【4章】傷の舐め合い
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名字に誰にも聞かれない場所で内通者の件を含め、林間合宿の説明はしようと思っていた。
学校でするのは危ない。
そうなるとどちらかの自宅になる。
ちょうどいいタイミングだったので、酒は入っているがお互い頭の回転に問題はない状態だったので切り出した。
内通者の話にもっと驚くかと思ったが、名字は案外冷静だった。
「無個性のせいで今まで沢山裏切られてきたので・・・」
名字は悲しそうに目を伏せると、リビングの端に寄せていた履歴書の束を手に取った。
「これ、私の履歴書なんですけど」
その中のぐしゃぐしゃになった1枚を渡された。
以前マイク達と飲んだ時に見たそれ。
「この会社、前に勤めてたところなんです。1年非常勤で働いて、頑張りが認められたら正社員になれるっていう話だったんです」
『だった』それは過去を現す表現だ。
「頑張りも認められて、更新数か月前から正社員の話も上がってました」
この話の結果は分かっていた。
「でも、更新時期になってあっさり契約終了の通達が来ました。何でだと思いますか?」
俺は答えられなかった。
分かってはいたが口にするのを憚られた。
「この会社にぴったりの個性を持った人が現れたんです」
名字は苦笑いをしながら続けた。
「絶対記憶の個性ですよ。書類も一瞬で暗記できて。凡人の私なんか到底かないっこないです」
俺は無意識に名字の方へ腕を伸ばしていた。
しかしハッと気づいてその腕を戻した。
「元カレも、私と結婚したいって言ってたのに結局親に『無個性の子どもが生まれたらどうするの?』って言われたらあっさり破局ですよ」
名字の表情は悲しみというより諦めに近かった。
それだけ何度も裏切られてきたという証拠だ。
「だから、私人を疑うの得意です」
相手に悟られないようにするのも得意です!と意気込む彼女をこの場で抱き締めたらどんな反応をするだろうか。
しかし理性的な俺がそれを行動に移すことはなかった。
「そうだな。頼もしい限りだよ。ただ・・・」
「ただ?」
「この話と矛盾するが、俺のことは信用してもらえたら嬉しい」
この話の流れだと俺も疑うべき存在であることに代わりはないのだが、名字には信用して貰いたかった。
願わくば、俺には心を許して欲しい。
名字は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔になった。
「相澤先生のことは信用しています。こうやって過去の話を泣かずにできるのも相澤先生のおかげです」
「俺のおかげ?」
「はい!私、今がとっても楽しいです。だから相澤先生も私のこと信用して欲しいです」
「ああ。もちろんだ」
名字を疑う要素なんて何もない。
だって君は何ももっていないのだから。
**************
おまけ
「下見は一泊二日の泊りがけだから準備しておいてくれ」
「お泊りですか!」
「先方がぜひと」
「楽しみです」
学校でするのは危ない。
そうなるとどちらかの自宅になる。
ちょうどいいタイミングだったので、酒は入っているがお互い頭の回転に問題はない状態だったので切り出した。
内通者の話にもっと驚くかと思ったが、名字は案外冷静だった。
「無個性のせいで今まで沢山裏切られてきたので・・・」
名字は悲しそうに目を伏せると、リビングの端に寄せていた履歴書の束を手に取った。
「これ、私の履歴書なんですけど」
その中のぐしゃぐしゃになった1枚を渡された。
以前マイク達と飲んだ時に見たそれ。
「この会社、前に勤めてたところなんです。1年非常勤で働いて、頑張りが認められたら正社員になれるっていう話だったんです」
『だった』それは過去を現す表現だ。
「頑張りも認められて、更新数か月前から正社員の話も上がってました」
この話の結果は分かっていた。
「でも、更新時期になってあっさり契約終了の通達が来ました。何でだと思いますか?」
俺は答えられなかった。
分かってはいたが口にするのを憚られた。
「この会社にぴったりの個性を持った人が現れたんです」
名字は苦笑いをしながら続けた。
「絶対記憶の個性ですよ。書類も一瞬で暗記できて。凡人の私なんか到底かないっこないです」
俺は無意識に名字の方へ腕を伸ばしていた。
しかしハッと気づいてその腕を戻した。
「元カレも、私と結婚したいって言ってたのに結局親に『無個性の子どもが生まれたらどうするの?』って言われたらあっさり破局ですよ」
名字の表情は悲しみというより諦めに近かった。
それだけ何度も裏切られてきたという証拠だ。
「だから、私人を疑うの得意です」
相手に悟られないようにするのも得意です!と意気込む彼女をこの場で抱き締めたらどんな反応をするだろうか。
しかし理性的な俺がそれを行動に移すことはなかった。
「そうだな。頼もしい限りだよ。ただ・・・」
「ただ?」
「この話と矛盾するが、俺のことは信用してもらえたら嬉しい」
この話の流れだと俺も疑うべき存在であることに代わりはないのだが、名字には信用して貰いたかった。
願わくば、俺には心を許して欲しい。
名字は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔になった。
「相澤先生のことは信用しています。こうやって過去の話を泣かずにできるのも相澤先生のおかげです」
「俺のおかげ?」
「はい!私、今がとっても楽しいです。だから相澤先生も私のこと信用して欲しいです」
「ああ。もちろんだ」
名字を疑う要素なんて何もない。
だって君は何ももっていないのだから。
**************
おまけ
「下見は一泊二日の泊りがけだから準備しておいてくれ」
「お泊りですか!」
「先方がぜひと」
「楽しみです」
