狼さんと一緒/荒北
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毎年芸術鑑賞会というものが行事でありまして。
去年は歌舞伎を学校で見に行った。
けれど今年は予算の都合とか貸切が希望の日程で取れなかったからとか色んな憶測が飛び交う中で、なぜか各クラスが発表会をすることになった。
名目は芸術鑑賞なので合唱か劇の2択。
そして均等に割り振るため各クラスの委員長が抽選をした結果、うちは劇になった。
「ということで、演目何にしますかー?」
委員長の友達が教壇に立ち意見を求める。
シンデレラや白雪姫などベタな演目が次々に上がっていく。
「ねぇねぇ、荒北くんは何がいいの?」
隣で興味なさそうにあくびをしている荒北くんに喋りかけた。
「どーでもいい。簡単なやつ。名前チャンは?」
「私もなんでもいいかな。きっと何になっても裏方だし」
幼稚園で保護者のために強制的に表舞台に立たされる劇以外はこういう機会があっても裏方を率先して希望してきた。
人前に立つとか恥ずかしすぎる。
コソコソと話している間に大方の候補が上がり、最後の投票で演目が決まった。
「白雪姫か~」
主役の2人も我がクラスきっての美男美女で決まった。
委員長がこの芸術鑑賞会の取りまとめをしている先生のもとに報告をしに行っている間、主役以外の配役と役割分担を決める流れになった。
私は何の係しようかな~と黒板に書きだされた役割を眺めているとドタドタと走ってくる音が聞こえた。
「ごめん!ダメだった」
委員長が教室のドアを開けると開口一番にそう告げた。
「他と被っちゃってさ。ジャンケンで負けた」
申し訳なさそうな顔で謝る委員長にみんなは「いいよいいよ決めなおそう」と他に上がっていた演目に目を向けた。
「それがさー、さっきの一発目の提出で被ってたのがうちのクラスだけでさ。ほとんどの演目他に取られちゃってるんだよね」
そういって委員長はすでに決まってしまった演目を黒板から消していった。
残った候補は2つだけだった。
「美女と野獣か赤ずきんちゃん」
委員長が残った候補を口に出した瞬間、クラスの視線が一点に集中した。
みんな荒北くんを見てる。
荒北くんは自分に集まった視線に口元が引きつっていた。
「あンだよ」
「なんていうかさぁ、もはやこの2つの内どちらにするか演目決める前に主役が決まった気がするんだけど・・・」
野獣役か狼役。
確かにどちらをとっても荒北くんほど適任はいないだろう。
「は!?絶対やらねェ!!」
当の本人は断固拒否。
「どっちにするかは荒北が決めていいからさ!」
委員長であり私の友達でもある彼女は荒北くんに物怖じしない女子の1人だ。
「だからどっちもやだからァ!!」
荒北くんどうするんだろう・・・とハラハラしながら見守っていると委員長と目が合った。
「で、ヒロインは名前ね」
まさかの飛び火。
「えっ、何で!?むむむ・・・無理だよ!私人前に出るの苦手だし・・・」
「大丈夫!名前はちゃんと可愛いから」
可愛くないし論点違う!と視線で抗議した。
「だって、荒北と仲いいし。練習もしやすいかと思って」
ちょいちょいと私に手招きしたので教壇に近寄る。
彼女は私に耳打ちをした。
「こういうのってさ、普段のイメージ大事じゃん?学年で野獣の称号が荒北の専売特許ってことは知られてるからここで荒北じゃないやつがこの演目で主役したら、鑑賞してるみんなが何で?ってなるじゃん。みんなが荒北の野獣か狼を期待してるよ」
ほら見て、と言われクラスに目を向けるとみんなが荒北くんにチラチラと視線を向けているし、中には笑いを堪えている人も。
「でも本人嫌がってるよ?このままじゃ引き受けないと思うけど・・・」
「だから!名前がヒロインやれば荒北も絶対引き受けるから!」
「ええ・・・そんなことないと思うけど・・・」
「そんなことあるの!だからさ、引き受けてくれないかな?」
友達にはいつも助けてもらっている。
だから彼女の頼み事と思うと自分の恥など捨てるべきかもしてないと私は思い、小さく頷いた。
「みんな!名前がヒロインやるって!」
おおーっと拍手が起こった。
こんなに注目されるの初めてで恥ずかしい。
荒北くんは信じられないといった表情をしていた。
席に戻ると荒北くんは身を乗り出した。
「何で引き受けたわけェ」
「荒北くんと一緒なら頑張れるかなぁって…」
荒北くんは言葉に詰まっていた。
あれ、なんかもう一押しっぽい?
