狼さんと一緒/荒北
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合宿当日。
学園内の設備も十分なのでここで合宿をすることもあるが、今回は県を超えて行われるらしい。
西日本の方向へマイクロバスで移動する。
バスの後部座席で友達と横並びに座った。
私が窓際で友達が通路側。
「来てくれてありがとう」
私がお礼を言うと友達は口角を上げて白い歯を見せた。
「全然!面白そうじゃん」
「頑張ろうね」
通路を挟んだ席に福富くんと荒北くんが横並びに座っている。
「ねぇ、私達は何すればいいの?」
彼女が福富くんに話しかけた。
「主に炊事、洗濯、ドリンクの準備、そして倒れた選手の介抱をお願いしたい」
「え?倒れるの?」
私達は顔を合わせて驚いた。
「2.3年は大丈夫だが、毎年1年は多数のリタイアが出る」
そんなに厳しいんだ…。
この部は1年でも経験者が多いはずなのに。
「そんなモンほっとけよォ。自分の世話ぐらい自分でさせとけ」
窓際に座っている荒北くんが身を乗り出した。
「いちいちへばってる奴に構ってたらきりがねェ」
「とかいいつつ介抱された1年が名前ちゃんを好きにならないか心配なだけだろ」
荒北くんの後ろに座っていた新開くんが顔を出した。
「お前は黙ってろ」
もぐら叩きのように荒北くんは飛び出た新開くんの頭を押さえつけて席に座らせた。
バスで走ること数時間、渋滞にも合わなかった。
「京都かぁ!観光する時間あるかな?」
「合宿だからそれは無理だと思うよ」
私は苦笑して答えた。
京都といっても山奥だ。
自転車競技専用の施設があるらしい。
私達は女子部屋に荷物を運んだ。
荷物を置いて、ジャージに着替えると集合場所の食堂へ向かった。
私達の挨拶はバスが出発する前に済ませている。
食堂では福富くんが前に出て部員に3日間の練習メニューを伝えた。
この部は基本的に部長の福富くんを中心に、部員達が自分達で全てを行なっているようだ。
監督とコーチはいるけれど、基本口を出さず見守っている。
大人数いるが、全員が集中している様子だ。
いつも授業中寝ている荒北くんも鋭い視線で福富くんの話を聞いている。
ピリピリとした張り詰めた空気感は初めて感じるものだった。
「すごいなぁ…」
こんなに凄い人達のサポートをするんだから頑張らないと。
ミーティングが終わった後は席を立ち各々与えられたメニューをこなす為に移動した。
主に実力に合わせたチーム分けがされており、メニューもチームによって違うらしい。
荒北くん、福富くん、東堂くん、新開くんはみんなAチームだった。
「おい、真波がAチームに入ってるぞ」
周りがざわついている方向を見るとふわふわした雰囲気の男の子がいた。
「あれ、1年かな?」
「え、すごいね」
Aチームは3年生が主体だった。
その中に入り込む1年生って相当すごいんだろうなぁ…。
じーっと見ていると、渦中の男の子と目が合った。
ニコリと微笑まれたので、私も思わず微笑んで頭を少し下げた。
ってあれ、こっちに向かってくる?
