【9章】半歩進む
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放課後、俺は溜まっている事務作業に手を付けていた。
「ちょっと、相澤くん顔色悪いわよ!?」
「平気です」
俺は飲料ゼリーを片手にマウスを動かす。
「ほんと、素直じゃないわね」
ミッドナイトさんはやれやれとその場を離れた。
俺の隣は空席のままだ。
校長が新しい事務員を募集するか尋ねてきたが断った。
名字以外が来ても上手くやれる気がしないからだ。
校長もそれが分かっているから、あえて募集をかける前に聞いてきたのだろう。
「あの、相澤先生」
呼ばれて振り返ると総務課の真鍋が立っていた。
「提出するものあったか?」
俺は山積みにされた資料を確認した。
「いえ・・・名字さんのことでちょっとだけお話ししたいんですけど」
「今忙しいから後にしてくれるか」
「今日中に時間作ってもえますか?」
「約束はできん」
「ならそのままでいいので、今聞いてください」
真鍋は名字の椅子を引いて腰かけた。
こいつ、こんなに強引なタイプだったか?
俺は真鍋には目線を向けず目の前の仕事を進める。
「昨日名字さんに偶然街で会いました」
一瞬キーボードを打つ手が止まった。
「彼女、すごくやつれてて・・・。前の飲み会で名字さん言ってました。今の自分があるのは相澤先生のおかげだって。ずっと雄英で働きたいって・・・」
「あんなことがあったんだぞ」
真鍋を一瞥すると握った拳が震えていた。
「だから仕方ない?身の安全さえ確保していれば心なんて関係ない?あんな、人生諦めたような顔して生きていくことに意味なんてあるんですか!」
感情が昂っている真鍋の顔は赤みを帯びていた。
「僕達無個性は手に入れたくても手に入れられない物が多いし、時間もかかる。名字さんは雄英でやっとそれを手に入れたんです」
俺は出会った時の名字を思い出した。
人の顔色ばかり伺って、人一倍傷ついて。
なのにそれを自分で全部抱え込んでいて。
心の底から笑えるようになっていく様を俺が一番傍で見ていたというのに。
「名字さんは自分から雄英を辞めたいって言ったんですか?」
真鍋の問いかけに俺は首を振った。
「いや・・・あいつはあの時」
"分かりました”
泣きそうな顔でそう言ったんだ。
俺の"顔色"を伺って、本当は傷ついていたけどそれを隠して自分で抱えて。
"俺"にとって一番都合のいい答えを選んだ。
あの時、他でもない俺が名字の手を離してしまったんだ。
「どっちにしろ、一度今の名字さんに会ってほしいです。今の彼女を見てもこのままでいいと相澤先生が判断されるならこれ以上は何も言いません」
「そうだな」
途端に名字に会いたくなった。
飯に興味などなかったはずなのに、金曜日に一人で食べる飯は不味く感じた。
やつれていると聞いて心配になった。
あの時は名字にとって確かにあれが最善だと考えた。
しかし今思えばただの保身だったのかもしれない。
守り切れなかった事実から目を背けたくて、俺自身が逃げていた。
また同じことが起こる恐怖に俺自身が耐えられなかったのだ。
会って謝って"名字"がどうしたいのか、彼女の本心を聞きたい。
「ありがとう」
俺は作業していた手を止めて真鍋と向き合った。
「・・・僕が相澤先生の代わりを出来たらよかったんですけど。出来そうにもないので」
真鍋は首の後ろに手をやった。
「あ、それともう1つ。名字さん、何か悩んでいるみたいでした」
「就活のことじゃないのか?」
「そうではなくて・・・。何かに怯えているみたいでした」
「怯えている?」
「僕が声を掛けた時、警察の名刺を見てたんです。あと、僕と一緒に帰ることを頑なに拒否してて・・・」
名字が人を拒むとはにわかに信じがたかった。
不審者に声を掛けられても返事をしてしまいそうな彼女が?
