【9章】脆弱
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誰にも見つかりたくなくて。
体育祭が行われている会場から出て、一人になれる場所を探した。
それを見つけるのは簡単だった。
みんな体育祭の会場に集まっているので少し離れれば人っ子一人いない。
木の根元に腰かけた。
自分を守る様に腕を交差して丸くなる。
脳裏に過るのは長い黒髪の彼。
サラサラとしたその指触りが好きで、彼が仮面作りの仕事をしている間手持無沙汰な時によく触った。
常に喰種の象徴である黒い瞳を隠すことのなかった彼。
・・・大好きだった。
一度目に恋したのは人間。
二度目に恋したのは喰種。
しかし、二度目も裏切られてしまったけれど。
「何で・・・」
何で、私を裏切ったの。
「ウタさん・・・」
「誰だ、ウタって?」
********
さすが名前といったところで、爆豪を押さえこみ、勝ちは目前だった。
しかし急に呻いたかと思うとギブアップ宣言。
「ふざけんな、コノヤロー!!!」
喚く爆豪だけがリング上に残った。
「体調不良になったことにしとけ。ちょっと、出てくる」
マイクに声を掛け放送席を離れた。
一体何があったんだ・・・。
ハウンドドッグを捕まえて、匂いで名前を追ってもらった。
すぐに彼女は見つかった。
ハウンドドッグには会場に戻ってもらい、俺は名前に近づいた。
足音を隠すことなく近づいたけれど、名前は足元に立つまで気付かなかった。
「ウタさん・・・」
俺の知らない名前。
今はもうどちらかというと暑い季節になろうとしているのに、目の前の名前は小刻みに震えていた。
「誰だ、ウタって?」
声を掛けると名前は顔を上げた。
見上げる瞳は先ほど放送席を見上げた時に映った表情と同じだった。
また過去に怯えているのか。
声には出さないけれど、彼女の瞳は俺に「助けて」と言っているようにしか見えなかった。
俺は隣にしゃがんだ。
そしてその震える身体を抱き寄せた。
「・・・いい思い出だけを思い出すのって案外難しいね」
過去に俺が言った言葉だ。
「・・・過去を乗り越えられない時はどうしたらいいのかな」
一筋の涙が零れて俺の腕を濡らした。
「思いっきり泣けばいい」
「・・・」
「気の済むまで泣いて、乗り越えられないなら思い出さなくなるまで待つしかない。その間に思い出を上書きしていくんだ」
名前はぎゅっと俺の服を掴んだ。
「うぅ・・・ひっく」
思えば、名前が自分のことで泣くのは初めてだ。
病室で両親やおじいさんとの過去を話したときでさえ。
俺はそっと泣きじゃくる名前の背中を撫でた。
********
補足
●ウタ
東京喰種に出て来るマスク職人の喰種。
喰種は顔を隠すために仮面をつけていて、それを作ってます。
芸術肌なので見た目はかなりパンク。タトゥが凄い。
めちゃ強。
体育祭が行われている会場から出て、一人になれる場所を探した。
それを見つけるのは簡単だった。
みんな体育祭の会場に集まっているので少し離れれば人っ子一人いない。
木の根元に腰かけた。
自分を守る様に腕を交差して丸くなる。
脳裏に過るのは長い黒髪の彼。
サラサラとしたその指触りが好きで、彼が仮面作りの仕事をしている間手持無沙汰な時によく触った。
常に喰種の象徴である黒い瞳を隠すことのなかった彼。
・・・大好きだった。
一度目に恋したのは人間。
二度目に恋したのは喰種。
しかし、二度目も裏切られてしまったけれど。
「何で・・・」
何で、私を裏切ったの。
「ウタさん・・・」
「誰だ、ウタって?」
********
さすが名前といったところで、爆豪を押さえこみ、勝ちは目前だった。
しかし急に呻いたかと思うとギブアップ宣言。
「ふざけんな、コノヤロー!!!」
喚く爆豪だけがリング上に残った。
「体調不良になったことにしとけ。ちょっと、出てくる」
マイクに声を掛け放送席を離れた。
一体何があったんだ・・・。
ハウンドドッグを捕まえて、匂いで名前を追ってもらった。
すぐに彼女は見つかった。
ハウンドドッグには会場に戻ってもらい、俺は名前に近づいた。
足音を隠すことなく近づいたけれど、名前は足元に立つまで気付かなかった。
「ウタさん・・・」
俺の知らない名前。
今はもうどちらかというと暑い季節になろうとしているのに、目の前の名前は小刻みに震えていた。
「誰だ、ウタって?」
声を掛けると名前は顔を上げた。
見上げる瞳は先ほど放送席を見上げた時に映った表情と同じだった。
また過去に怯えているのか。
声には出さないけれど、彼女の瞳は俺に「助けて」と言っているようにしか見えなかった。
俺は隣にしゃがんだ。
そしてその震える身体を抱き寄せた。
「・・・いい思い出だけを思い出すのって案外難しいね」
過去に俺が言った言葉だ。
「・・・過去を乗り越えられない時はどうしたらいいのかな」
一筋の涙が零れて俺の腕を濡らした。
「思いっきり泣けばいい」
「・・・」
「気の済むまで泣いて、乗り越えられないなら思い出さなくなるまで待つしかない。その間に思い出を上書きしていくんだ」
名前はぎゅっと俺の服を掴んだ。
「うぅ・・・ひっく」
思えば、名前が自分のことで泣くのは初めてだ。
病室で両親やおじいさんとの過去を話したときでさえ。
俺はそっと泣きじゃくる名前の背中を撫でた。
********
補足
●ウタ
東京喰種に出て来るマスク職人の喰種。
喰種は顔を隠すために仮面をつけていて、それを作ってます。
芸術肌なので見た目はかなりパンク。タトゥが凄い。
めちゃ強。