「あと私も荒北くんの野獣か狼役見たいなぁ…って思って」
これは嘘ではなかった。
私も見てみたいという気持ちは本当だった。
「でも俺チャリ部の練習あるし…」
荒北くんは最もな断り文句を立てた。
確かに彼の練習時間を削ることはいかがなものだろう…ましてや全国優勝がかかっている部だ。
そう思うと無理に勧めるのは気が引けた。
「ねぇ、ねぇ・・・私は放課後暇だからいいけど、やっぱり荒北くんは主役から外した方が…」
「ふーん。じゃあ、男子の主役誰にする?あ、斉藤くんどう?」
委員長が指名したのは先程白雪姫の時に主役に上がっていたイケメン君だ。
荒北くんは斉藤くんに目を向けた。
「あ、この子運動神経皆無だから美女と野獣になったらしっかりダンスはリードしてあげてね。手取り足取り腰取り」
彼女はペラペラとまくし立てるようにして喋った。
特に最後の部分強調してたような…。
すると黙って聞いていた荒北くんがいきなり立ち上がった。
みんなの視線が荒北くんに集まる。
「…………やる」
荒北くんの返事にクラスのみんなが拍手した。
委員長の方を見ると口元が上がっていた。
****
「聞いたぞ、荒北!」
部活が終わり着替えているとき新開が話しかけてきた。
「そっちのクラス赤ずきんちゃんやるんだってな。しかも荒北が狼役で名前ちゃんが赤ずきんちゃん」
結局美女と野獣はダンスがあったり歌ったりと難易度が高いということで、赤ずきんちゃんになった。
原作にはない配役を増やしたりして多少アレンジは加えるらしい。
じゃないと赤ずきん、狼、ばばあ、木こりの4人ぐれェしか出てこねーし。
「ワッハッハッハ!荒北が狼か!お似合いではないか。むしろお前のためにある演目だな!」
「ッセ!」
茶化す東堂を俺は睨んだ。
俺の狼より、名前チャンの赤ずきんちゃんの方がぜってェー似合ってる。
斉藤のヤローとダンスなんかさせられるかっての。
結局俺の部活に配慮して、練習は昼休みを中心に行われることになった。
主役を引き受けた代わりに裏方作業は一切免除で、それらの作業を放課後に行うらしい。
ということで、休む暇はないが部活にも支障は出なさそうだ。
「名前ちゃん、よく引き受けたね」
確かに自分でも言っていたが名前チャンはどう見ても裏方向きだ。
何かを委員長に吹き込まれてたっぽいが・・・。
ふと脳裏に名前チャンの発言がよぎった。
"荒北くんと一緒なら頑張れるかなって・・・"
俺はタオルでにやける顔を隠した。
「む、何を変な顔をしておる。・・・いかんぞ!練習にかこつけて名字ちゃんを取って食おうなど!」
東堂がギャーギャー騒ぎ出した。
「・・・東堂うるせー」
最初指名されたときは吐き気がしたが、名前チャンとやるならまあいいかと最近では思えてきた。
「仕方ねェから頑張るか」
名前チャンのために。
荒北くんと主役を一緒にやることになり、始めはみんな休み時間だけで台本合わせをやっていたものの、アレンジを加えたせいか色々な人との絡みが増え間に合わなくなってきた。
そこで荒北くんと私だけのシーンは荒北くんの部活が終わった後に2人で合わせることになった。
「名前チャン、お待たせ」
我が学園には視聴覚室というものがあり、申請すれば借りられる。
そこは図書室に併設されていて、グループでテレビ教材を見ながら勉強したり図書室で調べものをしながらグループワークの資料を作成したりするための部屋だ。
ここなら防音になっていて練習もしやすいと思い、私は放課後荒北くんの部活が終わる時間に合わせて部屋を確保していた。
「ううん。お疲れ様!部活終わって疲れてるのにごめんね」
「何で名前チャンが謝んの」
荒北くんはシャワーを浴びてきたらしく少し髪が濡れていた。
「やるかァ」
ちゃんと読み込んでいるらしく、荒北くんが取り出した台本は少しよれていた。
私達は今日合わせるシーンのページを開いた。
それから俺たちは休憩もはさみながら小一時間練習した。
一通り終わったからついでに明日の宿題も終わらせることにした。
「アー、疲れた」
俺は伸びをして集中していた体を解した。
