狼さんと一緒/荒北
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私は朝から空席の隣に目を向けた。
「荒北休み?」
友達が荒北くんの席に座って私に尋ねた。
「うん。熱があるんだって」
「へー。野獣でも熱出るんだ」
「荒北くんは人間だよ」
私は苦笑を漏らした。
むしろ彼は細身だし、色も白いので風邪にかかりやすいのではないかと私は思う。
新開くんの方が体は強そう。
「お見舞い行くの?」
「無理だよー。寮は女子禁制だもん」
心配だけど私が行くことは叶わない。
それに熱が出ている時に他人が傍にいる方が休まらないとはずだ。
*******
・・・・・・そう考えていたはずなのに。
なぜか私は現在男子寮の裏口にいる。
「名前ちゃん、ここの柵尖ってるから気を付けて」
泥棒のようにコソコソ身をかがめながら前には新開くん、後ろには東堂くんという学園きってのイケメンに挟まれ移動する。
「これダメなやつだよね?見つかったらやばいよ・・・」
私は小声で後ろの東堂くんに話しかけた。
「万一のことがあれば俺らが責任を取るから、今は荒北のもとへ急いでくれ」
「そんなに熱が高いの?」
「うわ言で君の名前を呼んでいたぞ!」
想像をしてみたがそんな弱気な荒北くんイメージできない。
しかし心配は心配だし、ここで自分の保身を考えて帰ってしまえば薄情極まりない気がした。
私は覚悟を決めて荒北くんの部屋を目指した。
「ここだ」
廊下で誰かに鉢合わせしたときのために、東堂くんから借りた自転車部のジャージに上下身を包み帽子を深く被っている。
けれどそんな心配をよそに誰にも会うことなく目的の部屋に辿り着いた。
「ここが荒北くんの部屋・・・」
東堂くんはそっと扉を開けて中の様子を見た。
「大丈夫。寝ているようだ」
「え?それ逆に大丈夫じゃなくない?寝てるなら寝かせてあげておいた方がいいんじゃ・・・」
「いいからいいから。あ、先生だ」
私は新開くんの言葉に驚き咄嗟に身を隠すため部屋の中へ入った。
私が中へ入ったと同時にドアが閉まった。
「え?」
驚きドアを開けようとしたが、先生と鉢合わせするかもしれないので開けられなかった。
しばらく外の様子をドア越に耳を当てて伺ったが、誰も通る気配がない。
私はそっとドアを数センチ開け様子を伺った。
すると先生はいなかったが、あろうことか新開くんと東堂くんもいない。
「嘘でしょ・・・」
てっきり2人も一緒に部屋に入ると思っていた。
まさか男子寮の廊下に自分1人で出てウロウロする勇気もなく、このままドアを閉める以外選択肢はなかった。
「う・・・ん」
荒北くんが寝返りを打った。
私は起こしてしまったのではないかとビクビクしながら振り向いた。
けれど意識はまだ夢の中のようなので胸を撫でおろした。
「私何してあげたらいいんだろう・・・」
キッチンもないからおかゆも作れるわけじゃない。かといって急かされてきたので冷えピタ等気が利くものなど持ってこれず。
唯一買えたのは食堂のプリンだ。
私はそれを備え付けの簡易冷蔵庫の中に入れさせてもらった。
「勝手に開けちゃってごめんなさい」
中はなるべく見ないようにしてそっと隙間から入れた。
「大丈夫かな・・・」
顔を覗き込むと普段の威勢は微塵もない。
「睫毛長ーい」
寝顔をじっくり見るなんて失礼かな。
でも普段見れない荒北くんを見れて不謹慎だが嬉しい気持ちも少しある。
「う…」
眉をひそめて魘されている。
苦しいのかな…。
冷たいタオルがあればいいのだけれど、あいにく水道も廊下に出ないといけないので濡らしにいけない。
せめても…と思い持っていたタオルで汗ばんでいる首筋や額を拭った。
けれどよく見ると顔色はさほど悪くない。
「ん…」
やめておけばよかった。
荒北くんがタオルの感触に気付いて起きてしまった。
「誰だ…?」
「荒北くん、大丈夫…?」
