【3章】決意
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相澤さんは私の荷物を全て持ってくれた。
下着は何となく恥ずかしかったので渡さなかった。
もうそろそろ帰ろうか、と駐車場へ向かう途中にあの広場に再び出た。
無意識にあの男を探したがさすがにもういなかった。
「あそこすごい並んでるね」
広場に止まっているワゴンカーの前に人が並んでいる。
「ああ、最近流行ってるらしいな」
看板を覗くと『タピオカ専門店』と書いてあった。
「タピオカ?」
聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「飲むか?」
「飲み物なんだ。どうせ味分からないからいいよ」
メニューには沢山種類が載っていた。
「世間の流行りに関する勉強だ」
相澤さんは列の最後尾に並んだ。
並ぶとか、待つとか嫌いそうな人だと思っていたから意外だ。
相澤さんは気が長いらしい。
一つ勉強になった。
相澤さんが並んでいる間、私はメニューの前に張り付いた。
「宇治抹茶ってやつにする」
「何でそれにしたんだ?」
「相澤さんの漢字が入ってるから」
最近漢字を勉強していて、相澤さんの個性『抹消』を覚えた。
その『抹』が入っていたので、それにした。
「相澤さんはいらないの?」
買ってもらったタピオカを手に帰路についた。
私は乗っているだけでいいので楽ちんだ。
「俺は甘い飲み物は好きじゃない」
「コーヒーもブラックだもんね。・・・げほっ」
「どうした?」
「何か喉を通過した」
「タピオカだな」
「げほ、げほっ」
「大丈夫か?」
相澤さんは私の背中を擦ってくれた。
「タピオカ恐るべし・・・」
「気を付けて飲め」
「タピオカってどんな味なの?」
あんなに行列ができるのだからさぞかし美味しいのだろう。
しかし相澤さんから返ってきた言葉は意外だった。
「そういえば、タピオカ自体には味がないな。食感を楽しむものだ」
「そうなの?」
「宇治抹茶は味があるが、タピオカにはほぼ無いな」
「へー・・・。そんなのもあるんだ」
モチモチしているこの食感。
これが皆好きなのかな?
これに関しては皆と同じ感覚ということか。
ストローで狙いを定めで、今度は吸い込まないように慎重に口の中へ運んだ。
もきゅもきゅと食感を楽しんだ。
「聞いてもいいか」
相澤さんがこういう聞き方をするときは、何か重要なことを聞きたいときだ。
私は手を止めて相澤さんに視線を向けた。
「どうして、あのとき逃げなかったんだ?」
相澤さんの質問にハタ、と目を瞬かせた。
そういえば、あのはぐれたときは逃げ出す絶好のチャンスだった。
ヒーローを目指すといっても律儀にそれを順守する理由は私にはない。
むしろあの敵の話が出てきた辺りで、もてる情報はほぼ揃ったといってもいい。
生活にも慣れたし、あとは一人でも生きていける。
でも、あの時の私は相澤さんを探すことに必死だった。
逃げ出すなんて選択肢、全く頭に過らなかった。
「何でかな・・・?」
質問の答えは私にも分からなかった。
*******************
どうやら俺の質問で困らせてしまったらしい。
タピオカを飲む手を止めて、悶々と考え込んでいる。
何にせよ、逃げたわけではなかったので安堵した。
「何であの男に反撃しなかったんだ?」
待っていても答えは出てこないと思ったので質問を変えた。
「黒翼使ったらダメって言ってたから・・・。素手でも抵抗できたけど、していいのか分からなかった」
名前が思いの外俺の言葉を順守していることに驚いた。
「ああいう時は多少捻り上げるぐらいなら問題ないだろう。それでも迷ったときは・・・」
「助けを求めるんだ」
言葉自体は知っているだろうに、まるで初めて聞いた単語であるかのような反応をみせた。
「助け・・・」
「そうだ。『助けて』って言えば周りが誰か助けてくれる」
いまいちピンときていない様子だが「分かった・・・」と頷いた。
今まで誰かに助けを求めたことなど無いのだろう。
考えこんでいる内にどうやら今日の疲労が出てきたらしい。
気付けば名前はうつらうつらしていた。
数分としない内に完全に瞳は閉じきって、寝息が聞こえてきた。
「ほんと、こうしていれば普通の女なんだがな」
深夜に寝ていても足音で起きていた彼女が、今隣で眠るのはそれだけ気を許してきている証拠なのだろうか。
試しに手を伸ばしてみるが起きる様子はない。
そのまま、そっと頬に指先を添えた。
男の頬とは違い滑らかな肌触り。
「ん・・・」
震えた睫毛に俺は思わず手を引っ込めると、名前はぱちりと目を覚ました。
「あれ、寝ちゃってた?もう着いた?」
「あと少しだ。着いたら起こすから寝てていいぞ」
「ありがとう・・・」
