【二章】あの子の秘密
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(七海視点)
廊下ですれ違った名前さんの背中が一瞬で遠く、小さくなっていった。
「(おかしい…)」
いつもならすれ違った時は「お疲れ様です」と向こうから挨拶してくれるのに。
急いでいたとしても(といっても、今の彼女に急ぎの仕事が振られることはないだろう)挨拶は欠かさなさそうな彼女。
違和感を感じた。
気になったことは解決しておきたい性分。
私は踵を返して、随分離れてしまった背中を早足で追いかけた。
歩幅の違いからあっという間に距離は縮まり、いつでも声を掛けられるが、どうしようか。
客観的に私達を見たら、女性を後ろから付け回している大男の図が出来上がっていることだろう。
それは不味いと思い、人気のない校舎裏に差しかかったところで声を掛けた。
「名前さん」
「七海さん……」
お疲れ様です、と小さく呟いた彼女。
おそらくさっきすれ違ったことに気づいていなかったのだろう。
だが、こんなにも大きな体躯をしている自分を見落とすか?
まあ、その理由は見て分かる。
やはり気が落ち込んでいるようだ。
「……何かありましたか?」
私でよければ聞きますよ、と言えば名前さんは口をパクパク小さく動かしたと思えば閉口してしまった。
言いづらいことを言えるほどの仲かと言われれば、そこまで我々の距離は縮まっていないだろう。
「女性がよければ、仲介しますよ」
新田明はどうだろうか。
会うたびに根元の黒髪部分が気になって仕方がない快活な女性を思い浮かべた。
気さくではあるが、名前さんとはタイプが違いすぎるか…?だが若手だから彼女も話しやすいかもしれない。
「大丈夫です……。ちょっとびっくりしてしまって……」
これは「何に?」と聞いていいのだろうか…。
話しかけたはいいが、気の利いた会話もできず、ただ彼女の動向を注視するしかなかった。
一人になりたかったのでは、と思ったが、今さらこんな中途半端な状態で去るのもいかがなものかと思う。
「ぉ……」
「え?」
金魚みたいに再びパクパク開いた口から、僅かに声が漏れているので、耳を澄ました。
「お尻を触られるのって……ここでは普通のことなのでしょうか…?」
「は?」
俯いて垂れている髪の隙間から見えた顔は、眉根を寄せて、視線を地面に落とし、口を固く結んでいた。
「!!…誰にされたんですか?」
湯沸かし器のように内側から己の血液が沸騰するような感覚に襲われた。
「………」
言おうか、言わまいか悩んでいる名前さんに己の眼力で吐かせた。
「……ご、じょうさんです」
*********************
七海さんは、私に安心感を与えてくれる。
この人になら相談しても大丈夫、と根拠のない自信が湧き上がってくるのだ。
名前を告げた後、「ああ…言ってしまった」と若干後悔した。
「あの、五条さんには恩があるので…何も言わないで欲しいです」
「それとこれとは別でしょう」
びっくりしたし、まあ…ちょっとイヤだったけど、大事にしたくない。
なら最初から相談せずに自分で解決しろって話なのだが。
「手がたまたま当たった…とは違うんですよね?」
「……」
あの流れでたまたまはありえない。
キュッとスカートを握ると、七海さんは大きなため息を吐いた。
「大変申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる七海さんに私は慌てた。
「何で、七海さんが謝るんですか!頭上げてください」
「残念ながら、あの男は呪術界において代えが居ません。解雇することは難しいです」
「か、解雇!?そんなの望んでないです」
「あの人からまともな謝罪が出てくるとも思えません。ですから代わりに私が……」
「いいです、いいです!それに…」
五条さんに罰を望んでいない。
そうなるとこの気持ちは自分で消化しないと。
あの時は咄嗟に逃げちゃったけど、五条さんのことだからきっと謝ってくれるはず。
一言「ごめん」を聞くことができたら、私は理由を尋ねたり、責めたりすることなく水に流そう。
「七海さんのおかげでちょっと気持ちが落ち着きました」
「……貴女は良い人すぎますね」
「七海さんこそ」
「だからこそ、心配になる」
ゴーグル越しに薄っすら見えた目は心配そうに細められていた。
大丈夫ですよ、そう言おうと口を開いたとき、七海さんの後ろからもう一人上背のある男が立っていた。
「五条さん…」
廊下ですれ違った名前さんの背中が一瞬で遠く、小さくなっていった。
「(おかしい…)」
いつもならすれ違った時は「お疲れ様です」と向こうから挨拶してくれるのに。
急いでいたとしても(といっても、今の彼女に急ぎの仕事が振られることはないだろう)挨拶は欠かさなさそうな彼女。
違和感を感じた。
気になったことは解決しておきたい性分。
私は踵を返して、随分離れてしまった背中を早足で追いかけた。
歩幅の違いからあっという間に距離は縮まり、いつでも声を掛けられるが、どうしようか。
客観的に私達を見たら、女性を後ろから付け回している大男の図が出来上がっていることだろう。
それは不味いと思い、人気のない校舎裏に差しかかったところで声を掛けた。
「名前さん」
「七海さん……」
お疲れ様です、と小さく呟いた彼女。
おそらくさっきすれ違ったことに気づいていなかったのだろう。
だが、こんなにも大きな体躯をしている自分を見落とすか?