「もうそろそろ帰るかァ」
外を見るともう薄暗い。
早く名前チャンを帰さねーと。
さっきから静かだなと思い視線を向けると名前チャンはシャーペンを握りしめながら寝ていた。
起こそうと思い、肩に手をかけようとしたがその手を止めた。
寝てるところなんて初めて見た。
授業中も真面目な名前チャンは一切寝ない。
いつも真剣な目でノートを取っている。
だから名前チャンの寝顔なんて新鮮だ。
なんとなく起こすのがもったいないと思い、肘をついて俺はその顔を眺めた。
穴が開くほど見ているのに一切起きる様子がない。
「起きないと食っちまうぞ」
ガオー。
・・・・自分で言って恥ずかしくなった。
あれだ。台本に似たような台詞あったからな、うん。
なんて名前チャンは夢の中なのに自分に言い訳した。
あれから一週間後。
とにもかくにも、無事に当日を終えることができた。
荒北くんの狼役は大盛況だった。
友達に記念に撮ってもらったツーショットは私の宝物。
待ち受けにしようかとも思ったがそれは荒北くんに止められた。
「あ。名前、これ荒北に渡しといて」
そう言って封筒を渡されたので自転車部の部室へ届けに行った。
「はい、委員長から預かったよ」
荒北くんは封筒を受け取った。
「あいつ、何で名前チャンに渡すんだヨ」
その場で開ける素振りはない。
「それなーに?」
気にはなったが、ホッチキスで口が止められていたし何より勝手に見るのはダメだと思い見ていない。
「ナイショ。届けてくれてありがとネ」
それ以上は深く追求しなかった。
誰にでも知られたくないこととかあるしね。
「じゃあ、お邪魔しました~」
私は任務を終えたので自電車競技部を後にした。
「しばらくあいつには頭上がらねー」
荒北くんが封筒から私の赤ずきんちゃん姿の写真と『今回役を引き受けてくれたお礼。次何かあったときはよろしく』というメモを眺めていたことを私は知る由もなかった。
去年は歌舞伎を学校で見に行った。
けれど今年は予算の都合とか貸切が希望の日程で取れなかったからとか色んな憶測が飛び交う中で、なぜか各クラスが発表会をすることになった。
名目は芸術鑑賞なので合唱か劇の2択。
そして均等に割り振るため各クラスの委員長が抽選をした結果、うちは劇になった。
「ということで、演目何にしますかー?」
委員長の友達が教壇に立ち意見を求める。
シンデレラや白雪姫などベタな演目が次々に上がっていく。
「ねぇねぇ、荒北くんは何がいいの?」
隣で興味なさそうにあくびをしている荒北くんに喋りかけた。
「どーでもいい。簡単なやつ。名前チャンは?」
「私もなんでもいいかな。きっと何になっても裏方だし」
幼稚園で保護者のために強制的に表舞台に立たされる劇以外はこういう機会があっても裏方を率先して希望してきた。
人前に立つとか恥ずかしすぎる。
コソコソと話している間に大方の候補が上がり、最後の投票で演目が決まった。
「白雪姫か~」
主役の2人も我がクラスきっての美男美女で決まった。
委員長がこの芸術鑑賞会の取りまとめをしている先生のもとに報告をしに行っている間、主役以外の配役と役割分担を決める流れになった。
私は何の係しようかな~と黒板に書きだされた役割を眺めているとドタドタと走ってくる音が聞こえた。
「ごめん!ダメだった」
委員長が教室のドアを開けると開口一番にそう告げた。
「他と被っちゃってさ。ジャンケンで負けた」
申し訳なさそうな顔で謝る委員長にみんなは「いいよいいよ決めなおそう」と他に上がっていた演目に目を向けた。
「それがさー、さっきの一発目の提出で被ってたのがうちのクラスだけでさ。ほとんどの演目他に取られちゃってるんだよね」
そういって委員長はすでに決まってしまった演目を黒板から消していった。
残った候補は2つだけだった。
「美女と野獣か赤ずきんちゃん」
委員長が残った候補を口に出した瞬間、クラスの視線が一点に集中した。
みんな荒北くんを見てる。
荒北くんは自分に集まった視線に口元が引きつっていた。
「あンだよ」
