色づいた世界で、君と
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺は看護師として働くよう造られた。
医療に関する知識は全てインプットされており、余程のイレギュラーじゃなければ対応は1人で出来る・・・そう思っていた。
「・・・テメェッ!どういうつもりだ!?」
「・・・何がだ?」
「何がだ・・・じゃねェッ!あんなガキに正直に現状伝えンじゃねェっつっとンだ!」
「でも本当のことだろう?」
「本当だとしても、それで不安煽りゃァ成功する手術も失敗することだってあンだよ!」
「・・・そういうもんなのか?」
「ンなことも分からねェなら、看護師なんて辞めちまえ!」
何故か酷く怒られて、少し考える。
正直に伝えたほうが良いと思っていたが、違ぇのか?
俺の頭の中にあるマニュアルを検索してみてもその答えは書いていない。
どうしたものかと考えていると、声を掛けられた。
『・・・轟くん。』
ふと見ると一ノ瀬が少し困った顔をしていた。
さっき爆豪に「・・・俺の担当患者にあのクソ野郎、当てンじゃねェぞ。」と言われてショックだったのかもしれないと考えた俺は、一ノ瀬に謝ることにした。
「・・・一ノ瀬か。・・・悪かった。」
『ううん。言ってしまったことはしょうがないよ。・・・でも爆豪くんの言う通り、患者さん達はすごく不安に思っているから、その不安を煽るようなことはしないであげて欲しい。』
「・・・正直に言わないほうがいいってことか?」
『時と場合によるから何とも言えないけど・・・。やっぱり今日みたいに子供達はまだ精神的に不安定な部分もあるから余計かな?』
「・・・そうか。」
『あっ・・・でも、正直に言って欲しいって言う人も中にはいるから、本当にそこは担当の先生たちと相談して決めるってことにしてるんだ。・・・その辺説明出来てなくて私もごめん。』
「・・・いや。一ノ瀬のせいじゃねぇよ。」
俺のマニュアルの中にはない、新しい知識。
それを教えてもらい、俺は次に生かそうと自身の記憶媒体にそれを書き込みながら、人間の気持ちを分からない自分に少しだけ当惑する。
何故なら俺には死に対する恐怖心が無いからだ。
人間に当たり前にある死が、俺には無い。
壊れることはあるが、人間のように歳を取るということが無いため、基本的にはお役御免になれば廃棄になり、役に立つ以上は働き続ける。
そうなったときに、死に対して恐怖心があればアンドロイドは破棄を拒むだろう。
恐らくそうならないために、死に対しての恐怖心は植え付けられていない。
だから人間の心を理解するにはもう少し時間がかかるのかもしれないなと考えていた。
『・・・でも、まぁミスはするよね!』
「え?」
『私も昔はよくミスしたよ?よく先生や先輩達に怒られたし。』
「・・・そうなのか?」
『うん!だから轟くんも今日のミスは明日の糧になるように、何が悪かったのか忘れないで次に生かそう!』
人間は間違いを犯すもの。
それは知っていたが、アンドロイドの俺にも同じような目線で話す一ノ瀬が不思議だった。
だって俺はアンドロイドで、一ノ瀬は人間だから。
俺に向かって微笑む一ノ瀬を見て、何故かほんの少しだけ温かく感じたのは、電気系統の異常によるものなのかもしれない。
その次の日の夜。
俺と一ノ瀬は夜勤で、俺が夜に病棟の見回りをしている時だった。
消灯時間はとうに過ぎているはずなのに、1室から少しだけ光が漏れている。
消灯するよう声を掛けようとして、部屋に入ったところ、そこには入院中の女児と一ノ瀬が何やら話をしていた。
『じゃあ、壊里ちゃん。次は何する?』
「えっと・・・、じゃあトランプがいい。」
『よぉーし分かった!じゃあババ抜きでもする?』
「うん!」
時刻はすでに夜の10時を回っている。
本来であれば9時には消灯するべき時刻なのに、どうしたのだろうかと思い一ノ瀬に声を掛けた。
「・・・おい。一ノ瀬。」
『ん?・・・あ、轟くん。』
「誰・・・?」
『あ。この人は私と同じ看護師の轟くんだよ。』
「よ・・・よろしくお願いします。」
