【4章】今も未来も
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「大丈夫ですか!?」
こんなにもお月様が似合う人は居るだろうか。
普段から醸し出されている気品のある仙蔵くんの見目は、月を背景に背負うことでさらに映えていた。
「どこか痛むのですか?」
何も答えない私を不審に思った仙蔵くんが、一通り私の身体を確認して無事を確かめると息を吐いた。
「辛いですか?」
そっと頬を濡らしていた涙を指で拭ってくれた。
「辛く・・・はないよ」
「この時代ではないところから来た・・・んですよね?」
私は素直に頷いた。
もう隠し通せる状況じゃない。
「さぞ不安だったでしょう」
「最初はね。というか信じられなかった」
「だから町へ行きたがっていたんですね」
「びっくりしたよ。テレビでしか見たことない光景が広がってるんだもん」
「テレビ?」
あ、テレビはね・・・と説明すると仙蔵くんは目を丸くした。
「紙芝居・・・みたいなものでしょうか」
「それが自動で勝手に流れてくる・・・みたいな感じかな」
「言っている意味は分かるのですが、想像ができないです」
全てを曝け出すのは怖かったけれど、背負っていた荷物を下ろせてすっきりした。
「今・・・すごく楽。今まで常に余計な事を喋らないように気を付けていたから・・・」
ずっと会話をするときは気を付けながら喋らないといけなかった。
それは思っている以上に心理的負担が大きかったようだ。
何も考えずに喋りたいことを喋れるって、こんなに楽なんだと思った。
「名前さんは頑張り屋さんですね」
頭を引き寄せられて、いい子いい子と撫でられれば、またじんわりと涙が浮かんだ。
「みんな優しかったから・・・辛くはなかったけど、大変だった」
いや、やっぱ思い返せば辛かったかもしれない。
特に文次郎くんとの関係性が良くなるまでは。
でも、それらが過去のこととして自分の中で風化しつつあることにも気づいた。
今の私は辛いことなんて何もない。
たまにホームシックにはなるけれど、それはあくまで寂しさであって、こっちの世界が辛いわけではない。
「まだまだこっちの常識無いけど、生きていけるかなぁ・・・?」
仙蔵くんは私の腰を引き寄せて、膝の上に座らせた。
「私が居ます」
手を取られ、その甲に彼の薄い唇が触れた。
「ずっと、ずっと傍に居ます」
だから、どうか・・・。
「私を選んでください」
*******************
宴会場から出て行った時は混乱していたようだったが、今の名前さんは、まだ戸惑いこそあるものの、憑き物が落ちたような表情をしていた。
会話の流れから出てくる私が知らない物を説明してくれるときはどこか嬉しそうだった。
だから、もしかしたら帰りたいのかと思った。
いや、それが当然の感情だ。
私だって知らない場所に飛ばされたら、早くこの世界に戻りたいと願うだろう。
我儘なのは分かってはいたが、帰ってほしくはなかった。
名前さんが居ない人生など、今の私には考えられない。
タソガレドキでの一件で、その想いは一層強くなった。
あんな生首フィギュア、もう二度と作らなくて済むように。
ずっと私が傍に居たい。
次、同じようなことがあった時には「恋仲をそんなところへ行かせられない」としゃしゃり出る肩書が欲しかった。
無条件に名前さんを守れる理由が欲しい。
そんな想いが前面に出てしまい、気づけば気持ちを伝えてしまっていた。
時期尚早だっただろうか。
もう少し関係を確かなものにしてからの方が良かったのでは、と思うが出てきた言葉を回収する術はない。
「選ぶなんて・・・そんな」
名前さんは小さく首を横に振った。
ああ、言わなければよかったと一瞬後悔したが、名前さんはきゅっと私の衣を握って目線を上げた。
「私、時代が違う人間だし、まだ字も上手く読み書きできないし、よく仙蔵くんを怒らせちゃうけど・・・」
そんなに怒っているつもりはないし、大概が嫉妬からくる自制心の問題なので名前さんは何も悪くない。
弁明しようと口を開きかけたが、彼女は言葉を続けた。
「それでもいいなら、仙蔵くんが私を選んで欲しい」
名前さんの瞳はまっすぐ私を見つめていた。
正直・・・名前さんは伊作を選ぶと思っていた。
女性の機微に敏い私でも読み違えることはあるのだな…。
だが、私にとっては願ったり叶ったりだ。
「好きです」
「私も、好き。ふふっ…」
「どうしたんですか?」
突然笑い出した名前さんに首を傾げた。
「人を好きになる感情やそれを伝える言葉って昔も今も変わらないんだなぁって思ったの」
「確かにそうですね」
幸せそうに微笑む彼女。
きっと私も同じ表情をしているに違いない。
数百年で生活はガラリと変わってしまうようだが、私が生きている限り、名前さんを想う気持ちは変わらないと、胸の中で誓った。