私はタオルを引っ込めて気まずさを隠しながら体調を気遣った。
「あー…名前チャンか」
頭が覚醒していないようだ。
荒北くんはぼんやり天井を眺めている。
「名前チャン……」
「なぁに?」
呼ばれたので返事をした。
「ん………俺今どこにいるっけ」
「自分の部屋だよ」
「そうだ…熱出たンだっけ」
「うん。もう夕方だよ」
「熱が出て…部屋で寝てて…夕方で………ってなんで名前チャン男子寮いんだヨ!?」
「えーっと……新開くんと東堂くんに連れられて」
「あいつら…」
荒北くんは溜息をついた。
「ごめんね、せっかくゆっくり寝てたのに…邪魔だよね。すぐに帰るね」
私は慌てて持っていた鞄を抱えて退室しようとした。
「ちょっ…1人で出たら危ないからァ!」
ベッドから半身を起こした荒北くんは、立ち上がった私の左手首を掴んだ。
「うわっ」
バランスを崩した私は荒北くんの上に乗っかってしまった。
「わわ。病人の上にごめんなさい!」
私は荒北くんの上から退こうとしたが腰に彼の腕が回った。
「別に重くないし、もう熱も下がった」
「熱下がったならよかった…」
でもこの腰に回された手はどうしたらいいのだろう…やっぱり荒北くん意識朦朧として自分の行動に自覚ないのでは。
そう思ったが、嫌ではないのでそのまま会話した。
嫌ではないけど、心臓がドキドキする。
「あ、食堂のプリン買ってきたんだけど食べれそう?」
「食う。ありがとネ」
「勝手に冷蔵庫入れちゃったんだ・・・」
私はベッドから降りた。
「今更だけど・・・開けていい?」
「うん」
「よいしょ」
私はプリンを取り出した。
蓋を開けて簡易なプラスチックスプーンの袋を破いた。
「はい、荒北くん」
「ありがと」
受け取った荒北くんはベッドの上をポンポンと叩いた。
さっきの位置に戻れってことかな。
私は先ほどと同様、ベッドの上に腰かけた。
「名前チャンの分は?」
「時間が時間だったから!最後の一個だったんだ」
荒北くんに買えてよかった。
私が得意気に話すと荒北くんはスプーンで一口掬って私の口元に差し出した。
「ン」
「え?」
食べろということだろうか。
「いいよいいよ!荒北くんのために買ってきたんだから」
私は遠慮した。
「咳とか出てなくてウイルス性じゃないっぽいから移らないと思うんだケド・・・」
荒北くんは私が移ることを懸念して断ったと思ったらしい。
そういえば、全く咳をしていないことに言われてから気づいた。
知恵熱だろうか。
「ううん。移ることを心配したわけじゃないよ!」
「じゃあ」
荒北くんも譲らないらしい。
私は荒北くんと押し問答になったら大抵荒北くんの言う通りになるという過去を思い出した。
「じゃあ一口だけ・・・」
荒北くんが差し出したスプーンに乗っているプリンをパクリと食べた。
「うん、美味しい」
本当は味なんて分からなかった。
「はい」
「え?」
荒北くんはまたスプーンにプリンを乗せて差し出す。
「なんか自分で食べるより名前チャンにあげてる方が楽しい」
「た・・・楽しい?」
「ペットにご飯あげてる気分になる」
ずいっと差し出されたプリンを再び口に含んだ。
空になったスプーンにまたプリンを乗せる。
そして私がまた食べる。
「私ばっかり食べてるよ」
「俺がもらったやつだからどうしようが勝手じゃン」
そう言われると反論できない。
病人にご飯を食べさせてあげるならまだしも、病人に食べさせてもらうなんて。
荒北くんが掬ったプリンをひたすら私が食べるというループが続いた。
プリンが底をつき、荒北くんがごみ箱にカップとスプーンを捨てた。
「ほとんど私が食べちゃったよ」
「俺がそうしたかったの」
荒北くんの表情は満足げだったので、納得はいかなかったが気にしないことにしよう。
「明日は来れそう?」
「行く」
見ていてもだいぶ調子はよさそうだ。
「よかった。じゃぁ私もうそろそろ帰るね」
「見つからないよーにしねェと・・・。ちょっと待ってろ」
荒北くんは携帯で電話を掛けた。
