後日談 Ⅲ
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合鍵は後日談 Ⅰ参照
「ええぇっ、合鍵貰ったの?モールに!?すごい僕持ってないよぅ!いーなー!!」
「……あげないよ、これはオレのだから」
特別待ち時間もなく通された診察室。
カルテを振り回す、という医者に有るまじきオーバーリアクションで叫ぶランピーに、オレはわざとらしく断りを入れる。冗談で言っているのだろうと解ってはいるのだが、少し自慢してやりたいと、らしくもなく画策したのだ。要するに、それくらい嬉しかったから。
不謹慎な医者はといえば、そんな心中はお見通しなのか「良かったねぇ」と、へらりと笑う。
「さてっ、──頭イタイーとか、妙に眠いーとか、ないですかぁー?」
「ない。です」
突然職業本分を思い出したかのように、ランピーは診察を開始した。それに動じず応じれば、医師の手元でバインダーが鳴る。
幾度か受けた診察のお陰で、この唐突さにも好い加減慣れていた。
それにしても、
「そんなに、酷かったの?オレの怪我」
日を跨いで診てもらわなければならない程に大袈裟な負傷だったのだろうか。あの電信柱との衝突事故の後遺症は。
純粋に疑問に思い、首を捻りつつも訊ねれば見上げた顔には苦笑が交じる。
「んんー、まぁ記憶喪失の方も兼ねて、かなー?」
くるり、と長い指先で回るボールペンを見ながら、ああそうかと納得する。
オレの立場は飽くまでも、記憶障害から回復した患者なのだ。主治医としては捨て置く訳にはいかないのだろう。
「頭痛も、眠気も、無い。大丈夫だよ」
「そ?んんー、じゃ、味の好みが変わったりとかっ?」
「味……変わってないと思うけど」
そもそも自分の好みを突き詰めて考えた事がないので何とも言えないが。
保護者の作るご飯と、双子と食べる朝食と、友達に貰ったキャラメル味のお菓子が相変わらず美味しいと感じるのでまあ変わっていないとは思う。
思いつく限りの要素を脳内に並べ立て悩んでいれば、頭上からはごく軽い笑い声がする。怪訝に感じて見上げれば、「そこまで考え詰めなくても良いよう」と背丈と同じく大きな掌がぶんぶんと空を切る。
「いやっ、たまーにあるんだよう?」
言いながら、ランピーはカルテをバインダーに乱雑に閉じると、机の上に放り投げる。ただでさえ散らかっていた資料がざざ、と床へダイブした。
「昔の事思い出してね、好みが変わったりっ、あと性格まで変わっちゃったりぃ?」
崩れ落ちた紙束のことなど意にも介さない。
上身を折り曲げ、覗き込むような上目使いを向けてくるのだが、その探るような視線とは相対して口元はへにゃへにゃと笑っていた。
「オレは変わってないと思うよ……わかってるみたいだけど」
「あっれぇ、ばれちゃった?」
それでも診察の一環と、答えて僅かばかりの反撃を返せば、主治医はふふっ、と吐息を零し、「でも良かったと思うよ」と珍しく小さく呟く。
「え?」
「あっ、そーだそーだイチちゃんなんか飲むぅ?この前ねえ、抽選でコーヒーメーカー当たっちゃった!コーヒーじゃなくても淹れれるヤツねっ!凄くなぁい?」
思わず声が漏れるものの、ランピーはさえぎるようにパチンと両手を打ち鳴らす。
がらがら回すやつー、と手首をぐるんぐるん振りながら立ち上がるのだが、話の転換が急すぎてついていけない……慣れた筈だったのだが。
→
「ええぇっ、合鍵貰ったの?モールに!?すごい僕持ってないよぅ!いーなー!!」
「……あげないよ、これはオレのだから」
特別待ち時間もなく通された診察室。
カルテを振り回す、という医者に有るまじきオーバーリアクションで叫ぶランピーに、オレはわざとらしく断りを入れる。冗談で言っているのだろうと解ってはいるのだが、少し自慢してやりたいと、らしくもなく画策したのだ。要するに、それくらい嬉しかったから。
不謹慎な医者はといえば、そんな心中はお見通しなのか「良かったねぇ」と、へらりと笑う。
「さてっ、──頭イタイーとか、妙に眠いーとか、ないですかぁー?」
「ない。です」
突然職業本分を思い出したかのように、ランピーは診察を開始した。それに動じず応じれば、医師の手元でバインダーが鳴る。
幾度か受けた診察のお陰で、この唐突さにも好い加減慣れていた。
それにしても、
「そんなに、酷かったの?オレの怪我」
日を跨いで診てもらわなければならない程に大袈裟な負傷だったのだろうか。あの電信柱との衝突事故の後遺症は。
純粋に疑問に思い、首を捻りつつも訊ねれば見上げた顔には苦笑が交じる。
「んんー、まぁ記憶喪失の方も兼ねて、かなー?」
くるり、と長い指先で回るボールペンを見ながら、ああそうかと納得する。
オレの立場は飽くまでも、記憶障害から回復した患者なのだ。主治医としては捨て置く訳にはいかないのだろう。
「頭痛も、眠気も、無い。大丈夫だよ」
「そ?んんー、じゃ、味の好みが変わったりとかっ?」
「味……変わってないと思うけど」
そもそも自分の好みを突き詰めて考えた事がないので何とも言えないが。
保護者の作るご飯と、双子と食べる朝食と、友達に貰ったキャラメル味のお菓子が相変わらず美味しいと感じるのでまあ変わっていないとは思う。
思いつく限りの要素を脳内に並べ立て悩んでいれば、頭上からはごく軽い笑い声がする。怪訝に感じて見上げれば、「そこまで考え詰めなくても良いよう」と背丈と同じく大きな掌がぶんぶんと空を切る。
「いやっ、たまーにあるんだよう?」
言いながら、ランピーはカルテをバインダーに乱雑に閉じると、机の上に放り投げる。ただでさえ散らかっていた資料がざざ、と床へダイブした。
「昔の事思い出してね、好みが変わったりっ、あと性格まで変わっちゃったりぃ?」
崩れ落ちた紙束のことなど意にも介さない。
上身を折り曲げ、覗き込むような上目使いを向けてくるのだが、その探るような視線とは相対して口元はへにゃへにゃと笑っていた。
「オレは変わってないと思うよ……わかってるみたいだけど」
「あっれぇ、ばれちゃった?」
それでも診察の一環と、答えて僅かばかりの反撃を返せば、主治医はふふっ、と吐息を零し、「でも良かったと思うよ」と珍しく小さく呟く。
「え?」
「あっ、そーだそーだイチちゃんなんか飲むぅ?この前ねえ、抽選でコーヒーメーカー当たっちゃった!コーヒーじゃなくても淹れれるヤツねっ!凄くなぁい?」
思わず声が漏れるものの、ランピーはさえぎるようにパチンと両手を打ち鳴らす。
がらがら回すやつー、と手首をぐるんぐるん振りながら立ち上がるのだが、話の転換が急すぎてついていけない……慣れた筈だったのだが。
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