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ご都合個性によるもので
クソッ。
今日は俺の人生の中で最も最悪な日だ。
隣を歩く自分の姿を見ながら、俺は眉間に皺を寄せる。
そして横にある建物のガラスに映った自分の姿を見て落胆する。
・・・ンで俺が半分野郎の姿になってンだ。
「大丈夫か?爆豪。」
「・・・テメェ。寮戻ったらンな喋り方すンじゃねェぞ。名前呼ぶときも気ィつけろや。」
「それなりに努力はするつもりだ。お前はいけんのか?」
「アァ!?誰に向かって言ってンだ!?完璧にこなしたるわ!!」
「お。そうか。」
今日は仮免取得に向けての補講だった。
いつものようにオールマイト達に車で送迎されて、学校に戻って来た俺達はオールマイト達と別れて、寮に向かっている途中だった。
突然目の前から制服を着た恐らく上の学年らしいモブ男がぶつかって来たから、俺は気に食わねェとガンを飛ばす。
するとソイツは恐れをなしたのか、反射的に個性を発動しやがって、気付けば俺と舐めプ野郎の中身が入れ替わっていた。
「オイ!!テメェ!元に戻しやがれ!!」
「ご・・・ごめんなさい!僕の個性は僕の意志では解除出来なくて・・・」
「アァ!?ンじゃァ、このままってことかァ!?」
「おい、爆豪、あんま怖がらせるな。」
「うるせェ!半分野郎!!」
「あ・・・あのっ・・・僕の個性は、そのまま何も無ければ3時間で解除されます。」
「・・・何も無ければって・・・何かあったら解除されねェのかよ。」
「そ・・・その・・・、僕以外の人にもしバレてしまえば、その時間は延長されてしまうようで・・・」
・・・ンだ、そのクソ個性。
俺は盛大に舌打ちそして、モブ男を睨み付けた。
「ヒッ・・・!」
「・・・すいません。じゃあ俺らが寮に戻って、部屋でじっとしとけば良いってことですよね?」
「あ・・・はい・・・そうだと・・思います。」
「そうだと思いますだァ!!??フザけてンのかテメェ!!」
「ヒィィッ!!!・・・すっ・・・すいませんっ!すいませんっ!!僕自身、あまり個性を使って来なかったので、あまり分かってないんです。・・・ただ、バレた人はそのまま1週間は身体が入れ替わったままになっているようなので・・・」
「ンだとコラァ!!テメェの個性くらい、テメェで把握しやがれ!!」
「ごっ・・・ごめんなさいーっ!!」
「おい。爆豪、その辺にしてやれ。この人だって、しようと思ってした訳じゃねぇだろ。」
しようと思ってしとったら、今頃このクソモブは塵と化してるわ。
心の中で悪態を吐きつつも、何をしても仕方がないと、俺達は寮に戻ってすぐに互いの部屋で時間を潰す他なく、溜息を吐きつつ、寮に戻ることにした。
だが寮の共有スペースを通らねェと、自分達の部屋に戻ることも出来ねェ。
まぁ、適当に疲れたから部屋で休むとか言やァ、それ以上は誰も近寄っては来ねェだろ。
・・・アイツ以外は。
少しの不安を覚えつつ、俺達は寮の中へと入った。
「お!補講組おかえりー!」
「今日もえらく怪我してるねぇ。」
「轟くん!補講お疲れ様!」
わらわらと俺達に近付いて来るクラスメイト共。
俺を半分野郎と思っているクソデクが、へらりと笑顔を向けて来やがるからサブイボが立つが、俺の体は今半分野郎になってる訳で、ここでバレたら1週間はこのままの姿な訳で。
俺は背に腹は代えられねェと、出来る限り自然にクソデクに返答した。
「おお。」
・・・ンな感じか?
てか、半分野郎は基本あんま口数少ねェから、適当に「おお」とか「そうか」とか言っときゃなんとかなンだろ。
別に俺の返答に疑問を持つわけでもなく、クソデクは俺・・・いや半分野郎に話掛けて来る。
それに適当に相槌を打ちながら、ふと半分野郎・・・いや俺に目を向けると、目を点にさせている俺がいた。
・・・ンの野郎ッ。
バレたら1週間はこのままって分かってンのか!?