「なんていうかさぁ、もはやこの2つの内どちらにするか演目決める前に主役が決まった気がするんだけど・・・」
野獣役か狼役。
確かにどちらをとっても荒北くんほど適任はいないだろう。
「は!?絶対やらねェ!!」
当の本人は断固拒否。
「どっちにするかは荒北が決めていいからさ!」
委員長であり私の友達でもある彼女は荒北くんに物怖じしない女子の1人だ。
「だからどっちもやだからァ!!」
荒北くんどうするんだろう・・・とハラハラしながら見守っていると委員長と目が合った。
「で、ヒロインは名前ね」
まさかの飛び火。
「えっ、何で!?むむむ・・・無理だよ!私人前に出るの苦手だし・・・」
「大丈夫!名前はちゃんと可愛いから」
可愛くないし論点違う!と視線で抗議した。
「だって、荒北と仲いいし。練習もしやすいかと思って」
ちょいちょいと私に手招きしたので教壇に近寄る。
彼女は私に耳打ちをした。
「こういうのってさ、普段のイメージ大事じゃん?学年で野獣の称号が荒北の専売特許ってことは知られてるからここで荒北じゃないやつがこの演目で主役したら、鑑賞してるみんなが何で?ってなるじゃん。みんなが荒北の野獣か狼を期待してるよ」
ほら見て、と言われクラスに目を向けるとみんなが荒北くんにチラチラと視線を向けているし、中には笑いを堪えている人も。
「でも本人嫌がってるよ?このままじゃ引き受けないと思うけど・・・」
「だから!名前がヒロインやれば荒北も絶対引き受けるから!」
「ええ・・・そんなことないと思うけど・・・」
「そんなことあるの!だからさ、引き受けてくれないかな?」
友達にはいつも助けてもらっている。
だから彼女の頼み事と思うと自分の恥など捨てるべきかもしてないと私は思い、小さく頷いた。
「みんな!名前がヒロインやるって!」
おおーっと拍手が起こった。
こんなに注目されるの初めてで恥ずかしい。
荒北くんは信じられないといった表情をしていた。
席に戻ると荒北くんは身を乗り出した。
「何で引き受けたわけェ」
「荒北くんと一緒なら頑張れるかなぁって…」
荒北くんは言葉に詰まっていた。
あれ、なんかもう一押しっぽい?
「あと私も荒北くんの野獣か狼役見たいなぁ…って思って」
これは嘘ではなかった。
私も見てみたいという気持ちは本当だった。
「でも俺チャリ部の練習あるし…」
荒北くんは最もな断り文句を立てた。
確かに彼の練習時間を削ることはいかがなものだろう…ましてや全国優勝がかかっている部だ。
そう思うと無理に勧めるのは気が引けた。
「ねぇ、ねぇ・・・私は放課後暇だからいいけど、やっぱり荒北くんは主役から外した方が…」
「ふーん。じゃあ、男子の主役誰にする?あ、斉藤くんどう?」
委員長が指名したのは先程白雪姫の時に主役に上がっていたイケメン君だ。
荒北くんは斉藤くんに目を向けた。
「あ、この子運動神経皆無だから美女と野獣になったらしっかりダンスはリードしてあげてね。手取り足取り腰取り」
彼女はペラペラとまくし立てるようにして喋った。
特に最後の部分強調してたような…。
すると黙って聞いていた荒北くんがいきなり立ち上がった。
みんなの視線が荒北くんに集まる。
「…………やる」
荒北くんの返事にクラスのみんなが拍手した。
委員長の方を見ると口元が上がっていた。
****
「聞いたぞ、荒北!」
部活が終わり着替えているとき新開が話しかけてきた。
「そっちのクラス赤ずきんちゃんやるんだってな。しかも荒北が狼役で名前ちゃんが赤ずきんちゃん」
結局美女と野獣はダンスがあったり歌ったりと難易度が高いということで、赤ずきんちゃんになった。
原作にはない配役を増やしたりして多少アレンジは加えるらしい。
じゃないと赤ずきん、狼、ばばあ、木こりの4人ぐれェしか出てこねーし。
「ワッハッハッハ!荒北が狼か!お似合いではないか。むしろお前のためにある演目だな!」
「ッセ!」
茶化す東堂を俺は睨んだ。
俺の狼より、名前チャンの赤ずきんちゃんの方がぜってェー似合ってる。
斉藤のヤローとダンスなんかさせられるかっての。
