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まだまだ初心者な俺達
葵と付き合って約1か月。
出会いは俺が葵を夜道で助けたことだ。
どうやら会社での飲み会の帰りに、葵はその辺の酔っ払いの男3人に声を掛けられていたらしい。
で、丁度パトロールに出ていた俺が、その現場を見てその酔っ払い共に声を掛ける。
すると酔っ払い共はヒーローが来たと気付いて、そそくさ逃げやがった。
別になんてことの無い、俺にとっちゃァ日常の光景。
逃げた奴らに舌打ちをして、別に怪我なんざしてねェだろが、仕事の一環として確認をする必要があるため、俺は女の方へ振り返った。
『あ・・・ありがとうございます。』
一目惚れなんざありえねェと思ってたが、その考えをブチ壊される程の破壊力が、その女にはあった。
だが、ここで必要以上に声を掛けるってこたァ、あの酔っ払い共と同じこと。
俺は平静を保ちつつ、女に怪我が無ェかを確認して、仕事に戻ることにした。
だが、その日から、その道を歩く度に無意識にその女を探している自分に気が付いた。
自分自身キメェと分かりながらも、そんな都合良く会える筈も無く、ただ日々は過ぎて行った。
「・・・オイ、アホ面ァ。どういうこったァ?」
「ごっ・・・ごめんって、かっちゃん。」
「俺ァ、独立するためのスポンサーって聞いたから、来てやったンだぞ!?」
「ま・・・まぁ、一応?そのスポンサーの社長の娘さんみたいでさ・・・。」
「アァ!?なンで、俺がンな女に媚び売らにゃならねェンだ!!?」
「まぁまぁ、バクゴー!今日は他に何人か女の子も来てるみたいだからさ。適当に何杯か飲んで、さくっと帰ろうぜ?」
「モブ共と飲んで何が楽しいってンだ!?」
「はいはーい、とりあえず店入るぞー。」
「オイ!瀬呂!テープ外せや!!」
ある日の晩、アホ面にハメられ、俺はモブ女共の飲み会に参加させられた。
何で俺が、何が楽しくてンな場所に行かにゃならんのだ。
ンなことしてる暇があるなら、家に帰って筋トレしてたほうがどれだけ有意義か。
瀬呂のテープで巻かれ、引き摺られるように個室へと連れて行かれ、扉を開いた。
「わ!本当に本当にヒーローだぁ!」
「きゃーっ!かっこいい!本物だぁ!」
「遅れてごめんな!」
「どうしたの?1人テープでぐるぐる巻きにされてるけど?」
「あー・・・、コイツのことはとりあえず気にすんな!」
切島がそう言うと、女共は俺の機嫌の悪いのに流石に気が付いたのか、俺のことには触れず、取り合えず乾杯しようなんつー流れになった。
逃げ出せねェようにか一番奥の席に押し込められてから、ようやくテープが外される。
クソうるせェ、女共の金切り声が聞こえる中、酒を飲みながら腹ごしらえを済ませ、会話にはほぼ参加していなかった。
「あれ?かっちゃん、どこ行くんだよ?」
「ア?トイレくらい行かせろ。」
女共も俺の態度の悪さに引いてンのか、最初こそ話しかけてきていたが、最早話掛けられることは無くなり、俺はトイレに立った。
はよ帰りてェと思いながらも、トイレを済ませ、外に出た時だった。
「ねぇねぇ、連絡先教えてよ。」
『あ・・・あの・・・、今日は友人と来てるので・・・』
「なら、その子達も一緒に連れて来ていいからさ。」
『いや・・・でも・・・』
「飲んでる部屋どこなの?一緒に行くよ?」
トイレを出たところの通路で、いつかの女がまたしてもスーツ姿の男に絡まれていた。
明らか迷惑そうにしている女を逃がすまいと、壁際に追い詰めている男を見て自然と眉間の皺が深くなるのが分かった。
今は業務時間外だが、ンなこと関係ねェ。
俺はその女と男の間に自身の体を差し込んだ。
「あ?なんだ、お前。」
「明らか嫌がってンだろが。」
「は?」
「この女が嫌がってンのが分かんねェのかって言ってんだ。」
「ヒーロー気取りかよ。」
「お生憎様、こちとらマジでヒーローやってンだわ。」
