色づいた世界で、君と
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時は西暦2xxx年。
益々機械化が進み、人間が行うには負担が多い作業や、危険な作業はロボットが担う時代。
人間がより快適に過ごすために、次第に作業を行うためだけのロボットではなく、感情を搭載された人間のケアを行えるアンドロイドが誕生した。
一見人間と遜色ない彼らだけど、人間と異なるのは飲食を行わない、歳を取らない、生殖機能を持たないということ。
そしてそのアンドロイドが実際、人間のケアを行うことが出来るのかという実証実験のため、今日うちの病院に看護師として派遣されて来た。
色づいた世界で、君と
「紹介するわね。厚生労働省から実証実験を行うために派遣されたアンドロイドの轟くんよ。」
今日もお色気たっぷりの看護師長の香山師長に紹介されたのは、髪の毛が赤白に分かれた綺麗なオッドアイの男の子。
何だか本当にアンドロイドって人間にしか見えないな・・・なんて思いながら、私はみんなと一緒によろしくお願いします、とぺこりと頭を下げて挨拶した。
「じゃあ轟くん、挨拶してくれる?」
「・・・はい。・・・俺は轟焦凍。看護師として派遣されました。よろしくお願いします。」
「んん!普通の挨拶ね!いいじゃない!」
受け応えとかも意外に普通にできるんだ・・・なんて感心していると、隣に立っている同期のお茶子ちゃんがコソっと話掛けて来た。
「・・・なんか凄いね。本当の人間みたい。」
『うん。凄いね。』
2人でコソコソと話をしていると、香山師長がその様子を見ていたからか、急に私の名前を呼んだ。
「一ノ瀬さん!」
『・・・あっ・・・はっ・・・はい!』
「今日から轟くんの教育担当ってことでお願いできるかしら?」
『・・・きょ・・・教育担当・・・ですか?』
「ええ。・・・と言っても、大体の業務は轟くん分かってるみたいだから、今入院されている患者さんの特徴だとか、注意点とか。後はうちの病棟でのルールとかも教えてもらえる?」
『あ、はい。分かりました。』
「じゃあ、今日の朝礼はこれでお終い!さぁみんな頑張ってきて頂戴っ!」
香山師長にそう言われて、その場のみんなは「ハイ!」と大きく返事をした。
『えっと・・・轟・・・さん?よろしくお願いします。私、一ノ瀬葵と言います。』
「・・・あ。よろしくお願いします。」
私がぺこりと頭を下げると、同じようにぺこりと頭を下げる轟さん。
本当に人間にしか見えないな・・・なんて考えていると、轟さんが口を開いた。
「・・・一ノ瀬さんは、27歳ですよね?」
『・・・へ?』
「俺も同じ年なんで、敬語じゃなくて良いですよ。」
『・・・そう?・・・じゃなくて、その前になんで私の年齢・・・』
「俺には見えるんです。」
どうやらアンドロイドには顔を見れば年齢が分かる機能が備わっているらしい。
見た目が人間でも色々と人間と違うんだな・・・なんて感心する。
『あ。・・・じゃあ私も敬語やめるから、轟くんも敬語無しでお願いできる?そのほうが気が楽だし。』
「・・・分かった。」
人間と違って、すぐに実践できるのはアンドロイドの凄いところ。
何の迷いもなく、私の言われた通り、轟くんは私への敬語を止めた。
『・・・じゃあ、早速今入院している人達について説明するね?』
「あぁ。」
そうして一通り、患者さんの説明や、病棟でのルールを説明し終える。
『・・・とまぁ、こんな感じかな?また分からないことがあれば聞いてね。・・・あと、それから今日の朝の回診はもう終わったから、今日患者さんにお渡しする薬や点滴の準備をしていこうか。』
「あぁ、分かった。」
そうして作業をする轟くんは何かを指摘する必要なんて無いくらい完璧な作業で、その後の手術に向かう人達の送迎なんかも、時間ロスが無いようにスムーズな動線だから、ほぼ私が何かを指摘するなんてことは無かった。
「じゃあ、今日はここまでね。轟くん。お疲れ様でした。」
「あ。はい。お疲れ様です。」
香山師長にそう言われ、スタスタと病棟を後にする彼を見送って、私は香山師長に彼のことを報告した。
「どうだった?轟くん。」
『そうですね。仕事も早いですし、的確てミスも無いです。それに・・・』
「あらいやだ!聞きたいのは、そういうとこだけじゃないわよ!」
『・・・え?』
「あんなにイケメンじゃないっ。それに仕事も完璧っ。これはこれはうちの病棟における青い春の予感っ!」
香山師長は若い人達の青臭いやり取りが大好物らしいけど、彼はアンドロイドだし、ちょっと違うような気がするけどな、なんて思ったけど、口には出さずに、私は『あはは』と空笑いをした。
今日のシフトを終えて、私も家に帰ろうと病院のロビーを歩いていると、後ろから聞きなれたドスの利いた声が聞こえる。
「・・・テメェも今上がりか?」
『・・・あ、爆豪くん。お疲れ様。今上がりだよ。』
「ンならメシ付き合えや。」
『うん。いいよ。』
彼は外科医で同期の爆豪勝己くん。
若干27歳にして、新進気鋭の外科医として医学雑誌で取材を受けるほどだ。
彼自身は取材がうぜェとか言ってるけど、どうやら根津院長によって取材を受けるように言われたらしく仕方なしに取材を受けることになったとか、同期の切島くんが言ってたな。
病院近くのいつもの定食屋さんに入って、いつも注文するチキン南蛮定食を注文する。
爆豪くんはいつものように激辛カレーを頼んでいて、本当に辛いの好きだな・・・なんて考える。
「・・・テメェんとこに、アンドロイドの看護師が来たンだってな。」
『あ。聞いた?私教育担当なんだ。』
「・・・ア?テメェが教育担当なら、ミスばっかしそうだな。」
『う・・・、もう昔の私じゃないよ。』
どうやら彼の中の私は配属当初のイメージが根深く残っているようだ。
当時私はミスというミスを連発して、先輩達に迷惑を掛ける毎日だった。
それを目の当たりにしていた爆豪くんは、私は仕事が出来ない奴だと今でもイメージが払拭されないらしい。
「・・・で?どうなンだよ。そのアンドロイドってのは。」
『んー・・・。まぁ仕事は完璧かな。1回言ったら覚えるし。』
「そりゃアンドロイドだからな。」
『でも今のアンドロイドって凄いんだよ。本当の人間みたい。』
「本当の人間っぽく見えようが、所詮は機械だろが。」
『そんな言い方・・・』
「事実だろが。」
確かに轟くんは機械だ。
でもそんな風に見えないからか、爆豪くんにハッキリと機械だって言われて、何だかもやっとする。
頭で分かっていても心が付いてこないのか、それともやっぱり見た目が人間に見えるからか。
私はそのもやもやを水と一緒に飲み込んだ。
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