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MY HERO
私達はヒーローだ。
怪我なんて日常茶飯事だし、そんなことで取り乱してたらいくら身体があっても足りない。
でも今日の敵はいつもよりも少し厄介な個性持ちで、私は頭を強く打ってしまい、出血も多く、数日間意識を失っていたようだ。
夜に病院のベッドで目を覚ました私だけど、ベッド横のパイプ椅子に腰掛ける目の前の私の彼氏は、何故か酷く怒っているようだ。
『・・・ねぇ。勝己。』
「・・・ア?」
『・・・怒ってる?』
「・・・クソ敵は当たり前だが、応援が来る前に単独で行動したテメェに腹立っとるわ。」
あの時の敵の個性は私とは相性が悪くて、正直1人じゃ勝てないことは明白だった。
雄英高校でもそういった場合は、応援を呼ぶことを優先するように教えられていたけど、目の前に小さい男の子がいて、その子を守ることが最優先だと考えて行動した結果、私は敵に拘束されて、壁に何度も打ち付けられて頭を強く打って意識を失ってしまった。
その後、勝己を始めとする他のヒーローが来てくれて、敵の拘束に成功し、警察に引き渡されたようだ。
不甲斐ない自分を情けなく思うけど、結果、男の子は助かったみたいだし、良かったと胸を撫で下ろす。
『でもあの時はそうするしか無かったし・・・。そんなことより男の子が無事なら良かったよ。』
「・・・頭湧いとンのか。」
『え?』
「テメェが死んだら意味ねェだろが。」
確かに死んだら負けって思っている勝己はそういう考えだろう。
でも自分の命よりも困っている人を助けたいと思ってしまう私からすると、助けたいと思っている人が無事なことが一番重要だから、私はへらりと笑顔を返した。
「・・・テメェのそういうところが、心底ムカつくンだよ。」
『ご・・・ごめん。』
「・・・帰るわ。」
勝己は呆れた様子で私を見てから、病室を出て行った。
申し訳ないと思う。
恋人らしいことなんて、何もしてあげれていない。
勝己のことは勿論大好きだし、一緒に居たいと思ってる。
でもそれと同じくらい私にとってヒーローであり続けるということは大切なこと。
何が私をそうさせるのかなんて一言では言い表せないけど、目の前の人くらいは絶対に守れるヒーローでありたいんだ。
その数日後、検査も無事終了して退院を迎えた私は勝己と住む家に戻って来た。
所属する事務所の所長に電話をすると、もう暫くは家で療養するように言われて、私は家の掃除でもしようかな、なんて考えて家のドアを開く。
「・・・今日、退院なら連絡くらい寄越せや。」
『あ。ごめんごめん。勝己仕事だったら悪いなって思ってさ。』
私がそう言って廊下に立っていた勝己の横を通り過ぎようとした時、腕を掴まれて前に進めなくなる。
『勝己。私、手洗わないと。』
「・・・ンならさっさと洗って、リビング来いや。」
『・・・うん。』
手を洗い終わって、私はソファに座っている勝己を見つけて、何だか怒られそうな気がしつつ、勝己の身体に触れるくらいの距離に腰掛けた。
すると、私の身体をすっぽりと腕で囲むから、私はバランスを崩して勝己の方へ背中から倒れ込む。
『わわっ。』
「・・・・・。」
私の項に鼻を寄せる勝己は何も言ってこなくて、何だかいつもみたいに怒鳴られたほうがマシだと思ってしまう。
こうやって黙っていられると、何だか自分が本当に悪いことをしたみたいな気になる。
『・・・勝己。・・・心配かけてごめんね?』
「・・・どうせ口だけだろが。」
『そ・・・そんなことないよ。心配かけたなって思ってるよ。』
「・・・でもまた同じことになったら、テメェは自分のこと後回しにして、他のモブ共助けるンだろが。」