「バクゴー?大丈夫か?・・・なんか変だぞ?」
「お・・・そうか?」
「やっぱ変!!どうしたのかっちゃんくん!」
「・・・ンなことねェ。」
「なんか静かだよな?・・・補講で何かあったのか?」
わらわらと俺の周りにアホ共が近寄るから、何か方法は無いかと思案して、俺は半分野郎として、声を掛ける。
「・・・爆豪の奴、かなり補講で動いてたからな。疲れてるんじゃねぇか?」
「え?!そうなのかバクゴー!」
「んじゃあ部屋で休んでこいよ!」
「・・・あぁ。そうすらァ。」
そう言って、のっすのっすと歩いて行く俺の姿を確認してから、俺もエレベーターで自室へと向かった。
半分野郎の部屋に入らねェと変に思われちまうということもあり、俺は半分野郎の部屋に、半分野郎は俺の部屋で過ごすことになった。
そして落ち着かねェ他人の部屋で雑魚寝してると、携帯にメッセージが届いた。
携帯は流石に交換する必要ねェだろということで、自分の携帯を持ってきたが、送り主の名前を見れば、それは葵からだった。
俺と葵は付き合ってる。
それはクラスの奴らも周知の事実だ。
さっき共有スペースにいなかったのは、どうやら相澤先生と話をしていたかららしい。
”さっき、切島くんに疲れたから部屋に戻ってるって聞いたけど、大丈夫?”
葵からメッセージが来て、自然と頬が緩む。
実際はンな疲れてねェが、変に心配でもされたら困ると、俺は ”大丈夫だ。心配すんな。” と送った。
そのメッセージは既読になり、親指を立てた謎の猫のスタンプが押される。
あと2時間半。
このまま晩飯まで部屋で寝てりゃァ、それでこの妙な入れ替わりも終了だ。
そう思い、やることもねェ俺は目を閉じた。
暫くして目を覚ますが、まだそこは半分野郎の部屋。
まだ時間が過ぎていないことに落胆しつつ、今の時刻を確認しようと携帯を覗くと、携帯に新たに葵からメッセージが来ていた。
”今日実家から美味しいお菓子が届いたから、今から爆豪くんに届けるね。疲れてるようだったら寝てていいからね。寝てたらお菓子ドアノブに掛けておくね。”
送られてきた時間は今からおよそ15分前。
もしかしたら半分野郎がドアを開けてるかもしらねェ。
俺は急いで自分の部屋へ走った。
自分のドアを見て、ドアノブに菓子が掛かってないことを確認して、部屋ン中に入ってるンじゃねェかと急いでドアを開ける。
「おい!!」
『・・・あれ?轟くん?』
「お。」
どうやらさっき来たところなのか、俺と葵がベッドに隣同士に腰掛けている。
このクソ半分野郎。
葵に手ェなんざ、出してねェだろうな。
『・・・どうしたの?そんな急いで。』
「ア?・・・あ、・・・あぁ。ちょっと爆豪に用事があって」
『あ。そうなの?』
「ん?何かあったか?」
・・・半分野郎、分かれよ。
大体想像つくだろが。
だが俺の姿をした半分野郎は頭の上にクエスチョンマークが飛んでるのが見えるんじゃねェかってくらい、訳が分かっていない様子だ。
『良かったら轟くんも食べる?』
「な・・・にを・・・」
『これ。私の実家から送られてきたお菓子。地元で今大人気の辛いお菓子なんだって。爆豪くん喜ぶかなって思って持ってきたんだけど、何だか疲れてるのか、辛い物食べれないみたいで・・・。あっ・・・轟くんも無理なら無理しないでね?』
そう言ってへらりと笑う葵を見て、さっきまでのイラつきが少し落ち着く。
・・・でもそれと同時に、半分野郎なんかに優しくすンじゃねェと思っちまう俺はおかしいンか?
