【二章】あの子の秘密
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(狗巻視点)
新しい事務員さんは、ほとんど呪術のことを知らないらしい。ただ見えるだけの人。
呪言師の家系出身としては、彼女の存在は稀有だった。呪力は視認できないし、使えるほど持ってないようで、だからこそほぼ一般人。
高専内にいる人達を強さ順で並べたなら、間違いなく最弱。
というか、こんなところに居て大丈夫なのか…。
「あ、狗巻くん」
体術の訓練後、休憩がてら地べたに座っていたら、目の前を名前さんが通った。
「こんぶ」
片手を上げて挨拶をすると、伝わったらしく「こんにちは」と返ってきた。
「体術訓練のあと?」
「しゃけ」
飲み物とタオルが乱雑に置かれていたのを見て聞かれた。
「お疲れ様。甘いもの好き?」
「しゃけ」
おにぎり語が分からない彼女のために、「しゃけ」の後に首を縦に振ると、それが肯定の意だとすぐに理解してくれるようになった。
ポケットから出てきたのは小分けになったたけのこの形をした袋だった。
「はい、どうぞ」
「ツナマヨ」
多分、流れからお礼を言ったと伝わっているはず…。
予想通り「どういたしまして」と返ってきた。
「え、座れって?」
「しゃけ!」
汗を拭いてない方を上にしてタオルを敷き、ポンポンと隣を叩いた。
「じゃあ、せっかくのお誘いだからお邪魔します」
腰を下ろした名前さん。
二人で食べようと貰った小袋を開けたら、彼女はもう一袋をポケットから出した。
「私も食べようかな」
それはきのこの形をしていた。
「あ、こっちの方がよかったかな!?」
交換する?と差し出されて、何できのこ派だと思っているのだろうかと思案していたら、彼女の目線は自分の髪型に向けられていた。
「おかか」
首を振って、こっちでいいとたけのこの袋を掲げると「たけのこ派なんだ」と勘違いされた。
正直どっちでもよかったので、わざわざ交換しなくていいという意味だったのだが。
「私はどっちも好きなんだ」
へらりと笑った顔につられて、自分の目尻も下がった気がした。
「すじこ」
「あ、交換してくれるの?」
たけのこを一つ、彼女が開けた袋の中に入れてやると、きのこが一つ返ってきた。
「わっ…」
一つ口の中に入れたとき、隣から驚く声が聞こえて視線をやると、自分の口元を見ていた。
ああ、呪印を見て驚いたのか。
怖がらせてしまったと思い、ジッパーを上げた。
食べづらいが上から入れよう。
「え、何で上げちゃうの」
「こんぶ」
だって、怖いんでしょう?と言ったが、伝わらなかったので、口元を指さした。
「あ、見られたくなかった?じゃあ私、前向いて食べるよ」
まあ、あまり気に入っていないので見られたくないといえばそうなのだが…。
やはり上手く意思疎通するのが難しい。
前を向きながら、また一つ彼女は口に放り込んだ。
「一瞬しか見えなかったけど、とても素敵な模様だね」
狗巻くんはお洒落さんなんだね、と言われ、お洒落で入れたタトゥーだと思われていることに気づいた。
「〜〜…っ」
これは説明すべきか、どうするか。
説明しようにもおにぎり語だけで説明できない。
うーん…と悩み、ハッと閃いた。
「すじこ」
「手?」
名前さんは素直に手を出してくれた。
そこに指で文字を書く。
「呪印?」
「しゃけ!」
伝わったが、呪印は何か…と説明するにはかなり時間が掛かる。スマホに打ち込むか悩んでいたら、名前さんは悲しそうな表情を浮かべた。
「ごめんね」
「?」
「無知は人を傷つける……。狗巻くんを傷つけちゃった」
私が無知なばっかりにごめんなさい、と謝られた。
「おかか!」
首を横に振って傷ついていないことをアピールした。
見られたくないわけじゃない、と再びジッパーを下げた。彼女が怖がってないなら見られても構わない。
「ごめんなさい、お洒落なタトゥーだと勘違いしちゃった。狗巻くんの意思で入れたものじゃないんだよね」
昨日、自分が呪言師であることは憂太が説明してくれた。
名前さんは無知だけど、馬鹿じゃない。
呪印の一言で察してくれたようだ。
しゅん、と元気がなくなってしまった彼女に笑ってほしくて。
再び手を取って文字を書いた。
「ええっと…❝格好いい?❞」
口元を指さしながら、こてんと首を傾げて名前さんに尋ねた。
あざといことは自分でも分かっている。
そして、口元だけではなく舌の呪印を見せた。
「わっ。舌にも入ってるんだ!うん!すごく格好いいよ!!」
「しゃけしゃけ!!」
格好いいと言ってもらえて嬉しくない男などいない。喜んでいる自分を見て、機嫌を損ねたわけじゃないと納得してもらえたようだ。
「もっと見て良い?」
「しゃ、しゃけ…」
べっ、と出した舌をまじまじ見られると嫌じゃないが、恥ずかしい。
「うん、これは狗巻くんのアイデンティティ的なものなんだから、やっぱり素敵な模様ってことで間違いない」
至近距離でにこりと笑った名前さんに、胸が高鳴った。これは…あれか?思春期特有の年上女性に憧れるやつ?
