狼さんと一緒/荒北
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合宿最終日。
天気は曇り。
遠くの方に見えている暗雲がこちらに来ないことを願いながら最後のマネージャー業に気合を入れた。
「名前チャン」
廊下で荒北くんと鉢合わせをしたので、一緒にグラウンドまで行くことにした。
「今日で終わりだね。あっという間だったな」
そう言って荒北くんを見上げると、ふと昨晩のこと脳裏を過った。
少し顔に熱が集中してきたことに気づかれないように前を向きなおした。
「ほんと、手伝ってくれて助かった。ありがとネ」
「ううん。こちらこそ誘ってくれてありがとう」
グラウンドに出ると、私達は左右に分かれそれぞれの集合場所へ移動した。
最終日は箱根に帰るため午前中のみだ。
私は慣れた手つきでドリンクをボトルへと流し込んでいった。
********
無事に3日間の合宿を終え、最後忘れ物がないか私と友達で全フロアを確認して回った。
1階の男子更衣室のロッカーを確認していると荒北くんのスマホが出てきた。
「危ない!確認しておいてよかった」
京都に忘れたままだと取り戻すのが大変だ。
私がスマホをポケットに入れると外からカサカサと音がした。
猫かな?
そう思って近づき窓を開けた。
すると、にゅっと何かが立ち上がり一瞬で私が見上げる格好となった。
「え?」
「こんにちはぁ」
まさか人だとは思わず、窓から思わず離れて後ろへ後ずさる。
部員かと思ったが、3日間大体の顔と名前を覚えたはずなのに目の前の彼は全く見た記憶がなかった。
雰囲気が独特で、ゆらゆら身体を揺らしていたり、顔の特徴から何となく爬虫類を想像してしまった。
「キミ、箱学さんのマネージャー?」
「い・・・いえ、正式なマネージャーではなくて臨時というか・・」
窓枠を挟んで数メートルの距離で会話をした。
少し不気味な彼は指を口に当て考える素振りを見せると窓枠に足を掛けて室内へと侵入してきた。
「え、え、え」
戸惑って数歩後ろに下がる私よりも非常に長い脚の1歩で簡単に間合いを詰められてしまった。
「ボク、御堂筋翔。キミは?」
「あ、名字名前です」
そういえば荒北くんに簡単に人に名前を教えてはいけませんと依然言われた気もするが条件反射で名乗ってしまった。
私は彼の背中越しに木の傍に停めている自転車を見つけた。
よく見るとユニフォームの色やデザインは違うが、形が荒北くんが着ているものと同じだった。
「自転車に乗るの?」
私が聞くと御堂筋くんは頷いた。
「京都伏見高校」
「部活も入ってるの?」
再び御堂筋くんは首を縦に動かした。
同じ自転車部ということはうちの部員の誰かと友達で会いに来たのかも。
「もう合宿終わってね。今から帰るんだけど、誰を呼んでくればいいかな?」
「呼ばんでええよ。十分見させてもろうたから」
私が首をかしげていると御堂筋くんは私の顔を下から覗き込んだ。
「でも、せっかくやから箱学の人達のお話をキミから聞きたいなぁ」
「お話?」
「例えば・・・苦手なものとか、性格とかぁ」
どうしてそんなものを聞きたがるんだろう。
やっぱり少し不気味な彼から、怖いという感情が沸き上がってきた。
「私・・・もうそろそろ集合があるから行かないと」
当たり障りのない返事で抜け出そうと試みた。
「そら、残念」
何を考えているのか読めないが、全然残念そうではない。
私は内心ほっとしたとき、廊下から声が聞こえた。
「早く携帯見つけないと出発遅れて監督とコーチにどやされるぞ」
「多分更衣室だと思うんだケド」
「俺のやつから鳴らしてみるか」
その声から数秒後、私のポケットに入れていた荒北くんの携帯が鳴りだした。
着信は新開くんからだ。
「あったみてェだ」
荒北くんの声と共に更衣室の扉が開いた。
「誰だてめェ」
荒北くんの視線は私が持っている携帯ではなく御堂筋くんに向けられた。
「おい、荒北、どうした・・・」
入口で止まったままの荒北くんの後ろから東堂くんが現れた。
「京都伏見か・・・」
彼のジャージを見て新開くんが反応した。
「去年こんな奴いたかァ?」
「ボク、1年生」
てっきり身長が180センチ以上あるので3年生だと思っていた。
「名前、危ないからこっち来なサイ」
私が荒北くんの方に向かおうとすると思うように進まなかった。
腕を見ると御堂筋くんが掴んでいる。