「お前らいい加減にしろよ。・・・ったく。早くこっち来いよ」
ものの数秒で荒北くんの部屋のドアが開いた。
「ひどいなー。せっかく喜ぶと思って連れてきたのに」
新開くんと東堂くんが姿を見せた。
「よし、レディを無事に男子寮から脱出させるぞ。荒北は寝ていろ。無事に届けてくる」
俺も行く、といって聞かなかったがさすがに機敏に動けないだろうしお見舞いに来ているのにそれは絶対させられないとプリンの時とは違い断固拒否した。
荒北くんは心配そうだったが、寮を出て安全を確認できたらすぐに連絡することで話はついた。
「じゃあ、荒北くん。お大事に」
私は東堂くんと新開くんに隠してもらいながら男子寮を後にした。
********
目覚めたとき目の前に名前チャンがいて心底ビビった。
自分の部屋じゃないのかと一瞬思ったがしっかり馴染みの自室だった。
普段寮生活をしているとある程度1人でこなせるようになる。
もともと甘えたな性格でもないが、なんとなく人恋しいと思うときもある。
いや、正確には「人恋しい」というより「名前チャン恋しい」だ。
病人であることを利用してなんかやらかした気もするが、都合が悪い記憶には蓋をしておこう。
規則を侵すことなど考えられない名前チャンが男子寮に1人で忍び込むなど到底考えられない。
あの2人の顔がすぐに思い浮かんだ。
まぁ、嬉しくないといえば嘘になる。
感謝しないでもない。
無理やり連れられてきたであろう名前チャンはプリンを用意してくれていた。
それを一口あげると実家のアキちゃんにご飯をあげたときの嬉しそうな顔とダブって見えた。
・・・・・・カワイイ。
そう思って俺はひたすらプリンを与えた。
彼女は不服そうだったが、俺は大満足だ。
1日動いていない倦怠感は残るものの、体調もだいぶ回復した。
明日またプリン買ったら食べてくれっかな。
教室では無理だろうなァ。
そんなことを考えていたら携帯が震えた。
無事に寮を出られたとういう報告だった。
俺は「お見舞いありがと」と短い文章を彼女に送った。
「荒北休み?」
友達が荒北くんの席に座って私に尋ねた。
「うん。熱があるんだって」
「へー。野獣でも熱出るんだ」
「荒北くんは人間だよ」
私は苦笑を漏らした。
むしろ彼は細身だし、色も白いので風邪にかかりやすいのではないかと私は思う。
新開くんの方が体は強そう。
「お見舞い行くの?」
「無理だよー。寮は女子禁制だもん」
心配だけど私が行くことは叶わない。
それに熱が出ている時に他人が傍にいる方が休まらないとはずだ。
*******
・・・・・・そう考えていたはずなのに。
なぜか私は現在男子寮の裏口にいる。
「名前ちゃん、ここの柵尖ってるから気を付けて」
泥棒のようにコソコソ身をかがめながら前には新開くん、後ろには東堂くんという学園きってのイケメンに挟まれ移動する。
「これダメなやつだよね?見つかったらやばいよ・・・」
私は小声で後ろの東堂くんに話しかけた。
「万一のことがあれば俺らが責任を取るから、今は荒北のもとへ急いでくれ」
「そんなに熱が高いの?」
「うわ言で君の名前を呼んでいたぞ!」
想像をしてみたがそんな弱気な荒北くんイメージできない。
しかし心配は心配だし、ここで自分の保身を考えて帰ってしまえば薄情極まりない気がした。
私は覚悟を決めて荒北くんの部屋を目指した。
「ここだ」
廊下で誰かに鉢合わせしたときのために、東堂くんから借りた自転車部のジャージに上下身を包み帽子を深く被っている。
けれどそんな心配をよそに誰にも会うことなく目的の部屋に辿り着いた。
「ここが荒北くんの部屋・・・」
東堂くんはそっと扉を開けて中の様子を見た。
「大丈夫。寝ているようだ」
「え?それ逆に大丈夫じゃなくない?寝てるなら寝かせてあげておいた方がいいんじゃ・・・」
「いいからいいから。あ、先生だ」
私は新開くんの言葉に驚き咄嗟に身を隠すため部屋の中へ入った。
