【9章】脆弱
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優勝を目指していた俺の体育祭は満足のいく結果とは言えないけれど、それでも気分はなぜか清々しかった。
それは緑谷と・・・名字のおかげだと思う。
自分の気持ちに少し整理がついた。
具体的に何が解決したというわけではないけれど。
母の病院を訪ねてみようと思うぐらいには心境の変化があった。
名字は不思議なやつだ。
周囲に合わせるのが上手いわりに、自分の考えははっきりと口にする。
あの爆豪にも怖気づかない。
俺が慣れ合いを好まないのを分かっているからこそ、いい距離感を保ってくれている。
中学までは少し話せばなぜかベタベタしてくる女子が多かったから、居心地が良かった。
強くて優しい。
今まで常にトップを走ってきた俺からしたら訓練で負けて始めこそ悔しかったが、その強さに憧れを抱くようになった。
そして共に行動する機会が増えてその憧れの感情も、少しずつ変わりつつあることに気づいていた。
名字に自分のことをどう思うか聞かれたときも咄嗟に「個性の扱いが上手いクラスメイト」と答えたが、帰宅した後に違和感があった。
そして今日の体育祭。
対爆豪戦で、見せたあの取り乱し方。
体調が悪くなったと本人は言っていたが、俺は釈然としなかった。
モニターに一瞬映った表情は名字を知っている俺には、体調不良には見えなかった。
いつも毅然としていて頼りになる名前ではなく、儚げな存在に映った。
触れたら壊れてしまいそうな。
ギブアップした彼女を追いかけたかったが、自分の試合も残っていた。
俺は何もできなかった。
きっと名字でなければこんな感情も生まれなかっただろう。
全てが終わってから教室で話しかけたが、彼女は大丈夫だと言い張る。
やはり消えていってしまいそうな気がして、そっと指先に触れた。
何をしてんだ、俺。
自分の行動に驚いて手を引っ込めようとしたが「・・・あったかい」と安心したような表情を見せたのでそのまましばらく個性を使って俺の熱を送り続けた。
何かあるなら助けたいと思った。
名字も俺に自分の過去を少し話してくれた。
まだ何か抱えてるなら今度は俺が助けたいと思った。
だが、彼女はやはり何ともないと言い張るので俺は引くしかなかった。
この後保健室に行くと言っているし、もしかしたら考えすぎだったのかもしれない。
俺は少し後ろ髪を引かれる思いで教室を出た。
********
ふと辺りを見回すとほとんどの生徒はもう帰宅していて、教室に残っているのは爆豪くんだけだった。
爆豪くんはいつもが学校が終われば、一番に教室を出て行くのにどうしたんだろう。
「お疲れ様、じゃあまたね」
優勝おめでとう、なんて声を掛けたらキレられると思ったのであえて言わなかった。
でも他に誰もいないのに何も声を掛けずに教室を出るのも違う気がして。
私に声を掛けられてこちらを向いた。
いつもの怒ってる爆豪くんは嫌だけど、静かすぎる爆豪くんもそれはそれで怖い。
「えっと、途中で棄権してごめんね?」
何も言わないので、そういえばまだ謝ってなかったと思い、謝罪した。
「・・・じゃあ」
いたたまれなくて鞄を持って一歩踏み出した。
「・・・今回のはノーカンだ」
私はピタリと足を止めて振り返った。
爆豪くんはスタスタとこちらへ向かって歩いてきた。
「悪いと思ってんなら今度手合わせしろ」
「う、うん。分かった」
「どうせいつも自習室だろ。来週場所取っておく」
「暇人だと思われてんの、私・・・」
「・・・体調はもう何ともないんか」
爆豪くんが心配してくれてる!?
私は驚きすぎて言葉に詰まってしまった。
「あ、ううん。いや、うん。」
「どっちだよ」
「もう大丈夫!ありがとう」
「・・・じゃあな、名字」
名字を呼ばれた!?
