【9章】半歩進む
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私の返事を聞いた相澤先生は表情を緩ませた。
「なら週明けから雄英に戻って来てくれ。名字が居なくなってから書類が溜まっててかなわない」
「本当にいいのでしょうか・・・」
私は荼毘の件で一抹の不安が過る。
私が戻ったらまた雄英に危険が及ぶのではないか。
「・・・荼毘と何かあったのか?」
相澤先生は怪訝そうな顔をしていた。
私はポツポツと今までの経緯を伝えた。
「実は・・・相澤先生とショッピングモールに行った時、親切な方に助けて貰ったって言いましたけど、それが荼毘だったんです」
「何・・・?」
「林間合宿で荼毘と鉢合わせして、その時初めて彼が敵であることを知りました」
思い出したくない記憶。
「荼毘も私を覚えていて、そんなに深い意味もなく私を誘拐したみたいです」
「では、敵連合ではなく荼毘個人に誘拐されたということか?」
「はい」
相澤先生は溜息を吐いた。
「そんな重要なこと何で黙ってたんだ」
「もう会うこともきっとないから大丈夫かなって思ってしまいました。・・・でも後から思い出したんです。・・・去り際に彼が言っていたことを」
"またな"って。
*********
俺は名字の話を一言一句聞き洩らさないように耳を傾けた。
「荼毘は私のことを玩具だって言ってました。目的は・・・多分そういうこと」
名字は無意識に自分を守るためか腕を擦り合わせていた。
「相澤先生は・・・子ども時代遊びたい玩具で遊べないときどうしてましたか?」
急に逸れた話題に俺は疑問符を浮かべた。
「私は・・・空くまで待ってました。今遊んでいる子が飽きるのを待つか、それが無理だったら次の日。遊べなかったら余計にその玩具に執着しませんか?」
「俺は執着せずに次に行くタイプだったように思う」
「・・・荼毘も相澤先生と同じならいいんですけど」
俺は心底後悔した。
どうして一ヶ月も彼女をこんなにも無防備なアパートに放置してしまったのだろうと。
「誘拐されたあの時、荼毘とは何もありませんでした」
名字の言葉に胸を撫で下ろした。
まさか…という考えも一瞬過っていたからだ。
「多分、もう現れない可能性の方が高いというのは分かってます」
確かに名字の言う通り、オールフォーワンを逮捕した今、敵連合の戦力は落ちている。
そんな中、名字だけのためにわざわざリスクを侵して現れるとは考えにくい。
「ただ、荼毘は遊んでいない玩具にどれぐらい執着するのかな…って。それが気になってるだけなんです」
気になっている"だけ"であんなに怯えるはずがない。
不安で不安で仕方なかったのだろう。
今日まで彼女の身に何もなくて本当に良かった。
そして改めて彼女を守っていかなければと思った。
俺は隣に座る細い腰に腕を回して、もう片方で彼女の後頭部を自身の胸に優しく押し付けた。
「もう大丈夫だ」
あの日、病院に忍び込んだ夜のように俺の胸元はじわりと湿り気を帯びた。
「うっ…ぐず」
あのときは手を離してしまったけれど。
「ひっく…」
今度はもう二度と離さないから。
「なら週明けから雄英に戻って来てくれ。名字が居なくなってから書類が溜まっててかなわない」
「本当にいいのでしょうか・・・」
私は荼毘の件で一抹の不安が過る。
私が戻ったらまた雄英に危険が及ぶのではないか。
「・・・荼毘と何かあったのか?」
相澤先生は怪訝そうな顔をしていた。
私はポツポツと今までの経緯を伝えた。
「実は・・・相澤先生とショッピングモールに行った時、親切な方に助けて貰ったって言いましたけど、それが荼毘だったんです」
「何・・・?」
「林間合宿で荼毘と鉢合わせして、その時初めて彼が敵であることを知りました」
思い出したくない記憶。
「荼毘も私を覚えていて、そんなに深い意味もなく私を誘拐したみたいです」
「では、敵連合ではなく荼毘個人に誘拐されたということか?」
「はい」
相澤先生は溜息を吐いた。
「そんな重要なこと何で黙ってたんだ」
「もう会うこともきっとないから大丈夫かなって思ってしまいました。・・・でも後から思い出したんです。・・・去り際に彼が言っていたことを」
"またな"って。
*********
俺は名字の話を一言一句聞き洩らさないように耳を傾けた。
「荼毘は私のことを玩具だって言ってました。目的は・・・多分そういうこと」
名字は無意識に自分を守るためか腕を擦り合わせていた。
「相澤先生は・・・子ども時代遊びたい玩具で遊べないときどうしてましたか?」
急に逸れた話題に俺は疑問符を浮かべた。
「私は・・・空くまで待ってました。今遊んでいる子が飽きるのを待つか、それが無理だったら次の日。遊べなかったら余計にその玩具に執着しませんか?」
「俺は執着せずに次に行くタイプだったように思う」
「・・・荼毘も相澤先生と同じならいいんですけど」
俺は心底後悔した。
どうして一ヶ月も彼女をこんなにも無防備なアパートに放置してしまったのだろうと。
「誘拐されたあの時、荼毘とは何もありませんでした」
名字の言葉に胸を撫で下ろした。
まさか…という考えも一瞬過っていたからだ。
「多分、もう現れない可能性の方が高いというのは分かってます」
確かに名字の言う通り、オールフォーワンを逮捕した今、敵連合の戦力は落ちている。
そんな中、名字だけのためにわざわざリスクを侵して現れるとは考えにくい。
「ただ、荼毘は遊んでいない玩具にどれぐらい執着するのかな…って。それが気になってるだけなんです」
気になっている"だけ"であんなに怯えるはずがない。
不安で不安で仕方なかったのだろう。
今日まで彼女の身に何もなくて本当に良かった。
そして改めて彼女を守っていかなければと思った。
俺は隣に座る細い腰に腕を回して、もう片方で彼女の後頭部を自身の胸に優しく押し付けた。
「もう大丈夫だ」
あの日、病院に忍び込んだ夜のように俺の胸元はじわりと湿り気を帯びた。
「うっ…ぐず」
あのときは手を離してしまったけれど。
「ひっく…」
今度はもう二度と離さないから。