【2章】知る
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日付がもうすぐ変わろうとしていた。
私はベッドに寝転がりながら、夕食を思い出していた。
どこまで話すか、何を話すか。
相手の信用をできる限り得るには、全てでなくともある程度情報は出さなければならない。
相澤さんの最後の質問はごまかした。
これに答えてしまったら、彼らの対応が変わる可能性があるからだ。
今はこの生活を維持したい。
言葉の一つ一つを吟味しなければならないことは疲労とストレスが蓄積される。
「鍋かぁ・・・」
初めて食べた。
マイクさんが言うには鍋には色々種類があるらしく、今度は違う鍋にしようと言っていた。
ああやって食卓を囲うのは随分久しぶりだ。
目を閉じると母と父の姿が浮かんだ。
私はギュッと寝間着の胸元を掴んだ。
********
深夜、目が覚めた俺はトイレットペーパーが切れていることに気付いた。
予備は名前が寝ている部屋に置いてある。
もし名前が目覚めてトイレに行った時に無かったら困るだろうと思い、忍び足で彼女の部屋に向かった。
寝ている女性の部屋を開けることは気が引けるが・・・。
起こさないよう、ゆっくり部屋のドアを開けた。
中へ入りトイレットペーパーが置いてあるクローゼットへ向かおうとしたその時、ベッドが空であることに気付いた。
「何しにきたの?」
俺の足はピタリと止まった。
名前は黒翼を出し俺の首元に切っ先を向けていた。
「・・・トイレットペーパーが切れていたから取りにきただけだ」
「そう・・・」
彼女はシュルシュルと黒翼をしまった。
ベッドに腰かけ、トイレットペーパーを探している俺を監視している。
「寝てなかったのか」
「寝てたけどこっちに向かってくる足音が聞こえて」
「俺が寝首を掻きにくると思ったのか」
「無きにしも非ずかなって」
「そうか。起こして悪かったな」
「ううん。元々居候させてもらってる身だし」
一般人ならまだしも、ヒーローの俺が簡単に背後を取られるなんて。
「相澤さん、私目が覚めちゃった」
「俺もだ。まさかトイレットペーパーを取りに来て命の危機に晒されるとは思わなかったからな」
「ごめん、ごめん」
真っ暗な部屋の中で、カーテンの隙間から月明りだけがわずかに差し込んでいた。
その光が映し出した名前の表情は少し寂し気だった。
「少し、話をしないか」
ピクリと名前の耳が反応した。
「まだ何か聞きたい?」
「いや、ただの世間話だ。隣いいか」
自分の家ではあるが、一応尋ねると名前は横にずれて俺が座るスペースを空けてくれた。
電気はつけないまま暗がりのなか横並びに座った。
「・・・こっちの生活は少しは慣れたか」
「うん。向こうの世界では戦ってばかりだったから、平和ボケしそう」
「力があり余ってるんじゃないのか」
「ふふ、そうかも」
名前は表情を綻ばせて笑った。
差し込んできた月明りに照らされて見えた名前の微笑みは綺麗だった。
「今度図書室へ連れていってやる。暇なら本を読んだらどうだ」
「本かあ。読んだことないな。読んでみたい」
戦ってばかりの人生。
皆が当たり前にやっていることを彼女は経験していなかった。
「学校には行っていなかったのか」
「うん」
俺は名前が窓から下校する生徒を眺めていた様子を思い出した。
「行ってみたかったか?」
「うーん。行ったことないからわからない」
名前は困った表情で眉を寄せた。
俺は話題を変えることにした。
「そういえば、ランチラッシュが絶対に名前に美味いって言わせると張り切ってるぞ」
「もし美味しいと思ったら素直に言ってやってくれ」
何か変な事を言っただろうか。
名前の困った表情は崩れなかった。
「あのね、相澤さん」
肩を落として名前はポツリと呟いた。
「私、味が分からないんだ」
私はベッドに寝転がりながら、夕食を思い出していた。
どこまで話すか、何を話すか。
相手の信用をできる限り得るには、全てでなくともある程度情報は出さなければならない。
相澤さんの最後の質問はごまかした。
これに答えてしまったら、彼らの対応が変わる可能性があるからだ。
今はこの生活を維持したい。
言葉の一つ一つを吟味しなければならないことは疲労とストレスが蓄積される。
「鍋かぁ・・・」
初めて食べた。
マイクさんが言うには鍋には色々種類があるらしく、今度は違う鍋にしようと言っていた。
ああやって食卓を囲うのは随分久しぶりだ。
目を閉じると母と父の姿が浮かんだ。
私はギュッと寝間着の胸元を掴んだ。
********
深夜、目が覚めた俺はトイレットペーパーが切れていることに気付いた。
予備は名前が寝ている部屋に置いてある。
もし名前が目覚めてトイレに行った時に無かったら困るだろうと思い、忍び足で彼女の部屋に向かった。
寝ている女性の部屋を開けることは気が引けるが・・・。
起こさないよう、ゆっくり部屋のドアを開けた。
中へ入りトイレットペーパーが置いてあるクローゼットへ向かおうとしたその時、ベッドが空であることに気付いた。
「何しにきたの?」
俺の足はピタリと止まった。
名前は黒翼を出し俺の首元に切っ先を向けていた。
「・・・トイレットペーパーが切れていたから取りにきただけだ」
「そう・・・」
彼女はシュルシュルと黒翼をしまった。
ベッドに腰かけ、トイレットペーパーを探している俺を監視している。
「寝てなかったのか」
「寝てたけどこっちに向かってくる足音が聞こえて」
「俺が寝首を掻きにくると思ったのか」
「無きにしも非ずかなって」
「そうか。起こして悪かったな」
「ううん。元々居候させてもらってる身だし」
一般人ならまだしも、ヒーローの俺が簡単に背後を取られるなんて。
「相澤さん、私目が覚めちゃった」
「俺もだ。まさかトイレットペーパーを取りに来て命の危機に晒されるとは思わなかったからな」
「ごめん、ごめん」
真っ暗な部屋の中で、カーテンの隙間から月明りだけがわずかに差し込んでいた。
その光が映し出した名前の表情は少し寂し気だった。
「少し、話をしないか」
ピクリと名前の耳が反応した。
「まだ何か聞きたい?」
「いや、ただの世間話だ。隣いいか」
自分の家ではあるが、一応尋ねると名前は横にずれて俺が座るスペースを空けてくれた。
電気はつけないまま暗がりのなか横並びに座った。
「・・・こっちの生活は少しは慣れたか」
「うん。向こうの世界では戦ってばかりだったから、平和ボケしそう」
「力があり余ってるんじゃないのか」
「ふふ、そうかも」
名前は表情を綻ばせて笑った。
差し込んできた月明りに照らされて見えた名前の微笑みは綺麗だった。
「今度図書室へ連れていってやる。暇なら本を読んだらどうだ」
「本かあ。読んだことないな。読んでみたい」
戦ってばかりの人生。
皆が当たり前にやっていることを彼女は経験していなかった。
「学校には行っていなかったのか」
「うん」
俺は名前が窓から下校する生徒を眺めていた様子を思い出した。
「行ってみたかったか?」
「うーん。行ったことないからわからない」
名前は困った表情で眉を寄せた。
俺は話題を変えることにした。
「そういえば、ランチラッシュが絶対に名前に美味いって言わせると張り切ってるぞ」
「もし美味しいと思ったら素直に言ってやってくれ」
何か変な事を言っただろうか。
名前の困った表情は崩れなかった。
「あのね、相澤さん」
肩を落として名前はポツリと呟いた。
「私、味が分からないんだ」