余程疲れているらしく、名前は再び瞼を閉じてしまった。
振り返ってみれば、俺が名前を初めて女として意識としたのはこの日だったのかもしれない。
下着は何となく恥ずかしかったので渡さなかった。
もうそろそろ帰ろうか、と駐車場へ向かう途中にあの広場に再び出た。
無意識にあの男を探したがさすがにもういなかった。
「あそこすごい並んでるね」
広場に止まっているワゴンカーの前に人が並んでいる。
「ああ、最近流行ってるらしいな」
看板を覗くと『タピオカ専門店』と書いてあった。
「タピオカ?」
聞き慣れない言葉に首を傾げた。
「飲むか?」
「飲み物なんだ。どうせ味分からないからいいよ」
メニューには沢山種類が載っていた。
「世間の流行りに関する勉強だ」
相澤さんは列の最後尾に並んだ。
並ぶとか、待つとか嫌いそうな人だと思っていたから意外だ。
相澤さんは気が長いらしい。
一つ勉強になった。
相澤さんが並んでいる間、私はメニューの前に張り付いた。
「宇治抹茶ってやつにする」
「何でそれにしたんだ?」
「相澤さんの漢字が入ってるから」
最近漢字を勉強していて、相澤さんの個性『抹消』を覚えた。
その『抹』が入っていたので、それにした。
「相澤さんはいらないの?」
買ってもらったタピオカを手に帰路についた。
私は乗っているだけでいいので楽ちんだ。
「俺は甘い飲み物は好きじゃない」
「コーヒーもブラックだもんね。・・・げほっ」
「どうした?」
「何か喉を通過した」
「タピオカだな」
「げほ、げほっ」
「大丈夫か?」
相澤さんは私の背中を擦ってくれた。
「タピオカ恐るべし・・・」
「気を付けて飲め」
「タピオカってどんな味なの?」
あんなに行列ができるのだからさぞかし美味しいのだろう。
しかし相澤さんから返ってきた言葉は意外だった。
「そういえば、タピオカ自体には味がないな。食感を楽しむものだ」
「そうなの?」
「宇治抹茶は味があるが、タピオカにはほぼ無いな」
「へー・・・。そんなのもあるんだ」
モチモチしているこの食感。
これが皆好きなのかな?
これに関しては皆と同じ感覚ということか。
ストローで狙いを定めで、今度は吸い込まないように慎重に口の中へ運んだ。
もきゅもきゅと食感を楽しんだ。
「聞いてもいいか」
相澤さんがこういう聞き方をするときは、何か重要なことを聞きたいときだ。
私は手を止めて相澤さんに視線を向けた。
「どうして、あのとき逃げなかったんだ?」
相澤さんの質問にハタ、と目を瞬かせた。
そういえば、あのはぐれたときは逃げ出す絶好のチャンスだった。
ヒーローを目指すといっても律儀にそれを順守する理由は私にはない。
むしろあの敵の話が出てきた辺りで、もてる情報はほぼ揃ったといってもいい。
生活にも慣れたし、あとは一人でも生きていける。
でも、あの時の私は相澤さんを探すことに必死だった。
逃げ出すなんて選択肢、全く頭に過らなかった。
「何でかな・・・?」
質問の答えは私にも分からなかった。
*******************
どうやら俺の質問で困らせてしまったらしい。
タピオカを飲む手を止めて、悶々と考え込んでいる。
何にせよ、逃げたわけではなかったので安堵した。
「何であの男に反撃しなかったんだ?」
待っていても答えは出てこないと思ったので質問を変えた。
「黒翼使ったらダメって言ってたから・・・。素手でも抵抗できたけど、していいのか分からなかった」
名前が思いの外俺の言葉を順守していることに驚いた。
「ああいう時は多少捻り上げるぐらいなら問題ないだろう。それでも迷ったときは・・・」
「助けを求めるんだ」
言葉自体は知っているだろうに、まるで初めて聞いた単語であるかのような反応をみせた。
「助け・・・」
「そうだ。『助けて』って言えば周りが誰か助けてくれる」
いまいちピンときていない様子だが「分かった・・・」と頷いた。
今まで誰かに助けを求めたことなど無いのだろう。
考えこんでいる内にどうやら今日の疲労が出てきたらしい。
気付けば名前はうつらうつらしていた。
数分としない内に完全に瞳は閉じきって、寝息が聞こえてきた。
「ほんと、こうしていれば普通の女なんだがな」
深夜に寝ていても足音で起きていた彼女が、今隣で眠るのはそれだけ気を許してきている証拠なのだろうか。
試しに手を伸ばしてみるが起きる様子はない。
そのまま、そっと頬に指先を添えた。
男の頬とは違い滑らかな肌触り。
「ん・・・」
震えた睫毛に俺は思わず手を引っ込めると、名前はぱちりと目を覚ました。
「あれ、寝ちゃってた?もう着いた?」
「あと少しだ。着いたら起こすから寝てていいぞ」
「ありがとう・・・」
余程疲れているらしく、名前は再び瞼を閉じてしまった。
振り返ってみれば、俺が名前を初めて女として意識としたのはこの日だったのかもしれない。