クモ男さんと一緒/巻島
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部活の休憩中、話題はそれぞれ苦手なものになった。
「僕、大きくて吠える犬が苦手なんです」
へへへと後頭部を掻きながら笑う小野田くん。
確かに大型犬だと立てば小野田くんより大きいかもしれない。
「巻島くんは?」
私は巻島くんに振った。
腕を組みうーんと唸る巻島くんは一つ思いついたようだ。
「・・・・・作り笑い?」
「え、やってやって」
私がねだると巻島くんはニヤッと口元をゆがめたが目が全然笑っていないし、口角も左右均等に上がりきっていない。
「ガハハ。キモいな」
田所くんは巻島くんと正反対でよく笑う。
巻島くんの不気味な笑顔にみんな笑った。
「うるさいっショ!」
照れてすぐに普段の澄ました口元に戻ると今度は巻島くんが私に振った。
「名前は苦手なものないのか」
「私は・・・そうだなぁ。あ!」
1つだけどうしても苦手なものを思い出した。
みんなが私の回答を待っている後方で、金城くんが練習再開の声を掛けたので私の答えはまたあとでということで各々立ち上がった。
*****
みんなが外に走りに行っている間、私は部室の掃除をすることにした。
濡れ雑巾やほうきを使って上から順に磨いていく。
「うわ~。結構埃溜まってるな・・・」
掃除というものはやりだしたらエンジンがかかるもので、私は隅々まで塵という塵を取り除いた。
気づけば結構な時間が経っていたらしい。
周回を終えた部員が戻ってきた。
やはり早いのは3年生。
その後も続々と戻ってきた。
「お、綺麗になってるっショ」
巻島くんが褒めてくれたので私は嬉しい気持ちになった。
「よかった。頑張った甲斐があるよ」
私はふと天井を見上げた。
「どうしたっショ?」
箒を持ったまま固まる私に巻島くんが声を掛けた。
けれど私の視線は天井を向いたまま動かないので巻島くんを筆頭に他の部員も私の視線を追った。
すると小さく黒い点のようなものが見える。
「クモか?」
「・・・・ねぇ、巻島くん。今なんて言った?」
「クモって言うてましたよ。スパイダー。ワイにもそう見えますけど」
鳴子くんの言葉で私の脳があの黒い点がクモであることを認めた。
「いやぁぁぁあああ」
脳天をつくような私の叫びに部員一同が目を見開いた。
「ちょっ、名前。近いし苦しいっショ」
私は巻島くんの背後に回り両腕を彼の首に回しながら顔を背中に押し付けた。
「ムリムリムリムリ」
手に持っていた箒は地面に転がり、みんな私の行動に唖然としている。
「もしかして名字さんの苦手なものって・・・クモですか?」
「その名前を出さないで手嶋くん!!」
そう。私はこの世で最もクモが苦手だ。
ゴキブリの方がマシ。
「でもクモって害虫食べてくれますし、いい奴ですよー」
「知ってるよ、鳴子くん。でも申し訳ないけどフォルムが駄目なの。外見で判断しちゃいけないのはわかってるんだけど、それでもムリなの」
彼らが人間の味方なのは分かっている。
でも8本もあって無駄に長いあの手足が受け入れられず、身体中に悪寒が走る。
「わかりました。外に逃がしますね」
今泉くんが見かねて虫取り網を持ってきてくれた。
身長の高い彼は天井に虫網をくっつけて網の中に追い込もうとするがスススと上手く逃げていく。
「まままま巻島くん。動いてる動いてるよ!」
「落ち着け、名前」
するとクモは足を滑らせたのか、網に入らず地面に落下した。
「きゃああああ」
「うお!」
私は思わず巻島くんの背中に飛び乗った。
奴が地面に落ちたなら私が宙に浮かなければならない。
巻島くんは私をおんぶしてなるべくクモから遠い位置に移動してくれた。
「すみません」
「むしろごめんは私だよ。そんな仕事させて・・・。今泉くん、ファイト!」
巻島くんの背中から私は今泉くんにエールを送った。
なんとか網の中に捕獲し、今泉くんは二度と部室に入らないようにとだいぶ遠いところまで運んで逃がしてくれた。
