【三章】想い、想われ
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「大丈夫ですか?」
硬直した私に問いかけた七海さんの声は、僅かに困惑、戸惑いの色が見えた。
「あ・・・はい、大丈夫です」
一体私は何が大丈夫なのだろうか。
「避けていてすみません・・・。その、七海さんのことが嫌なわけじゃなくて・・・」
今私がいる倉庫は呪術師の人は滅多に寄り付かない場所。というか、用事が無い場所。
そんな場所で七海さんと鉢合わせをするなんて、彼が私を追いかけてきた他に無い。
そして、追いかけられた理由に心当たりも十分あった。
どんな言葉を並べても、今日一日避けていた事実は消えない。
「いえ、あんなことがあったのですから。平然としていられない気持ちは分かります」
「ええ・・・。七海さんはいつもと変わらないですよ」
「そう見えるだけです」
これもありますから、とゴーグルをカチャリと指で触った。
「・・・七海さんも動揺してますか?」
「ええ、まあ。二重の意味で」
コツ、コツ、と七海さんの革靴の音が静寂な倉庫に響いた。
「一つは、謎の現象が起きたこと。もう一つは・・・・・・たかがキスだと割り切れないこと」
近づいてきた七海さんをボーっと見つめていた私は、あっという間に距離を詰められた。
彼の親指が唇を掠め、その瞬間私の胸はドキリと音を立てた。
「夢を見ました」
ゴーグル越しに見える七海さんの目は優し気だった。
「貴女は私の家で珈琲を飲みながらテーブルに置いてあるクロワッサンを美味しそうに食べていた」
唇に這っていた親指はゆっくり移動し、私の横髪を耳に掛けた。
「朝起きて、いつも通りの誰も居ないリビングに、初めて寂しさを覚えました」
「あの・・・。吊り橋効果ってことは・・・」
「かもしれません。何分、私は恋愛経験が豊富でありませんから」
格好いいから勝手に恋愛経験豊富だと思っていたので意外だった。
しかし、硬派な彼が何人もの女性と付き合っているイメージもつかないため、そう思うと納得できる節もある。
「ですが、経緯が何だろうが、私が貴女に求めることは避けるのやめてほしい点と、貴女にも吊り橋効果を期待する点です」
これは・・・告白・・・ではないんだよね?
でも七海さんが言っていることって私のことが気になってるってことで合ってる?
はくはく、と金魚みたいに口を開閉している私は実に間抜けに違いない。
「あ、の・・・。私もその、恋愛経験がほとんどなくて。キスも・・・その、初めてだったから、恥ずかしくて七海さんの顔見れなくて・・・」
「はっ!?」
「え!?」
七海さんが珍しく大きな声を出したので、私も驚いて声を上げてしまった。
「初めて・・・だったんですか?」
「うっ。この歳で珍しいですよね・・・」
「そういうわけでは・・・。そうですか。では、なおさら責任を・・・」
「あの!責任とかそういうのはいいです!!無理矢理されたわけじゃないし。それに・・・」
責任とってお付き合い、とか悲しい。
ちゃんと私のことを好きな人とお付き合いしたい。
「あの、名前さん」
いらぬことをカミングアウトしたせいで、余計に話が拗れた感あるが、とにかく私が伝えたいことは・・・。
「今日は避けちゃってごめんなさい。私も吊り橋効果なのか・・・七海さんのこと意識しちゃって恥ずかしくて避けてました。もしかしたらまた変な態度取っちゃうかもしれないんですけど、それは嫌だからじゃなくて恥ずかしいからです」
冒頭に伝えたことを念のためもう一度強く繰り返した。
七海さんが何か言おうとしているのを遮って、一気に捲し立てた。
私が意識しているこの気持ちが、一時的なものなのか、本当に七海さんのことを好きになってしまったのか分からない。
というか、さっきまではただ恥ずかしいだけだったのが、七海さんの気持ちを聞いて、急激に引き寄せられている自分がいた。
なんて、単純。
七海さんがさらに一歩、近づこうとした時、背後でガラリと扉が開く音がして、心臓が天井につくのではないかと思うほど飛び跳ねた。
「あー!こんなところにいた!」
五条さんの声が私達の空気を引き裂いた。
「ご、五条さん」
「名前ちゃんのこと怒らせちゃったから謝ろうと思って探してたんだよね」
「怒ってないですよ」
「本当?それなら良かった!ところで……」
五条さんはツカツカ歩いて、私と七海さんの間に身体を滑り込ませた。
「せ、狭い…」
元々私達の間に隙間がそれほどなかったので、私は完全にラックと五条さんの間に挟まれてしまった。
「七海と仲直りしたんだ?」
「あ、はい…」
喧嘩してたわけじゃないけど、そういうことにしておいた。
「ふーん」
ピリッと空気に亀裂が入るのを感じた。
「そうだ。さっきのお詫びに僕が名前ちゃんに珈琲淹れてあげるよ。休憩しよう」
「五条さんが?」
「では、私はこれで」
七海さんは踵を返すと倉庫を出て行った。
あれ以上、変な空気になったら私の心臓がもたなかったので、いいタイミングで五条さんが来てくれたと思った。
