元拍手一月
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(※日本国において未成年の飲酒は法律により固く禁じられております。念のため記載)
「ラッセルーぅ、ただいまぁ!明けましておめでとーお!」
「ランピーお前さんそれ何度目だ、って、それ……イチか?」
「あけましておめでとう、イチだ」
年が明けて三日目。
大晦日からこっちずっと保護者の家に入り浸っていたのだが、好い加減自宅に戻るかと家に帰れば冷蔵庫の中身が見事に空っぽだった……まぁ腐った食べ物が入っているよりはマシだけれど。
そんなこんなで一先ずスーパーにでも行くかと外に出た次の瞬間、オレは主治医に拉致されていた。聞くと新年会という名目で飲み会を行っていたらしい。「ハンディは誘ったんだけど仕事とかいっちゃって来てくれないんだよねえ……モールなんかぜぇったいに来ないしっ!!」との事で代わりにオレが連れてこられたらしい。完全に色物扱いだが。唯一の元からの参加者であるラッセルが歓迎してくれている事だけが幸いである。
「あれぇ、イチちゃんって呑んだこと無いっけ?」
ハイかんぱぁーい、と叫んでおいて一人で赤ワイン一気飲みをやらかしたランピーが思い出したようにコップを渡しながら言う。その手に持っているのは多分新しく買ってきたアルコールだ。
「一応、未成年だし」
受け取りながら、理由になっているようでなっていないような答えを返す。
国やら地域やらによるが、未成年の禁酒というのは意外にも法律で定められていない事が多い。購入は禁止なので要するに保護者のお伺いを立てろということなのだろう。因みにこの街においてそういった娯楽品は大抵治外法権で、人様に迷惑さえ掛けなければ無罪放免である。つまるところかなり良い加減だ。
「特に機会もなかったし」
「ふぅん、じゃ良い機会じゃねぇか?呑んじまえ!」
言い終えるや否や、面倒見が良いくせに案外悪い大人が勝手に何か注いでくれた。さっきから若干テンションが高い気がするのだが、ランピーはいつもの事としてこの人実は酔ってるんじゃないか?
ガラスコップに満ちた透明な液体は一見水にも見えたが匂いがしっかり鼻につく。
自分で煽った割りに、「けど無理してまでは飲むなよ」とはラッセルの言で、その正論に従い少しだけ飲んでみる。
「結構おいしい……かもしれない」
思ったよりも口当たりが良く、喉の乾きも手伝って残りをこくこくと飲み下す。一杯目。
きゃー、良い飲みっぷりー。とのランピーの棒読みを受け流し、そういえば後から誰か来るとか言ってたな、とふと思い返す。
「本当にお酒しか置いてないけど、後からって誰が来るの?」
何とは無しに聞いていれば、ぽんっと新しい瓶の栓が抜ける音がした。
「まぁ呑めよ、いける口っぽいし」と、手元のコップが今度は茶色く染まる。
「あー、とりあえず確定してんのはフリッピーだな」
コップに並々と注ぎ終えたラッセルは瓶の中身を揺らして確かめながら思案げに天を仰いだ。
「そのためのこの酒量だし」
「あぁ……」
そういえばあの元軍人さんは酒豪だった。確か件の『オハナミ』のときもかなりの量を摂取してなお通常運行だった覚えがある。……もう一人の人格はその限りではないようだったが。
体とその内臓器官が同一なのにも関わらずアルコール耐性が異なるというのはどういう事なのか是非とも医師の見解を聞いてみたいところなのだが、当の医者は目の前で、今度はウイスキーを着々と流し込んでいた。
「だからフレイキーもついて来るんじゃないかなぁ、良かったねっ」
グラスを空けるついでのように言い募るのだが、相変わらず顔色に変化はない。ランピーの肝臓もどうなっているのか大概謎である。
「つか、お前さんも思ったより呑むな。ペース早くねえか?」