「今日から3日間宜しくお願いします。僕、真波山岳です」
「あ、私は名字名前です。宜しくお願いします」
ぺこりと頭をさっきより深く下げた。
「先輩なんですから敬語はやめてください」
ニコニコと笑っている。
本当によく笑う子だなぁ。
こちらもつられて笑顔になる。
「わかった。サポート頑張るから何かあったら言ってね」
「ここだけ花が飛んでる気がする」
私達の会話を聞いていた友達が呟いた。
「おい、真波。行くぞォ」
荒北くんが真波くんを呼びに来た。
「はーい」
「ったく、不思議チャンが…」
荒北くんは食堂を出て行く真波くんを確認すると私の方を向いた。
「3日間よろしくネ。無理しなくていーから」
「参加したからには力の限り頑張るよ!」
「ありがとネ」
荒北くんが食堂を出て行くのを見送り、私は腕まくりをした。
「よし!まずはドリンク作りだね」
途中でリタイアした人達は私達と同じマネージャー業をするらしいが、最初は私達2人だけだ。
コーチにドリンク作りを教わり、次々にボトルを用意していく。
はじめの数本は各自で用意しているようだが、あっという間になくなるらしいので急いで量産する。
練習が始まり、各チームそれぞれメニューをこなしていく中で私達は黙々とドリンクを作り用意されていたボトルに全て中身を入れ終えた。
ホッとしたと同時に周回を終えた部員が次々に空のボトルを投げ捨て用意した新しいボトルを手に取っていく。
私達は次々に減っていくボトルにギョッとした。
「急いで次用意しないと!」
急いで捨てられたボトルを回収した。
「よし!じゃあ分担しよう。私がボトル回収して洗い場で洗って持ってくるから、名前はそのボトルにドリンク作って」
「分かった!」
最初は慣れない作業で時間が掛かっていたが徐々にコツを掴みスピードと効率はぐんぐん上がっていくのを感じた。
タオルの交換、回収したタオルの洗濯…仕事はどんどん増えていくが私はこれまでにない充実感を味わっていた。
「名前!もうそろそろ夜ご飯作りにいかないと」
メニューはあらかじめ決められていた。
初日はカレーだ。
私達は一旦競技場を離れ、食堂へ戻った。
「うわ、業務用の鍋使うの初めてなんだけど」
「私も…」
こんなにも人参やジャガイモを切るのは初めてだと思いながら2人でカレーの具材を次々に鍋へ放り込みガスをつけた。
本音ではカレーは一晩寝かせたいがそんな時間はない。
「はぁー。やっとひと段落だね」
友達は椅子に座り両手両足を投げ出した。
私も前の椅子に腰掛ける。
「でも青春って感じでいいね」
私は練習している部員たちの一生懸命な表情を思い出していた。
汗が素敵だと思ったのは初めてだ。
「まぁね」
彼女も同じことを思っていたらしく同意した。
少し休憩したら交代でカレーの見張りと競技場で部員のサポートを行なった。
あっという間に時間は過ぎ、合宿1日目が終わった。
「腹減ったー!」
部員達が続々と食堂へ入ってくる。
私達は給食のおばちゃんさながら、各自持っているお盆に乗ったお皿に友達がご飯を入れて私がルーを注ぐという流れ作業で次々に部員にカレーを配る。
「お、今日はカレーかァ」
荒北くんのお皿にルーを注いだ。
「お口に合うといいんだけど」
「やっぱり女子が作ったカレーはいいなぁ」
後ろに並んでいるのは東堂くんだ。
「おかわりいっぱいあるからね」
全員にカレーが行き渡った。
福富くんが今日のまとめを話し、一斉に手を合わせていただきますの号令と共に皆ガツガツ食べ出した。
「ひゃー、さすが男子。よく食べるねぇ」
おかわりはセルフサービスというとこで私達も自分達のカレーをよそって食べることにした。
「あれ…?」
厨房から見渡すと食堂の座席がよく見える。
私はあるテーブルが気になった。
席はチームごとに座っている。
上座にあたる奥の席にAチームが座り、入り口に近い方に向かってDチームまでが順番に座っている。
「あそこは確か…」
夕食は終わった人からお皿を自分で洗ってもらった。
その後みんなお風呂へと移動する。
「ごめん、先に部屋に戻ってて」
「名前はどーすんの?」
「ちょっとやりたいことがあって…」
「私も手伝うよ?」
「ううん。お風呂の準備してて」
友達が食堂を出て行ったのを確認すると、私は余っているジャガイモを手に取った。
「よし!」
************
名前チャンが作ったカレー美味かったなァ。
ぶっちゃけカレーなんて誰が作っても同じだと思ってたけど、やっぱり作ってる人が自分にとって特別だからか何倍も美味しく思えた。
「名前チャン、呼んだァ?」
「あ、荒北くん!ごめんね、お風呂の時間に…」
Aチームから順番に風呂に入るのだが、食器を洗っている時に名前チャンに時間が欲しいと言われたので俺だけ時間をずらすことにした。
「風呂ならいつでも入れるし。何か手伝う?」
俺は側にあった布巾を手に取った。
「ううん。違うの。荒北くんに今からC.Dチームの子達の様子を見て来てほしくて…」
「どーゆーコト?」
俺はてっきり夕食の後片付けを手伝ってほしくて呼び出されたのかと思っていた。