『うっ・・・』
「・・・多少の怪我はしゃァねェだろが、今回のは死んでもおかしくなかったンだぞ。」
『・・・ごめん。』
「テメェが死んだら意味ねェって、あんだけ言っても分からねェのかよ。」
私の後ろにいる勝己がどんな顔をしているのか何て分からないけど、酷く弱った声に胸が痛くなる。
いつもの勝利の権化みたいな強気の勝己じゃなくって、なんだか小さな子供のようになっている勝己は、あの日助けたいと思った男の子と同じなのかもしれない。
『・・・ごめん。』
勝己の方へ首を回すけど、俯いている勝己の表情は前髪で隠れて見えない。
俯いた顔を手で摩ると、少しは機嫌が戻ったのか、勝己は顔を持ち上げる。
目の前の人を救いたい。
それはこの人もその1人だったんだと気付かされる。
ヒーローであるため、勝己の恋人であるため、私は今まで以上に強くならなくちゃいけない。
誰にも泣いてほしくない。
『・・・もう、勝己を悲しませるようなことはしない。』
心からそう思って宣言したつもりだったけど、何故か勝己は盛大に溜息を吐いた。
「・・・ヒーロー辞めろっつっても、テメェは言うこと聞くような奴じゃねェしな。」
『う・・・うん。』
「ならせめて俺の傍にいろ。」
『え・・・?』
「テメェは俺の事務所に移籍だ。そうすりゃ、テメェは俺のこと見捨てる訳にはいかねェから、死ねねェだろが。」
・・・私が、ダイナマイト事務所に?
『え・・・、でも今の事務所が・・・』
「所長からは移籍の許可取っとるわ。」
『えぇ!?でもさっき所長に電話した時はそんなこと言って無かったよ。』
「俺から言うから黙っとけって言ったからな。」
『そんな勝手に・・・』
「そうでもしなきゃテメェは、また1人でどっかフラついて怪我すンだろが!」
眉間に皺を寄せて、むすっとした顔で睨まれるけど、それもこれも私を心配してのことだと分かっているから、どうも憎めない。
いつだってこうして勝己は私のことを甘やかすから、私は勝己と一緒にいるとヒーローになりきれない。
困っている人を助けることと、勝己と一緒に過ごしていきたい私が混ざって、つい自分のことを大切にしたくなっちゃう。
だから最初勝己が事務所を立ち上げた時も、誘いを断ったのに。
「・・・ンな嫌なんかよ。」
『え?・・・いや・・・そういう訳じゃなくって・・・』
「ンならどういう訳だよ。」
『・・・私さ・・・、勝己と一緒にいると、つい甘えちゃうから。』
「ア・・・?」
『だから・・・、違う事務所に行くことにしたのに・・・。』
「・・・どういう意味だ。」
『・・・勝己といると、一緒に居たいって思っちゃうから、悲しませないようにしなきゃって考えちゃうの。』
「・・・ンなら、余計俺の事務所に来させねェ理由はねェな。」
『・・・ずるい。』
「ア?」
『勝己ばっかり・・・、私だってヒーローなんだよ?守られてばっかじゃ嫌なの分かるでしょ?』
「・・・誰が、テメェは守られるだけっつったよ。」
『へ?』
「・・・テメェが危ねェ時は、俺が助ける。だが、俺が危ねェときはテメェが俺を助けるンだよ。」
いつか響香ちゃんが言っていた、勝己がチーム対抗戦の時に言っていたという言葉。
そうだ。
勝己が目指すのはいつだって、完全勝利。
自分が死んでも、私が死んでも、それは勝己が負けたってこと。
私がヒーローであり続けたいと思うのと同じように、勝己の勝利への執着は半端じゃない。
そうなればお互いのためにも、そうあるべきなんだろう。
「俺の背中任せられるたァ、光栄に思えや。」
『ふふっ。背中は任せて?大・爆・殺・神・ダイナマイト。』
そうして、私達はいつものように身を寄せ合った。