【2章】室町パニック
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私はどうやら勘違いしていたらしい。
いつも笑顔でニコニコしている彼女はここの生活にすっかり慣れたのだと思っていた。
最近は小松田くんのお手伝いに勤しんでいて、自分で役割を見つけにいく姿に感服していた。
近頃は掃き掃除が彼女の日課になっていて、それ以来落とし穴の目印が掃かれて無くなることが減ったと吉野先生と談笑していた自分。
は組の子達の誘いにも乗ってくれて、サッカーや隠れんぼに付き合ってくれているのを見て嬉しかったのだが、本当は疲れていて休みたかったのではないだろうか。
遠目から見守るだけでなく、もっと話しかければよかった。
そうすれば、実は無理していたことに気づけたのではないか。
何かと遠慮しがちな彼女が初めて見せた、涙と甘え。
過ぎ去った時は戻ってくれない。
今からでも溢れ出た彼女の心痛を私が救ってあげられるのなら。
いくらでも抱き締めたい。
きり丸のバイトで預かった赤子をあやすときのように、トントンと背中を優しく叩いてあげれば、涙は止まるどころか増えていく。
それでいい。
泣きたいだけ泣いて。
どれぐらい時間が経ったか分からない。
徐々に呼吸が整ってきた彼女は幾分かすっきりした顔をしていた。
「ごめんなさい、涙で衣が・・・」
「気にしなくていい。すぐに乾くさ」
ぐずぐずと鼻を啜っている彼女にちり紙を渡した。
嗚咽が治まったことで部屋は静寂に包まれた。
「さすがにもう戻らないとですよね?」
「うーん・・・」
山田先生は出張で今夜は帰らない。
戻る理由があるとしたら倫理観的な問題で。
倫理観と今の彼女を天秤に掛けたら答えはすぐに出た。
「名前さんが眠るまでいようかな」
「いいんですか?お忙しいんじゃ・・・。私なら大丈」
だいじょうぶ、と言いかけた名前さんの口に人差し指を当てた。
「大丈夫じゃないときは大丈夫じゃないでいい。せめて私の前ではそうしてほしい」
名前さんは逡巡した後、小さく頷いた。
「さあ、もう遅いから横になって。眠るまで傍に居るから」
私に従って布団に潜り込み、小さな手で布団を顔ギリギリまで引っ張り上げた。
「・・・横に座られてたら緊張して眠れそうにないです」
確かにじっと見られてたら寝にくいだろう。
どうしようかと考えていたら名前さんは布団を巻くって、ちょうど人一人分のスペースを開けた。
「どうぞ」
「ええ!?いや、でも・・・」
「土井先生のこと信用してます。寒い・・・」
身を縮こませる彼女に、動揺しながらも言われるがまま己の身を滑り込ませた。
*******************
土井先生が甘やかしてくれるから。
ダメな私はその優しさに甘えてしまった。
一度甘えだすと、欲が出てくる。
とにかく寂しかった。
一人になりたくなかった。
土井先生のおかげで身体は暖まったが、心がもっともっとと温もりを求めていた。
布団の中に誘い込むなんて、我ながら大胆なことをしたものだ。
しかし土井先生ならきっと大丈夫という思いと、このまま万一のことがあってもまあいいか・・・なんて投げやりな気持ちと。
「あったかい・・・」
布団の中に2人分の体温が凝縮されて、ぽかぽか暖かかった。
「よかった。・・・いや、いいのか?」
独り言を呟く土井先生にクスクスと笑いが漏れた。
「あ、笑った」
「だって、動揺してるから可笑しくて」
「君のせいじゃないか!」
「ふふふ」
夜目が効かなくてもよく分かる。
土井先生の赤い顔が面白くて、笑いが漏れた。
「まあ・・・元気が出たならそれでいいけど」
「土井先生のおかげで元気出ました」
「よかった」
ホッとした表情を浮かべた土井先生に心配かけて申し訳ない気持ちと心配してくれて嬉しい気持ちと両方が溢れた。
「ていっ」
「冷たっ」
冷え性な足先を土井先生の足にぴったりくっつけると、冷たさに驚いた土井先生の足がぴくりと跳ねた。
「まだそんなに冷たいのか!?」
「冷え性なもんで。温めてください」
布団の中で逃げる土井先生の足を追いかけた。
「ふふ。観念しろー」
「仕方ないな」
「わっ」
追いかけていたはずの足に私の両足が捕まった。
「冷たいですよ?」
「だから温めてほしいんだろ?」
「でも・・・」
いざそうなると申し訳なくなる。
私の心情を読み取った土井先生はポンポンと頭を撫でてくれた。
「・・・土井先生」
「ん?」
彼になら話せるかも・・・。