俺がそう言うと、その男は俺のことを知っていたのか、「ま・・・まじかよ。あのダイナマイトかよ。」と言い捨てて、そそくさと逃げ出した。
すると俺の後ろにいた女が、俺に話かけて来た。
『あ・・・あの・・・』
「ア?」
『ありがとうございました。・・・以前助けていただいたヒーローの方ですよね?』
どうやら俺のことを覚えていたらしく、その女はそう言った。
覚えていてくれたことを嬉しく思いながらも、それ以上に何を喋ればいいのかなんて分かンねェ。
俺はそうだとだけ告げて、元居た部屋に戻った。
部屋に戻ってから、アホ面がメンドクセェ絡みをしてきたが、ンなことどうでもいい位、俺の頭ン中はあの女のことでいっぱいだった。
ただの女1人如きで、俺ン中がこんなにかき乱されるなんて、正直今まで経験が無ェ。
経験が無ェから、どうすれば良いかも分からねェ。
気付けば、飲み会は終わっていて、俺は自分の家へと戻ってきていた。
それから暫くして、俺が働いているジーニストの事務所に新しいサポート製品の紹介をしたいということで、サポート会社の営業とそのアシスタントがやって来るということだった。
だが肝心のジーニストは出張のため、俺が相手をすることになった。
メンドクセェと思いながらも、こういったサポート会社との繋がりも今後独立するのであれば必要だ、と自分に言い聞かせ、事務所で営業が来るのを待つ。
そしてやって来た営業の後ろに付いてきたのは、何の縁か、あの女だった。
『・・・ど・・・どうも。お久しぶりです。』
「あれ?一ノ瀬さん知り合いなの?」
『あ・・・、実は先日助けていただいて・・・』
女の名字は一ノ瀬だと、この時初めて知った。
そして、これをきっかけに俺と葵の距離は縮まっていった。
・・・いや。俺が縮めていったと言ったほうが正しいか。
どうも男に絡まれやすい質の葵は、俺が目を離した隙に、別の男が近づいてきやがる。
そんな奴等を蹴散らしながら、出来る限り葵がビビらねェように、んでから、俺のことを少しでも意識するように努めた。
そんな日々も1年程続き、葵も少しは俺のことを好きなんじゃねェかと思い、漸く俺は自分の気持ちを葵に告げた。
すると葵は顔を赤らめながら、俺の問いに頷いた。
つまりはオーケーということだ。
漸く自分の女に出来たということを嬉しく思いながらも、俺がンなことを正直に言うなんざ、あり得ねェ話な訳で、その点に関してはポーカーフェイスを貫いた。
んで、俺達が付き合ってから1か月経つが、まだセックスはしてねェ。
俺の仕事が立て込んでたっつーこともあるが、それ以上に俺自身の歯止めが利かなくなるんじゃねェかってのが一番の理由だ。
依存するなんざ思ってねェが、一度でも一線を越えちまえば、会う度にヤらにゃ満足出来ねェような気がした。
思春期のガキじゃねェンだから、と自分自身に言い聞かせるが、気持ちの大きさなんざ見れねェ訳で、葵が俺と同程度の気持ちなのか、そうじゃねェのか分からねェ。
自分のことを後回しにする癖のある葵は、俺が求めれば応えちゃくれるだろうが、そうじゃなく、葵の気持ちが追いついた時に、そういったことはしてェと思っとった。
そんなある日、仕事を終えて、自分のスマホを確認するが、珍しく葵からの返信がねェ。
・・・というか既読にすらなってねェ。
仕事が忙しいだけなのかもしらねェが、幸いにも事務所は葵の家の近所。
俺は着替えを済ませて、葵の家へと向かった。
以前送り届けた葵の住むマンションのロビーのインターホンで部屋番号を押すと、暫くして葵が出た。
『・・・はい。』
「開けろ。」
『あ・・・ごめん。朝から体調悪くてさ。』
「は?・・・熱は?」
『さっき寝る前に測ったら、38.7℃だったよ。』
「・・・メシちゃんと食ったンかよ。」
『あ・・・うん、今からちょうど食べようかと・・・』
葵は噓吐く時、少し言葉に詰まる癖がある。
絶対食べるつもりなんてねェのが分かって、それを問い詰めたら、観念したように黙りこくった。
ドアを開けるように詰め寄り、半ば強制的にドアを開けさせた。