「私も早くおにぎり語マスターしたいんだけど、時間かかっちゃったらごめんね。ハンドサインとか作ってないんだよね?」
ハンドサイン…。
おにぎり語がわからない人には身振り手振りで伝えることはあるが、ハンドサインは使ったことがない。
手話を覚えるのは大変だしなぁ…。
自分だけでなく相手にも覚えてもらわないといけないし。
「おかか…」
ハンドサインは使ってないが…。
「こんぶっ!すじこ〜」
今、名前さんと二人のハンドサイン作りたい!と伝えたのだが、彼女は首を傾げて伝わらない。
「〜〜〜」
スマホに打ち込もうとしたとき、名前さんは「あっ!」と声を漏らした。
「せっかくだから、一個だけ私達のハンドサイン作らない?」
おにぎり語マスターしてる人達との差が欲しい…と言い出した。
「しゃけ!」
大きく頷いた。
自分も同じことを考えていた、とは伝わらないだろう。だからあえて言わない。自分だけが知っていればいい。
「何にしようかなぁ。あっ!狗巻くんだから犬の影絵作るときの手の形はどう?」
それ、恵が式神呼び寄せるときのやつ…。
でもそんなこと知らない名前さんは両手を重ねて犬を作った。
「しゃけ!」
わんわん、と言いながら手を動かすのが可愛くて、指を丸くしてオッケーサインを出した。
「で、次は意味だけど……このハンドサインでどんな意味にしよう?」
「……こんぶ?」
❝おかえり❞と❝ただいま❞、両方の意味を持つなんてどうだろう?と提案すれば名前さんは頷いた。
「じゃあ、狗巻くんが任務から帰ってきたときに使うね!」
「しゃけ!」
やってることが小学生みたいだが、楽しかった。
早くハンドサイン使いたくて、次の任務が待ち遠しかった。
新しい事務員さんは、ほとんど呪術のことを知らないらしい。ただ見えるだけの人。
呪言師の家系出身としては、彼女の存在は稀有だった。呪力は視認できないし、使えるほど持ってないようで、だからこそほぼ一般人。
高専内にいる人達を強さ順で並べたなら、間違いなく最弱。
というか、こんなところに居て大丈夫なのか…。
「あ、狗巻くん」
体術の訓練後、休憩がてら地べたに座っていたら、目の前を名前さんが通った。
「こんぶ」
片手を上げて挨拶をすると、伝わったらしく「こんにちは」と返ってきた。
「体術訓練のあと?」
「しゃけ」
飲み物とタオルが乱雑に置かれていたのを見て聞かれた。
「お疲れ様。甘いもの好き?」
「しゃけ」
おにぎり語が分からない彼女のために、「しゃけ」の後に首を縦に振ると、それが肯定の意だとすぐに理解してくれるようになった。
ポケットから出てきたのは小分けになったたけのこの形をした袋だった。
「はい、どうぞ」
「ツナマヨ」
多分、流れからお礼を言ったと伝わっているはず…。
予想通り「どういたしまして」と返ってきた。
「え、座れって?」
「しゃけ!」
汗を拭いてない方を上にしてタオルを敷き、ポンポンと隣を叩いた。
「じゃあ、せっかくのお誘いだからお邪魔します」
腰を下ろした名前さん。
二人で食べようと貰った小袋を開けたら、彼女はもう一袋をポケットから出した。
「私も食べようかな」
それはきのこの形をしていた。
「あ、こっちの方がよかったかな!?」
交換する?と差し出されて、何できのこ派だと思っているのだろうかと思案していたら、彼女の目線は自分の髪型に向けられていた。
「おかか」
首を振って、こっちでいいとたけのこの袋を掲げると「たけのこ派なんだ」と勘違いされた。
正直どっちでもよかったので、わざわざ交換しなくていいという意味だったのだが。
「私はどっちも好きなんだ」
へらりと笑った顔につられて、自分の目尻も下がった気がした。
「すじこ」
「あ、交換してくれるの?」
たけのこを一つ、彼女が開けた袋の中に入れてやると、きのこが一つ返ってきた。
「わっ…」
一つ口の中に入れたとき、隣から驚く声が聞こえて視線をやると、自分の口元を見ていた。
ああ、呪印を見て驚いたのか。
怖がらせてしまったと思い、ジッパーを上げた。
食べづらいが上から入れよう。
「え、何で上げちゃうの」
「こんぶ」
だって、怖いんでしょう?と言ったが、伝わらなかったので、口元を指さした。