でもよく考えたら名前チャンなら気を使ってそんなこと頼まないか。
「あの辺の何人かカレーあまり食べてないみたいで…というより調子悪くて食べられなかったみたいだから。途中で何度もトイレに行ってる人もいたし…もしかして戻しちゃったのかなって思って」
よく見るとコンロには火が付いていて鍋の中にはスープが入っていた。
「もし身体が固形物受け付けないならスープだけでもって思って作ったの…」
だから誰が夕食を食べられなかったのか調べて欲しいというのが名前チャンの頼みだった。
俺は驚いた。
きっとバスの中で福チャンが倒れる奴がいるとか言ったから気にしていたのだろう。
さらに彼女はみんながいる前で聞いてしまえば本人のプライドにも関わるので、こうしてこっそり俺に頼んで来ている。
ぶっちゃけ高校生にもなれば体調は自己申告だと俺は思う。
リタイアだって認められている合宿だ。
わざわざこっちが気にかける必要はないと思うが、彼女の心配そうな表情を見ると言えるはずもない。
それにせっかく作ったスープも台無しになる。
いいコすぎる…。
俺は名前チャンの頭に手をのせた。
「あ、荒北くん?」
わしゃわしゃ撫ぜる俺の手に驚いている。
「ん、聞いてくるネ」
「ありがとう」
まぁ、本当は就寝前に3年が各部屋を回り体調確認と合宿2日目の参加を確認するのだが彼女には内緒にしておこう。
俺は各部屋を周り部員の体調確認を取った。
やはりリタイアが数名出た上、夕食を食べられなかった者もいた。
お盆にのせたスープを差し出すと、過去同じ経験をした3年がスープを受け取った1年を見て今までこんなサービスはなかったとボヤいた。
当たり前だ。
これは名前チャンの善意なんだヨ。
俺は1つだけ余ったスープを食堂へ持って帰った。
「荒北くん、ありがとう」
「最後の1つ俺が飲んでイイ?」
「もちろん!」
全部員が集まり煩かった食堂も今は俺達しかおらず静かだ。
向かい合わせに座り俺は名前チャンが作ったスープを口に運んだ。
「うま」
優しい味が胃に染み込む。
「ふふ、よかった」
味噌汁じゃねェけど、名前チャンが作った料理を毎日食べられたら幸せだななんて、合宿1日目の俺は胃袋掴まれて終わった。
学園内の設備も十分なのでここで合宿をすることもあるが、今回は県を超えて行われるらしい。
西日本の方向へマイクロバスで移動する。
バスの後部座席で友達と横並びに座った。
私が窓際で友達が通路側。
「来てくれてありがとう」
私がお礼を言うと友達は口角を上げて白い歯を見せた。
「全然!面白そうじゃん」
「頑張ろうね」
通路を挟んだ席に福富くんと荒北くんが横並びに座っている。
「ねぇ、私達は何すればいいの?」
彼女が福富くんに話しかけた。
「主に炊事、洗濯、ドリンクの準備、そして倒れた選手の介抱をお願いしたい」
「え?倒れるの?」
私達は顔を合わせて驚いた。
「2.3年は大丈夫だが、毎年1年は多数のリタイアが出る」
そんなに厳しいんだ…。
この部は1年でも経験者が多いはずなのに。
「そんなモンほっとけよォ。自分の世話ぐらい自分でさせとけ」
窓際に座っている荒北くんが身を乗り出した。
「いちいちへばってる奴に構ってたらきりがねェ」
「とかいいつつ介抱された1年が名前ちゃんを好きにならないか心配なだけだろ」
荒北くんの後ろに座っていた新開くんが顔を出した。
「お前は黙ってろ」
もぐら叩きのように荒北くんは飛び出た新開くんの頭を押さえつけて席に座らせた。
バスで走ること数時間、渋滞にも合わなかった。
「京都かぁ!観光する時間あるかな?」
「合宿だからそれは無理だと思うよ」
私は苦笑して答えた。
京都といっても山奥だ。
自転車競技専用の施設があるらしい。
私達は女子部屋に荷物を運んだ。
荷物を置いて、ジャージに着替えると集合場所の食堂へ向かった。
私達の挨拶はバスが出発する前に済ませている。
食堂では福富くんが前に出て部員に3日間の練習メニューを伝えた。
この部は基本的に部長の福富くんを中心に、部員達が自分達で全てを行なっているようだ。
監督とコーチはいるけれど、基本口を出さず見守っている。
大人数いるが、全員が集中している様子だ。
いつも授業中寝ている荒北くんも鋭い視線で福富くんの話を聞いている。
ピリピリとした張り詰めた空気感は初めて感じるものだった。
「すごいなぁ…」
こんなに凄い人達のサポートをするんだから頑張らないと。
ミーティングが終わった後は席を立ち各々与えられたメニューをこなす為に移動した。
主に実力に合わせたチーム分けがされており、メニューもチームによって違うらしい。
荒北くん、福富くん、東堂くん、新開くんはみんなAチームだった。
「おい、真波がAチームに入ってるぞ」
周りがざわついている方向を見るとふわふわした雰囲気の男の子がいた。
「あれ、1年かな?」
「え、すごいね」
Aチームは3年生が主体だった。
その中に入り込む1年生って相当すごいんだろうなぁ…。
じーっと見ていると、渦中の男の子と目が合った。
ニコリと微笑まれたので、私も思わず微笑んで頭を少し下げた。
ってあれ、こっちに向かってくる?