まあ、その理由は見て分かる。
やはり気が落ち込んでいるようだ。
「……何かありましたか?」
私でよければ聞きますよ、と言えば名前さんは口をパクパク小さく動かしたと思えば閉口してしまった。
言いづらいことを言えるほどの仲かと言われれば、そこまで我々の距離は縮まっていないだろう。
「女性がよければ、仲介しますよ」
新田明はどうだろうか。
会うたびに根元の黒髪部分が気になって仕方がない快活な女性を思い浮かべた。
気さくではあるが、名前さんとはタイプが違いすぎるか…?だが若手だから彼女も話しやすいかもしれない。
「大丈夫です……。ちょっとびっくりしてしまって……」
これは「何に?」と聞いていいのだろうか…。
話しかけたはいいが、気の利いた会話もできず、ただ彼女の動向を注視するしかなかった。
一人になりたかったのでは、と思ったが、今さらこんな中途半端な状態で去るのもいかがなものかと思う。
「ぉ……」
「え?」
金魚みたいに再びパクパク開いた口から、僅かに声が漏れているので、耳を澄ました。
「お尻を触られるのって……ここでは普通のことなのでしょうか…?」
「は?」
俯いて垂れている髪の隙間から見えた顔は、眉根を寄せて、視線を地面に落とし、口を固く結んでいた。
「!!…誰にされたんですか?」
湯沸かし器のように内側から己の血液が沸騰するような感覚に襲われた。
「………」
言おうか、言わまいか悩んでいる名前さんに己の眼力で吐かせた。
「……ご、じょうさんです」
*********************
七海さんは、私に安心感を与えてくれる。
この人になら相談しても大丈夫、と根拠のない自信が湧き上がってくるのだ。
名前を告げた後、「ああ…言ってしまった」と若干後悔した。
「あの、五条さんには恩があるので…何も言わないで欲しいです」
「それとこれとは別でしょう」
びっくりしたし、まあ…ちょっとイヤだったけど、大事にしたくない。
なら最初から相談せずに自分で解決しろって話なのだが。
「手がたまたま当たった…とは違うんですよね?」
「……」
あの流れでたまたまはありえない。
キュッとスカートを握ると、七海さんは大きなため息を吐いた。
「大変申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる七海さんに私は慌てた。
「何で、七海さんが謝るんですか!頭上げてください」
「残念ながら、あの男は呪術界において代えが居ません。解雇することは難しいです」
「か、解雇!?そんなの望んでないです」
「あの人からまともな謝罪が出てくるとも思えません。ですから代わりに私が……」
「いいです、いいです!それに…」
五条さんに罰を望んでいない。
そうなるとこの気持ちは自分で消化しないと。
あの時は咄嗟に逃げちゃったけど、五条さんのことだからきっと謝ってくれるはず。
一言「ごめん」を聞くことができたら、私は理由を尋ねたり、責めたりすることなく水に流そう。
「七海さんのおかげでちょっと気持ちが落ち着きました」
「……貴女は良い人すぎますね」
「七海さんこそ」
「だからこそ、心配になる」
ゴーグル越しに薄っすら見えた目は心配そうに細められていた。
大丈夫ですよ、そう言おうと口を開いたとき、七海さんの後ろからもう一人上背のある男が立っていた。
「五条さん…」
