【4章】それはまるで磁石のように
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心さんへの恋心をしまうために距離を取ろうとしているのだが…。
「どこ行くんだ」
「ちょっと煙さんの頼まれごとを…」
「こんな時間に?」
こんな時間って…。
私はちらりと時計を見たが、まだ17時だった。
「すぐに戻ります」
「ハァ…。俺もついていってやる」
あの誘拐事件以降、心さんは私のことを気にかけてくれていた。
「そんな、悪いですし…」
心さんは私の意見を聞く気はないらしい。
車のキーをかざした。
「ほら」
「お、お邪魔します…」
「で、どこ行くんだ」
「煙さんに頼まれた郵便物を届けに…」
私は住所を心さんに伝えた。
走り出した車の窓から流れる景色に目をやった。
気持ちを落ち着けるために。
「ったく、能井のやつ、またゴミ置いていきやがったな」
ドリンクホルダーには飲み終わったカップがささったままだった。
私は途端に居心地が悪くなり、再び窓の外を向いた。
********************
「心さん、これどうぞ」
薄い紙を一枚差し出すので、何かと思えば先日撮った写真だった。
「我ながらよく撮れたと思うんです」
ファミリーのカメラマンとして最近は専属化しているこの男。
ただの雑用をきっかけに、めきめきカメラの腕を上げているものだからそのうちファミリーを抜けて本職になりそうだ。
「名前さんに渡したら嬉しそうでしたよ」
何気ない一言。
俺の写真なんかで喜ぶのか。
いや、あいつなら喜びそうだ。
純真無垢で、このファミリーではある意味異端ともいえる存在。
「いい笑顔ですよね」
こいつは名前の表情を見てそういうが、俺からすれば少し強張っているように感じた。
俺はこいつよりも名前のとこを理解している、わずかな優越感を抱いた自分にこそばゆくなる。
「じゃあな」
俺はその写真を胸ポケットに仕舞い、仕事に向かった。
そしてその後、出かけようとしている名前と鉢合わせをして今に至る。
誘拐されたというのに、一人で外出するなどやはり名前は抜けているところがある。
危機感というものが足りない。
口煩く責めたくなるが、その先にあるのは眉を下げた表情だということも分かっていた。
だから俺が同行することにしたのだが。
「(機嫌が悪いのか…?)」
窓の外ばかり見ていて、一向に会話は弾まない。
口下手な俺から出てきた話題は、能井への愚痴だった。
名前はわずかに苦笑して、再び窓の外へ視線を戻した。
いつもは能井がうるさいぐらい一方的に喋るので、静かな助手席は新鮮だった。
赤信号に引っかかり、ゆっくりブレーキを踏む。
いつもなら雑にペダルを踏むので能井に「酔いそうです!」とクレーム入れられることもあるが、今日はそうしなかった。
信号待ちの間、視線を横に向けると名前の横顔越しに窓の向こうが見えた。
能井が助手席に座ると体躯の大きさから向こう側の景色は見えない。
名前が小柄なことは今に始まったことではないのに、いつも能井が狭そうに座っている助手席を彼女が広々と使っているのを見ると、やけに女を感じた。
(決して能井が女らしくないという意味ではない)
「心さん…信号、青になりました」
「あ、ああ」
青になっても出発しない俺に疑問を感じた名前が口を開いた。
どうしたんだ、俺。
なかなかハードな過去を背負っている俺は、女というものに縁がなかった。
名前のケムリにだけ温かさを感じるのも。
名前がケムリを売ったときに、腹が立ったのも。
名前が居なくなって内心焦ったのも。
その後名前の行動が気になるのも。
全て名前に惹かれ始めていたがゆえの感情であると、このときの俺はまだ気づいていなかったのであった。
「どこ行くんだ」
「ちょっと煙さんの頼まれごとを…」
「こんな時間に?」
こんな時間って…。
私はちらりと時計を見たが、まだ17時だった。
「すぐに戻ります」
「ハァ…。俺もついていってやる」
あの誘拐事件以降、心さんは私のことを気にかけてくれていた。
「そんな、悪いですし…」
心さんは私の意見を聞く気はないらしい。
車のキーをかざした。
「ほら」
「お、お邪魔します…」
「で、どこ行くんだ」
「煙さんに頼まれた郵便物を届けに…」
私は住所を心さんに伝えた。
走り出した車の窓から流れる景色に目をやった。
気持ちを落ち着けるために。
「ったく、能井のやつ、またゴミ置いていきやがったな」
ドリンクホルダーには飲み終わったカップがささったままだった。
私は途端に居心地が悪くなり、再び窓の外を向いた。
********************
「心さん、これどうぞ」
薄い紙を一枚差し出すので、何かと思えば先日撮った写真だった。
「我ながらよく撮れたと思うんです」
ファミリーのカメラマンとして最近は専属化しているこの男。
ただの雑用をきっかけに、めきめきカメラの腕を上げているものだからそのうちファミリーを抜けて本職になりそうだ。
「名前さんに渡したら嬉しそうでしたよ」
何気ない一言。
俺の写真なんかで喜ぶのか。
いや、あいつなら喜びそうだ。
純真無垢で、このファミリーではある意味異端ともいえる存在。
「いい笑顔ですよね」
こいつは名前の表情を見てそういうが、俺からすれば少し強張っているように感じた。
俺はこいつよりも名前のとこを理解している、わずかな優越感を抱いた自分にこそばゆくなる。
「じゃあな」
俺はその写真を胸ポケットに仕舞い、仕事に向かった。
そしてその後、出かけようとしている名前と鉢合わせをして今に至る。
誘拐されたというのに、一人で外出するなどやはり名前は抜けているところがある。
危機感というものが足りない。
口煩く責めたくなるが、その先にあるのは眉を下げた表情だということも分かっていた。
だから俺が同行することにしたのだが。
「(機嫌が悪いのか…?)」
窓の外ばかり見ていて、一向に会話は弾まない。
口下手な俺から出てきた話題は、能井への愚痴だった。
名前はわずかに苦笑して、再び窓の外へ視線を戻した。
いつもは能井がうるさいぐらい一方的に喋るので、静かな助手席は新鮮だった。
赤信号に引っかかり、ゆっくりブレーキを踏む。
いつもなら雑にペダルを踏むので能井に「酔いそうです!」とクレーム入れられることもあるが、今日はそうしなかった。
信号待ちの間、視線を横に向けると名前の横顔越しに窓の向こうが見えた。
能井が助手席に座ると体躯の大きさから向こう側の景色は見えない。
名前が小柄なことは今に始まったことではないのに、いつも能井が狭そうに座っている助手席を彼女が広々と使っているのを見ると、やけに女を感じた。
(決して能井が女らしくないという意味ではない)
「心さん…信号、青になりました」
「あ、ああ」
青になっても出発しない俺に疑問を感じた名前が口を開いた。
どうしたんだ、俺。
なかなかハードな過去を背負っている俺は、女というものに縁がなかった。
名前のケムリにだけ温かさを感じるのも。
名前がケムリを売ったときに、腹が立ったのも。
名前が居なくなって内心焦ったのも。
その後名前の行動が気になるのも。
全て名前に惹かれ始めていたがゆえの感情であると、このときの俺はまだ気づいていなかったのであった。