一方こちらは相応に朱色を載せた表情で、ラッセルが片肘をついて覗き込んでくる。その様子からして、どうもオレの顔もいつも通りらしい。どちらにせよ自覚はないのだが。
そしてこっちも言われて気付いた。コップが殆ど空だ。これで二杯目。
「……ラッセルがどんどん注ぐから」
「俺はお前さんがすぐ空けちまうから注いでんの。普通はもうちっとゆっくり呑むもんだぞ?」
「……」
今更のような指導に、オレは思わず向かいのスツールを凝視する。
「……んん?なぁに?」
最早種類の判別が効かないが、一升瓶を抱え込んだ『医者の不養生』の生き見本がこちらを見返す。さっきからの配分を考慮するに、この家の酒瓶は実質二人で空けたわけではない。……四分の三はこの長躯のなかに納まっている。
「……規格外の事は参考にすんな」
気まずさからか、視線をずらしつつ結局お代わりの酒をコップに注いだラッセルはぼそりと呟く。「あちらさん、ザルどころかワクだから」と。
「つうか俺、ランピーが酔い潰れちまうとこなんて見たことねぇ……」
慄くようにラッセルが、粗方片付いてしまったテーブルに新しい缶やら瓶やらを追加してあげていた。
しかし、そういう当人もそれなりにそれなりだと……オレは足元に散らばるラム酒の瓶を見る。これは結構な本数だと思う。
「そういえばラッセルは前もこの種類呑んでたよな」
「おう!ラムだろ?」
「ラム酒が好きなの?」
「はぁー分かってねぇな、ラム酒を呑まない海賊はモグリだ!」
妙に嬉しそうにフックを掲げるラッセルと、
「もぉー、酔うとすぐソレ言うー!あんまりヘンなこと吹き込まないでねぇ?俺が怒られちゃうんだからっ」
へらへら笑いながら前のめりに茶々を入れるランピー。
そんな二人を眺めながら。
オレの保護者は人前で呑むのが好きではないと言うけれど、まぁたまにはこんなのもいいかな、なんて、そう思いながらコップを傾けた。
──三杯目。
そしてその直後……オレの記憶は唐突に途切れた。
(……ん?)
(イチちゃん?)
→
「ラッセルーぅ、ただいまぁ!明けましておめでとーお!」
「ランピーお前さんそれ何度目だ、って、それ……イチか?」
「あけましておめでとう、イチだ」
年が明けて三日目。
大晦日からこっちずっと保護者の家に入り浸っていたのだが、好い加減自宅に戻るかと家に帰れば冷蔵庫の中身が見事に空っぽだった……まぁ腐った食べ物が入っているよりはマシだけれど。
そんなこんなで一先ずスーパーにでも行くかと外に出た次の瞬間、オレは主治医に拉致されていた。聞くと新年会という名目で飲み会を行っていたらしい。「ハンディは誘ったんだけど仕事とかいっちゃって来てくれないんだよねえ……モールなんかぜぇったいに来ないしっ!!」との事で代わりにオレが連れてこられたらしい。完全に色物扱いだが。唯一の元からの参加者であるラッセルが歓迎してくれている事だけが幸いである。
「あれぇ、イチちゃんって呑んだこと無いっけ?」
ハイかんぱぁーい、と叫んでおいて一人で赤ワイン一気飲みをやらかしたランピーが思い出したようにコップを渡しながら言う。その手に持っているのは多分新しく買ってきたアルコールだ。
「一応、未成年だし」
受け取りながら、理由になっているようでなっていないような答えを返す。
国やら地域やらによるが、未成年の禁酒というのは意外にも法律で定められていない事が多い。購入は禁止なので要するに保護者のお伺いを立てろということなのだろう。因みにこの街においてそういった娯楽品は大抵治外法権で、人様に迷惑さえ掛けなければ無罪放免である。つまるところかなり良い加減だ。
「特に機会もなかったし」
「ふぅん、じゃ良い機会じゃねぇか?呑んじまえ!」
言い終えるや否や、面倒見が良いくせに案外悪い大人が勝手に何か注いでくれた。さっきから若干テンションが高い気がするのだが、ランピーはいつもの事としてこの人実は酔ってるんじゃないか?