「今日から3日間宜しくお願いします。僕、真波山岳です」
「あ、私は名字名前です。宜しくお願いします」
ぺこりと頭をさっきより深く下げた。
「先輩なんですから敬語はやめてください」
ニコニコと笑っている。
本当によく笑う子だなぁ。
こちらもつられて笑顔になる。
「わかった。サポート頑張るから何かあったら言ってね」
「ここだけ花が飛んでる気がする」
私達の会話を聞いていた友達が呟いた。
「おい、真波。行くぞォ」
荒北くんが真波くんを呼びに来た。
「はーい」
「ったく、不思議チャンが…」
荒北くんは食堂を出て行く真波くんを確認すると私の方を向いた。
「3日間よろしくネ。無理しなくていーから」
「参加したからには力の限り頑張るよ!」
「ありがとネ」
荒北くんが食堂を出て行くのを見送り、私は腕まくりをした。
「よし!まずはドリンク作りだね」
途中でリタイアした人達は私達と同じマネージャー業をするらしいが、最初は私達2人だけだ。
コーチにドリンク作りを教わり、次々にボトルを用意していく。
はじめの数本は各自で用意しているようだが、あっという間になくなるらしいので急いで量産する。
練習が始まり、各チームそれぞれメニューをこなしていく中で私達は黙々とドリンクを作り用意されていたボトルに全て中身を入れ終えた。
ホッとしたと同時に周回を終えた部員が次々に空のボトルを投げ捨て用意した新しいボトルを手に取っていく。
私達は次々に減っていくボトルにギョッとした。
「急いで次用意しないと!」
急いで捨てられたボトルを回収した。
「よし!じゃあ分担しよう。私がボトル回収して洗い場で洗って持ってくるから、名前はそのボトルにドリンク作って」
「分かった!」
最初は慣れない作業で時間が掛かっていたが徐々にコツを掴みスピードと効率はぐんぐん上がっていくのを感じた。
タオルの交換、回収したタオルの洗濯…仕事はどんどん増えていくが私はこれまでにない充実感を味わっていた。
「名前!もうそろそろ夜ご飯作りにいかないと」
メニューはあらかじめ決められていた。
初日はカレーだ。
私達は一旦競技場を離れ、食堂へ戻った。
「うわ、業務用の鍋使うの初めてなんだけど」
「私も…」
こんなにも人参やジャガイモを切るのは初めてだと思いながら2人でカレーの具材を次々に鍋へ放り込みガスをつけた。
本音ではカレーは一晩寝かせたいがそんな時間はない。
「はぁー。やっとひと段落だね」
友達は椅子に座り両手両足を投げ出した。
私も前の椅子に腰掛ける。
「でも青春って感じでいいね」
私は練習している部員たちの一生懸命な表情を思い出していた。
汗が素敵だと思ったのは初めてだ。
「まぁね」
彼女も同じことを思っていたらしく同意した。
少し休憩したら交代でカレーの見張りと競技場で部員のサポートを行なった。
あっという間に時間は過ぎ、合宿1日目が終わった。
「腹減ったー!」
部員達が続々と食堂へ入ってくる。
私達は給食のおばちゃんさながら、各自持っているお盆に乗ったお皿に友達がご飯を入れて私がルーを注ぐという流れ作業で次々に部員にカレーを配る。
「お、今日はカレーかァ」
荒北くんのお皿にルーを注いだ。
「お口に合うといいんだけど」
「やっぱり女子が作ったカレーはいいなぁ」
後ろに並んでいるのは東堂くんだ。
「おかわりいっぱいあるからね」
全員にカレーが行き渡った。
福富くんが今日のまとめを話し、一斉に手を合わせていただきますの号令と共に皆ガツガツ食べ出した。
「ひゃー、さすが男子。よく食べるねぇ」
おかわりはセルフサービスというとこで私達も自分達のカレーをよそって食べることにした。
