【三章】想い、想われ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よいしょっ、ほっ……わぁっ!!」
バサバサバサと手に持ったファイルが落ちた後、ドスンと何とも間抜けな音が後を追った。
「いったぁ…」
横着して、分厚い上にサイズが不揃いなファイルを一気に運ぼうとした罰が下った。
慎重に降りていた階段が残り数段というところで、ファイルを落としてしまい、咄嗟に持ち直そうとした私は踏み外してそのまま落ちた。
幸いにも数段で済んだ。
「大丈夫かいっ!?」
階段の上から声が掛かって見上げると夏油さんが居た。
「夏油さん!お恥ずかしいところを見られてしまいました…。私は大丈夫です!」
切れ長の目を見開いた彼は、階段を素早く駆け下りてきた。
「本当に大丈夫ですよ!落ちたの数段ですし」
「立ってみて」
「はい、ほらこの通り…痛っ」
足は大丈夫と思っていたが、手首をついたときにつき方が悪かったらしい。
夏油さんが立ち上がらせてくれようと私の手に触れた瞬間、痛みが走った。
「硝子のところに行こう」
「これぐらい安静にしていれば治ります」
「❝これぐらい❞かどうかを決めるのは医者である彼女だ」
そうして、私は促されるまま夏油さんと家入さんが居る保健室へ向かった。
「ああ…あんた確か悟の…」
「相変わらず煙たいな」
「文句あるなら出ていけ」
存在は知っていたのだが、きちんと挨拶をするのはこれが初めてかもしれない。
「あのっ。ご挨拶遅れてすみません。私、新しく事務員になりました名字名前です」
「知ってる」
目の下の隈がひどく、疲れていそうだ。
「硝子、彼女さっき階段から落ちて手首を怪我しているんだ。治してやってほしい」
「い、いえ!本当に大丈夫ですから!」
「いいよ。見せてみな」
家入さんは私の手を取り反転術式を施してくれた。ちなみに反転術式については二年生の子達に教えてもらった。
「す、すごい…」
あっという間に痛みが引いた手首。
まるで魔法に掛かったような気分だ。
「ありがとうございます。お手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした」
「他の奴らもそれぐらい謙虚ならいいんだけどね」
瀕死な奴らばっか来るから、とそれを聞いたら心配になってしまう。
「今、こんなのしか持ってないんですけど…良かったら」
ポケットに入っていたお菓子を取り出したが、家入さんは肩を竦めた。
「甘いものは食べないんだ」
「そうなんですね。すみません!」
「硝子は酒が好きなんだ」
「へぇ…」
甘いものが好きじゃない女性は珍しいので覚えておかないと。みんな疲れてるから、すぐお菓子あげる癖がついてしまっていた。
「お礼なら悟との話を聞かせてよ」
「五条さん?」
「付き合ってるんでしょ?」
「いえ!付き合ってないです」
「そーなの?」
コクコクと頷けば、面白くないと言いたげな表情を向けられた。
「悟の片想いだよ」
「マジ?ウケる」
「ち、違いますよ!」
「まあ、でもアイツはお勧めしないよ」
「あんなに素敵な人なのに?」
「「素敵…?」」
見事に眉を寄せた二人の声がハモった。
どうやら、私の中の五条さんと二人の中の五条さんの人物像がかけ離れているようだ。
「女を見る目が開花したのか…?アイツ」
家入さんはぐっと私に顔を近づけた。
綺麗なお顔が間近に迫って、思わず仰け反った。
「女が少ない職場だからさ。仲良くしよう」
出された手を、私はそっと握り返した。
「私も仲良くしてくれたら嬉しいよ」
「え、夏油さんとは仲良しだと思ってました」
「それは嬉しいな」
「じゃあ、もっと仲良くなるということで」
「さりげに横入りしてんな」
夏油さんも手を出したので、そちらとも握手をすると家入さんが眉を顰めた。
家入さんの細くて華奢な手を握った後だから、節ばっている手が見た目よりも大きく感じた。
「これは真似できないだろ」
「え?」
ニヤッと悪い表情を浮かべた家入さんは、私の頬に軽くキスをした。
「え?え?」
初対面の女性に、頬とはいえキスをされたのは初めてで、挙動不審に目線を彷徨わせてしまった。
「硝子、セクハラで訴えられるぞ」
「訴えるか?」
「いえ…。訴えはしないですけど……」
「ですけど?」
「は、恥ずかしいし、どう反応したらいいのか迷っちゃいます」
軽く触れた頬が熱い気がする。
というか、絶対私の顔赤くなってる。
「危ないな」
「同感」
「そのさ、ちょっと押せば女の私でもイケそうな感じ、改めた方が良いと思う」
「え、そんな感じしますか!?」
二人は揃って頷いた。
「き、気をつけます」
「悟には何もされてない?」
夏油さんに聞かれて、私はふっとお尻を触られたときのことを思い出した。
「何されたんだ…あのクズに」
「い、いえ!何も!!」
「隠せない嘘はつかない方がいい」
