【番外編①】再会
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悪夢は突然やってきた。
「久しぶりだな」
私は今日の夜ご飯を作るため、買い物に出た帰り道。
もう、この男の顔なんて見る日は来ないと思っていた。
「荼毘・・・」
「名前覚えててくれたなんて光栄だねぇ」
周囲を見渡しても閑散としていて誰もいない。
「誰かっ・・・」
助けて、そう声を上げるより先に、荼毘は目の前に現れて私の首に手刀を落とした。
****************
「んっ・・・・」
頭が痛い。
ゆっくり身体を起こそうとしたが起き上がれなかった。
「あ・・・」
手と足が縛られている。
「おはよう」
視線だけ上げると荼毘が私を見下ろしていた。
「貴方一人?」
「そうそう。たまたま休暇を楽しんでいたらお前を見つけてな。約束を果たしたんだ」
"ま た な"
「約束なんてした覚えないけど」
「つれないこと言うなよ」
荼毘が私の頬に手を這わせたので、顔を背けて振り払った。
きっと消太さんが来てくれる。
気絶する前に、私は常にポケットに入れている緊急信号マスコット"ピーコちゃん"のボタンを押したのだ。
あれにはGPSがついているからこの場所も分かるはず。
「ああ、そうだった・・・」
「俺はお前の絶望する顔が見てみたかったんだ」
荼毘は私の前にぶらりと、ピンク色の潰れたマスコットを取り出した。
***************
放課後、俺は書類整理のため定時は過ぎていたが残業していた。
「・・・!」
今まで鳴ることはなかったそれ。
パワーローダーに頼んで開発してもらった緊急信号の受信機を常に俺の腰につけてある。
それが初めて音を立てて振動した。
ガタリ。
俺は立ち上がったパソコンの電源を切ることもなく、学校を飛び出した。
走りながら受信機に示された名前の位置を確認する。
ピコンと赤い丸印でついているそれは南東に向かって移動していたが、突然消えてしまった。
「くそっ・・・」
気付かれたか。
脳裏には一人の男の顔が浮かんだ。
「荼毘・・・」
ヒーローとして頭は冷静だった。
しかし感情は心の中で昂っていた。
林間合宿では好き勝手させてしまった。
今度こそ・・・
今度こそ、名前をこの手で守り切る。
****************
「お前、今幸せか?」
薄汚れた倉庫の中横倒れになっている私に向かって荼毘が問いかけてきた。
「ええ」
「だろうな」
荼毘は私が所持していた買い物袋をご丁寧に一緒に持ってきていた。
中を覗いて、中身を確認している。
「一人分の食材じゃねぇな。男か?」
ちらりと私の拘束された手に向けられた視線。
薬指の指輪を見ていることに気付いた。
せめてもの抵抗で指輪が見えない様に手首を動かして角度を変えた。
「幸せな奴を見てると、ぶち壊したくなる」
歪んだ笑顔が一歩、一歩迫ってきた。
顎に手を添えられ、無理矢理上を向かされる。
「それは・・・欲しい物が手に入らなくて嫉妬してるんじゃないの?」
「今、欲しい物はここにある」
「私は物じゃない」
「"物"だよ。俺にとっては」
荼毘越しに影が揺れた。
その瞬間、私はホッと表情を緩めた。
荼毘が私の表情の変化に気付いたときには、もう彼の身体には捕縛布が巻き付いていた。
「ガキみたいなこと言ってんじゃねぇ」
***************
消太さんが荼毘と私を引き離した。
キラリと光る指輪に荼毘の視線が向いた。
「まさか・・・相手はあんたか」
「林間合宿はダミーだったが・・・今回は本物のようだな」
「あの時はダミーとはいえ借りがあるからな」
荼毘は青い炎を繰り出そうとしたが、消太さんの個性で消された。
個性が使えないとなると、日頃から鍛えて接近戦に強い消太さんに分があった。
「ちっ・・・」
荼毘は距離を取り、倉庫の2階部分にある窓に足を掛けた。
「団体行動を重んじるわけじゃねぇが・・・今俺が捕まるわけにはいかないからな」
荼毘は窓から颯爽と闇夜に消えていった。
「あっ!追いかけなくていいの?」
「ああ。深追いするより名前の救出が最優先だ」
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