「てめェ!放しやがれ!」
荒北くんが御堂筋くんに食ってかかった。
私は東堂くんに視線を送った。
「昨日と違って状況的にも人物的にもアウトだ。行っていいぞ」と荒北くんにGOサインを出していた。
荒北くんは私の腕から御堂筋くんを放した。
御堂筋くんはあっさり私を解放し、その高い身長からは想像もつかないほど身軽に窓から脱出して自分の自転車に足を掛けていた。
「これはええ発見したわ。エースアシストさんの弱点見ぃつけた」
荒北くんの肩越しに御堂筋くんと目が合った。
その瞬間彼の口角が不気味に上がった。
「ほな、さいなら」
御堂筋くんは風のように去っていった。
「待ちやがれ!」
荒北くんは追いかけようとしたが、相手は自転車なので諦めた。
「名前チャン、大丈夫?」
「うん。この通り!」
私はほほ笑んで無事であることを表現しようと両手をぐるぐる回した。私の元気な姿を見て荒北くんは安心したようだ。
「あ、これ忘れ物」
私は携帯を荒北くんに手渡した。
「ありがと」
他に忘れ物がないことを確認するとみんなでバスへ向かった。
こうして荒北くんに助けられながらも無事に合宿3日間を終えることができた。
*****
3日間、何とか乗り越えた帰りのバスでほとんどの連中が爆睡していた。
乗り込むのが最後になった俺らは空いている席に腰を下ろした。
名前チャンと隣同士に座った。
名前チャンは委員長の隣の方ががいいかと思い探したが、彼女は合宿中仲良くなった部員達と一番後ろを確保していた。
「合宿お疲れ様」
窓側に座る名前チャンが小声で喋りかけてきた。
「名前チャンもお疲れ様」
「すごく貴重な経験できたし、楽しかった」
笑顔で話す名前チャンを見て嬉しい気持ちになった。
こんなきつい合宿の中、彼女は何を楽しんだのかよくわからないが、とりあえず喜んでいるからよかった。
振り返ると、今回の合宿だけではなく名前チャンはよくトラブルに巻き込まれると思う。
この合宿だけでも泉田と御堂筋が頭に浮かんだ。
その前にも変な奴らに追いかけられてたし。
泉田は置いておいたとしても御堂筋は明らかに危険だ。
おそらく俺達がここで合宿をしていることに気づいて偵察に来たのだろう。
京都なので今後インハイまで会うことはないだろうが、心配は心配だ。
俺は御堂筋が最後に言い放った言葉を思い出しだ。
『エースアシストさんの弱点見ぃつけた』
「弱点ねェ・・・。ん?」
ふいに右腕に重みを感じ隣を見ると名前チャンはいつの間にか寝ていて寄りかかっていた。
俺は彼女の顔にかかった横髪を指で掬った。
「寝顔、カワイイ」
思わず呟いた本音にハッとした。
他の奴に聞かれていないか確認したが、全員寝ていた。
胸を撫でおろし、しばらく彼女の寝顔を堪能することにした。
そしてふとあることを思った。
「弱点じゃなくて、起爆剤だな」
起爆剤なんて物騒な単語、名前チャンには似合わないが御堂筋が言う「弱点」はしっくりこない。
彼女の「頑張って」という一言でめんどくせェ部活にも普段よりやる気がでる。
彼女の一言で俺の力は何倍にもなる。
だから彼女は弱みじゃなくて強み。
「残念だったな、御堂筋」
お前の読みは外れてるぜ。
名前チャンがすやすや寝ている姿を見ていると俺まで眠くなってきたので、腕を組んだまま瞼を閉じた。
天気は曇り。
遠くの方に見えている暗雲がこちらに来ないことを願いながら最後のマネージャー業に気合を入れた。
「名前チャン」
廊下で荒北くんと鉢合わせをしたので、一緒にグラウンドまで行くことにした。
「今日で終わりだね。あっという間だったな」
そう言って荒北くんを見上げると、ふと昨晩のこと脳裏を過った。
少し顔に熱が集中してきたことに気づかれないように前を向きなおした。
「ほんと、手伝ってくれて助かった。ありがとネ」
「ううん。こちらこそ誘ってくれてありがとう」
グラウンドに出ると、私達は左右に分かれそれぞれの集合場所へ移動した。
最終日は箱根に帰るため午前中のみだ。
私は慣れた手つきでドリンクをボトルへと流し込んでいった。
********
無事に3日間の合宿を終え、最後忘れ物がないか私と友達で全フロアを確認して回った。
1階の男子更衣室のロッカーを確認していると荒北くんのスマホが出てきた。
「危ない!確認しておいてよかった」
京都に忘れたままだと取り戻すのが大変だ。
私がスマホをポケットに入れると外からカサカサと音がした。
猫かな?
