色づいた世界で、君と
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轟くんが配属された翌日、今日も私は轟くんの教育担当としての仕事を平行して行っていた。
『あ、轟くん。田中さんの点滴、そろそろ交換の時間だから・・・』
「もう済んだ。」
『え。早いね。じゃあ・・・』
「あとは備品の発注も済んでる。」
『あ・・・そうなんだ。』
最早彼に教えることは何も無いんじゃないかな?って思うくらい、仕事に無駄が無くて、彼1人で看護師5人分くらいの労力があるんじゃないかなって思うくらい働いてくれていた。
『じゃあ、お昼休憩にしよっか。』
「あぁ。」
『・・・アンドロイドってご飯食べるのかな?』
「いや。俺達は食べる必要は無い。ただ、休憩時間は充電が必要だ。」
『・・・充電。』
「見るか?」
『え?』
そう言って轟くんはスタスタと自分の休憩室へと入っていく。
後を追いかけてちらりと見れば、何だかコードを自分の服を捲り上げてお腹辺りにを繋げて充電をしているのが分かった。
「このまま1時間充電すれば、1日は充電せずに働ける。」
『そ・・・そうなんだぁ。』
あまりに見たことのない光景に、ついじっと見てしまっていると「休憩時間終わっちまうぞ。」と轟くんに言われて、我に返る。
『あっ!ご・・・ごめん!つい長々と見ちゃって。』
「いや。別に構わねぇ。」
轟くんは特に気にしないといった様子で、真っ直ぐに私を見る。
何だか私だけが変に意識してるみたいで恥ずかしいと思いながら、私は昼休憩を取るために、休憩室へと向かった。
「 葵ちゃん、お疲れ様~。」
『あ。お茶子ちゃん。お疲れ様。』
「今日も轟くんの教育?」
『うん。でもほぼ何も教えることが無いくらい仕事完璧だけどね。』
「なんかさっきちらっと見たけど、カルテ纏めるのとかもすっごく早くて、びっくりしたよぉ~。何だか自分が仕事出来ないって思ってしまうわ。」
『轟くん、仕事めっちゃ早いもんね。』
「看護師が不足してるって言われてるし、これからアンドロイドが増えたら、医療現場は大分楽になるのかもしらんね。」
そんな話をしながら休憩を終えて、仕事に戻る。
お昼からは確か洸太くんの手術に向けての説明があったな・・・なんて考えながらナースステーションで親御さんに向けての説明資料を用意していた。
「・・・という手術内容になります。」
「爆豪先生。洸太のこと・・・よろしくお願いします。」
担当医の爆豪くんと一緒に親御さんへ手術内容を説明し、無事承諾書にサインをいただき、終了した。
正直今回の手術は難しいものになるけど、何だか爆豪くんが執刀するとなると頼りがいがあって安心だ。
100%助かるとは限らないこの医療現場だけど、やっぱり頼りになる先生、そして患者さんの気持ち1つでも結果が変わることがザラにある。
だから患者さんの気持ちのケアも大切な訳で、大きな手術で困惑している洸太くんを不安にさせないようにしないと、と私はいつもよりも元気を出して洸太くんの病室に向かった。
「・・・手術ってどのくらい成功すんの?」
「・・・病状から推測するに50%程度ってところだな。」
「・・・そっ・・・そんな低いのかよ。2人に1人は成功しないってことじゃんか。」
「もっと成功率の低い手術もある。そう考えれば50%という確率は・・・」
『ちょっ!・・・ちょっと轟くん!』
洸太くんの病室に入る直前に聞こえて来た2人のやり取り。
いくら洸太くんがしっかりしているとは言え、まだ子供だ。
正直に手術の成功率は親御さんには話はしているけど、本人に告げるにはまだ気持ちが幼いため、教えない方向で進めていた。
でもどうやら洸太くんが点滴交換に来た轟くんに聞いたらしく、轟くんは正直に答えてしまっていたようだ。
『こ・・・洸太くん。手術のことなんだけどね・・・』