****************
雄英に勤め始めてから2度目となる警察の事情聴取。
前回もそうだったが、解放された時には日付が回っていた。
せめてもの救いは明日が休みであること。
「無事で良かった」
相澤宅に帰宅するなり、玄関先で抱き締められた。
「助けに来てくれてありがとう」
玄関でお互いの存在を十二分に確かめた後、そのまま風呂場に向かった。
倉庫の埃で汚れてしまったので、一緒にお風呂に入る。
湯船にお湯を溜めている間、各々身体を洗った。
「そういえば・・・」
「なんだ?」
「随分前に峰田くんの個性で腕が引っ付いた時、お風呂借りたの覚えてる?」
「ああ、あったな」
「あの時はお互い目いっぱい腕伸ばして、消太さんは私を見ないように気使ってくれてたよね」
「服を切れなんて言われた時はどうしようかと思ったよ」
「それが今は一緒にお風呂に入る仲なんて信じられない」
付き合い始めた頃はそれも気恥ずかしかったが、今はもう慣れてしまった。
それぐらい心を許していた。
一通り洗い終えた頃、お風呂が張り終えた合図が鳴った。
消太さんの足の間に座って、湯船に浸かった。
普段華奢に見えるが、意外と鍛え上げられている胸板に背中を預けた。
「そういえば、どうしてあの場所が分かったの?」
無残な姿になったピーコちゃんを見た時の絶望感といったらなかった。
「あれはあくまで第一の砦だ」
「第一?」
「今日つけてたネックレス・・・」
ああ。あれも消太さんに貰ったものだ。
オープンハートのネックレス。
大人がつけても綺麗に見えるデザインで気に入っている。
「あれにも発信機を内蔵している」
「ええ!?」
「超小型の特注品だ。あと・・・」
「まだあるの!?」
どうやらピーコちゃんが壊されるのは大前提らしい。
私の私物にランダムに発信機を混ぜることで、どれを壊されても追跡の可能性を残せるようにしていたとのこと。
「どこにいても安心だね」
見方によってはストーカーだが、私の現状を考えると安心材料であることに違いない。
「どこに居たって見つけていく」
だから安心しろ。
無精ひげを生やし、いつも気怠そうな彼は、白馬に乗った王子様には程遠いけれど。
間違いなく私にとってたった一人のヒーローだった。
(完)
「久しぶりだな」
私は今日の夜ご飯を作るため、買い物に出た帰り道。
もう、この男の顔なんて見る日は来ないと思っていた。
「荼毘・・・」
「名前覚えててくれたなんて光栄だねぇ」
周囲を見渡しても閑散としていて誰もいない。
「誰かっ・・・」
助けて、そう声を上げるより先に、荼毘は目の前に現れて私の首に手刀を落とした。
****************
「んっ・・・・」
頭が痛い。
ゆっくり身体を起こそうとしたが起き上がれなかった。
「あ・・・」
手と足が縛られている。
「おはよう」
視線だけ上げると荼毘が私を見下ろしていた。
「貴方一人?」
「そうそう。たまたま休暇を楽しんでいたらお前を見つけてな。約束を果たしたんだ」
"ま た な"
「約束なんてした覚えないけど」
「つれないこと言うなよ」
荼毘が私の頬に手を這わせたので、顔を背けて振り払った。
きっと消太さんが来てくれる。
気絶する前に、私は常にポケットに入れている緊急信号マスコット"ピーコちゃん"のボタンを押したのだ。
あれにはGPSがついているからこの場所も分かるはず。
「ああ、そうだった・・・」
「俺はお前の絶望する顔が見てみたかったんだ」
荼毘は私の前にぶらりと、ピンク色の潰れたマスコットを取り出した。
***************
放課後、俺は書類整理のため定時は過ぎていたが残業していた。
「・・・!」
今まで鳴ることはなかったそれ。
パワーローダーに頼んで開発してもらった緊急信号の受信機を常に俺の腰につけてある。
それが初めて音を立てて振動した。
ガタリ。
俺は立ち上がったパソコンの電源を切ることもなく、学校を飛び出した。
走りながら受信機に示された名前の位置を確認する。
ピコンと赤い丸印でついているそれは南東に向かって移動していたが、突然消えてしまった。
「くそっ・・・」
気付かれたか。
脳裏には一人の男の顔が浮かんだ。
「荼毘・・・」
ヒーローとして頭は冷静だった。
しかし感情は心の中で昂っていた。
林間合宿では好き勝手させてしまった。