「あ・・・あぁ。・・・よろしく。」
何故か挨拶する流れになるが、今はそういうことじゃねぇ。
一ノ瀬に何故消灯時刻を過ぎているのか聞くために、再度一ノ瀬の名前を呼んだ。
すると一ノ瀬は女児に『ちょっと待っててね』と笑顔で言って、俺と一緒に部屋を出る。
『あ。消灯時刻だよね?』
「あぁ。もう1時間も過ぎてるぞ。いくら個室とはいえ・・・」
『分かってる分かってる。』
「じゃあ・・・」
『あの子はちょっと事情があって・・・』
「事情?」
『色々家庭で問題があったみたいで、1人で今回入院するってなった時も大変だったの。それに手術内容も結構ハードな内容だから、本人もちょっと気持ちが萎えちゃってるみたいで・・・。だから少しでもここが楽しいって思えるようになればと思って、本人が気乗りしたときに、こうして遊んだりしてるの。』
「それは師長も知ってるのか?」
『もちろんっ。香山師長にはきちんと承諾貰ってるよ。』
師長から許可を得ているのであれば、問題はねぇか・・・と思っていると、一ノ瀬が思いついたという感じで目を光らせた。
『あ!そうだ!轟くんも一緒にどう?』
「え?」
『ババ抜き!2人より3人のほうが面白いだろうしさ!』
「いや・・・でも・・・」
『もう見回りは済んだんだよね?だったら、ささっ!』
そう言って、半ば無理矢理俺を病室に連れ込む一ノ瀬は、果たして本当に正しい業務と言えるのだろうかと思いながらも、俺はされるがまま、新しく用意された椅子の上に腰掛けていた。
「え?とろろきさんも、一緒にやってくれるの?」
「・・・轟だ。」
「とろ・・・ろき・・・さん?」
『うんうん!そうだよっ!3人でしよう!』
「やったぁ。」
どうやら俺の名前の発音が難しいのか、轟と発音しにくいようだった。
・・・発音しやすい名前に変えてもらうか?・・・田中・・・とか。
なんて考えている間に、カードが配られて、俺は揃っているカードを切っていく。
そして3人とも次第にカードが減っていった。
「わぁ!やったぁ!上がり。」
『わっ!壊里ちゃん、1位だよぉ!凄い!』
「えへへ。」
そう言って残り後3枚の一ノ瀬が、俺のカードを引く。
そして俺があと1枚となり、後は俺がジョーカーじゃないカードを引けば終了となるから、一ノ瀬の目線を見て、ジョーカーじゃない方を取ろうとした時だった。
『ちょっ!・・・ストップ!』
「ん?どうした?」
『・・・見えてる?』
「・・・見えてねぇ。・・・けど目線で分かる。」
俺がそう言うと、壊里ちゃんは「すごぉい。」と目をキラキラさせていた。
『目線で分かるの?』
「あぁ。・・・ジョーカーこっちだろ?」
そう言って俺がジョーカーのカードを指さすと、一ノ瀬は『ずっ・・・狡い!』と頬を引き攣らせる。
何だか少しだけそれが可笑しくて、「なら見ねぇでやってみたらいい。」と言ってやった。
『ぐぬぬ・・・。じゃあ私もどっちか分からないようにすれば良いよね?』
そう言って、自分の身体の後ろでカードを見えないように組んでから、テーブルの上で2枚のカードを伏せてぐるぐると回して、『さぁどっち!?』と聞いてきた。
必死に分からないようにしていたようだが、俺からしてみれば何も変わっちゃいない。
さっき後ろで組んでた時の身体の使い方、音からして、どちらがジョーカーかなんてすぐに分かっちまう。
これは当てないほうが良いのか?と思い、ジョーカーを取ろうとしたが、その瞬間に『おっ。さすがにこれは轟くんも分からないかぁ~』と言われたのが癪に触ったのか、気付けばジョーカーじゃない方へ手を伸ばしひっくり返す。
『えっ!?えぇ!?』
「・・・俺の勝ちだな。」
何だかあっけにとられた様子の一ノ瀬の様子が面白いな、なんて思っていた時だった。
『・・・笑った。』
「ん?」
『今・・・笑ったよね?』
「そうか?」
自分では意識していなかったが、笑ってたのか?
何故俺が笑ったことに興奮しているのかは分からねぇが、一ノ瀬が鼻息荒く喜んでいる様子はさっきの顔よりも面白いかもしれねぇ。
そんなことを考えながら、俺はトランプを数字の順番通りに並べ替えてケースに片付けた。