みんないい感じに酔ってると思う。
目の前の名前さんも、少し目がとろんとしていていた。

「ふふふ、楽しいなぁ〜」

名前さんが上機嫌でお猪口を傾けていて、思わず笑みが溢れた。
手にお猪口を持って、誰かに注がれたらそれを飲み干す。
それを何度も繰り返し、名前さんはもうそろそろ飲むのをやめたほうがいいだろう。

水を渡すと、素直にそれを飲んだ。
一時はどうなるかと思ったが、隣で再び笑ってくれて、心底ホッとしている。

「本当に……戻ってきてくれてよかったよ」

嫌がらないのをいいことに、サラサラとした指通りの良い髪を弄りながら、私は名前さんにそう言った。

「本当そうですよ！私の居場所は忍術学園なんだって、今回の一件で、よぉーくわかりました！」
「それは良かった。❝よぉーく❞わかったんだね？」
「あ！笑ってますね！？」

赤い頬でくすくす笑う名前さんから、ポスンと力の籠もってないパンチをお見舞いされた。



「でもよく考えたら、この時代まで数百年遡って飛んでしまった以上のことなんて無いから、現代に帰るより、忍術学園に帰る方がよっぽど簡単ですよね！なんで私あんなに絶望してたんだろ」



名前さんの口から出てきた言葉が、私は上手く飲み込めなかった。


「え……？」


数百年飛んできた…？



「そう、よぉーくわかったんです！忍術学園で！室町時代で！生きていきます！もう迷わない！」



名字名前、飲みます！と宣言してぐびっとお酒を喉に通している。


「あれ…？なんで、みんな静かに………！？！？」


名前さんは青褪めた表情で口元に手をあてた。



「今、私……なんて言ってましたか……」
「数百年飛んできた…とか」
「室町時代で生きていく…とか」



自分同様、彼女の発言が飲み込めずその場がシーンと静まり返っている中、名前さんの質問に利吉くんと私が答えた。

すると、目を左右にキョロキョロ動かして、さっきまで上機嫌だった名前さんは一転して泣きそうな表情を浮かべていた。


「あの……私……」


誰もが、名前さんの次の言葉を待っていた、その時。


「ごめんなさい！！！」


バッと頭を下げたかと思うと、食堂を全速力で出ていってしまった。