「信号待ちしているときもボーっとしてて、いきなり『やめてっ!』って声を上げたんです」
「やめて・・・?」
「そのあと『私と一緒にいてはいけない』って言って走って行ってしまいました」
真鍋は時計に目をやると席を立った。
「僕が言えるのはここまでです。後は宜しくお願いします」
一礼すると真鍋は職員室を出ていった。
「名字・・・何かトラブルに巻き込まれているのか?」
真鍋の話をまとめると、容易に彼女が何かしらの問題に直面していることは想像できた。
なぜ自分を頼ってくれなかったのかと、無言のスマホを見つめるが、これまでの経緯を考えると当たり前だと嘲笑を浮かべた。
俺はパソコンの電源を落とすと、まだ捌ききれていない書類を放置して学校を出た。
もう一度チャンスをくれ。
今度こそ守ってみせるから。
「ちょっと、相澤くん顔色悪いわよ!?」
「平気です」
俺は飲料ゼリーを片手にマウスを動かす。
「ほんと、素直じゃないわね」
ミッドナイトさんはやれやれとその場を離れた。
俺の隣は空席のままだ。
校長が新しい事務員を募集するか尋ねてきたが断った。
名字以外が来ても上手くやれる気がしないからだ。
校長もそれが分かっているから、あえて募集をかける前に聞いてきたのだろう。
「あの、相澤先生」
呼ばれて振り返ると総務課の真鍋が立っていた。
「提出するものあったか?」
俺は山積みにされた資料を確認した。
「いえ・・・名字さんのことでちょっとだけお話ししたいんですけど」
「今忙しいから後にしてくれるか」
「今日中に時間作ってもえますか?」
「約束はできん」
「ならそのままでいいので、今聞いてください」
真鍋は名字の椅子を引いて腰かけた。
こいつ、こんなに強引なタイプだったか?
俺は真鍋には目線を向けず目の前の仕事を進める。
「昨日名字さんに偶然街で会いました」
一瞬キーボードを打つ手が止まった。
「彼女、すごくやつれてて・・・。前の飲み会で名字さん言ってました。今の自分があるのは相澤先生のおかげだって。ずっと雄英で働きたいって・・・」
「あんなことがあったんだぞ」
真鍋を一瞥すると握った拳が震えていた。
「だから仕方ない?身の安全さえ確保していれば心なんて関係ない?あんな、人生諦めたような顔して生きていくことに意味なんてあるんですか!」
感情が昂っている真鍋の顔は赤みを帯びていた。
「僕達無個性は手に入れたくても手に入れられない物が多いし、時間もかかる。名字さんは雄英でやっとそれを手に入れたんです」
俺は出会った時の名字を思い出した。
人の顔色ばかり伺って、人一倍傷ついて。
なのにそれを自分で全部抱え込んでいて。
心の底から笑えるようになっていく様を俺が一番傍で見ていたというのに。
「名字さんは自分から雄英を辞めたいって言ったんですか?」
真鍋の問いかけに俺は首を振った。
「いや・・・あいつはあの時」
"分かりました”
泣きそうな顔でそう言ったんだ。
俺の"顔色"を伺って、本当は傷ついていたけどそれを隠して自分で抱えて。
"俺"にとって一番都合のいい答えを選んだ。
あの時、他でもない俺が名字の手を離してしまったんだ。
「どっちにしろ、一度今の名字さんに会ってほしいです。今の彼女を見てもこのままでいいと相澤先生が判断されるならこれ以上は何も言いません」
「そうだな」
途端に名字に会いたくなった。
飯に興味などなかったはずなのに、金曜日に一人で食べる飯は不味く感じた。
やつれていると聞いて心配になった。
あの時は名字にとって確かにあれが最善だと考えた。
しかし今思えばただの保身だったのかもしれない。
守り切れなかった事実から目を背けたくて、俺自身が逃げていた。
また同じことが起こる恐怖に俺自身が耐えられなかったのだ。
会って謝って"名字"がどうしたいのか、彼女の本心を聞きたい。
「ありがとう」
俺は作業していた手を止めて真鍋と向き合った。
「・・・僕が相澤先生の代わりを出来たらよかったんですけど。出来そうにもないので」
真鍋は首の後ろに手をやった。
「あ、それともう1つ。名字さん、何か悩んでいるみたいでした」
「就活のことじゃないのか?」
「そうではなくて・・・。何かに怯えているみたいでした」
「怯えている?」
「僕が声を掛けた時、警察の名刺を見てたんです。あと、僕と一緒に帰ることを頑なに拒否してて・・・」
名字が人を拒むとはにわかに信じがたかった。
不審者に声を掛けられても返事をしてしまいそうな彼女が?
「信号待ちしているときもボーっとしてて、いきなり『やめてっ!』って声を上げたんです」
「やめて・・・?」
「そのあと『私と一緒にいてはいけない』って言って走って行ってしまいました」
真鍋は時計に目をやると席を立った。
「僕が言えるのはここまでです。後は宜しくお願いします」
一礼すると真鍋は職員室を出ていった。
「名字・・・何かトラブルに巻き込まれているのか?」
真鍋の話をまとめると、容易に彼女が何かしらの問題に直面していることは想像できた。
なぜ自分を頼ってくれなかったのかと、無言のスマホを見つめるが、これまでの経緯を考えると当たり前だと嘲笑を浮かべた。
俺はパソコンの電源を落とすと、まだ捌ききれていない書類を放置して学校を出た。
もう一度チャンスをくれ。
今度こそ守ってみせるから。