「名字さん、いくら苦手ゆうてもさっきの奴こーんな小さいやつでしたよ!」
鳴子くんは親指と人差し指を使ってその小ささを表現した。
「でも・・・怖いものは怖いんだもん」
「あと、いつまで巻島さんの背中に乗かってるんすか?」
鳴子くんはニヤニヤして巻島くんと私を見た。
「わっ。ごめん巻島くん」
私は巻島くんの背中から降りた。
けれど地面に足をつけた瞬間再び巻島くんの背中に飛び乗った。
「今度は何っショ!?」
巻島くんはまたクモが出たのかと思い、キョロキョロと探す。
「あ、いや・・・クモはいないんだけど、もしかしたらここを奴が歩いたかもしれないと思うと・・・」
背中で震える私を見て巻島くんは地面に置いていた箒を私をおぶったまま拾い上げた。
「この部屋の床もう一度掃けば降りれるか?」
巻島くんはそのまま箒で床を掃き始めた。
「なんや、巻島さん育児中のオカンみたいスね」
鳴子くんは目の前の光景にお腹を抱えて笑った。
「うるさいっショ」
「ごめんね、巻島くん」
冷静になった私は自分のしていることのまぬけさに気づき、途端に恥ずかしくなった。
「もう大丈夫。ありがとう」
落ち着いた私は巻島くんの背中から降りた。
「重かったでしょ、ごめんね」
「全然」
きっと重かったはずなのに巻島くんの気遣いに感動した。
振り返ると我ながらなんてことをしてしまったのだろう。
「いやーなかなか面白いモン見してもらいましたわ!」
鳴子くんはドリンクをぐびぐび飲んだ。
「でも、クモを好きにならなくてももう少し苦手意識なくしてあげないと巻島さんが可哀想ですよ」
手嶋くんの言葉に青八木くんが頷いて賛同の意を示した。
「どういうこと?」
私は手嶋くんの言っている意味が分からず首を傾げた。
「巻島さん、あだ名がピークスパイダーって知ってました?」
私はブンブンと首を振った。
「その長い手足と左右に揺れる独特なダンシングで頂上まで一気に登る様からついたあだ名ですよ」
私は巻島くんの頭の先からつま先まで視線を上下に動かした。
「クモ男って言われてるので我が部ではクモといえば巻島さんですよ」
なんてことをしてしまったのだろう、私は。
巻島くんにそんなあだ名がついていると知らなかった私は言いたい放題、騒ぎたい放題だった。
「ごごご、ごめんね。巻島くん。嫌な気持ちになったよね?私知らなくって・・・」
「別に誰かがつけたあだ名で、クモが好きなわけじゃねぇし。むしろ俺も爬虫類は好きじゃないっショ」
巻島くんは全く気にしていない様子なのでほっとした。
「でも、私クモは苦手だけど巻島くんは好きだからね!!」
その場がシーンと静まり返った。
あれ、外した?
巻島くんは顔を真っ赤にしている。
「よかったですやん。巻島さん!」
バシッと鳴子くんに叩かれた背中を巻島くんは擦った。
とにかく巻島くんのことは嫌いじゃないということを伝えて満足した私は掃除道具の片づけに取り掛かった。
******
俺は自宅で自転車雑誌をベッドの上で開きながら今日のことを思い出していた。
彼女がクモ嫌いということを初めて知った。
それも自分の想像をはるかに上回るほどの。
普段どちらかというと大人しい彼女があそこまで取り乱したのは初めて見た。
背中に飛び乗られたのは驚いたが、嫌ではなくむしろ自分のところに助けを求めてきてくれたのが素直に嬉しかった。
我ながら単純だ。
背中に感じた彼女のぬくもりを思い出す。
パニックになっていた名前は気づいていなかったが、おんぶしていた時顔と顔がくっつきそうなぐらい近かった。
クモを逃がした後も地面に降りられない彼女を見てなんとかしてあげなければという思いが湧きあがった。
きっと彼女でなければさっさと背中から降ろしていた。
さらにその後嬉しい出来事があった。
「でも、私クモは苦手だけど巻島くんは好きだからね!!」
もちろんこの好きが恋愛感情的でないものだということは分かっていたが、それでも一生懸命に想いを伝えてくれる彼女にちょっとばかしときめいた。