明日は槍でも降るのだろうか。
私は爆豪くんが教室を出た後、窓から必死に飛行機雲を探した。
それは緑谷と・・・名字のおかげだと思う。
自分の気持ちに少し整理がついた。
具体的に何が解決したというわけではないけれど。
母の病院を訪ねてみようと思うぐらいには心境の変化があった。
名字は不思議なやつだ。
周囲に合わせるのが上手いわりに、自分の考えははっきりと口にする。
あの爆豪にも怖気づかない。
俺が慣れ合いを好まないのを分かっているからこそ、いい距離感を保ってくれている。
中学までは少し話せばなぜかベタベタしてくる女子が多かったから、居心地が良かった。
強くて優しい。
今まで常にトップを走ってきた俺からしたら訓練で負けて始めこそ悔しかったが、その強さに憧れを抱くようになった。
そして共に行動する機会が増えてその憧れの感情も、少しずつ変わりつつあることに気づいていた。
名字に自分のことをどう思うか聞かれたときも咄嗟に「個性の扱いが上手いクラスメイト」と答えたが、帰宅した後に違和感があった。
そして今日の体育祭。
対爆豪戦で、見せたあの取り乱し方。
体調が悪くなったと本人は言っていたが、俺は釈然としなかった。
モニターに一瞬映った表情は名字を知っている俺には、体調不良には見えなかった。
いつも毅然としていて頼りになる名前ではなく、儚げな存在に映った。
触れたら壊れてしまいそうな。
ギブアップした彼女を追いかけたかったが、自分の試合も残っていた。
俺は何もできなかった。
きっと名字でなければこんな感情も生まれなかっただろう。
全てが終わってから教室で話しかけたが、彼女は大丈夫だと言い張る。
やはり消えていってしまいそうな気がして、そっと指先に触れた。
何をしてんだ、俺。
自分の行動に驚いて手を引っ込めようとしたが「・・・あったかい」と安心したような表情を見せたのでそのまましばらく個性を使って俺の熱を送り続けた。
何かあるなら助けたいと思った。
名字も俺に自分の過去を少し話してくれた。
まだ何か抱えてるなら今度は俺が助けたいと思った。
だが、彼女はやはり何ともないと言い張るので俺は引くしかなかった。
この後保健室に行くと言っているし、もしかしたら考えすぎだったのかもしれない。
俺は少し後ろ髪を引かれる思いで教室を出た。
********
ふと辺りを見回すとほとんどの生徒はもう帰宅していて、教室に残っているのは爆豪くんだけだった。
爆豪くんはいつもが学校が終われば、一番に教室を出て行くのにどうしたんだろう。
「お疲れ様、じゃあまたね」
優勝おめでとう、なんて声を掛けたらキレられると思ったのであえて言わなかった。
でも他に誰もいないのに何も声を掛けずに教室を出るのも違う気がして。
私に声を掛けられてこちらを向いた。
いつもの怒ってる爆豪くんは嫌だけど、静かすぎる爆豪くんもそれはそれで怖い。
「えっと、途中で棄権してごめんね?」
何も言わないので、そういえばまだ謝ってなかったと思い、謝罪した。
「・・・じゃあ」
いたたまれなくて鞄を持って一歩踏み出した。
「・・・今回のはノーカンだ」
私はピタリと足を止めて振り返った。
爆豪くんはスタスタとこちらへ向かって歩いてきた。
「悪いと思ってんなら今度手合わせしろ」
「う、うん。分かった」
「どうせいつも自習室だろ。来週場所取っておく」
「暇人だと思われてんの、私・・・」
「・・・体調はもう何ともないんか」
爆豪くんが心配してくれてる!?
私は驚きすぎて言葉に詰まってしまった。
「あ、ううん。いや、うん。」
「どっちだよ」
「もう大丈夫!ありがとう」
「・・・じゃあな、名字」
名字を呼ばれた!?
明日は槍でも降るのだろうか。
私は爆豪くんが教室を出た後、窓から必死に飛行機雲を探した。