「・・・べる。」
『え?』
「・・・その菓子、食べる。」
『あ。ほんと?じゃあどうぞ。』
そう言って部屋の中に案内するように身体を横に向ける葵に、吸い寄せられるように付いて行く。
だが、葵は当たり前のことだが、俺の姿をした半分野郎の隣に座って、俺は明らか蚊帳の外と言われンばかりの向い側に座らせられた。
・・・ンで、俺がこっちなンだ。
いや、それが普通なんだが、なんつーか、イラついてしょうがねェ。
『爆豪くん、だいぶ疲れてるよね?辛い物が食べれないなんて・・・』
「・・・ンなことねェよ。」
『そう?・・・でもなんだかいつもと様子も少し違うし・・・、もしかして熱でもある?』
そう言って、葵は俺の姿をした半分野郎の額と自分の額に手を当てて、熱を測りだす。
俺も目が点になったが、それ以上に俺の姿で目を点にして少し顔が赤くなってやがる半分野郎が癇に障る。
『ん?やっぱなんか熱いよ?』
「・・・気のせいだろ。」
『顔も赤いし。』
「・・・別に何ともねェ。」
『駄目だよ。明日も学校だし、ちゃんと休まなくちゃ。』
そう言って、手際よく俺の体を寝かしつける葵。
本当の俺ならいくらでも世話焼きゃァいいと思うが、それは俺じゃねェ。
半分野郎に甲斐甲斐しく世話してる葵を見れば、俺のことをどれだけ想ってるのか分かっちまうから、それはそれで嬉しいことだが、今じゃねェだろ。
俺はずんっとその場に立ち上がった。
『・・・轟くん?』
「・・・別にそんな世話しねぇでも大丈夫だろ。」
『え?』
「子供じゃねぇんだ。1人で出来るだろ。・・・なぁ?爆豪?」
「あ・・・あぁ。そうだな。」
『・・・何?何かやっぱり変だよ。爆豪くんも変だけど、轟くんも変。』
「は?」
『何か2人で私に隠し事してる?』
そう言って俺達の顔を交互に見る葵。
個性の効果が切れるまで残り約15分。
この部屋に来ちまった俺の失態かもしンねェが、半分野郎と2人きりにさせることなんざ出来る筈も無く、俺はこの部屋に来たことを後悔してはいねェ。
だがこのままだと葵にバレちまうかもしンねェ。
バレちまったら当面1週間はこのままだ。
半分野郎の身体で葵に触れるなんざしたくねェ俺は、この場をやり過ごすことを考える。
入れ替わりをバレないようにするために俺が選んだのは、違う個性事故に巻き込まれたということにすることだった。
「・・・実は個性事故にあったんだ。」
『え?』
「今の爆豪、様子がおかしいだろ?実はボーっとしちまう個性にかかっちまったみてぇでよ。」
『・・・そ・・・そうなの?』
「あと15分程度で元に戻るってことは聞いてるんだけどな。」
俺の話を聞いて葵は俺の姿の半分野郎をまじまじと見る。
そして半分野郎もそうだと返事をするから、葵は納得したのか「そうなら早く言ってよ。」と言いながらも、いつもの笑顔に戻っていた。
・・・これで何とかなンだろ。
そう思っていたが、どうやら葵は余程、何も言わない俺が珍しいのか、至近距離に近付きやがる。
『へぇー・・・。ぼーっとしちゃうと爆豪くん、こんな感じになっちゃうんだ。えへへ。なんか可愛いな。』
「・・・。」
・・・オイ。
それはどういうこった。
普段の俺は可愛くねェってか?
・・・いや、そもそも可愛いなんざ思われたくねェが、なんつーか、半分野郎に向かって可愛いなんざ言って、顔が緩みまくってる葵がイラついてしゃァねェ。
しまいにゃ俺の頬をつんつんと指で突いては、目が点になってる俺を見ては笑いやがる葵。
次第に俺の姿をした半分野郎の顔が真っ赤になってきやがる。
コイツむっつりかよ、フザけんじゃねェ。
葵は俺のンなんだよ。
そう思ったら、このまま残り時間をこいつら2人で過ごさせる訳にはいかず、俺は咄嗟に葵の腕を掴んで部屋の外へと引き摺って行った。
『わっ!・・・ちょっ・・・轟くん!?』
「・・・せェ。」
『えっ?』
うるせェ。
俺は半分野郎じゃねェ。
気付いてしまえば1週間はこのままってことは分かっとるが、俺だと気付かず呑気に俺の姿の半分野郎にヘラヘラしているコイツに無性に腹が立つ。
気付かれてはいけないと思いつつも、気付いて欲しいと思っちまうのは、コイツがあんな俺の前でしか見せねェ顔を半分野郎に見せたからであって、俺のせいじゃねェ。
