【2章】彼女の事情
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私は相澤先生の腕に痛みが出ないよう慎重に包帯を巻いていった。
素人なので上手くできているかわからないが。
「どうかしましたか?」
なんだか相澤先生が考え事をしているようなので話しかけた。
「なあ、名字・・・」
相澤先生は巻かれていく腕を見つめていた。
「俺は名字を切るつもりはない」
包帯を巻く手が止まった。
「どうしたんですか・・・?急に」
「不安なんじゃないのか?試用期間で切られることが」
相澤先生に核心を突かれた。
「確かに少し不安です。でも大丈夫ですよ。切られないように頑張るだけなので」
私は口角を上げてみせた。
「その貼り付けた笑顔やめろ」
「え・・・」
私は驚きを隠せなかった。
ここは何て返事をするのが"正解"なのだろう。
相澤先生の射貫くような瞳を見ていられなくて、目が泳ぐ。
「会話の答えを探すな」
「っ・・・」
そんなこといきなり言われても。
私はもごもごと口を動かした。
「ずっとそうやって生きてきたのか?」
「え?」
「相手の顔色伺って、相手が不快にならないよう気を遣って生きてきたのか?」
相澤先生の言葉は私には届かない。
だって・・・。
「・・・素敵な個性をもってる相澤先生には絶対わからないです」
両親共に無個性だから、生まれてくる私も100%無個性だった。
幼い私は周りがどんどん個性を発現していく中で自分もまだかまだかと待ち望んでいた。
『どうして私にはまだ個性が出ないの?早く欲しい!』
そう尋ねたときの両親の悲しそうな表情が幼心に聞いてはいけないことだったと感じたのだ。
それ以来私は個性が欲しいとは言ったことがなかった。
しかしだからといって"無個性である自分"を受け入れられたわけではない。
「小学生の頃は仲間外れにされるし、高校生になったら逆に気を使われるし、社会人になったら就職で躓くし・・・挙句の果てには恋人の両親には無個性を理由に結婚を反対されて」
私は部屋の片隅に積み上げた就活の軌跡を一瞥した。
「相澤先生には私の気持ちなんてわからないです!」
目の前が滲んで相澤先生がよく見えない。
堪えていた涙が頬を伝った。
「気を使うことが自分を守る術なの!気を使って、頑張って……そうしたらあとから入ってきた個性持ちにポジション奪われても「私は頑張ったんだから仕方ない」って自分を慰めることができる!」
頬に手をあて涙を拭った。
「そうやって私は自分の心を守ってきたんです」
でも時々……。
時々、どうしようもなく苦しくなるときがある。
「わかったよ」
「え?」
「根津校長が何で名字を採用したか」
相澤先生はギプスを嵌めたまま、ぎこちない手で拭いきれていない涙を拭ってくれた。
「名字はちゃんと他人にはない自分の個性をもってる」
気を使って生きてきたからこそ、人の機微に敏感で。
すがる個性がないから、誰よりも努力家で。
たった2日しか一緒にいない他人とこんなにも仲良くなれる。
「これらは名字が"無個"だったから得られた"個性"じゃないのか?」
相澤先生の言葉は壁をすり抜けて私の心の琴線に触れた。
「名字を一番受け入れていないのは自分自身だ」
相澤先生の言う通りだった。
"無個性"であることがコンプレックスで私が私を好きになれなかった。
「校長はきっと誰よりも名字が努力家であることを見抜き、気難しい俺ともやっていけると判断したんだろう」
なんせあの人の個性は"ハイスペック"だからな。
相澤先生はそう言って口角を少し上げた。
「それに、俺も昔は個性で悩んだ時期もある」
「相澤先生がですか?」
意外だった。
何でもそつなく合理的にこなす相澤先生に悩みなんて。
相澤先生は"抹消"の個性だけではヒーローが務まらないことに悩み捕縛布誕生秘話を語ってくれた。
「個性持ってても悩みはあるんですね」
「悩みがないやつなんていないだろう」
私の涙はすっかり引っ込んでいた。
「私、自分のことちょっと好きになりました!」
私、今心の底から笑ってる。
相澤先生の表情がそう物語っていた。
******
おまけ…
「それに名字は雄英で勤める上で一番重要な課題をクリアしてる」
「重要な課題?」
「ミッドナイトさんに気に入られること」
「あはは!私気に入ってもらえてますかね?」