そう思って近づき窓を開けた。
すると、にゅっと何かが立ち上がり一瞬で私が見上げる格好となった。
「え?」
「こんにちはぁ」
まさか人だとは思わず、窓から思わず離れて後ろへ後ずさる。
部員かと思ったが、3日間大体の顔と名前を覚えたはずなのに目の前の彼は全く見た記憶がなかった。
雰囲気が独特で、ゆらゆら身体を揺らしていたり、顔の特徴から何となく爬虫類を想像してしまった。
「キミ、箱学さんのマネージャー?」
「い・・・いえ、正式なマネージャーではなくて臨時というか・・」
窓枠を挟んで数メートルの距離で会話をした。
少し不気味な彼は指を口に当て考える素振りを見せると窓枠に足を掛けて室内へと侵入してきた。
「え、え、え」
戸惑って数歩後ろに下がる私よりも非常に長い脚の1歩で簡単に間合いを詰められてしまった。
「ボク、御堂筋翔。キミは?」
「あ、名字名前です」
そういえば荒北くんに簡単に人に名前を教えてはいけませんと依然言われた気もするが条件反射で名乗ってしまった。
私は彼の背中越しに木の傍に停めている自転車を見つけた。
よく見るとユニフォームの色やデザインは違うが、形が荒北くんが着ているものと同じだった。
「自転車に乗るの?」
私が聞くと御堂筋くんは頷いた。
「京都伏見高校」
「部活も入ってるの?」
再び御堂筋くんは首を縦に動かした。
同じ自転車部ということはうちの部員の誰かと友達で会いに来たのかも。
「もう合宿終わってね。今から帰るんだけど、誰を呼んでくればいいかな?」
「呼ばんでええよ。十分見させてもろうたから」
私が首をかしげていると御堂筋くんは私の顔を下から覗き込んだ。
「でも、せっかくやから箱学の人達のお話をキミから聞きたいなぁ」
「お話?」
「例えば・・・苦手なものとか、性格とかぁ」
どうしてそんなものを聞きたがるんだろう。
やっぱり少し不気味な彼から、怖いという感情が沸き上がってきた。
「私・・・もうそろそろ集合があるから行かないと」
当たり障りのない返事で抜け出そうと試みた。
「そら、残念」
何を考えているのか読めないが、全然残念そうではない。
私は内心ほっとしたとき、廊下から声が聞こえた。
「早く携帯見つけないと出発遅れて監督とコーチにどやされるぞ」
「多分更衣室だと思うんだケド」
「俺のやつから鳴らしてみるか」
その声から数秒後、私のポケットに入れていた荒北くんの携帯が鳴りだした。
着信は新開くんからだ。
「あったみてェだ」
荒北くんの声と共に更衣室の扉が開いた。
「誰だてめェ」
荒北くんの視線は私が持っている携帯ではなく御堂筋くんに向けられた。
「おい、荒北、どうした・・・」
入口で止まったままの荒北くんの後ろから東堂くんが現れた。
「京都伏見か・・・」
彼のジャージを見て新開くんが反応した。
「去年こんな奴いたかァ?」
「ボク、1年生」
てっきり身長が180センチ以上あるので3年生だと思っていた。
「名前、危ないからこっち来なサイ」
私が荒北くんの方に向かおうとすると思うように進まなかった。
腕を見ると御堂筋くんが掴んでいる。
「てめェ!放しやがれ!」
荒北くんが御堂筋くんに食ってかかった。
私は東堂くんに視線を送った。
