転機は唐突に訪れた。

　最近落ち込んで荒れているあたしを見かねた友人に誘われて出場した大きなLBXの大会。優勝景品は、あのアルテミスの出場権利。まあ、縁のない話だろうけど。
　ガチガチにバトルするのなんてだいぶ前にカズとやったのが最後だし、何も出来ず負けることは無くとも、優勝なんかは夢のまた夢だろうと思いながらエントリーした大会は、思いの外順調に勝利を重ねることができた。珍しく調子は良くて、変なミスをやらかすこともない。
　あたしを誘った本人は早々に負けてしまったみたいだけど。
　決勝戦。
　結論だけ言うと、勝った。
　勝てちゃった。
　湧き上がる歓声、それを煽る実況、崩れ落ちる対戦相手、ちょっと拍子抜けするあたし。
　かくして、あたしは夢にも思わなかったLBX世界大会、アルテミスへのチケットを手に入れたのだった。

　さて。
｢アルテミスに出る｣
　そう伝えたときの両親の反応は、なんというかいつも通りだった。今年は海外でやるから、海外に行くという話をしても顔色ひとつ変えやしない。｢遠征費は自分のバイト代から出しなさい｣というのが言われた全てだ。あとは｢好きにしていい代わりに単位は落とさないでよ｣ということぐらい。ハイハイワカッテマスヨー。
　食う寝る遊ぶ以外の時間はほとんどバイトに費やしているおかげ……と言って良いのかわからないけれど、アルテミスに参加する分のお金は意外と問題なさそうだった。
　……アルテミス、もしかしたらバンくんとかも来るんだろうか。去年カズとアルテミスに出て優勝した山野バンくん。
　イノベーターの1件でもよく活躍したし、なんならこの間のディテクター騒ぎの時も彼は無事だったと言うし。
　もしかしたらカズの居場所だって、と焦りのようなほのかな期待がじり、と心の内を焦がす。もし会えたら、何かわかるかもしれない。彼は、それを聞いて隠すような子じゃないだろうから。
　バンくんとは、何度かカズを通して会ったことがある。温厚な、良い子だった。1度だけLBXバトルをしたことがあって、負けた。
　特にそれ以上のことは無いけど、もしかしたら。そう、もしかしたら。
　準備を終えたあたしは、希望的観測だろうなとその可能性から目を背けるように、ベッドに潜り込んだ。