そう思って口を開くが、やっぱり怖くなって閉じてしまう。
「・・・話したいことを話したい部分だけでいいよ」
土井先生はエスパーなのだろうか。
私の迷いを分かっているようだった。
「詳しく追及されるのが怖いかい?なら私からは何も聞かない。ただ君の話を聞くだけだ」
私は布団と土井先生に包まれながら、ぽつりと呟いた。
「私・・・実は隠している・・・というか言えてないことがあって。何て説明したらいいのかも分からなくて」
「うん」
「土井先生のことは信用しているんですけど・・・でも先生は学園に所属しているわけで」
「うん」
「私の話を聞いたら、学園に報告義務が生じるじゃないですか」
「・・・うん」
「追い出されたら行くところが無いんです。だから言えないんです」
ひとりぼっちになってしまう恐怖にキュッと土井先生の衣を握った。
「私のことは信用しているけど、学園が信用できないってことかい?」
「これだけ良くしてもらっておいて、何言ってるんだって感じですよね」
「いいや。そうじゃないけど、どうしてそう思うのかなって」
「学園長先生もすごくいい人で、こんな怪しい人間置いてくれて本当に感謝してます。でも私のことをよく思ってない人がいるのも事実で。その人達に反対運動みたいなのを起こされたら、学園長の意向一つではどうにもならなくなってしまう可能性があります」
ここは組織で、状況次第ではいくらでも私の立場は危うくなる。
「私は、私が生きていくために今は話せないことがあります」
私はずるい。
助けてほしいくせに、全部は曝け出そうとしない。
それでも自分一人で全部抱えることもできなくて。
土井先生の優しさに甘えてしまった。
「うん、わかった」
土井先生なら、こんな中途半端な私でも受け入れてくれる気がして。
「ごめんなさい、こんな勿体ぶるようなことを…」
「一つだけ確認していいかい?」
私は頷いた。
「名前さんは今後学園の敵になるようなことはある?」
ブンブンと勢いよく首を横に振った。
「それだけは絶対に無いです!」
「わかってたけど、直接聞けて良かった。うん、信じるよ」
土井先生は私の頬に手を添えた。
「正直、その隠し事はすごく気になるけど、いつかもし話してくれるならそれは一番に私に話してほしい」
「はい。約束します」
私が差し出した小指に土井先生のそれを絡めてくれた。
いつも笑顔でニコニコしている彼女はここの生活にすっかり慣れたのだと思っていた。
最近は小松田くんのお手伝いに勤しんでいて、自分で役割を見つけにいく姿に感服していた。
近頃は掃き掃除が彼女の日課になっていて、それ以来落とし穴の目印が掃かれて無くなることが減ったと吉野先生と談笑していた自分。
は組の子達の誘いにも乗ってくれて、サッカーや隠れんぼに付き合ってくれているのを見て嬉しかったのだが、本当は疲れていて休みたかったのではないだろうか。
遠目から見守るだけでなく、もっと話しかければよかった。
そうすれば、実は無理していたことに気づけたのではないか。
何かと遠慮しがちな彼女が初めて見せた、涙と甘え。
過ぎ去った時は戻ってくれない。
今からでも溢れ出た彼女の心痛を私が救ってあげられるのなら。
いくらでも抱き締めたい。
きり丸のバイトで預かった赤子をあやすときのように、トントンと背中を優しく叩いてあげれば、涙は止まるどころか増えていく。
それでいい。
泣きたいだけ泣いて。
どれぐらい時間が経ったか分からない。
徐々に呼吸が整ってきた彼女は幾分かすっきりした顔をしていた。
「ごめんなさい、涙で衣が・・・」
「気にしなくていい。すぐに乾くさ」
ぐずぐずと鼻を啜っている彼女にちり紙を渡した。
嗚咽が治まったことで部屋は静寂に包まれた。
「さすがにもう戻らないとですよね?」
「うーん・・・」
山田先生は出張で今夜は帰らない。
戻る理由があるとしたら倫理観的な問題で。
倫理観と今の彼女を天秤に掛けたら答えはすぐに出た。
「名前さんが眠るまでいようかな」
「いいんですか?お忙しいんじゃ・・・。私なら大丈」
だいじょうぶ、と言いかけた名前さんの口に人差し指を当てた。
「大丈夫じゃないときは大丈夫じゃないでいい。せめて私の前ではそうしてほしい」
名前さんは逡巡した後、小さく頷いた。
「さあ、もう遅いから横になって。眠るまで傍に居るから」
私に従って布団に潜り込み、小さな手で布団を顔ギリギリまで引っ張り上げた。
「・・・横に座られてたら緊張して眠れそうにないです」
確かにじっと見られてたら寝にくいだろう。
