【二章】あの子の秘密
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「名前さーん!」
ひらひらと手を振ってこっちに駆け寄ってくるのは虎杖くんだ。
「これから時間ありますか?」
「うーん…一応今就業時間中なんだけど…」
ふと、五条さんに言われたことが頭を過った。
「ちょっとだけなら…」
学生達のオアシスになってあげてほしい、なんて大それたことを言われたのだが、要は息抜きに付き合ってやってほしいということだろう。
過酷な環境な彼らがほっと一息つけるなら…。
虎杖くんは了承と捉えたらしく、ニッと歯を見せて笑ったと同時に私の手首を引っ張った。
「わわっ。ちょっと待って…!!」
「名前さん遅いって!」
前を走る虎杖くんの足の速さについていけず、縺れそうになる。
「ええっ」
「こっちの方が速い!」
「確かに速いけど!」
七海さんや夏油さん程体格は良くない虎杖くんに俵担ぎされた。
全く走るスピードは衰えておらず、むしろ彼の言う通りこっちの方が早かった。
落ちないように身を硬くして到着まで大人しくしていると、連れてこられたのは一年生の教室だった。
「……誰よ?」
「事務員の名前さん!」
「いや、だから誰よ?」
「釘崎、初対面でガン飛ばすのやめろ」
教室には女の子が一人、男の子が一人座っていた。
「だって!トランプは四人ぐらいが丁度いいって言い出したの釘崎じゃん!だから四人目連れてきた。二人に紹介したかったし」
「トランプやるの?今から?」
今日の仕事何残ってたっけ?と思ったが、新人の私は大した仕事を持っておらず、すべて翌日に持ち越しても問題ないものばかりだった。
「だからっていきなり出ていく?伏黒と二人とか何話したらいいかわかんないわ」
「そっくりそのまま返す」
この二人が前に虎杖くんが言ってた子達か。
ここにいる女性は皆強くて格好いい。
まだ一年生の釘崎さんといい、二年生の真希ちゃんといい。
「えっと…名字名前です。よろしくね」
とりあえず私が自己紹介したことで流れが代わり、トランプをすることになった。
「何する予定だったの?」
「大富豪」
「え?釘崎のとこ大貧民じゃないの?」
「はぁー?大富豪でしょうよ」
「イレブンバックあるのか?」
「なにそれ?」
「うーん……ローカルルールが多いやつは擦り合わせ大変だから無難にババ抜きは?」
私が提案すると、すんなりババ抜きになった。
「何賭ける?」
「え、賭けるの?」
「何も無かったら面白くないでしょうよ」
今どきの高校生は普通にトランプ楽しむっていう発想はないのかな!?
「ジュースでいいんじゃね?」
現金賭けだしたらどうしようかとアワアワしていたら(釘崎さんなら言いかねないと思った)、虎杖くんが高校生らしい提案をしてくれた。
「ま、それでいいわ」
私も頷いた。
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(伏黒視点)
「うう…。みんな強すぎるよ」
財布を片手に自販機に向かう名前さんに俺も荷物持ちとして駆り出された。
総合一位だったのになぜ…という疑問もあるが、惨敗して一人で何本も買う羽目になっている名前さんのことを考えると文句は出なかった。
「釘崎がすみません」
「いいの、いいの。ジュース代は誰が負けても私が出すつもりだったから」
そんなこと考えていたなら、なおさら申し訳なく思った。
「みんなトランプ強いんだね」
「というか……いえ、なんでも」
みんなが強いというより貴女が弱いんです、とは言えなかった。
ババ抜きでは表情に出過ぎているので、呆れた釘崎が種目をスピードに変えようと言い出したが、名前さんのトロさが露呈しただけに終わった。
しかし、俺と虎杖のスピード勝負をキラキラしている目で見ていて、まるで年上の感じがしなかった。
「伏黒くんと虎杖くんのスピード速すぎて見えなかった。本当にちゃんとカードの順番合ってるのか疑問だったよ」
「だから終わったあとカード捲ってたんですか」
「伏黒くん、惜しかったね」
僅差で虎杖に負けて、悔しい気持ちが無いわけではない。
「あいつ、動体視力いいですからね」
「そうなんだ。運動神経良さそうだもんね」
運動神経いいというレベルでおさめていいの分からなかったが、話している内に自販機についたので自然と話題は飲み物の話に移った。
「みんな何が好きなんだろう」
「虎杖はコレで、釘崎はこっちをよく飲んでます」
「ほうほう」
お金を入れた名前さんは俺に言われるがままジュースのボタンを押した。
「伏黒くんは?」
「……じゃあコーヒーで」
「無糖?加糖?」
「無糖で」
名前さんは缶に入った小さい方ではなく、500mlペットボトルの方を押した。
小さい方でよかったのに。
「私も何か飲もうかな」
自分の分を追加で買おうと小銭を取り出そうとする彼女の横からお金を入れた。
「え?」
「何にしますか?」
「いいよ、いいよ!自分で買うよ!」
「俺も虎杖に負けたんで」
「いやいや。あんなの負けた内に入らないよ」
「早くしてください」
名前さんはどうやら押しに弱いらしい。
じゃあ…と小さい缶コーヒーに指を伸ばしたので、すかさず俺と同じ500mlのペットボトルの方を押した。
「小さい方でよかったのに」
「そっくりそのまま返します」
人に買うときは大きい方、人に買って貰うときは小さい方。名前さんの人となりがよく分かる。
「ありがとう」
嬉しそうにペットボトルに入ったコーヒーを取り出した名前さんはその小さな腕にすべてを抱えようとしたので、抜き取った。
「落としそうなので、自分の分だけ持ってください」
「あ、ありがとう」
年上だけど、まるで同級生といるような感覚に陥った。
虎杖と釘崎が同級生であることを悪いとは思わないが、彼女がクラスに居たらまた違った空気になっていただろうな、と漠然と思った。
いや、毒気が抜かれて早死にしそうだ。
嬉しそうにコーヒーを持つ名前さんを横目にそんなことを考えた。