ガラスコップに満ちた透明な液体は一見水にも見えたが匂いがしっかり鼻につく。
自分で煽った割りに、「けど無理してまでは飲むなよ」とはラッセルの言で、その正論に従い少しだけ飲んでみる。
「結構おいしい……かもしれない」
思ったよりも口当たりが良く、喉の乾きも手伝って残りをこくこくと飲み下す。一杯目。
きゃー、良い飲みっぷりー。とのランピーの棒読みを受け流し、そういえば後から誰か来るとか言ってたな、とふと思い返す。
「本当にお酒しか置いてないけど、後からって誰が来るの?」
何とは無しに聞いていれば、ぽんっと新しい瓶の栓が抜ける音がした。
「まぁ呑めよ、いける口っぽいし」と、手元のコップが今度は茶色く染まる。
「あー、とりあえず確定してんのはフリッピーだな」
コップに並々と注ぎ終えたラッセルは瓶の中身を揺らして確かめながら思案げに天を仰いだ。
「そのためのこの酒量だし」
「あぁ……」
そういえばあの元軍人さんは酒豪だった。確か件の『オハナミ』のときもかなりの量を摂取してなお通常運行だった覚えがある。……もう一人の人格はその限りではないようだったが。
体とその内臓器官が同一なのにも関わらずアルコール耐性が異なるというのはどういう事なのか是非とも医師の見解を聞いてみたいところなのだが、当の医者は目の前で、今度はウイスキーを着々と流し込んでいた。
「だからフレイキーもついて来るんじゃないかなぁ、良かったねっ」
グラスを空けるついでのように言い募るのだが、相変わらず顔色に変化はない。ランピーの肝臓もどうなっているのか大概謎である。
「つか、お前さんも思ったより呑むな。ペース早くねえか?」
一方こちらは相応に朱色を載せた表情で、ラッセルが片肘をついて覗き込んでくる。その様子からして、どうもオレの顔もいつも通りらしい。どちらにせよ自覚はないのだが。
そしてこっちも言われて気付いた。コップが殆ど空だ。これで二杯目。
「……ラッセルがどんどん注ぐから」
「俺はお前さんがすぐ空けちまうから注いでんの。普通はもうちっとゆっくり呑むもんだぞ?」
「……」
今更のような指導に、オレは思わず向かいのスツールを凝視する。
「……んん?なぁに?」
最早種類の判別が効かないが、一升瓶を抱え込んだ『医者の不養生』の生き見本がこちらを見返す。さっきからの配分を考慮するに、この家の酒瓶は実質二人で空けたわけではない。……四分の三はこの長躯のなかに納まっている。
「……規格外の事は参考にすんな」
気まずさからか、視線をずらしつつ結局お代わりの酒をコップに注いだラッセルはぼそりと呟く。「あちらさん、ザルどころかワクだから」と。
「つうか俺、ランピーが酔い潰れちまうとこなんて見たことねぇ……」
慄くようにラッセルが、粗方片付いてしまったテーブルに新しい缶やら瓶やらを追加してあげていた。
しかし、そういう当人もそれなりにそれなりだと……オレは足元に散らばるラム酒の瓶を見る。これは結構な本数だと思う。
「そういえばラッセルは前もこの種類呑んでたよな」
「おう!ラムだろ?」
「ラム酒が好きなの?」
「はぁー分かってねぇな、ラム酒を呑まない海賊はモグリだ!」
妙に嬉しそうにフックを掲げるラッセルと、
「もぉー、酔うとすぐソレ言うー!あんまりヘンなこと吹き込まないでねぇ?俺が怒られちゃうんだからっ」
へらへら笑いながら前のめりに茶々を入れるランピー。
そんな二人を眺めながら。
オレの保護者は人前で呑むのが好きではないと言うけれど、まぁたまにはこんなのもいいかな、なんて、そう思いながらコップを傾けた。
──三杯目。
そしてその直後……オレの記憶は唐突に途切れた。
(……ん?)
(イチちゃん?)
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