結局俺の部活に配慮して、練習は昼休みを中心に行われることになった。
主役を引き受けた代わりに裏方作業は一切免除で、それらの作業を放課後に行うらしい。
ということで、休む暇はないが部活にも支障は出なさそうだ。
「名前ちゃん、よく引き受けたね」
確かに自分でも言っていたが名前チャンはどう見ても裏方向きだ。
何かを委員長に吹き込まれてたっぽいが・・・。
ふと脳裏に名前チャンの発言がよぎった。
"荒北くんと一緒なら頑張れるかなって・・・"
俺はタオルでにやける顔を隠した。
「む、何を変な顔をしておる。・・・いかんぞ!練習にかこつけて名字ちゃんを取って食おうなど!」
東堂がギャーギャー騒ぎ出した。
「・・・東堂うるせー」
最初指名されたときは吐き気がしたが、名前チャンとやるならまあいいかと最近では思えてきた。
「仕方ねェから頑張るか」
名前チャンのために。
荒北くんと主役を一緒にやることになり、始めはみんな休み時間だけで台本合わせをやっていたものの、アレンジを加えたせいか色々な人との絡みが増え間に合わなくなってきた。
そこで荒北くんと私だけのシーンは荒北くんの部活が終わった後に2人で合わせることになった。
「名前チャン、お待たせ」
我が学園には視聴覚室というものがあり、申請すれば借りられる。
そこは図書室に併設されていて、グループでテレビ教材を見ながら勉強したり図書室で調べものをしながらグループワークの資料を作成したりするための部屋だ。
ここなら防音になっていて練習もしやすいと思い、私は放課後荒北くんの部活が終わる時間に合わせて部屋を確保していた。
「ううん。お疲れ様!部活終わって疲れてるのにごめんね」
「何で名前チャンが謝んの」
荒北くんはシャワーを浴びてきたらしく少し髪が濡れていた。
「やるかァ」
ちゃんと読み込んでいるらしく、荒北くんが取り出した台本は少しよれていた。
私達は今日合わせるシーンのページを開いた。
それから俺たちは休憩もはさみながら小一時間練習した。
一通り終わったからついでに明日の宿題も終わらせることにした。
「アー、疲れた」
俺は伸びをして集中していた体を解した。
「もうそろそろ帰るかァ」
外を見るともう薄暗い。
早く名前チャンを帰さねーと。
さっきから静かだなと思い視線を向けると名前チャンはシャーペンを握りしめながら寝ていた。
起こそうと思い、肩に手をかけようとしたがその手を止めた。
寝てるところなんて初めて見た。
授業中も真面目な名前チャンは一切寝ない。
いつも真剣な目でノートを取っている。
だから名前チャンの寝顔なんて新鮮だ。
なんとなく起こすのがもったいないと思い、肘をついて俺はその顔を眺めた。
穴が開くほど見ているのに一切起きる様子がない。
「起きないと食っちまうぞ」
ガオー。
・・・・自分で言って恥ずかしくなった。
あれだ。台本に似たような台詞あったからな、うん。
なんて名前チャンは夢の中なのに自分に言い訳した。
あれから一週間後。
とにもかくにも、無事に当日を終えることができた。
荒北くんの狼役は大盛況だった。
友達に記念に撮ってもらったツーショットは私の宝物。
待ち受けにしようかとも思ったがそれは荒北くんに止められた。
「あ。名前、これ荒北に渡しといて」
そう言って封筒を渡されたので自転車部の部室へ届けに行った。
「はい、委員長から預かったよ」
荒北くんは封筒を受け取った。
「あいつ、何で名前チャンに渡すんだヨ」
その場で開ける素振りはない。
「それなーに?」
気にはなったが、ホッチキスで口が止められていたし何より勝手に見るのはダメだと思い見ていない。
「ナイショ。届けてくれてありがとネ」
それ以上は深く追求しなかった。
誰にでも知られたくないこととかあるしね。
「じゃあ、お邪魔しました~」
私は任務を終えたので自電車競技部を後にした。
「しばらくあいつには頭上がらねー」
荒北くんが封筒から私の赤ずきんちゃん姿の写真と『今回役を引き受けてくれたお礼。次何かあったときはよろしく』というメモを眺めていたことを私は知る由もなかった。
