【1章】さよなら令和、ようこそ室町
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足を手当てして包帯を巻いてもらった私は今度こそ自分で歩けると、再び抱えようとしてくれた伊作くんの手を制した。
それでもなお引き下がらない彼に甘えて腕だけ軽く持たせてもらうことに。
「本当にありがとうございます。伊作くん…あ、ごめんなさい。善法寺さん」
心の中で呼んでた名前をそのまま口にしてしまった。
「伊作で構いませんよ」
にこりと微笑んでくれた彼は本当に15歳なのだろうか。
私の知っている15歳はもっと子供だ。
学園長が居るという庵に着くまでにわかったことがある。
保健室や彼らの様子から電子機器等の文明とは隔絶した生活を送っているらしい。
いわゆる自然派なのかな。
私が電子機器を扱う生活をしていると知ったら悪霊に取り憑かれてるとか何とか言われそうだから隠したほうが良さそうだ。
庵に着くと伊作くんが「お連れしました」と中に声をかけた。
「うむ、入れ」
しゃがれたお爺さんの声が聞こえた。
……こ、この中に教祖が…。
私の心臓はバクバクと音を立てた。
障子を開けた先には、忍装束を纏った大人がずらりと並んでいた。
その中には先程出会った彼らも居た。
中央に教祖とおぼしきおかっぱのおじいさんが鎮座していた。
降り注ぐ容赦ない多くの目線に耐えきれず、無意識に伊作くんの腕に力を込めてしまった。
「大丈夫ですよ」
私の不安を感じとった彼はそっと背中に手を添えて中へ誘導してくれた。
「怪我をしてると聞いておる。楽にしておくれ」
お言葉に甘えて足を崩して座らせてもらった。
「まぁ、そんなに緊張せんと。ヘムヘム!お茶を」
私は目が飛び出るかと思うほど驚いた。
ヘムヘムと呼ばれた犬が二足歩行でお茶をお盆に入れて運んでいる。
溢すことなく見事に私の前にお茶を置いてくれたヘムヘムに「あ、ありがとうございます」と言葉を掛けると明らかに理解した様子で満足そうに下がって学園長の横に座った。
本当に犬なの!?
信じられない思いのまま、学園長は話を切り出した。
「さて…。裏山に居たところを六年生達が見つけたとのことじゃが…。どうしてそんなところに?」
「あ…の。それがよくわからなくて。自室で寝ていたはずなのですが、起きたらあそこに…」
「ふむ…。して、そなたはどこの生まれじゃ?その服装からこの辺ではなさそうじゃが…」
「…???」
皆この服装を疑問に思ってるみたいだけど、百歩譲ってさっき会った彼らはここで生まれたから外の世界を知らないとしても、このお年寄りがそんなことあるのだろうか。
本気で私のワンピースに疑問を持っているらしい。
正直に答えて大丈夫なのか…。
嘘を付くにしてもどうやって、どんな嘘を?
どうしよう、どうしよう。
無事にこの場を逃れるための答えを探していると、痺れを切らした潮江くんが口を開いた。
「この娘、どうやら何も覚えていないようなのです。我々も問うたのですが、分からないやら知らないの一点張りで…」
んんん!!???
記憶はバリバリあります。
でもあまりにも答えられない私を見て記憶があやふやなのではと思われてしまった。
「ふむ…。どこに住んでいたのかもわからんのか?先程自室に居たと答えておったが…」
「えっと…◯◯というところで…」
「そのような地名はこのあたりに聞き覚えは無いのう…」
会話が進まない。
集まった大人達も困惑した様子で私を見ている。
傍で私のことを支えてくれていた伊作くんが、見えないように背中をさすってくれた。
「あの…少しよろしいでしょうか」
伊作くんが口を開いた。
「人は衝撃的な体験をすると記憶が混濁することがあります。素足でいたことからどこからか逃げてきたのではないでしょうか。そして装いからこの国の人だとは思えません。服装や手足のしなやかさから考えるに、南蛮の姫ではないでしょうか」
伊作くんから想像の斜め上をいく言葉が飛び出した。
南蛮の姫!?!?!?
