【7章】過去
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数十年前。
私は人間の母と喰種の父の間に生まれた。
種族を越えた愛は美しいとも思われるが、実際は苦労や困難の連続だっただろう。
夫婦の最大の懸念は私の食事だった。
母は恐る恐る自身の母乳をあげると私は迷わずそれを啜った。
戻してしまうこともなく、人間の赤ん坊と同じミルクを飲めた。
両親は抱きあって喜んだらしい。
生後5か月が経ち、離乳食を開始するとなって再び頭を悩ませることになった。
両親は念のため人肉も用意したという。
人間用の離乳食と人肉。
両方を私の前に置いたらしい。
すると私は迷わず人肉の方に興味を示した。
「たまたまかもしれないじゃない!」
母は認めたくなくてとりあえず人間の離乳食を私に食べさせた。
するとそれもパクパクと食べ進めたのだ。
至って普通に消化もできた。
人間の血の方が濃いのではないかと両親は思ったそうだがそうではなかった。
物心がつく頃には黒翼が出るようになった。
言葉を話せるようになり、私はずっと思っていることを言った。
「私もお父さんと同じ食事がしたい」
人間はとても美味しそうな匂いがした。
母を食べたいとは思わないけれど、一度食べてみたい。
母は首を横に振った。
そして決まって私を抱き締めた。
「お父さんはあれしか食べられないの。でも貴方は違う。人間と同じご飯も食べられるでしょ?」
「でも、何も味がない」
「苦しい思いさせてごめんね。でも約束して。絶対人間は食べないって」
母は泣きそうな、縋るような瞳で私を見た。
私は母との約束を守った。
喰種は空腹になると自我を失い人間を無差別に襲う。
ある日食事が遅れた時に、幼い私は自我を失いかけ、母を襲おうとした。
それ以来、私は常に空腹を感じないように気を付けている。
つまるところ、私は人間と同じ食事をとれるが、あくまで消化できるといった意味合いにすぎない。
しかし両親はことあるごとに言った。
「名前は平和の象徴だわ!」
「名前のように人間を食べなくて済む喰種が増えればこの世の中は変わる!」
私はただ、両親の喜ぶ顔を見られて嬉しかった。
しかし私が平和の象徴になることはなかった。
私が人間と同じ食事ができたせいで、私達家族は崩壊した。
喰種の中には人間を食べることに罪悪感を持っている者も大勢いる。
噂で喰種と人間が共存していくための研究機関があることを両親は聞きつけた。
そこに人間と同じ食事を取ることができる私を両親は連れていった。
父親に抱かれながら足を踏み入れたそこで、私は研究員から好奇の眼差しを受けた。
「なんと・・・!人間の食事がとれる喰種なんて初めて聞いた!」
人間と喰種の間に子どもが生まれたケースは今までに何例もあるが、喰種が優性遺伝子なのか人間の食事をとることは叶わなかった。
「ぜひ研究に協力して頂きたい」
そのつもりで来た両親は迷う事なく協力に承諾したし、私も皆が仲良くなれるならと前向きだった。
当初は血液検査を中心に、人間の食事をどこまで取ることができるのか、黒翼の精度など両親が見守る中研究に協力した。
定期的に研究所に通う日々は数年続き、気付けば私は6歳になろうとしていた。
ある日、研究所が私を1日預かりたいと申し出た。
「もっと詳しく知りたいので」
人間と喰種が共存していく未来を作りたい。
その想いはここにいる誰もが一緒だった。
研究所を信頼していた両親は私を1日預けることを承諾した。
「良い子にしてるんだよ」
「うん」
両親と離れて過ごすのは初めてだったが、ここに居る人達とも随分打ち解けていたので不安はなかった。
両親が帰っていく後ろ姿に私は手を振って見送った。
「さあ、お腹が空いただろう。夜ご飯にしよう」
研究員に手を引かれ、私はいつもの部屋に足を踏み入れた。
「・・・?」
ガラス張りになっている部屋。
いつもより見ている人が多いような?