『・・・いらっしゃい。・・・ごめんね?』
「俺が勝手に来ただけだわ。」
フラフラとした足取りで俺を出迎えようとしている葵は今にも倒れちまいそうだ。
俺は冷蔵庫の中にあるモンを確認しながら、葵へ声をかけた。
「・・・白飯に卵あンなら、粥ぐれェ作ったるから、寝とけや。」
『ありがと。』
「ン。」
素直に寝室へと向き直る葵を見て、相当辛いのだろうと悟る。
普段は人に弱みを見せるのが嫌いで、辛くても平気な面しやがる葵が、取り繕わねェっていうことはそういうことだろ。
俺は粥の用意をしつつ、ベランダに干しっぱなしの洗濯物を取り込んだ。
「・・・ア?」
ふと取り込んだ物の中に葵の下着を見つける。
別にガキじゃねェンだ。
ンなもんで興奮したりなんざしねェが、葵の下着姿を想像くらいしちまうのは必然だ。
俺は溜息を吐いて、極力無心でその洗濯物を畳んだ。
勿論、下着は服と服の間に挟んで、見えねェようにしてだ。
無事洗濯物を畳み終わり、粥も出来たところで、葵の様子を見に寝室へと足を向ける。
部屋ン中に入ると、少し寝苦しそうな葵がいて、近付くと熱が籠ってンのか、ぐっしょり汗で濡れてやがった。
このままじゃ、風邪をぶり返しちまうと思い、俺は濡れタオルを作って、洗濯物の中にあった寝巻きに着せ替えてやることにした。
別に何てこたァない。
救助活動で女の世話をしたこともあるし、高校の時にも、玉のヤツが持っていた所謂AVの類を男で見るとかいう会に無理やり参加させられたことだってある。
免疫がねェ訳じゃねェし、別に今までンなモン見ても、興奮なんてしたことねェ。
・・・と思っとったが、どうやらそれは俺が何とも思ってない女だったからだと、今知った。
着ていた服を脱がせて、タオルで汗を拭き、新しい服に着替えさせる、それだけの筈が、服を脱がせると、そこには白い肌が上気していて、汗が胸元を伝っていたから、俺の目はそこから動かせなくなっちまった。
『ん・・・。』
俺を動かしたのは葵の寝返りを打つ声だった。
起きたかと一瞬肝を冷やしたが、汗を掻いて少しは熱が下がったのか、すやすやと寝ている。
俺は気付かれる前にと、爆速で服を着せ替えて、デコに冷却シートを貼り付けてやった。
だが葵はンなことには、気付いている様子なんて微塵も無く、規則正しい寝息が聞こえてきた。
折角熱も下がって来てるのに、起こしてやるのも躊躇われ、結局俺はリビングに舞い戻り、やることもねェから帰ろうと思ったが、部屋の鍵も持っちゃいねェ俺は帰ることが出来ねェことに気付いて、リビングでスマホを弄って葵が起きてくるのを待つことにした。
暫くすると目を覚ましたのか葵がリビングにやって来た。
先ほどとは違い、フラフラせず歩けていることから熱は大分マシになったんだろうと分かる。
「粥。出来てンぞ。食うか?」
『うん。食べる。』
粥を温め直し、皿に盛り付けて葵の目の前に出してやると、どうやら味は気に入ったらしく、『美味しい・・・』と呟いた。
食欲も戻って来とるなら、もう大丈夫だろ。
そう思いながら、粥をはふはふと食べる葵を見ていると、何故か視線が定まらない葵に気が付いた。
と思っていたら、次は顔が急に赤くなってきやがるから、まさかまた熱がぶり返したンじゃねェだろな。
「・・・大丈夫か?」
『えっ!?』
「・・・顔、赤ェ。」
『あっ!・・・だっ・・・大丈夫っ!』
そう言って、俺に心配かけねェように取り繕うのはコイツの悪い癖だ。
無理くりにでも、此方から問い詰めなければ白状しねェ厄介な奴。
こんな奴を好きになっちまった時点でンなことは覚悟しとったが、いつになったら、コイツは俺に取り繕わずにいられンだ。
こうなれば俺が確かめるしかねェと、椅子から立ち上がり、額同士を付け合わせ熱を測ってやった。
「・・・熱はねェか。」
『む・・・』
「ア?」
『無理っ!!』
何が無理なのか。
葵は俺のことを手の平で思い切り突き飛ばしやがった。
「ア"?テメェ・・・何だ?」
『ごっ・・・ごめんっ。』