「・・・その男が言ってることが本当なんだろ?」
『えっと・・・』
「確率50%が他の手術に比べて高いとか低いとか知らねぇけど、2人に1人は成功しないってことだろ。・・・全然確率高くないじゃん。」
『こ・・・洸太く・・・』
「・・・もう出てってくれよ。」
そう言って塞ぎ込んでしまう洸太くんだけど、このまま手術に向かわせるなんて本人自身不安がって、良い方向に進むなんて思えない。
言ってしまったことは取り返しが付かないけど、洸太くんを励ますのが先決だと思った。
『洸太くんを執刀する先生なんだけどね。凄い先生なんだ。』
「・・・そんなの知らねぇよ。どんだけ凄い奴だろうが、確率50%なんだろ?」
『今までその先生が手術して助からなかった人はいないんだよ。どんな難しい手術も楽々っとこなしちゃう。』
「・・・でも今回はミスするかもしらねぇじゃん。」
そう言って俯く洸太くんにどう言って勇気付けようかと思っている時だった。
「・・・オイ、クソガキ。」
ドスの利いた声が聞こえて、振り返ると、眉間に皺を盛大に寄せた爆豪くんがそこに立っていた。
「俺が手術するっつっとンだ。ミスるはずねェだろ。」
「・・・で・・・でも・・・」
「でもも、クソもねェわ。俺はミスらねェし、テメェは治る。手術すりゃァ、後入院生活は術後経過入れても2週間程で退院だ。」
「ほ・・・本当なのか?」
「俺は嘘は言わねェ。」
暴君な言い回しなのに、何故かひどく納得させられる力がある。
子供の洸太くんもそれを感じ取ったのか、「うん、分かった」と頷いて、とりあえず一安心だ。
後はいつものように体温や酸素濃度を測って、私は病室を後にした。
すると、仮眠室から爆豪くんの声が聞こえて来た。
「・・・テメェッ!どういうつもりだ!?」
「・・・何がだ?」
「何がだ・・・じゃねェッ!あんなガキに正直に現状伝えンじゃねェっつっとンだ!」
「でも本当のことだろう?」
「本当だとしても、それで不安煽りゃァ成功する手術も失敗することだってあンだよ!」
「・・・そういうもんなのか?」
「ンなことも分からねェなら、看護師なんて辞めちまえ!」
そうして仮眠室から出てくる爆豪くんと鉢合わせする。
『あ・・・』
「・・・俺の担当患者にあのクソ野郎、当てンじゃねェぞ。」
そう言って、爆豪くんはどすどすと廊下を歩いて行った。
仮眠室の中を覗くと、部屋の真ん中に佇んでいる轟くんが目に入る。
『・・・轟くん。』
「・・・一ノ瀬か。・・・悪かった。」
『ううん。言ってしまったことはしょうがないよ。・・・でも爆豪くんの言う通り、患者さん達はすごく不安に思っているから、その不安を煽るようなことはしないであげて欲しい。』
「・・・正直に言わないほうがいいってことか?」
『時と場合によるから何とも言えないけど・・・。やっぱり今日みたいに子供達はまだ精神的に不安定な部分もあるから余計かな?』
「・・・そうか。」
『あっ・・・でも、正直に言って欲しいって言う人も中にはいるから、本当にそこは担当の先生たちと相談して決めるってことにしてるんだ。・・・その辺説明出来てなくて私もごめん。』
「・・・いや。一ノ瀬のせいじゃねぇよ。」
何だか少し落ち込んでいる気がするのは気のせいだろうか。
アンドロイドは心を持っているロボットだから、彼も傷ついているのかもしれない。
たとえそれがプログラミングされたものだとしても、それが轟くんの感じている感情であれば、それが本物だと思うから。
『・・・でも、まぁミスはするよね!』
「え?」
『私も昔はよくミスしたよ?よく先生や先輩達に怒られたし。』
「・・・そうなのか?」
『うん!だから轟くんも今日のミスは明日の糧になるように、何が悪かったのか忘れないで次に生かそう!』
私がそう言うと、彼は真顔のままこくりと頷いた。