【2章】彼女の事情
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悪気はなかった。
名字のことを酔っぱらい2人が根掘り葉掘り聞こうとしたから、止めるために話題を変えようとしただけだ。
それに雄英で勤めている以上、何かあったときのために自分は個性を把握しておくべきだと思っていたので、この場で聞かなくても後々結局聞いていたことに違いはない。
名字は笑顔で「無個性ですよ」と答えたが、これでも自分は教師なので、ほんの一瞬答える前に瞳に翳りが出来たことを見逃さなかった。
「へぇー!雄英に無個性の職員って他にいないよな!それだけ名前ちゃんが優秀ってことだ!」
「いえいえ、全然です。何か事務に役立つ個性を持ってたらよかったんですけど…」
「いざとなったら私達が守ってあげるから大丈夫よぉ」
「心強いです」
至って普通の会話。
名字も笑顔で受け答えしている。
だがなぜだろう。
俺には彼女が泣いているように見えた。
*******
「ったく、こうなると思ったから嫌だったんだ」
「お二人とも気持ち良さそうですね~」
マイクは大の字になって床に転がり、ミッドナイトさんは酒瓶を抱えたまま壁にもたれかかって船を漕いでいる。
時刻は22時を指していた。
「もうお二人はこのまま泊まっていってもらいます。相澤先生はどうされますか?」
「ミッドナイトさんは任せるにしても、マイクはあと少しして連れて帰れそうなら引きずって帰る」
さすがに男を泊めさせるのはまずいだろう。
幸いにもここから俺の家は近いので、自宅まで運べればあとは転がしておく。
「気にしなくていいですよ。相澤先生腕がそれですし・・・。あ、良かったらうちでお風呂入っていきますか?」
思いがけない提案に俺は思わず目を見開いた。
「ギプスの取り外し大変でしょう?私やりますよ。それにここでお風呂入っておけばあとは家に帰って寝るだけで済みますし」
ありがたい申し出ではあるが、さすがに気が引ける。
「どうせマイク先生を待つ時間があるなら"合理的"に時間使いましょ?私も今日教えてもらったことノートにまとめておきたいので」
俺が返事をする前に「お風呂沸かしてきますね」と立ち上がって行ってしまった。
「・・・とっとと起きろ」
マイクを小突いてみるが反応はない。
はぁ、と溜息をついたとき、部屋の片隅からバサッと音がした。
目を向けると積み上げられた書類がバランスを崩して落ちてしまったようだ。
俺は立ち上がり、書類を元に戻した。
「履歴書・・・か?」
それらの山は就職活動の形跡で、落ちた会社には×印が書かれている。
100社以上あるのではないかと思う束だった。
「面接が通らなかったのか・・・」
書類選考はほとんど通過し、面接で落とされているようだった。
「なるほどな」
病室での名字を思い出した。
『私・・・何でもします。やっと・・・やっと決まった就職先なんです。泣き言は言いません!何でも頑張ります!だから・・・せめて試用期間の2週間だけは校長先生に何も言わずに見てくれませんか?』
近年水面下で行われている"無個性"への就職差別が社会問題となっていた。
個性ありきの今、企業は自社に活かせる個性を求めるようになった。
しかしそれは無個性に対する差別であると後に雇用機会均等法に定められ、企業は募集要項に「個性」を記載する欄を禁止された。
だから履歴書に「個性」を記載する欄はない。
面接でも企業側は相手の個性を聞くことを禁止されている。
しかし本音は個性を知りたい。
小さな会社であれば、面接でドストレートに尋ねることもあるし、有利な個性をもつ応募者が自ら面接で個性をアピールすることもある。
そんな社会の現状に心を病んでしまった無個性の者が引きこもりになることもまた社会問題の1つだ。
「ん?」
束の中に1枚だけ不自然にぐしゃぐしゃになった紙があった。
「これは・・・」
履歴書の文字が読めないぐらいボールペンで無造作に書き殴られていた。
この2日間で「よく笑って気遣いのできるやつ」というのが名字の印象だ。