どうしようかと考えていたら名前さんは布団を巻くって、ちょうど人一人分のスペースを開けた。
「どうぞ」
「ええ!?いや、でも・・・」
「土井先生のこと信用してます。寒い・・・」
身を縮こませる彼女に、動揺しながらも言われるがまま己の身を滑り込ませた。
*******************
土井先生が甘やかしてくれるから。
ダメな私はその優しさに甘えてしまった。
一度甘えだすと、欲が出てくる。
とにかく寂しかった。
一人になりたくなかった。
土井先生のおかげで身体は暖まったが、心がもっともっとと温もりを求めていた。
布団の中に誘い込むなんて、我ながら大胆なことをしたものだ。
しかし土井先生ならきっと大丈夫という思いと、このまま万一のことがあってもまあいいか・・・なんて投げやりな気持ちと。
「あったかい・・・」
布団の中に2人分の体温が凝縮されて、ぽかぽか暖かかった。
「よかった。・・・いや、いいのか?」
独り言を呟く土井先生にクスクスと笑いが漏れた。
「あ、笑った」
「だって、動揺してるから可笑しくて」
「君のせいじゃないか!」
「ふふふ」
夜目が効かなくてもよく分かる。
土井先生の赤い顔が面白くて、笑いが漏れた。
「まあ・・・元気が出たならそれでいいけど」
「土井先生のおかげで元気出ました」
「よかった」
ホッとした表情を浮かべた土井先生に心配かけて申し訳ない気持ちと心配してくれて嬉しい気持ちと両方が溢れた。
「ていっ」
「冷たっ」
冷え性な足先を土井先生の足にぴったりくっつけると、冷たさに驚いた土井先生の足がぴくりと跳ねた。
「まだそんなに冷たいのか!?」
「冷え性なもんで。温めてください」
布団の中で逃げる土井先生の足を追いかけた。
「ふふ。観念しろー」
「仕方ないな」
「わっ」
追いかけていたはずの足に私の両足が捕まった。
「冷たいですよ?」
「だから温めてほしいんだろ?」
「でも・・・」
いざそうなると申し訳なくなる。
私の心情を読み取った土井先生はポンポンと頭を撫でてくれた。
「・・・土井先生」
「ん?」
彼になら話せるかも・・・。
そう思って口を開くが、やっぱり怖くなって閉じてしまう。
「・・・話したいことを話したい部分だけでいいよ」
土井先生はエスパーなのだろうか。
私の迷いを分かっているようだった。
「詳しく追及されるのが怖いかい?なら私からは何も聞かない。ただ君の話を聞くだけだ」
私は布団と土井先生に包まれながら、ぽつりと呟いた。
「私・・・実は隠している・・・というか言えてないことがあって。何て説明したらいいのかも分からなくて」
「うん」
「土井先生のことは信用しているんですけど・・・でも先生は学園に所属しているわけで」
「うん」
「私の話を聞いたら、学園に報告義務が生じるじゃないですか」
「・・・うん」
「追い出されたら行くところが無いんです。だから言えないんです」
ひとりぼっちになってしまう恐怖にキュッと土井先生の衣を握った。
「私のことは信用しているけど、学園が信用できないってことかい?」
「これだけ良くしてもらっておいて、何言ってるんだって感じですよね」
「いいや。そうじゃないけど、どうしてそう思うのかなって」
「学園長先生もすごくいい人で、こんな怪しい人間置いてくれて本当に感謝してます。でも私のことをよく思ってない人がいるのも事実で。その人達に反対運動みたいなのを起こされたら、学園長の意向一つではどうにもならなくなってしまう可能性があります」
ここは組織で、状況次第ではいくらでも私の立場は危うくなる。
「私は、私が生きていくために今は話せないことがあります」
私はずるい。
助けてほしいくせに、全部は曝け出そうとしない。
それでも自分一人で全部抱えることもできなくて。
土井先生の優しさに甘えてしまった。
「うん、わかった」
土井先生なら、こんな中途半端な私でも受け入れてくれる気がして。
「ごめんなさい、こんな勿体ぶるようなことを…」
「一つだけ確認していいかい?」
私は頷いた。
「名前さんは今後学園の敵になるようなことはある?」
ブンブンと勢いよく首を横に振った。
「それだけは絶対に無いです!」
「わかってたけど、直接聞けて良かった。うん、信じるよ」
土井先生は私の頬に手を添えた。
「正直、その隠し事はすごく気になるけど、いつかもし話してくれるならそれは一番に私に話してほしい」
「はい。約束します」
私が差し出した小指に土井先生のそれを絡めてくれた。