「無理って何が無理なんだ?ハッキリ言いやがれ。」
あわあわと焦っている葵を見て、追い詰めているのは俺自身だと自覚してるモンだから、自分自身にイラつく。
何が無理なんか知らねェが、俺にこうして近付かれることを喜ばねェ葵は俺のことを果たして本当に好きなのか。
思い返せば、俺から気持ちを伝えはしたが、コイツは頷いただけ。
頷いたイコール、コイツも多少は俺のことを好きだとか思っとったが、もしかするとそうじゃねェのかもしらねェ。
そうなれば、こうして家に来られるのも本当は望んじゃいねェのかもしらねェ。
嫌われてるとは思っちゃいねェが、まだ近付くには早すぎたのかもしれない。
「・・・帰るわ。」
『・・・え?』
「まだ本調子じゃねェのに、悪かったな。」
俺は頭を冷やすためにも、このままここにいちゃいけねェと、立ち上がり、自分の鞄を持った。
すると背中に軽い衝撃。
すぐに葵だと分かった。
『ごめん・・・なさい。無理って言ったのは・・・その・・・、恥ずかしかったからなの。・・・着替えとか変わってて・・・、裸・・・とか見られたのかなとか、洗濯物も綺麗に畳んでくれてて、下着見られたのかもとか・・・色々考えたら恥ずかしくて・・・、それで、勝己の顔がすぐ近くに来たから、恥ずかしさに耐えれなくなっちゃって・・・、ごめんなさい・・・。』
そう言って俺の服の裾をぎゅっと握りしめる葵の手に気付いて、不覚にも頬が緩む。
無理だというのはそういう意味だと知り、嬉しくなっちまう。
こんなことで絆されるなんざ、これまでの俺ならあり得ねェ。
「・・・手。服伸びンだろが。」
『あ・・・、ご・・・ごめ・・・』
申し訳なさそうに手を離す葵さえ愛おしいと思う。
コイツだから、これまでもこの先も、きっと俺を縛り付けるのは葵だけだろう。
『勝己・・・?』
「・・・言うの遅ェわ。」
無性に近付きたいと思った。
きっとそれは、葵が初めて取り繕わずに俺に本音を曝け出したからっつーこともあるが、それ以上に葵が俺のことが好きだと実感出来たから。
葵の頭を手で支えて、自然と葵に顔を近付ける。
葵は目を見開いちゃァいるが、ンなこと関係ねェ。
してェモンはしてェ。
有無を言わさず葵の口を塞いでやる・・・つもりだった。
「・・・ア"?」
『あ・・・いや・・・、風邪うつったら大変だし?』
このタイミングでこの女はマジでかと思った。
必死になって俺の口を手で押さえてきやがるから、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「・・・もう熱下がったンだろが。」
『いや・・・でも、まだ菌はいるかもしれないし・・・』
「かかンねェっつってんだろ。」
『で・・・でも・・・』
「だァアアッ!!!テメェは”だって”や”でも”が多いなァ!?」
『だ・・・だって・・・』
言った傍から『だって』を口にしやがるから、イラついてしゃァねェ。
葵は俺のことを心配してンだろうが、こちとら伊達にヒーローやってンじゃねェ。
体調管理なんざ自分で出来るし、葵の中にあるクソ風邪菌なんぞにやられるほどヤワじゃねェわ。
もしかして葵は俺にキスやら、それ以上のことをされンのが嫌なんじゃねェかって気にすらなってくる。
「・・・テメェは嫌なンかよ。」
『え?』
「俺に色々されンのとか、見られンの。」
俺がそう聞くと、葵は目を点にしてから、何か考えてやがるのか目を逸らす。
結局はこうして俺が自分の気持ちを伝えにゃ、コイツは自分の本音を曝け出さねェンだろ。
癪に障るが、これが惚れた弱みってやつなのか。
ンなことを考えながら、俺は自分の気持ちをありのまま伝えてやった。
「・・・俺は葵と色々やりてェし、葵の色んなとこ見てェと思っとる。」
すると何かに弾かれたように、顔を赤くして俺を真っ直ぐ見つめてきやがるから、それをイエスと取って、俺は今度こそ葵に口付けた。
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