「ねぇ・・・」
何かいつもと違わない?そう問いかけようとした時、私の前に皿が置かれた。
鼻を美味しそうな匂いが掠める。
「これって・・・!」
「食べてみてくれないかな?」
人肉だった。
美味しそう、そう思ったが私は首を横に振った。
「君の両親がね、どうしてもこれだけは協力できないって言うんだ。でも、研究のためには必要なんだよ」
目の前の男は食べるようにテーブルの皿を手前に近づけた。
「でも・・・お母さんと約束してるから。人間は食べないって」
「研究も手詰まりなんだ。今までやってないアプローチがしたい。どうだい?匂いは感じる?」
「美味しそうな匂いがする」
「だったら食べてみようよ。ご両親には内緒にしておくから。いつも味気ない食事だから、今日は普段頑張ってるご褒美だと思ってさ」
「・・・そうだね!やったぁ!食べてみたかったの。でも先にトイレ行っていい?」
喜ぶ私の顔を見て研究員は気を緩ませた。
私はいつもの場所にあるトイレに向かったフリをして、研究所を抜け出した。
私は人間の母と喰種の父の間に生まれた。
種族を越えた愛は美しいとも思われるが、実際は苦労や困難の連続だっただろう。
夫婦の最大の懸念は私の食事だった。
母は恐る恐る自身の母乳をあげると私は迷わずそれを啜った。
戻してしまうこともなく、人間の赤ん坊と同じミルクを飲めた。
両親は抱きあって喜んだらしい。
生後5か月が経ち、離乳食を開始するとなって再び頭を悩ませることになった。
両親は念のため人肉も用意したという。
人間用の離乳食と人肉。
両方を私の前に置いたらしい。
すると私は迷わず人肉の方に興味を示した。
「たまたまかもしれないじゃない!」
母は認めたくなくてとりあえず人間の離乳食を私に食べさせた。
するとそれもパクパクと食べ進めたのだ。
至って普通に消化もできた。
人間の血の方が濃いのではないかと両親は思ったそうだがそうではなかった。
物心がつく頃には黒翼が出るようになった。
言葉を話せるようになり、私はずっと思っていることを言った。
「私もお父さんと同じ食事がしたい」
人間はとても美味しそうな匂いがした。
母を食べたいとは思わないけれど、一度食べてみたい。
母は首を横に振った。
そして決まって私を抱き締めた。
「お父さんはあれしか食べられないの。でも貴方は違う。人間と同じご飯も食べられるでしょ?」
「でも、何も味がない」
「苦しい思いさせてごめんね。でも約束して。絶対人間は食べないって」
母は泣きそうな、縋るような瞳で私を見た。
私は母との約束を守った。
喰種は空腹になると自我を失い人間を無差別に襲う。
ある日食事が遅れた時に、幼い私は自我を失いかけ、母を襲おうとした。
それ以来、私は常に空腹を感じないように気を付けている。
つまるところ、私は人間と同じ食事をとれるが、あくまで消化できるといった意味合いにすぎない。
しかし両親はことあるごとに言った。
「名前は平和の象徴だわ!」
「名前のように人間を食べなくて済む喰種が増えればこの世の中は変わる!」
私はただ、両親の喜ぶ顔を見られて嬉しかった。
しかし私が平和の象徴になることはなかった。
私が人間と同じ食事ができたせいで、私達家族は崩壊した。
喰種の中には人間を食べることに罪悪感を持っている者も大勢いる。
噂で喰種と人間が共存していくための研究機関があることを両親は聞きつけた。
そこに人間と同じ食事を取ることができる私を両親は連れていった。
父親に抱かれながら足を踏み入れたそこで、私は研究員から好奇の眼差しを受けた。
「なんと・・・!人間の食事がとれる喰種なんて初めて聞いた!」
人間と喰種の間に子どもが生まれたケースは今までに何例もあるが、喰種が優性遺伝子なのか人間の食事をとることは叶わなかった。
「ぜひ研究に協力して頂きたい」
そのつもりで来た両親は迷う事なく協力に承諾したし、私も皆が仲良くなれるならと前向きだった。
当初は血液検査を中心に、人間の食事をどこまで取ることができるのか、黒翼の精度など両親が見守る中研究に協力した。
定期的に研究所に通う日々は数年続き、気付けば私は6歳になろうとしていた。
ある日、研究所が私を1日預かりたいと申し出た。
「もっと詳しく知りたいので」
人間と喰種が共存していく未来を作りたい。
その想いはここにいる誰もが一緒だった。
研究所を信頼していた両親は私を1日預けることを承諾した。
「良い子にしてるんだよ」
「うん」
両親と離れて過ごすのは初めてだったが、ここに居る人達とも随分打ち解けていたので不安はなかった。
両親が帰っていく後ろ姿に私は手を振って見送った。
「さあ、お腹が空いただろう。夜ご飯にしよう」
研究員に手を引かれ、私はいつもの部屋に足を踏み入れた。
「・・・?」
ガラス張りになっている部屋。
いつもより見ている人が多いような?
「ねぇ・・・」
何かいつもと違わない?そう問いかけようとした時、私の前に皿が置かれた。
鼻を美味しそうな匂いが掠める。
「これって・・・!」
「食べてみてくれないかな?」
人肉だった。
美味しそう、そう思ったが私は首を横に振った。
「君の両親がね、どうしてもこれだけは協力できないって言うんだ。でも、研究のためには必要なんだよ」
目の前の男は食べるようにテーブルの皿を手前に近づけた。
「でも・・・お母さんと約束してるから。人間は食べないって」
「研究も手詰まりなんだ。今までやってないアプローチがしたい。どうだい?匂いは感じる?」
「美味しそうな匂いがする」
「だったら食べてみようよ。ご両親には内緒にしておくから。いつも味気ない食事だから、今日は普段頑張ってるご褒美だと思ってさ」
「・・・そうだね!やったぁ!食べてみたかったの。でも先にトイレ行っていい?」
喜ぶ私の顔を見て研究員は気を緩ませた。
私はいつもの場所にあるトイレに向かったフリをして、研究所を抜け出した。