自分の部屋の外の廊下の壁に葵の背を押し付ける。
すると葵は分からないという顔をして、俺を見上げた。
『・・・どうしたの?・・・轟くんも何か個性事故にあった・・・とか?』
「・・・。」
心配そうに俺の顔を見上げる葵に、俺以外の男に近付かれて普通にしてンじゃねェよ、と思っちまうが、掴んだ葵の温もりがいつもと同じで、ついこの腕ン中に閉じこめたくなっちまう。
クソッ・・・
早く時間過ぎろや。
『・・・爆豪くん。』
そう言われて、心臓が煩く跳ねる。
バレちまったのか?と思い葵の顔をじっと見た。
『・・・なんだか・・・爆豪くんみたい。』
「・・・ア?」
『・・・あっ。・・・ごめん。なんでかな?・・・そう思ったちゃった。』
何言ってるんだろうね、と言いながら、俺の顔色を伺う葵。
半分野郎の中に入っているのが俺だなんて思いもしてねェだろうが、何となく俺だってことが伝わるのだろうか。
コイツは姿形が変わっても、俺のことを探し出してくれるのだろうか。
へらりと笑う葵を見て、俺は個性事故のことなんざ忘れて無性に葵に触れたくなった。
「・・・葵。」
『え・・・?』
半分野郎の身体であることも忘れ、俺は葵の頬に手を添える。
すると葵の目は大きく見開かれて、その零れそうな大きな潤んだ瞳に吸い込まれるように近付いた。
「・・・ア?」
ふと気が付くと俺は、自室のベッドの上で葵が持ってきた辛い菓子の袋を持って座っていた。
・・・さっきまで葵の前に立っていた。
アイツの頬に手を添えて・・・ンでから・・・
ふと思い返して、俺は立ち上がる。
「オイ!!半分野郎!!!」
自分の部屋を飛び出して、廊下の壁にいる半分野郎と葵の姿が目に入る。
すると、葵も半分野郎も互いに目を点にさせて赤面してやがる。
俺は頭ン中で何かがブチ切れた気がして、補講で戦闘訓練をしたどんな時よりも早いスピードで葵の腕を引いて自分の胸の中に閉じ込めた。
「おっ・・・わりィ。」
『・・・ば・・・爆豪くん?・・・元に戻ったの?』
「・・・おうよ。」
俺がしたこととはいえ、半分野郎にこれ以上葵に近付かせてたまるかと、俺は半分野郎に威嚇する。
すると半分野郎は俺に謝りやがるから、それもまた気に入らなくて葵を抱きしめる手とは反対の手で空中に爆破をした。
『・・・じゃあ、本当は轟くんと入れ替わってたってこと?』
「おぉ。」
『それで、それがバレたら入れ替わり時間が延びちゃうから、バレないようにしてたってこと?』
「・・・そうだ。」
結局あの後、半分野郎の様子もおかしいということで、俺は問い詰められ、正直に葵に入れ替わりの個性事故の話をした。
すると葵は納得したようで、俺のベッドに腰掛けながら俺の隣に座っていた。
『ふふっ。』
「ア?・・・テメェ何笑ってンだ。」
『だって、入れ替わってたってことは、さっきの轟くん。爆豪くんだったってことでしょ?』
そう言って何がそんなおかしいのか、ケタケタと笑って俺にもたれかかってくる葵。
俺だってやりたくてやった訳じゃねェ。
バレりゃ、テメェに触れられるのも1週間はおあずけを食らう。
そりゃバレねェようにするだろが。
『そんなところまで才能マンなんだね。あんな風に爆豪くんが喋ってるなんて思ったら可笑しくて・・・。ふふっ。』
「・・・テメェ。・・・いい性格してンなァ?人がバレねェように必死にやってるのを笑うたァ・・・」
『ごめんごめんっ。ふふっ。』
謝りながらも笑いが堪えきれねェのか、口を押さえながら肩を揺らす葵。
コイツ・・・、後で絶対泣かす。
『・・・でも最後はちょっと爆豪くんだったね。』
「ア?」
『きっと爆豪くんがどんな姿形になっても、分かっちゃいそうだね。』
「・・・俺の演技が下手っつーことかよ。」
『ううん。そうじゃなくてさ、やっぱり彼氏だし。』
そう言われて、嬉しいと思っちまうのはおかしいのだろうか。
ンなことを言われた訳じゃねェが、姿形が変わったとしても、俺のことが好きだと言ってくれてるように聞こえた。
俺は葵の手を掴んで、ベッドへと押し倒した。
『・・・ぅわっ!どっ・・・どうしたの?』
「・・・なんかシたくなった。」
『え!?・・・なっ・・・何きっかけで!?』
「・・・知らね。」
そう言って俺は顔を赤くする葵を見て、俺は口角を上げ、その艶めいた唇を塞いだ。
fin