私が中へ入ったと同時にドアが閉まった。
「え?」
驚きドアを開けようとしたが、先生と鉢合わせするかもしれないので開けられなかった。
しばらく外の様子をドア越に耳を当てて伺ったが、誰も通る気配がない。
私はそっとドアを数センチ開け様子を伺った。
すると先生はいなかったが、あろうことか新開くんと東堂くんもいない。
「嘘でしょ・・・」
てっきり2人も一緒に部屋に入ると思っていた。
まさか男子寮の廊下に自分1人で出てウロウロする勇気もなく、このままドアを閉める以外選択肢はなかった。
「う・・・ん」
荒北くんが寝返りを打った。
私は起こしてしまったのではないかとビクビクしながら振り向いた。
けれど意識はまだ夢の中のようなので胸を撫でおろした。
「私何してあげたらいいんだろう・・・」
キッチンもないからおかゆも作れるわけじゃない。かといって急かされてきたので冷えピタ等気が利くものなど持ってこれず。
唯一買えたのは食堂のプリンだ。
私はそれを備え付けの簡易冷蔵庫の中に入れさせてもらった。
「勝手に開けちゃってごめんなさい」
中はなるべく見ないようにしてそっと隙間から入れた。
「大丈夫かな・・・」
顔を覗き込むと普段の威勢は微塵もない。
「睫毛長ーい」
寝顔をじっくり見るなんて失礼かな。
でも普段見れない荒北くんを見れて不謹慎だが嬉しい気持ちも少しある。
「う…」
眉をひそめて魘されている。
苦しいのかな…。
冷たいタオルがあればいいのだけれど、あいにく水道も廊下に出ないといけないので濡らしにいけない。
せめても…と思い持っていたタオルで汗ばんでいる首筋や額を拭った。
けれどよく見ると顔色はさほど悪くない。
「ん…」
やめておけばよかった。
荒北くんがタオルの感触に気付いて起きてしまった。
「誰だ…?」
「荒北くん、大丈夫…?」
私はタオルを引っ込めて気まずさを隠しながら体調を気遣った。
「あー…名前チャンか」
頭が覚醒していないようだ。
荒北くんはぼんやり天井を眺めている。
「名前チャン……」
「なぁに?」
呼ばれたので返事をした。
「ん………俺今どこにいるっけ」
「自分の部屋だよ」
「そうだ…熱出たンだっけ」
「うん。もう夕方だよ」
「熱が出て…部屋で寝てて…夕方で………ってなんで名前チャン男子寮いんだヨ!?」
「えーっと……新開くんと東堂くんに連れられて」
「あいつら…」
荒北くんは溜息をついた。
「ごめんね、せっかくゆっくり寝てたのに…邪魔だよね。すぐに帰るね」
私は慌てて持っていた鞄を抱えて退室しようとした。
「ちょっ…1人で出たら危ないからァ!」
ベッドから半身を起こした荒北くんは、立ち上がった私の左手首を掴んだ。
「うわっ」
バランスを崩した私は荒北くんの上に乗っかってしまった。
「わわ。病人の上にごめんなさい!」
私は荒北くんの上から退こうとしたが腰に彼の腕が回った。
「別に重くないし、もう熱も下がった」
「熱下がったならよかった…」
でもこの腰に回された手はどうしたらいいのだろう…やっぱり荒北くん意識朦朧として自分の行動に自覚ないのでは。
そう思ったが、嫌ではないのでそのまま会話した。
嫌ではないけど、心臓がドキドキする。
「あ、食堂のプリン買ってきたんだけど食べれそう?」
「食う。ありがとネ」
「勝手に冷蔵庫入れちゃったんだ・・・」
私はベッドから降りた。
「今更だけど・・・開けていい?」
「うん」
「よいしょ」
私はプリンを取り出した。
蓋を開けて簡易なプラスチックスプーンの袋を破いた。
「はい、荒北くん」
「ありがと」
受け取った荒北くんはベッドの上をポンポンと叩いた。
さっきの位置に戻れってことかな。
私は先ほどと同様、ベッドの上に腰かけた。
「名前チャンの分は?」
「時間が時間だったから!最後の一個だったんだ」
荒北くんに買えてよかった。
私が得意気に話すと荒北くんはスプーンで一口掬って私の口元に差し出した。
「ン」