今度こそ・・・
今度こそ、名前をこの手で守り切る。
****************
「お前、今幸せか?」
薄汚れた倉庫の中横倒れになっている私に向かって荼毘が問いかけてきた。
「ええ」
「だろうな」
荼毘は私が所持していた買い物袋をご丁寧に一緒に持ってきていた。
中を覗いて、中身を確認している。
「一人分の食材じゃねぇな。男か?」
ちらりと私の拘束された手に向けられた視線。
薬指の指輪を見ていることに気付いた。
せめてもの抵抗で指輪が見えない様に手首を動かして角度を変えた。
「幸せな奴を見てると、ぶち壊したくなる」
歪んだ笑顔が一歩、一歩迫ってきた。
顎に手を添えられ、無理矢理上を向かされる。
「それは・・・欲しい物が手に入らなくて嫉妬してるんじゃないの?」
「今、欲しい物はここにある」
「私は物じゃない」
「"物"だよ。俺にとっては」
荼毘越しに影が揺れた。
その瞬間、私はホッと表情を緩めた。
荼毘が私の表情の変化に気付いたときには、もう彼の身体には捕縛布が巻き付いていた。
「ガキみたいなこと言ってんじゃねぇ」
***************
消太さんが荼毘と私を引き離した。
キラリと光る指輪に荼毘の視線が向いた。
「まさか・・・相手はあんたか」
「林間合宿はダミーだったが・・・今回は本物のようだな」
「あの時はダミーとはいえ借りがあるからな」
荼毘は青い炎を繰り出そうとしたが、消太さんの個性で消された。
個性が使えないとなると、日頃から鍛えて接近戦に強い消太さんに分があった。
「ちっ・・・」
荼毘は距離を取り、倉庫の2階部分にある窓に足を掛けた。
「団体行動を重んじるわけじゃねぇが・・・今俺が捕まるわけにはいかないからな」
荼毘は窓から颯爽と闇夜に消えていった。
「あっ!追いかけなくていいの?」
「ああ。深追いするより名前の救出が最優先だ」
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
****************
雄英に勤め始めてから2度目となる警察の事情聴取。
前回もそうだったが、解放された時には日付が回っていた。
せめてもの救いは明日が休みであること。
「無事で良かった」
相澤宅に帰宅するなり、玄関先で抱き締められた。
「助けに来てくれてありがとう」
玄関でお互いの存在を十二分に確かめた後、そのまま風呂場に向かった。
倉庫の埃で汚れてしまったので、一緒にお風呂に入る。
湯船にお湯を溜めている間、各々身体を洗った。
「そういえば・・・」
「なんだ?」
「随分前に峰田くんの個性で腕が引っ付いた時、お風呂借りたの覚えてる?」
「ああ、あったな」
「あの時はお互い目いっぱい腕伸ばして、消太さんは私を見ないように気使ってくれてたよね」
「服を切れなんて言われた時はどうしようかと思ったよ」
「それが今は一緒にお風呂に入る仲なんて信じられない」
付き合い始めた頃はそれも気恥ずかしかったが、今はもう慣れてしまった。
それぐらい心を許していた。
一通り洗い終えた頃、お風呂が張り終えた合図が鳴った。
消太さんの足の間に座って、湯船に浸かった。
普段華奢に見えるが、意外と鍛え上げられている胸板に背中を預けた。
「そういえば、どうしてあの場所が分かったの?」
無残な姿になったピーコちゃんを見た時の絶望感といったらなかった。
「あれはあくまで第一の砦だ」
「第一?」
「今日つけてたネックレス・・・」
ああ。あれも消太さんに貰ったものだ。
オープンハートのネックレス。
大人がつけても綺麗に見えるデザインで気に入っている。
「あれにも発信機を内蔵している」
「ええ!?」
「超小型の特注品だ。あと・・・」
「まだあるの!?」
どうやらピーコちゃんが壊されるのは大前提らしい。
私の私物にランダムに発信機を混ぜることで、どれを壊されても追跡の可能性を残せるようにしていたとのこと。
「どこにいても安心だね」
見方によってはストーカーだが、私の現状を考えると安心材料であることに違いない。
「どこに居たって見つけていく」
だから安心しろ。
無精ひげを生やし、いつも気怠そうな彼は、白馬に乗った王子様には程遠いけれど。
間違いなく私にとってたった一人のヒーローだった。
(完)