ドタバタだったが俺にとってはラッキーな1日だった。
「僕、大きくて吠える犬が苦手なんです」
へへへと後頭部を掻きながら笑う小野田くん。
確かに大型犬だと立てば小野田くんより大きいかもしれない。
「巻島くんは?」
私は巻島くんに振った。
腕を組みうーんと唸る巻島くんは一つ思いついたようだ。
「・・・・・作り笑い?」
「え、やってやって」
私がねだると巻島くんはニヤッと口元をゆがめたが目が全然笑っていないし、口角も左右均等に上がりきっていない。
「ガハハ。キモいな」
田所くんは巻島くんと正反対でよく笑う。
巻島くんの不気味な笑顔にみんな笑った。
「うるさいっショ!」
照れてすぐに普段の澄ました口元に戻ると今度は巻島くんが私に振った。
「名前は苦手なものないのか」
「私は・・・そうだなぁ。あ!」
1つだけどうしても苦手なものを思い出した。
みんなが私の回答を待っている後方で、金城くんが練習再開の声を掛けたので私の答えはまたあとでということで各々立ち上がった。
*****
みんなが外に走りに行っている間、私は部室の掃除をすることにした。
濡れ雑巾やほうきを使って上から順に磨いていく。
「うわ~。結構埃溜まってるな・・・」
掃除というものはやりだしたらエンジンがかかるもので、私は隅々まで塵という塵を取り除いた。
気づけば結構な時間が経っていたらしい。
周回を終えた部員が戻ってきた。
やはり早いのは3年生。
その後も続々と戻ってきた。
「お、綺麗になってるっショ」
巻島くんが褒めてくれたので私は嬉しい気持ちになった。
「よかった。頑張った甲斐があるよ」
私はふと天井を見上げた。
「どうしたっショ?」
箒を持ったまま固まる私に巻島くんが声を掛けた。
けれど私の視線は天井を向いたまま動かないので巻島くんを筆頭に他の部員も私の視線を追った。
すると小さく黒い点のようなものが見える。
「クモか?」
「・・・・ねぇ、巻島くん。今なんて言った?」
「クモって言うてましたよ。スパイダー。ワイにもそう見えますけど」
鳴子くんの言葉で私の脳があの黒い点がクモであることを認めた。
「いやぁぁぁあああ」
脳天をつくような私の叫びに部員一同が目を見開いた。
「ちょっ、名前。近いし苦しいっショ」
私は巻島くんの背後に回り両腕を彼の首に回しながら顔を背中に押し付けた。
「ムリムリムリムリ」
手に持っていた箒は地面に転がり、みんな私の行動に唖然としている。
「もしかして名字さんの苦手なものって・・・クモですか?」
「その名前を出さないで手嶋くん!!」
そう。私はこの世で最もクモが苦手だ。
ゴキブリの方がマシ。
「でもクモって害虫食べてくれますし、いい奴ですよー」
「知ってるよ、鳴子くん。でも申し訳ないけどフォルムが駄目なの。外見で判断しちゃいけないのはわかってるんだけど、それでもムリなの」
彼らが人間の味方なのは分かっている。
でも8本もあって無駄に長いあの手足が受け入れられず、身体中に悪寒が走る。
「わかりました。外に逃がしますね」
今泉くんが見かねて虫取り網を持ってきてくれた。
身長の高い彼は天井に虫網をくっつけて網の中に追い込もうとするがスススと上手く逃げていく。
「まままま巻島くん。動いてる動いてるよ!」
「落ち着け、名前」
するとクモは足を滑らせたのか、網に入らず地面に落下した。
「きゃああああ」
「うお!」
私は思わず巻島くんの背中に飛び乗った。
奴が地面に落ちたなら私が宙に浮かなければならない。
巻島くんは私をおんぶしてなるべくクモから遠い位置に移動してくれた。
「すみません」
「むしろごめんは私だよ。そんな仕事させて・・・。今泉くん、ファイト!」
巻島くんの背中から私は今泉くんにエールを送った。
なんとか網の中に捕獲し、今泉くんは二度と部室に入らないようにとだいぶ遠いところまで運んで逃がしてくれた。
「名字さん、いくら苦手ゆうてもさっきの奴こーんな小さいやつでしたよ!」
