【二章】あの子の秘密
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「五条さん…」
少し離れたところに立っている五条さんは、いつもより少し小さく見えた。
「あー…」
目元が隠れているから分からないけれど、気まずい気持ちが声質に表れていた。
「五条さん」
七海さんが彼の名前を呼ぶと空気がピリッと張り詰めた。
七海さんって感情の起伏なさそうなのに、今怒っているというのがオーラでわかる。
五条さんの方を向いたことで立ち位置的に私が七海さんの背中で隠れてしまった。
五条さんは私に用があるはずだ。
だからその背中から出ようとしたときには、もう七海さんの背中は随分前方へと移動していた。
そして、容赦なく五条さんに拳を振り下ろした。
「えええっ!?ちょっ、七海さんっ。落ち着いて……」
ど、どうしよう。
誰か呼んでくる!?
夏油くんかパンダくん通らないかな!?
焦っていると「術式解いてください」「解いたら当たるじゃん」という会話が聞こえてきた。
よく見てみると、五条さんノーダメージだ。
「???」
一人だけ状況に置いてきぼりを食らっているのだが、当たってないなら、まあいいのか…?
何で当たらないのかはもうこの際考えない。
だってここに来てから自分の常識を遥かに超えた人達に沢山出会ったから。
五条さん特級なんだし、そういうこともできるんだろう、うん。
「あ、あの…。七海さん、私のために怒ってくれてるんですよね?ありがとうございます。でもお気持ちだけで大丈夫ですから…」
私が背後から話しかけると、ピタリと動きが止まった。
「貴女も貴女です。そうやって甘やかすからつけあがるんです」
「わお。一応僕、先輩」
「それなら先輩らしい振る舞いをお願いします」
七海さんの矛は収まったらしい。
そして五条さんは近づいた私に向き直って、腰を90度に折った。
「ごめん」
ほら、やっぱりちゃんと謝ってくれた。
って七海さんに言ったら「最低限ことをしただけでしょう。やはり貴女は甘い」と言われそうだから心の中に閉まっておく。
五条さんが以前「大人になったら素直に言葉にできなくなる」と言っていたのは正解だと思う。
他責思考で、何が何でも謝れない人っているから。
「もういいんです」
「その、何を言っても言い訳にしかならないんだけど」
「だから、もういいんです」
謝ってくれたら追求しないって決めたから。
そう言えば、五条さんの手が身体の横でモゾモゾ動いていた。
「ぎゅーしますか?」
両手を広げると、五条さんがいつもとは違って遠慮がちにハグしてきた。
五条さんはハグが好きなんだと思う。
これを話しても誰も共感してくれないけど。
「あれ?」
急に五条さんの温もりがなくなった。
というか…。
「触れない?」
「チッ」
「ちょっとー。邪魔しないでよ」
七海さん、まだ狙ってたんだ…。
「ふふっ」
面白くなって笑ってしまった。
この二人、意外といいコンビだと思うんだけど。
「あ、じゃあ…七海さんのギャップ教えてくれたら許します」
「七海のギャップ?」
「それ、この間聞いていたじゃないですか」
「七海さんって他にもギャップありそうだなぁーって思って」
五条さんはうーん、と首を捻るとポンっと拳を作った右手を左手に乗せた。
「こう見えて七海は脳筋」
「脳筋…」
「意外じゃない?七海ってインテリ感満載なのに。結界術も苦手だよね」
「帳ぐらいは降ろせます」
「とばり…」
きっと帳は結界の一種なのだろう。
初歩的なものとみた。
「七海さんが脳筋タイプっていうのは物凄くギャップあります!」
まあ、確かにガタイ良いから納得かも。
「でも、七海さんって証券会社に勤めてたんですよね?ってことは頭もいいから、インテリっていうのも合ってると思います。つまり……インテリ脳筋?」
インテリと脳筋って共存することあるんですね、と言えば五条さんは声を上げて笑っていた。
「インテリ脳筋……。よくわからないですし、嬉しくないですね」
「ですよね。脳筋って悪口に近いし。やっぱり七海さんはインテリキャラでいきましょう!」
「特にキャラ付けを求めているわけではないのですが…」
七海さんが怒ってくれたおかげで、私の気持ちはすっかり収まっていた。
「私もいつかキャラ付けしてもらえるように頑張ります!」
「癒しキャラでいいじゃん」
「なんかあざとくて嫌です…。自称できるやつがいい…」
「確かに癒しキャラ自称してたらやばい」
でも五条さんが癒されてくれてるのならそれは嬉しい。
目指してどうこうできるのかわからないけど、大変な世界で生きてる人達のちょっとした休憩処ぐらいになれたらいいなぁ。
でもまずは事務員として自立せねば!
スーパー事務員って言ってもらえるように頑張ろう。