二人に詰問されたが、五条さんが変態扱いされかねないので、彼の名誉を守るために私は頑なに答えなかったのであった。
バサバサバサと手に持ったファイルが落ちた後、ドスンと何とも間抜けな音が後を追った。
「いったぁ…」
横着して、分厚い上にサイズが不揃いなファイルを一気に運ぼうとした罰が下った。
慎重に降りていた階段が残り数段というところで、ファイルを落としてしまい、咄嗟に持ち直そうとした私は踏み外してそのまま落ちた。
幸いにも数段で済んだ。
「大丈夫かいっ!?」
階段の上から声が掛かって見上げると夏油さんが居た。
「夏油さん!お恥ずかしいところを見られてしまいました…。私は大丈夫です!」
切れ長の目を見開いた彼は、階段を素早く駆け下りてきた。
「本当に大丈夫ですよ!落ちたの数段ですし」
「立ってみて」
「はい、ほらこの通り…痛っ」
足は大丈夫と思っていたが、手首をついたときにつき方が悪かったらしい。
夏油さんが立ち上がらせてくれようと私の手に触れた瞬間、痛みが走った。
「硝子のところに行こう」
「これぐらい安静にしていれば治ります」
「❝これぐらい❞かどうかを決めるのは医者である彼女だ」
そうして、私は促されるまま夏油さんと家入さんが居る保健室へ向かった。
「ああ…あんた確か悟の…」
「相変わらず煙たいな」
「文句あるなら出ていけ」
存在は知っていたのだが、きちんと挨拶をするのはこれが初めてかもしれない。
「あのっ。ご挨拶遅れてすみません。私、新しく事務員になりました名字名前です」
「知ってる」
目の下の隈がひどく、疲れていそうだ。
「硝子、彼女さっき階段から落ちて手首を怪我しているんだ。治してやってほしい」
「い、いえ!本当に大丈夫ですから!」
「いいよ。見せてみな」
家入さんは私の手を取り反転術式を施してくれた。ちなみに反転術式については二年生の子達に教えてもらった。
「す、すごい…」
あっという間に痛みが引いた手首。
まるで魔法に掛かったような気分だ。
「ありがとうございます。お手を煩わせてしまって申し訳ありませんでした」
「他の奴らもそれぐらい謙虚ならいいんだけどね」
瀕死な奴らばっか来るから、とそれを聞いたら心配になってしまう。
「今、こんなのしか持ってないんですけど…良かったら」
ポケットに入っていたお菓子を取り出したが、家入さんは肩を竦めた。
「甘いものは食べないんだ」
「そうなんですね。すみません!」
「硝子は酒が好きなんだ」
「へぇ…」
甘いものが好きじゃない女性は珍しいので覚えておかないと。みんな疲れてるから、すぐお菓子あげる癖がついてしまっていた。
「お礼なら悟との話を聞かせてよ」
「五条さん?」
「付き合ってるんでしょ?」
「いえ!付き合ってないです」
「そーなの?」
コクコクと頷けば、面白くないと言いたげな表情を向けられた。
「悟の片想いだよ」
「マジ?ウケる」
「ち、違いますよ!」
「まあ、でもアイツはお勧めしないよ」
「あんなに素敵な人なのに?」
「「素敵…?」」
見事に眉を寄せた二人の声がハモった。
どうやら、私の中の五条さんと二人の中の五条さんの人物像がかけ離れているようだ。
「女を見る目が開花したのか…?アイツ」
家入さんはぐっと私に顔を近づけた。
綺麗なお顔が間近に迫って、思わず仰け反った。
「女が少ない職場だからさ。仲良くしよう」
出された手を、私はそっと握り返した。
「私も仲良くしてくれたら嬉しいよ」
「え、夏油さんとは仲良しだと思ってました」
「それは嬉しいな」
「じゃあ、もっと仲良くなるということで」
「さりげに横入りしてんな」
夏油さんも手を出したので、そちらとも握手をすると家入さんが眉を顰めた。
家入さんの細くて華奢な手を握った後だから、節ばっている手が見た目よりも大きく感じた。
「これは真似できないだろ」
「え?」
ニヤッと悪い表情を浮かべた家入さんは、私の頬に軽くキスをした。
「え?え?」
初対面の女性に、頬とはいえキスをされたのは初めてで、挙動不審に目線を彷徨わせてしまった。
「硝子、セクハラで訴えられるぞ」
「訴えるか?」
「いえ…。訴えはしないですけど……」
「ですけど?」
「は、恥ずかしいし、どう反応したらいいのか迷っちゃいます」
軽く触れた頬が熱い気がする。
というか、絶対私の顔赤くなってる。
「危ないな」
「同感」
「そのさ、ちょっと押せば女の私でもイケそうな感じ、改めた方が良いと思う」
「え、そんな感じしますか!?」
二人は揃って頷いた。
「き、気をつけます」
「悟には何もされてない?」
夏油さんに聞かれて、私はふっとお尻を触られたときのことを思い出した。
「何されたんだ…あのクズに」
「い、いえ!何も!!」
「隠せない嘘はつかない方がいい」
二人に詰問されたが、五条さんが変態扱いされかねないので、彼の名誉を守るために私は頑なに答えなかったのであった。