「先程自室で寝ていたというのは、あくまで彼女の記憶に基づくものです。その後の辛い体験がすっぽり抜け落ちてしまっているのではないでしょうか」
「ふーむ。しかし、南蛮の姫がこの辺にいるなど聞いたことがないがのう」
「それは…公にされていないからでは。見てくださいこの足を」
そういって伊作くんは足に巻かれた包帯をシュルシュルとほどいた。
「日焼けの跡が全くありません。普通は草鞋の跡が残っているはずです。あまりに白い。つまり屋内に監禁されていたのでは」
すみませんね。
インドア派なんですよ。
もう、話が斜め上を行き過ぎているし、この場の全員真面目に伊作くんの話を聞き入れているしで、もはやどうしたらいいのか完全に会話迷子になってしまっている。
どうやって訂正したらいいの。
何の茶番なの、これ。
渇いた笑いが出そうになるのを堪えて、しかしこんな斜め上の話をまともに聞こうとしている人達のことを考えると、思考回路がまるで私とは違う。
どんな回答をしてもこの場を切り抜けられる自信がなかった。
「すみません…。実は記憶が曖昧で…。分かることもあるのですが、分からないことの方が多くて…」
ええい!!
もう記憶喪失のフリしたれ!!!
「ふうむ…困ったのう」
私の扱いに頭を悩ませている教祖もとい学園長だが、ただ電話一本して私を警察に引き渡してくれたらそれで良いのですが…。
電話お借りできませんか?と言いたい。
まさか電話さえ無いとか…?
でも言ったらどうなるか分からないので勇気が出なかった。
「どこかの城の間者という可能性もあります」
潮江くんの発言に首を傾げた。
「間者って何ですか?」
伊作くんにこっそり聞いてみた。
「敵方に侵入して情報を得る者のことです」
「なるほど。スパイね」
一人で納得していると、伊作くんがまた手を挙げた。
「どうやら名前さんの国では間者のことをスパイと言うらしいです。言語の違いがあるようなのでやはり南蛮の方なのでは?」
うおおおい!!
結局そこに戻るんかい!
スパイなんて日本に普通に定着してる単語じゃん!
ってかその前に城って潮江くん言った!?
こんな宗教法人に敵対組織がいくつもあるの!?
もうお手上げだよ。
うーん…と唸っていると、仙蔵くんが手を挙げた。
「私からよろしいでしょうか。話が進展しないようですが、服装や見た目から南蛮の姫という可能性が捨てきれない以上、このまま外に出すわけにもいかないと思います。万一間者であったとしても足を怪我していますし、常に見張りをつけることでここでの滞在を許可して頂けませんか。これを六年生の任務として提案します」
仙蔵くんが出した案は学園長から許可が降りてしまった。
え…私帰れないの?
こうしていつのまにか私は南蛮の姫or間者という2つの天秤に掛けられてしまった。
まぁ…どっちも違うんですけど。
ただの庶民です。
本当にここは宗教法人なのだろうか…世の中広いんだなとどこか諦めに似た気持ちが湧き上がってきた。
それでもなお引き下がらない彼に甘えて腕だけ軽く持たせてもらうことに。
「本当にありがとうございます。伊作くん…あ、ごめんなさい。善法寺さん」
心の中で呼んでた名前をそのまま口にしてしまった。
「伊作で構いませんよ」
にこりと微笑んでくれた彼は本当に15歳なのだろうか。
私の知っている15歳はもっと子供だ。
学園長が居るという庵に着くまでにわかったことがある。
保健室や彼らの様子から電子機器等の文明とは隔絶した生活を送っているらしい。
いわゆる自然派なのかな。
私が電子機器を扱う生活をしていると知ったら悪霊に取り憑かれてるとか何とか言われそうだから隠したほうが良さそうだ。
庵に着くと伊作くんが「お連れしました」と中に声をかけた。
「うむ、入れ」
しゃがれたお爺さんの声が聞こえた。
……こ、この中に教祖が…。
私の心臓はバクバクと音を立てた。
障子を開けた先には、忍装束を纏った大人がずらりと並んでいた。
その中には先程出会った彼らも居た。
中央に教祖とおぼしきおかっぱのおじいさんが鎮座していた。
降り注ぐ容赦ない多くの目線に耐えきれず、無意識に伊作くんの腕に力を込めてしまった。
「大丈夫ですよ」
私の不安を感じとった彼はそっと背中に手を添えて中へ誘導してくれた。
「怪我をしてると聞いておる。楽にしておくれ」
お言葉に甘えて足を崩して座らせてもらった。
「まぁ、そんなに緊張せんと。ヘムヘム!お茶を」
私は目が飛び出るかと思うほど驚いた。
ヘムヘムと呼ばれた犬が二足歩行でお茶をお盆に入れて運んでいる。
溢すことなく見事に私の前にお茶を置いてくれたヘムヘムに「あ、ありがとうございます」と言葉を掛けると明らかに理解した様子で満足そうに下がって学園長の横に座った。
本当に犬なの!?