「え?」
食べろということだろうか。
「いいよいいよ!荒北くんのために買ってきたんだから」
私は遠慮した。
「咳とか出てなくてウイルス性じゃないっぽいから移らないと思うんだケド・・・」
荒北くんは私が移ることを懸念して断ったと思ったらしい。
そういえば、全く咳をしていないことに言われてから気づいた。
知恵熱だろうか。
「ううん。移ることを心配したわけじゃないよ!」
「じゃあ」
荒北くんも譲らないらしい。
私は荒北くんと押し問答になったら大抵荒北くんの言う通りになるという過去を思い出した。
「じゃあ一口だけ・・・」
荒北くんが差し出したスプーンに乗っているプリンをパクリと食べた。
「うん、美味しい」
本当は味なんて分からなかった。
「はい」
「え?」
荒北くんはまたスプーンにプリンを乗せて差し出す。
「なんか自分で食べるより名前チャンにあげてる方が楽しい」
「た・・・楽しい?」
「ペットにご飯あげてる気分になる」
ずいっと差し出されたプリンを再び口に含んだ。
空になったスプーンにまたプリンを乗せる。
そして私がまた食べる。
「私ばっかり食べてるよ」
「俺がもらったやつだからどうしようが勝手じゃン」
そう言われると反論できない。
病人にご飯を食べさせてあげるならまだしも、病人に食べさせてもらうなんて。
荒北くんが掬ったプリンをひたすら私が食べるというループが続いた。
プリンが底をつき、荒北くんがごみ箱にカップとスプーンを捨てた。
「ほとんど私が食べちゃったよ」
「俺がそうしたかったの」
荒北くんの表情は満足げだったので、納得はいかなかったが気にしないことにしよう。
「明日は来れそう?」
「行く」
見ていてもだいぶ調子はよさそうだ。
「よかった。じゃぁ私もうそろそろ帰るね」
「見つからないよーにしねェと・・・。ちょっと待ってろ」
荒北くんは携帯で電話を掛けた。
「お前らいい加減にしろよ。・・・ったく。早くこっち来いよ」
ものの数秒で荒北くんの部屋のドアが開いた。
「ひどいなー。せっかく喜ぶと思って連れてきたのに」
新開くんと東堂くんが姿を見せた。
「よし、レディを無事に男子寮から脱出させるぞ。荒北は寝ていろ。無事に届けてくる」
俺も行く、といって聞かなかったがさすがに機敏に動けないだろうしお見舞いに来ているのにそれは絶対させられないとプリンの時とは違い断固拒否した。
荒北くんは心配そうだったが、寮を出て安全を確認できたらすぐに連絡することで話はついた。
「じゃあ、荒北くん。お大事に」
私は東堂くんと新開くんに隠してもらいながら男子寮を後にした。
********
目覚めたとき目の前に名前チャンがいて心底ビビった。
自分の部屋じゃないのかと一瞬思ったがしっかり馴染みの自室だった。
普段寮生活をしているとある程度1人でこなせるようになる。
もともと甘えたな性格でもないが、なんとなく人恋しいと思うときもある。
いや、正確には「人恋しい」というより「名前チャン恋しい」だ。
病人であることを利用してなんかやらかした気もするが、都合が悪い記憶には蓋をしておこう。
規則を侵すことなど考えられない名前チャンが男子寮に1人で忍び込むなど到底考えられない。
あの2人の顔がすぐに思い浮かんだ。
まぁ、嬉しくないといえば嘘になる。
感謝しないでもない。
無理やり連れられてきたであろう名前チャンはプリンを用意してくれていた。
それを一口あげると実家のアキちゃんにご飯をあげたときの嬉しそうな顔とダブって見えた。
・・・・・・カワイイ。
そう思って俺はひたすらプリンを与えた。
彼女は不服そうだったが、俺は大満足だ。
1日動いていない倦怠感は残るものの、体調もだいぶ回復した。
明日またプリン買ったら食べてくれっかな。
教室では無理だろうなァ。
そんなことを考えていたら携帯が震えた。
無事に寮を出られたとういう報告だった。
俺は「お見舞いありがと」と短い文章を彼女に送った。