「あれ…?」
厨房から見渡すと食堂の座席がよく見える。
私はあるテーブルが気になった。
席はチームごとに座っている。
上座にあたる奥の席にAチームが座り、入り口に近い方に向かってDチームまでが順番に座っている。
「あそこは確か…」
夕食は終わった人からお皿を自分で洗ってもらった。
その後みんなお風呂へと移動する。
「ごめん、先に部屋に戻ってて」
「名前はどーすんの?」
「ちょっとやりたいことがあって…」
「私も手伝うよ?」
「ううん。お風呂の準備してて」
友達が食堂を出て行ったのを確認すると、私は余っているジャガイモを手に取った。
「よし!」
************
名前チャンが作ったカレー美味かったなァ。
ぶっちゃけカレーなんて誰が作っても同じだと思ってたけど、やっぱり作ってる人が自分にとって特別だからか何倍も美味しく思えた。
「名前チャン、呼んだァ?」
「あ、荒北くん!ごめんね、お風呂の時間に…」
Aチームから順番に風呂に入るのだが、食器を洗っている時に名前チャンに時間が欲しいと言われたので俺だけ時間をずらすことにした。
「風呂ならいつでも入れるし。何か手伝う?」
俺は側にあった布巾を手に取った。
「ううん。違うの。荒北くんに今からC.Dチームの子達の様子を見て来てほしくて…」
「どーゆーコト?」
俺はてっきり夕食の後片付けを手伝ってほしくて呼び出されたのかと思っていた。
でもよく考えたら名前チャンなら気を使ってそんなこと頼まないか。
「あの辺の何人かカレーあまり食べてないみたいで…というより調子悪くて食べられなかったみたいだから。途中で何度もトイレに行ってる人もいたし…もしかして戻しちゃったのかなって思って」
よく見るとコンロには火が付いていて鍋の中にはスープが入っていた。
「もし身体が固形物受け付けないならスープだけでもって思って作ったの…」
だから誰が夕食を食べられなかったのか調べて欲しいというのが名前チャンの頼みだった。
俺は驚いた。
きっとバスの中で福チャンが倒れる奴がいるとか言ったから気にしていたのだろう。
さらに彼女はみんながいる前で聞いてしまえば本人のプライドにも関わるので、こうしてこっそり俺に頼んで来ている。
ぶっちゃけ高校生にもなれば体調は自己申告だと俺は思う。
リタイアだって認められている合宿だ。
わざわざこっちが気にかける必要はないと思うが、彼女の心配そうな表情を見ると言えるはずもない。
それにせっかく作ったスープも台無しになる。
いいコすぎる…。
俺は名前チャンの頭に手をのせた。
「あ、荒北くん?」
わしゃわしゃ撫ぜる俺の手に驚いている。
「ん、聞いてくるネ」
「ありがとう」
まぁ、本当は就寝前に3年が各部屋を回り体調確認と合宿2日目の参加を確認するのだが彼女には内緒にしておこう。
俺は各部屋を周り部員の体調確認を取った。
やはりリタイアが数名出た上、夕食を食べられなかった者もいた。
お盆にのせたスープを差し出すと、過去同じ経験をした3年がスープを受け取った1年を見て今までこんなサービスはなかったとボヤいた。
当たり前だ。
これは名前チャンの善意なんだヨ。
俺は1つだけ余ったスープを食堂へ持って帰った。
「荒北くん、ありがとう」
「最後の1つ俺が飲んでイイ?」
「もちろん!」
全部員が集まり煩かった食堂も今は俺達しかおらず静かだ。
向かい合わせに座り俺は名前チャンが作ったスープを口に運んだ。
「うま」
優しい味が胃に染み込む。
「ふふ、よかった」
味噌汁じゃねェけど、名前チャンが作った料理を毎日食べられたら幸せだななんて、合宿1日目の俺は胃袋掴まれて終わった。