ほっと息を吐いた私を見て、五条さんは「じゃあ、お茶しようか」と私を連れて倉庫を後にした。
硬直した私に問いかけた七海さんの声は、僅かに困惑、戸惑いの色が見えた。
「あ・・・はい、大丈夫です」
一体私は何が大丈夫なのだろうか。
「避けていてすみません・・・。その、七海さんのことが嫌なわけじゃなくて・・・」
今私がいる倉庫は呪術師の人は滅多に寄り付かない場所。というか、用事が無い場所。
そんな場所で七海さんと鉢合わせをするなんて、彼が私を追いかけてきた他に無い。
そして、追いかけられた理由に心当たりも十分あった。
どんな言葉を並べても、今日一日避けていた事実は消えない。
「いえ、あんなことがあったのですから。平然としていられない気持ちは分かります」
「ええ・・・。七海さんはいつもと変わらないですよ」
「そう見えるだけです」
これもありますから、とゴーグルをカチャリと指で触った。
「・・・七海さんも動揺してますか?」
「ええ、まあ。二重の意味で」
コツ、コツ、と七海さんの革靴の音が静寂な倉庫に響いた。
「一つは、謎の現象が起きたこと。もう一つは・・・・・・たかがキスだと割り切れないこと」
近づいてきた七海さんをボーっと見つめていた私は、あっという間に距離を詰められた。
彼の親指が唇を掠め、その瞬間私の胸はドキリと音を立てた。
「夢を見ました」
ゴーグル越しに見える七海さんの目は優し気だった。
「貴女は私の家で珈琲を飲みながらテーブルに置いてあるクロワッサンを美味しそうに食べていた」
唇に這っていた親指はゆっくり移動し、私の横髪を耳に掛けた。
「朝起きて、いつも通りの誰も居ないリビングに、初めて寂しさを覚えました」
「あの・・・。吊り橋効果ってことは・・・」
「かもしれません。何分、私は恋愛経験が豊富でありませんから」
格好いいから勝手に恋愛経験豊富だと思っていたので意外だった。
しかし、硬派な彼が何人もの女性と付き合っているイメージもつかないため、そう思うと納得できる節もある。
「ですが、経緯が何だろうが、私が貴女に求めることは避けるのやめてほしい点と、貴女にも吊り橋効果を期待する点です」
これは・・・告白・・・ではないんだよね?
でも七海さんが言っていることって私のことが気になってるってことで合ってる?
はくはく、と金魚みたいに口を開閉している私は実に間抜けに違いない。
「あ、の・・・。私もその、恋愛経験がほとんどなくて。キスも・・・その、初めてだったから、恥ずかしくて七海さんの顔見れなくて・・・」
「はっ!?」
「え!?」
七海さんが珍しく大きな声を出したので、私も驚いて声を上げてしまった。
「初めて・・・だったんですか?」
「うっ。この歳で珍しいですよね・・・」
「そういうわけでは・・・。そうですか。では、なおさら責任を・・・」
「あの!責任とかそういうのはいいです!!無理矢理されたわけじゃないし。それに・・・」
責任とってお付き合い、とか悲しい。
ちゃんと私のことを好きな人とお付き合いしたい。
「あの、名前さん」
いらぬことをカミングアウトしたせいで、余計に話が拗れた感あるが、とにかく私が伝えたいことは・・・。
「今日は避けちゃってごめんなさい。私も吊り橋効果なのか・・・七海さんのこと意識しちゃって恥ずかしくて避けてました。もしかしたらまた変な態度取っちゃうかもしれないんですけど、それは嫌だからじゃなくて恥ずかしいからです」
冒頭に伝えたことを念のためもう一度強く繰り返した。
七海さんが何か言おうとしているのを遮って、一気に捲し立てた。
私が意識しているこの気持ちが、一時的なものなのか、本当に七海さんのことを好きになってしまったのか分からない。
というか、さっきまではただ恥ずかしいだけだったのが、七海さんの気持ちを聞いて、急激に引き寄せられている自分がいた。
なんて、単純。
七海さんがさらに一歩、近づこうとした時、背後でガラリと扉が開く音がして、心臓が天井につくのではないかと思うほど飛び跳ねた。
「あー!こんなところにいた!」
五条さんの声が私達の空気を引き裂いた。
「ご、五条さん」
「名前ちゃんのこと怒らせちゃったから謝ろうと思って探してたんだよね」
「怒ってないですよ」
「本当?それなら良かった!ところで……」
五条さんはツカツカ歩いて、私と七海さんの間に身体を滑り込ませた。
「せ、狭い…」
元々私達の間に隙間がそれほどなかったので、私は完全にラックと五条さんの間に挟まれてしまった。
「七海と仲直りしたんだ?」
「あ、はい…」
喧嘩してたわけじゃないけど、そういうことにしておいた。
「ふーん」
ピリッと空気に亀裂が入るのを感じた。
「そうだ。さっきのお詫びに僕が名前ちゃんに珈琲淹れてあげるよ。休憩しよう」
「五条さんが?」
「では、私はこれで」
七海さんは踵を返すと倉庫を出て行った。
あれ以上、変な空気になったら私の心臓がもたなかったので、いいタイミングで五条さんが来てくれたと思った。
ほっと息を吐いた私を見て、五条さんは「じゃあ、お茶しようか」と私を連れて倉庫を後にした。