鳴子くんは親指と人差し指を使ってその小ささを表現した。
「でも・・・怖いものは怖いんだもん」
「あと、いつまで巻島さんの背中に乗かってるんすか?」
鳴子くんはニヤニヤして巻島くんと私を見た。
「わっ。ごめん巻島くん」
私は巻島くんの背中から降りた。
けれど地面に足をつけた瞬間再び巻島くんの背中に飛び乗った。
「今度は何っショ!?」
巻島くんはまたクモが出たのかと思い、キョロキョロと探す。
「あ、いや・・・クモはいないんだけど、もしかしたらここを奴が歩いたかもしれないと思うと・・・」
背中で震える私を見て巻島くんは地面に置いていた箒を私をおぶったまま拾い上げた。
「この部屋の床もう一度掃けば降りれるか?」
巻島くんはそのまま箒で床を掃き始めた。
「なんや、巻島さん育児中のオカンみたいスね」
鳴子くんは目の前の光景にお腹を抱えて笑った。
「うるさいっショ」
「ごめんね、巻島くん」
冷静になった私は自分のしていることのまぬけさに気づき、途端に恥ずかしくなった。
「もう大丈夫。ありがとう」
落ち着いた私は巻島くんの背中から降りた。
「重かったでしょ、ごめんね」
「全然」
きっと重かったはずなのに巻島くんの気遣いに感動した。
振り返ると我ながらなんてことをしてしまったのだろう。
「いやーなかなか面白いモン見してもらいましたわ!」
鳴子くんはドリンクをぐびぐび飲んだ。
「でも、クモを好きにならなくてももう少し苦手意識なくしてあげないと巻島さんが可哀想ですよ」
手嶋くんの言葉に青八木くんが頷いて賛同の意を示した。
「どういうこと?」
私は手嶋くんの言っている意味が分からず首を傾げた。
「巻島さん、あだ名がピークスパイダーって知ってました?」
私はブンブンと首を振った。
「その長い手足と左右に揺れる独特なダンシングで頂上まで一気に登る様からついたあだ名ですよ」
私は巻島くんの頭の先からつま先まで視線を上下に動かした。
「クモ男って言われてるので我が部ではクモといえば巻島さんですよ」
なんてことをしてしまったのだろう、私は。
巻島くんにそんなあだ名がついていると知らなかった私は言いたい放題、騒ぎたい放題だった。
「ごごご、ごめんね。巻島くん。嫌な気持ちになったよね?私知らなくって・・・」
「別に誰かがつけたあだ名で、クモが好きなわけじゃねぇし。むしろ俺も爬虫類は好きじゃないっショ」
巻島くんは全く気にしていない様子なのでほっとした。
「でも、私クモは苦手だけど巻島くんは好きだからね!!」
その場がシーンと静まり返った。
あれ、外した?
巻島くんは顔を真っ赤にしている。
「よかったですやん。巻島さん!」
バシッと鳴子くんに叩かれた背中を巻島くんは擦った。
とにかく巻島くんのことは嫌いじゃないということを伝えて満足した私は掃除道具の片づけに取り掛かった。
******
俺は自宅で自転車雑誌をベッドの上で開きながら今日のことを思い出していた。
彼女がクモ嫌いということを初めて知った。
それも自分の想像をはるかに上回るほどの。
普段どちらかというと大人しい彼女があそこまで取り乱したのは初めて見た。
背中に飛び乗られたのは驚いたが、嫌ではなくむしろ自分のところに助けを求めてきてくれたのが素直に嬉しかった。
我ながら単純だ。
背中に感じた彼女のぬくもりを思い出す。
パニックになっていた名前は気づいていなかったが、おんぶしていた時顔と顔がくっつきそうなぐらい近かった。
クモを逃がした後も地面に降りられない彼女を見てなんとかしてあげなければという思いが湧きあがった。
きっと彼女でなければさっさと背中から降ろしていた。
さらにその後嬉しい出来事があった。
「でも、私クモは苦手だけど巻島くんは好きだからね!!」
もちろんこの好きが恋愛感情的でないものだということは分かっていたが、それでも一生懸命に想いを伝えてくれる彼女にちょっとばかしときめいた。
ドタバタだったが俺にとってはラッキーな1日だった。
