【4章】それはまるで磁石のように
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「おい」
「いてっ」
俺は床に寝転がってグースカ鼾を掻いている能井を足蹴にした。
「名前に誤解されただろうが」
「ん〜…名前…?」
半開きの目のまま身体を起こした能井は上体を起こして背伸びをした。
「ふわぁっ…。…先輩、名前のこと好きなんっすか?」
「は!?」
「だって、誤解されたら困るんでしょ?」
「別にそういうわけじゃっ…」
「ま、オレは何でもいいですけどねー」
関係ねぇし、とまるで他人事(まあ、実際に他人事なのだが)のように吐き捨てると、俺の部屋を出ていった。
体躯の大きい能井が出ていくと、部屋がやけに広く感じる。
きっと名前がここに居たら、能井が居る時のような狭さは感じないのだろう。
俺が…名前を…好き?
カアッと顔に血が巡った。
「あいつ、何を言って…!」
背中さえ見えなくなった能井を睨みつけた。
だが、きっとあいつは「今の先輩に睨まれても怖くないっすよ。鏡見てください」なんて言うのだろう。
くそっ。
俺が吐いた悪態は誰に届くこともなく、部屋の中で消えた。
*******************
「あの…何か怒ってますか?」
「あ?」
一仕事を終え、帰りの車。
助手席の能井さんは船を漕いでいた。
能井さんを起こさないように小声で心さんに尋ねるが、帰ってきた声色はやはりいつもより低かった。
「怒ってねぇ…」
「でも…」
心当たりはあるようなないような…。
あるとしたら昨日の出来事だ。
勝手に部屋の中見たのが気に障ったのだろうか。
見たというか見えた、のだが。
「部屋…覗いてしまってごめんなさい」
「そうじゃねぇ…」
サイドミラーに映った心さんの顔は、確かに怒ってはいなさそうだが、能井さんとのことを見られて気まずそうとも違う、何とも言いにくい表情をしていた。
そうじゃないなら何なのだ、と聞きたいところではあるが、聞いたら聞いたでまた傷つきそうだからやめた。
「……明日はホールで仕事だ」
赤信号で車がゆっくり減速した。
「ホール…」
それはつまり私はフリーという意味で。
「ホールのお仕事……私もついて行きたいです」
単純にホールがどういうところか見てみたい。
そんな気持ちもあったが、それよりもホールに行けば少しでも能井さんに近づけるのでは、と浅はかな考えが浮かんだのだ。
能井さんと私の違いを少しでも埋められるのでは。
ただの自己満足なのはわかっていた。
こんなことをしても私は能井さんにはなれない。
だが、一歩踏み出すという行動をすることで、自分を褒めたかったのだ。
「……駄目だ」
想定通りの返事だった。
………一方で、ここで食い下がる勇気を私は持ち併せてはいなかった。
結局また能井さんとの差を感じただけで終わったのだ。
「いてっ」
俺は床に寝転がってグースカ鼾を掻いている能井を足蹴にした。
「名前に誤解されただろうが」
「ん〜…名前…?」
半開きの目のまま身体を起こした能井は上体を起こして背伸びをした。
「ふわぁっ…。…先輩、名前のこと好きなんっすか?」
「は!?」
「だって、誤解されたら困るんでしょ?」
「別にそういうわけじゃっ…」
「ま、オレは何でもいいですけどねー」
関係ねぇし、とまるで他人事(まあ、実際に他人事なのだが)のように吐き捨てると、俺の部屋を出ていった。
体躯の大きい能井が出ていくと、部屋がやけに広く感じる。
きっと名前がここに居たら、能井が居る時のような狭さは感じないのだろう。
俺が…名前を…好き?
カアッと顔に血が巡った。
「あいつ、何を言って…!」
背中さえ見えなくなった能井を睨みつけた。
だが、きっとあいつは「今の先輩に睨まれても怖くないっすよ。鏡見てください」なんて言うのだろう。
くそっ。
俺が吐いた悪態は誰に届くこともなく、部屋の中で消えた。
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「あの…何か怒ってますか?」
「あ?」
一仕事を終え、帰りの車。
助手席の能井さんは船を漕いでいた。
能井さんを起こさないように小声で心さんに尋ねるが、帰ってきた声色はやはりいつもより低かった。
「怒ってねぇ…」
「でも…」
心当たりはあるようなないような…。
あるとしたら昨日の出来事だ。
勝手に部屋の中見たのが気に障ったのだろうか。
見たというか見えた、のだが。
「部屋…覗いてしまってごめんなさい」
「そうじゃねぇ…」
サイドミラーに映った心さんの顔は、確かに怒ってはいなさそうだが、能井さんとのことを見られて気まずそうとも違う、何とも言いにくい表情をしていた。
そうじゃないなら何なのだ、と聞きたいところではあるが、聞いたら聞いたでまた傷つきそうだからやめた。
「……明日はホールで仕事だ」
赤信号で車がゆっくり減速した。
「ホール…」
それはつまり私はフリーという意味で。
「ホールのお仕事……私もついて行きたいです」
単純にホールがどういうところか見てみたい。
そんな気持ちもあったが、それよりもホールに行けば少しでも能井さんに近づけるのでは、と浅はかな考えが浮かんだのだ。
能井さんと私の違いを少しでも埋められるのでは。
ただの自己満足なのはわかっていた。
こんなことをしても私は能井さんにはなれない。
だが、一歩踏み出すという行動をすることで、自分を褒めたかったのだ。
「……駄目だ」
想定通りの返事だった。
………一方で、ここで食い下がる勇気を私は持ち併せてはいなかった。
結局また能井さんとの差を感じただけで終わったのだ。