〜仙蔵ルート(サブ)Fin〜
こんなにもお月様が似合う人は居るだろうか。
普段から醸し出されている気品のある仙蔵くんの見目は、月を背景に背負うことでさらに映えていた。
「どこか痛むのですか?」
何も答えない私を不審に思った仙蔵くんが、一通り私の身体を確認して無事を確かめると息を吐いた。
「辛いですか?」
そっと頬を濡らしていた涙を指で拭ってくれた。
「辛く・・・はないよ」
「この時代ではないところから来た・・・んですよね?」
私は素直に頷いた。
もう隠し通せる状況じゃない。
「さぞ不安だったでしょう」
「最初はね。というか信じられなかった」
「だから町へ行きたがっていたんですね」
「びっくりしたよ。テレビでしか見たことない光景が広がってるんだもん」
「テレビ?」
あ、テレビはね・・・と説明すると仙蔵くんは目を丸くした。
「紙芝居・・・みたいなものでしょうか」
「それが自動で勝手に流れてくる・・・みたいな感じかな」
「言っている意味は分かるのですが、想像ができないです」
全てを曝け出すのは怖かったけれど、背負っていた荷物を下ろせてすっきりした。
「今・・・すごく楽。今まで常に余計な事を喋らないように気を付けていたから・・・」
ずっと会話をするときは気を付けながら喋らないといけなかった。
それは思っている以上に心理的負担が大きかったようだ。
何も考えずに喋りたいことを喋れるって、こんなに楽なんだと思った。
「名前さんは頑張り屋さんですね」
頭を引き寄せられて、いい子いい子と撫でられれば、またじんわりと涙が浮かんだ。
「みんな優しかったから・・・辛くはなかったけど、大変だった」
いや、やっぱ思い返せば辛かったかもしれない。
特に文次郎くんとの関係性が良くなるまでは。
でも、それらが過去のこととして自分の中で風化しつつあることにも気づいた。
今の私は辛いことなんて何もない。
たまにホームシックにはなるけれど、それはあくまで寂しさであって、こっちの世界が辛いわけではない。
「まだまだこっちの常識無いけど、生きていけるかなぁ・・・?」
仙蔵くんは私の腰を引き寄せて、膝の上に座らせた。
「私が居ます」
手を取られ、その甲に彼の薄い唇が触れた。
「ずっと、ずっと傍に居ます」
だから、どうか・・・。
「私を選んでください」
*******************
宴会場から出て行った時は混乱していたようだったが、今の名前さんは、まだ戸惑いこそあるものの、憑き物が落ちたような表情をしていた。
会話の流れから出てくる私が知らない物を説明してくれるときはどこか嬉しそうだった。
だから、もしかしたら帰りたいのかと思った。
いや、それが当然の感情だ。
私だって知らない場所に飛ばされたら、早くこの世界に戻りたいと願うだろう。
我儘なのは分かってはいたが、帰ってほしくはなかった。
名前さんが居ない人生など、今の私には考えられない。
タソガレドキでの一件で、その想いは一層強くなった。
あんな生首フィギュア、もう二度と作らなくて済むように。
ずっと私が傍に居たい。
次、同じようなことがあった時には「恋仲をそんなところへ行かせられない」としゃしゃり出る肩書が欲しかった。
無条件に名前さんを守れる理由が欲しい。
そんな想いが前面に出てしまい、気づけば気持ちを伝えてしまっていた。
時期尚早だっただろうか。
もう少し関係を確かなものにしてからの方が良かったのでは、と思うが出てきた言葉を回収する術はない。
「選ぶなんて・・・そんな」
名前さんは小さく首を横に振った。
ああ、言わなければよかったと一瞬後悔したが、名前さんはきゅっと私の衣を握って目線を上げた。
「私、時代が違う人間だし、まだ字も上手く読み書きできないし、よく仙蔵くんを怒らせちゃうけど・・・」
そんなに怒っているつもりはないし、大概が嫉妬からくる自制心の問題なので名前さんは何も悪くない。
弁明しようと口を開きかけたが、彼女は言葉を続けた。
「それでもいいなら、仙蔵くんが私を選んで欲しい」
名前さんの瞳はまっすぐ私を見つめていた。
正直・・・名前さんは伊作を選ぶと思っていた。
女性の機微に敏い私でも読み違えることはあるのだな…。
だが、私にとっては願ったり叶ったりだ。
「好きです」
「私も、好き。ふふっ…」
「どうしたんですか?」
突然笑い出した名前さんに首を傾げた。
「人を好きになる感情やそれを伝える言葉って昔も今も変わらないんだなぁって思ったの」
「確かにそうですね」
幸せそうに微笑む彼女。
きっと私も同じ表情をしているに違いない。
数百年で生活はガラリと変わってしまうようだが、私が生きている限り、名前さんを想う気持ちは変わらないと、胸の中で誓った。
〜仙蔵ルート(サブ)Fin〜