「ああ。この人に嫌われたら雄英では働けん」
「じゃあ、これからもよろしくお願いします」
素人なので上手くできているかわからないが。
「どうかしましたか?」
なんだか相澤先生が考え事をしているようなので話しかけた。
「なあ、名字・・・」
相澤先生は巻かれていく腕を見つめていた。
「俺は名字を切るつもりはない」
包帯を巻く手が止まった。
「どうしたんですか・・・?急に」
「不安なんじゃないのか?試用期間で切られることが」
相澤先生に核心を突かれた。
「確かに少し不安です。でも大丈夫ですよ。切られないように頑張るだけなので」
私は口角を上げてみせた。
「その貼り付けた笑顔やめろ」
「え・・・」
私は驚きを隠せなかった。
ここは何て返事をするのが"正解"なのだろう。
相澤先生の射貫くような瞳を見ていられなくて、目が泳ぐ。
「会話の答えを探すな」
「っ・・・」
そんなこといきなり言われても。
私はもごもごと口を動かした。
「ずっとそうやって生きてきたのか?」
「え?」
「相手の顔色伺って、相手が不快にならないよう気を遣って生きてきたのか?」
相澤先生の言葉は私には届かない。
だって・・・。
「・・・素敵な個性をもってる相澤先生には絶対わからないです」
両親共に無個性だから、生まれてくる私も100%無個性だった。
幼い私は周りがどんどん個性を発現していく中で自分もまだかまだかと待ち望んでいた。
『どうして私にはまだ個性が出ないの?早く欲しい!』
そう尋ねたときの両親の悲しそうな表情が幼心に聞いてはいけないことだったと感じたのだ。
それ以来私は個性が欲しいとは言ったことがなかった。
しかしだからといって"無個性である自分"を受け入れられたわけではない。
「小学生の頃は仲間外れにされるし、高校生になったら逆に気を使われるし、社会人になったら就職で躓くし・・・挙句の果てには恋人の両親には無個性を理由に結婚を反対されて」
私は部屋の片隅に積み上げた就活の軌跡を一瞥した。
「相澤先生には私の気持ちなんてわからないです!」
目の前が滲んで相澤先生がよく見えない。
堪えていた涙が頬を伝った。
「気を使うことが自分を守る術なの!気を使って、頑張って……そうしたらあとから入ってきた個性持ちにポジション奪われても「私は頑張ったんだから仕方ない」って自分を慰めることができる!」
頬に手をあて涙を拭った。
「そうやって私は自分の心を守ってきたんです」
でも時々……。
時々、どうしようもなく苦しくなるときがある。
「わかったよ」
「え?」
「根津校長が何で名字を採用したか」
相澤先生はギプスを嵌めたまま、ぎこちない手で拭いきれていない涙を拭ってくれた。
「名字はちゃんと他人にはない自分の個性をもってる」
気を使って生きてきたからこそ、人の機微に敏感で。
すがる個性がないから、誰よりも努力家で。
たった2日しか一緒にいない他人とこんなにも仲良くなれる。
「これらは名字が"無個"だったから得られた"個性"じゃないのか?」
相澤先生の言葉は壁をすり抜けて私の心の琴線に触れた。
「名字を一番受け入れていないのは自分自身だ」
相澤先生の言う通りだった。
"無個性"であることがコンプレックスで私が私を好きになれなかった。
「校長はきっと誰よりも名字が努力家であることを見抜き、気難しい俺ともやっていけると判断したんだろう」
なんせあの人の個性は"ハイスペック"だからな。
相澤先生はそう言って口角を少し上げた。
「それに、俺も昔は個性で悩んだ時期もある」
「相澤先生がですか?」
意外だった。
何でもそつなく合理的にこなす相澤先生に悩みなんて。
相澤先生は"抹消"の個性だけではヒーローが務まらないことに悩み捕縛布誕生秘話を語ってくれた。
「個性持ってても悩みはあるんですね」
「悩みがないやつなんていないだろう」
私の涙はすっかり引っ込んでいた。
「私、自分のことちょっと好きになりました!」
私、今心の底から笑ってる。
相澤先生の表情がそう物語っていた。
******
おまけ…
「それに名字は雄英で勤める上で一番重要な課題をクリアしてる」
「重要な課題?」
「ミッドナイトさんに気に入られること」
「あはは!私気に入ってもらえてますかね?」
「ああ。この人に嫌われたら雄英では働けん」
「じゃあ、これからもよろしくお願いします」