信じられない思いのまま、学園長は話を切り出した。
「さて…。裏山に居たところを六年生達が見つけたとのことじゃが…。どうしてそんなところに?」
「あ…の。それがよくわからなくて。自室で寝ていたはずなのですが、起きたらあそこに…」
「ふむ…。して、そなたはどこの生まれじゃ?その服装からこの辺ではなさそうじゃが…」
「…???」
皆この服装を疑問に思ってるみたいだけど、百歩譲ってさっき会った彼らはここで生まれたから外の世界を知らないとしても、このお年寄りがそんなことあるのだろうか。
本気で私のワンピースに疑問を持っているらしい。
正直に答えて大丈夫なのか…。
嘘を付くにしてもどうやって、どんな嘘を?
どうしよう、どうしよう。
無事にこの場を逃れるための答えを探していると、痺れを切らした潮江くんが口を開いた。
「この娘、どうやら何も覚えていないようなのです。我々も問うたのですが、分からないやら知らないの一点張りで…」
んんん!!???
記憶はバリバリあります。
でもあまりにも答えられない私を見て記憶があやふやなのではと思われてしまった。
「ふむ…。どこに住んでいたのかもわからんのか?先程自室に居たと答えておったが…」
「えっと…◯◯というところで…」
「そのような地名はこのあたりに聞き覚えは無いのう…」
会話が進まない。
集まった大人達も困惑した様子で私を見ている。
傍で私のことを支えてくれていた伊作くんが、見えないように背中をさすってくれた。
「あの…少しよろしいでしょうか」
伊作くんが口を開いた。
「人は衝撃的な体験をすると記憶が混濁することがあります。素足でいたことからどこからか逃げてきたのではないでしょうか。そして装いからこの国の人だとは思えません。服装や手足のしなやかさから考えるに、南蛮の姫ではないでしょうか」
伊作くんから想像の斜め上をいく言葉が飛び出した。
南蛮の姫!?!?!?
「先程自室で寝ていたというのは、あくまで彼女の記憶に基づくものです。その後の辛い体験がすっぽり抜け落ちてしまっているのではないでしょうか」
「ふーむ。しかし、南蛮の姫がこの辺にいるなど聞いたことがないがのう」
「それは…公にされていないからでは。見てくださいこの足を」
そういって伊作くんは足に巻かれた包帯をシュルシュルとほどいた。
「日焼けの跡が全くありません。普通は草鞋の跡が残っているはずです。あまりに白い。つまり屋内に監禁されていたのでは」
すみませんね。
インドア派なんですよ。
もう、話が斜め上を行き過ぎているし、この場の全員真面目に伊作くんの話を聞き入れているしで、もはやどうしたらいいのか完全に会話迷子になってしまっている。
どうやって訂正したらいいの。
何の茶番なの、これ。
渇いた笑いが出そうになるのを堪えて、しかしこんな斜め上の話をまともに聞こうとしている人達のことを考えると、思考回路がまるで私とは違う。
どんな回答をしてもこの場を切り抜けられる自信がなかった。
「すみません…。実は記憶が曖昧で…。分かることもあるのですが、分からないことの方が多くて…」
ええい!!
もう記憶喪失のフリしたれ!!!
「ふうむ…困ったのう」
私の扱いに頭を悩ませている教祖もとい学園長だが、ただ電話一本して私を警察に引き渡してくれたらそれで良いのですが…。
電話お借りできませんか?と言いたい。
まさか電話さえ無いとか…?
でも言ったらどうなるか分からないので勇気が出なかった。
「どこかの城の間者という可能性もあります」
潮江くんの発言に首を傾げた。
「間者って何ですか?」
伊作くんにこっそり聞いてみた。
「敵方に侵入して情報を得る者のことです」
「なるほど。スパイね」
一人で納得していると、伊作くんがまた手を挙げた。
「どうやら名前さんの国では間者のことをスパイと言うらしいです。言語の違いがあるようなのでやはり南蛮の方なのでは?」
うおおおい!!
結局そこに戻るんかい!
スパイなんて日本に普通に定着してる単語じゃん!
ってかその前に城って潮江くん言った!?
こんな宗教法人に敵対組織がいくつもあるの!?
もうお手上げだよ。
うーん…と唸っていると、仙蔵くんが手を挙げた。
「私からよろしいでしょうか。話が進展しないようですが、服装や見た目から南蛮の姫という可能性が捨てきれない以上、このまま外に出すわけにもいかないと思います。万一間者であったとしても足を怪我していますし、常に見張りをつけることでここでの滞在を許可して頂けませんか。これを六年生の任務として提案します」
仙蔵くんが出した案は学園長から許可が降りてしまった。
え…私帰れないの?
こうしていつのまにか私は南蛮の姫or間者という2つの天秤に掛けられてしまった。
まぁ…どっちも違うんですけど。
ただの庶民です。
本当にここは宗教法人なのだろうか…世の中広いんだなとどこか諦めに似た気持ちが湧き上がってきた。