」
言い切るが早いか否かスポンジから泡だけ取り泡で優しく包み込むように撫で付けた。慌てて俺に抱きついて顔を隠しながら、それでも微かに肩が跳ねるのは彼女の可愛い所だ。
全身の泡を丁寧に流してやって頭も同じように優しく洗ってやれば気持ちがいいのかふにゃっとした顔を浮かべている。これはなんというか、毎日でも世話したくなるな。
「よしいいぞ。俺も洗うから浸かって待ってろ」
とは言ったものの、ちょこんと座って体ごとこちらに向けて俺が洗ってる姿をじっと見ているものだからわざと髪をかき上げながら口パクで「すけべ」と言ったら真っ赤になって声にならない声を上げて顔を覆ったまま動かなくなってしまった。自覚がないのか?
「やりすぎたか。可愛いからつい、な。」
目をつぶって髪を洗っていても気付くほど、さすがに穴が空くのではないかと言うほど刺さる視線に嫌が応でも熱が上がる。
「本当に君は俺のことが好きだな」
「そりゃあ、好きですよ…」
「なんだやけに素直じゃないか」
「今日だけです」
「いつもこれくらい素直だといいんだがな。君の照れ隠しはいささか難しい」
髪を流して適当にまとめて彼女の隣に沈む。
隣に同じように横向きで座ったからだろうか。こちらにキュッと向き直ってじーっと見つめてくるのでこちらに向けて開いて伸ばした足の上に俺の足を乗せ、そのまま踵で限界まで腰を引き寄せてロック。
隙間が無く触れ合う肌をじんわりと感じてこのまま貪りたい衝動を抑えて首元にキスをひとつしただけに留めた。これ以上はさすがの俺も我慢が効かない。
「上がろうか。髪も手入れしてやらないとな。」
どうにか体の熱を鎮めるために丁寧に髪を乾かしてケアもしてやり大きなタオルで包んでベッドに座らせ手早くいつもの容量で己の髪の毛も手入れする。
終わった髪を手早くサッと後ろにまわした。
「いま、全身先輩と同じ匂いだ。へへ」
「君なぁ、煽ってるのか?煽ってるなら乗ってやらなきゃ失礼だよな」
「え゙!」
使ったドライヤーとヘアオイルを洗面台に戻しその足でバスローブの紐を緩く解きながら彼女に真っ直ぐ向かう。
体を包んだバスタオルをキュッと掴んで視線を泳がせているのはただ恥ずかしいだけで拒否じゃないことを俺は知っている。
「ぅ、その、」
「なぁユウ、手退けて全部を俺に見せてくれるか」
目の前まで来て旋毛しか見えない彼女に声を掛けるが思ったより声が甘く優しくなってしまい俺も大概だなと自嘲する。
でもユウはきっとNOとは言わない。
ほら、目線を逸らしながらも震える指がそっとバスタオルを手放して胸の前でクロスした腕すらゆっくりと開いていく。
あぁなんていじらしいんだ。もっと甘やかして苛めて俺に乱されてるのが見たい。
恥ずかしいのか肌が赤く染まっているのが更に俺の欲を煽る。
さっきまで彼女に巻きついていたバスタオルを床に落としてベッドに腰掛けたままの彼女をそっと抱き上げベッドの中心に寝かせてる。
そのまま彼女を跨いで見下ろす。どこを見ても美味そうだ。全身余すことなくキスして舐めて優しく噛み付いて吸ったらたまらないのだろうな。よし。
「……いただきます」
「ひぇ、お、お手柔らかにッ」
「それは無理な願いだ。諦めろ。」
「えっ、わっちょっ、ひ?!んぅ!?」
「ん゙……」
今日も音を出さない最小限でありながらけたたましく鳴り、色濃いシーツの上を光りながら這い回る目覚ましが朝を知らせる。
今日はそれを消して俺の腕の中でぐっすりと眠る俺だけのプリンセスの寝顔をぼんやりと眺める。
あぁ目の下にクマができてしまっているな。そういえば昨夜は今までにないくらい無理をさせてしまっただろうと思うから起こさずもう少しこのままでいよう。今はこの体のだるさすら心地良い。
きっと今日は目が覚めても1日起き上がれないだろうからつきっきりで世話してやらなきゃな。なんて自然と笑みが漏れる。
今年は何者にも替えられない物を貰った。これから毎年の誕生日が保証されたも同然だ。楽しみにすら思える。
彼女と出会うまで俺もどうせ卒業後は政略結婚か世継ぎのために見合いさせられることになるだろうと思っていた。男子校に出会いなんかあるはずがない。その中突然舞い降りた例外。ちょっと柄じゃないけど自惚れて運命だと思ってもいいだろうか。
「ん……ジャミル先輩……?」
「起こしたか?昼前には起こしてやるからまだ寝てろ。愛してる。」
「私もです、お誕生日おめでとうございます」
'20/09/21 公開
'21/03/13 再掲
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