「あ、見られたくなかった?じゃあ私、前向いて食べるよ」
まあ、あまり気に入っていないので見られたくないといえばそうなのだが…。
やはり上手く意思疎通するのが難しい。
前を向きながら、また一つ彼女は口に放り込んだ。
「一瞬しか見えなかったけど、とても素敵な模様だね」
狗巻くんはお洒落さんなんだね、と言われ、お洒落で入れたタトゥーだと思われていることに気づいた。
「〜〜…っ」
これは説明すべきか、どうするか。
説明しようにもおにぎり語だけで説明できない。
うーん…と悩み、ハッと閃いた。
「すじこ」
「手?」
名前さんは素直に手を出してくれた。
そこに指で文字を書く。
「呪印?」
「しゃけ!」
伝わったが、呪印は何か…と説明するにはかなり時間が掛かる。スマホに打ち込むか悩んでいたら、名前さんは悲しそうな表情を浮かべた。
「ごめんね」
「?」
「無知は人を傷つける……。狗巻くんを傷つけちゃった」
私が無知なばっかりにごめんなさい、と謝られた。
「おかか!」
首を横に振って傷ついていないことをアピールした。
見られたくないわけじゃない、と再びジッパーを下げた。彼女が怖がってないなら見られても構わない。
「ごめんなさい、お洒落なタトゥーだと勘違いしちゃった。狗巻くんの意思で入れたものじゃないんだよね」
昨日、自分が呪言師であることは憂太が説明してくれた。
名前さんは無知だけど、馬鹿じゃない。
呪印の一言で察してくれたようだ。
しゅん、と元気がなくなってしまった彼女に笑ってほしくて。
再び手を取って文字を書いた。
「ええっと…❝格好いい?❞」
口元を指さしながら、こてんと首を傾げて名前さんに尋ねた。
あざといことは自分でも分かっている。
そして、口元だけではなく舌の呪印を見せた。
「わっ。舌にも入ってるんだ!うん!すごく格好いいよ!!」
「しゃけしゃけ!!」
格好いいと言ってもらえて嬉しくない男などいない。喜んでいる自分を見て、機嫌を損ねたわけじゃないと納得してもらえたようだ。
「もっと見て良い?」
「しゃ、しゃけ…」
べっ、と出した舌をまじまじ見られると嫌じゃないが、恥ずかしい。
「うん、これは狗巻くんのアイデンティティ的なものなんだから、やっぱり素敵な模様ってことで間違いない」
至近距離でにこりと笑った名前さんに、胸が高鳴った。これは…あれか?思春期特有の年上女性に憧れるやつ?
「私も早くおにぎり語マスターしたいんだけど、時間かかっちゃったらごめんね。ハンドサインとか作ってないんだよね?」
ハンドサイン…。
おにぎり語がわからない人には身振り手振りで伝えることはあるが、ハンドサインは使ったことがない。
手話を覚えるのは大変だしなぁ…。
自分だけでなく相手にも覚えてもらわないといけないし。
「おかか…」
ハンドサインは使ってないが…。
「こんぶっ!すじこ〜」
今、名前さんと二人のハンドサイン作りたい!と伝えたのだが、彼女は首を傾げて伝わらない。
「〜〜〜」
スマホに打ち込もうとしたとき、名前さんは「あっ!」と声を漏らした。
「せっかくだから、一個だけ私達のハンドサイン作らない?」
おにぎり語マスターしてる人達との差が欲しい…と言い出した。
「しゃけ!」
大きく頷いた。
自分も同じことを考えていた、とは伝わらないだろう。だからあえて言わない。自分だけが知っていればいい。
「何にしようかなぁ。あっ!狗巻くんだから犬の影絵作るときの手の形はどう?」
それ、恵が式神呼び寄せるときのやつ…。
でもそんなこと知らない名前さんは両手を重ねて犬を作った。
「しゃけ!」
わんわん、と言いながら手を動かすのが可愛くて、指を丸くしてオッケーサインを出した。
「で、次は意味だけど……このハンドサインでどんな意味にしよう?」
「……こんぶ?」
❝おかえり❞と❝ただいま❞、両方の意味を持つなんてどうだろう?と提案すれば名前さんは頷いた。
「じゃあ、狗巻くんが任務から帰ってきたときに使うね!」
「しゃけ!」
やってることが小学生みたいだが、楽しかった。
早くハンドサイン使いたくて、次の任務が待ち遠しかった。