「昨日と違って状況的にも人物的にもアウトだ。行っていいぞ」と荒北くんにGOサインを出していた。
荒北くんは私の腕から御堂筋くんを放した。
御堂筋くんはあっさり私を解放し、その高い身長からは想像もつかないほど身軽に窓から脱出して自分の自転車に足を掛けていた。
「これはええ発見したわ。エースアシストさんの弱点見ぃつけた」
荒北くんの肩越しに御堂筋くんと目が合った。
その瞬間彼の口角が不気味に上がった。
「ほな、さいなら」
御堂筋くんは風のように去っていった。
「待ちやがれ!」
荒北くんは追いかけようとしたが、相手は自転車なので諦めた。
「名前チャン、大丈夫?」
「うん。この通り!」
私はほほ笑んで無事であることを表現しようと両手をぐるぐる回した。私の元気な姿を見て荒北くんは安心したようだ。
「あ、これ忘れ物」
私は携帯を荒北くんに手渡した。
「ありがと」
他に忘れ物がないことを確認するとみんなでバスへ向かった。
こうして荒北くんに助けられながらも無事に合宿3日間を終えることができた。
*****
3日間、何とか乗り越えた帰りのバスでほとんどの連中が爆睡していた。
乗り込むのが最後になった俺らは空いている席に腰を下ろした。
名前チャンと隣同士に座った。
名前チャンは委員長の隣の方ががいいかと思い探したが、彼女は合宿中仲良くなった部員達と一番後ろを確保していた。
「合宿お疲れ様」
窓側に座る名前チャンが小声で喋りかけてきた。
「名前チャンもお疲れ様」
「すごく貴重な経験できたし、楽しかった」
笑顔で話す名前チャンを見て嬉しい気持ちになった。
こんなきつい合宿の中、彼女は何を楽しんだのかよくわからないが、とりあえず喜んでいるからよかった。
振り返ると、今回の合宿だけではなく名前チャンはよくトラブルに巻き込まれると思う。
この合宿だけでも泉田と御堂筋が頭に浮かんだ。
その前にも変な奴らに追いかけられてたし。
泉田は置いておいたとしても御堂筋は明らかに危険だ。
おそらく俺達がここで合宿をしていることに気づいて偵察に来たのだろう。
京都なので今後インハイまで会うことはないだろうが、心配は心配だ。
俺は御堂筋が最後に言い放った言葉を思い出しだ。
『エースアシストさんの弱点見ぃつけた』
「弱点ねェ・・・。ん?」
ふいに右腕に重みを感じ隣を見ると名前チャンはいつの間にか寝ていて寄りかかっていた。
俺は彼女の顔にかかった横髪を指で掬った。
「寝顔、カワイイ」
思わず呟いた本音にハッとした。
他の奴に聞かれていないか確認したが、全員寝ていた。
胸を撫でおろし、しばらく彼女の寝顔を堪能することにした。
そしてふとあることを思った。
「弱点じゃなくて、起爆剤だな」
起爆剤なんて物騒な単語、名前チャンには似合わないが御堂筋が言う「弱点」はしっくりこない。
彼女の「頑張って」という一言でめんどくせェ部活にも普段よりやる気がでる。
彼女の一言で俺の力は何倍にもなる。
だから彼女は弱みじゃなくて強み。
「残念だったな、御堂筋」
お前の読みは外れてるぜ。
名前チャンがすやすや寝ている姿を見ていると俺まで眠くなってきたので、腕を組んだまま瞼を閉じた。