しかし名字は本当に心の底から笑っているのだろうか。
俺は書類の束をそっと元に戻した。
名字のことを酔っぱらい2人が根掘り葉掘り聞こうとしたから、止めるために話題を変えようとしただけだ。
それに雄英で勤めている以上、何かあったときのために自分は個性を把握しておくべきだと思っていたので、この場で聞かなくても後々結局聞いていたことに違いはない。
名字は笑顔で「無個性ですよ」と答えたが、これでも自分は教師なので、ほんの一瞬答える前に瞳に翳りが出来たことを見逃さなかった。
「へぇー!雄英に無個性の職員って他にいないよな!それだけ名前ちゃんが優秀ってことだ!」
「いえいえ、全然です。何か事務に役立つ個性を持ってたらよかったんですけど…」
「いざとなったら私達が守ってあげるから大丈夫よぉ」
「心強いです」
至って普通の会話。
名字も笑顔で受け答えしている。
だがなぜだろう。
俺には彼女が泣いているように見えた。
*******
「ったく、こうなると思ったから嫌だったんだ」
「お二人とも気持ち良さそうですね~」
マイクは大の字になって床に転がり、ミッドナイトさんは酒瓶を抱えたまま壁にもたれかかって船を漕いでいる。
時刻は22時を指していた。
「もうお二人はこのまま泊まっていってもらいます。相澤先生はどうされますか?」
「ミッドナイトさんは任せるにしても、マイクはあと少しして連れて帰れそうなら引きずって帰る」
さすがに男を泊めさせるのはまずいだろう。
幸いにもここから俺の家は近いので、自宅まで運べればあとは転がしておく。
「気にしなくていいですよ。相澤先生腕がそれですし・・・。あ、良かったらうちでお風呂入っていきますか?」
思いがけない提案に俺は思わず目を見開いた。
「ギプスの取り外し大変でしょう?私やりますよ。それにここでお風呂入っておけばあとは家に帰って寝るだけで済みますし」
ありがたい申し出ではあるが、さすがに気が引ける。
「どうせマイク先生を待つ時間があるなら"合理的"に時間使いましょ?私も今日教えてもらったことノートにまとめておきたいので」
俺が返事をする前に「お風呂沸かしてきますね」と立ち上がって行ってしまった。
「・・・とっとと起きろ」
マイクを小突いてみるが反応はない。
はぁ、と溜息をついたとき、部屋の片隅からバサッと音がした。
目を向けると積み上げられた書類がバランスを崩して落ちてしまったようだ。
俺は立ち上がり、書類を元に戻した。
「履歴書・・・か?」
それらの山は就職活動の形跡で、落ちた会社には×印が書かれている。
100社以上あるのではないかと思う束だった。
「面接が通らなかったのか・・・」
書類選考はほとんど通過し、面接で落とされているようだった。
「なるほどな」
病室での名字を思い出した。
『私・・・何でもします。やっと・・・やっと決まった就職先なんです。泣き言は言いません!何でも頑張ります!だから・・・せめて試用期間の2週間だけは校長先生に何も言わずに見てくれませんか?』
近年水面下で行われている"無個性"への就職差別が社会問題となっていた。
個性ありきの今、企業は自社に活かせる個性を求めるようになった。
しかしそれは無個性に対する差別であると後に雇用機会均等法に定められ、企業は募集要項に「個性」を記載する欄を禁止された。
だから履歴書に「個性」を記載する欄はない。
面接でも企業側は相手の個性を聞くことを禁止されている。
しかし本音は個性を知りたい。
小さな会社であれば、面接でドストレートに尋ねることもあるし、有利な個性をもつ応募者が自ら面接で個性をアピールすることもある。
そんな社会の現状に心を病んでしまった無個性の者が引きこもりになることもまた社会問題の1つだ。
「ん?」
束の中に1枚だけ不自然にぐしゃぐしゃになった紙があった。
「これは・・・」
履歴書の文字が読めないぐらいボールペンで無造作に書き殴られていた。
この2日間で「よく笑って気遣いのできるやつ」というのが名字の印象だ。
しかし名字は本当に心の底から笑っているのだろうか。
俺は書類の束をそっと元に戻した。
