ニアミス
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「あーっ!ラッセルじゃん釣れてるぅ?」
……この腑抜けた喋り方は。わざわざ振り向いて確かめる気にもならん。
俺は海を見たまま返事を返した。
「ランピーか?なんでか知らねぇけど今日は全然だな」
もう昼だぞ。いつもならバケツ半分は埋まってるつぅのに。
「えぇ、何なに釣り下手になっちゃったー?」
「なってねぇよアホ」
この手の(こいつの)発言にいちいち腹立ててもキリがない。のでスルーだ、が、
「つーかお前さん、今日なんか、声変じゃねぇ?」
「あれっ?分かっちゃったぁ?」
改めて後ろを見てみるとそこには、
「じゃーん、どうどぅ!?17歳の僕っ!」
くるりと一回転するこいつはやっぱりアホに違いねぇ。
×××
「で?」
「ん?」
「ん、じゃねぇよ!なんで落ちてた薬なんて飲むんだよ!?大体小瓶が転がってるとか怪しすぎんだろ!!」
「いやぁ、なんか飲まなきゃダメな気持ちになったんだもん。これって運命?」
「ないわ、お前色々とないわ」
「いーじゃない結局スニフの作品だったわけだしぃ」
「つか、」
いつの間にか横に座ってるランピーは、若干(飽くまでも若干)背が縮んで声が高い。それと雰囲気が幼い。顔の造作は変わらねぇのに表情が若い。
──後は殆ど普段と同じだ。まぁ17っつたら体も大体出来てくる頃だし、そんなもんか。
「今聞いた理屈じゃ、お前さん記憶も戻ってんだろ?なんで俺のこと知ってんだ?」
「そう、それなんだよ!それそれっ」
どれだよ。
「あのねぇコレが個人差ってやつ!いーい?スニフ君はもともと体はそのまんまで記憶だけ戻す薬が作りたかったんだよ?でも、双子とナッティは体ごと戻っちゃった!で、僕の場合は逆をついちゃった!」
「要するに体だけ戻ったってことか」
「そーそーそゆことー!」
へらへらした笑いは何歳でも健在なのか。
今日はもう、釣れなくていいわ。こいつ見てたらなんか、なぁ?
「そんで肝心のイチは死んじまうって、どうなんだよそれ」
今はちょうどランピーが座ってるとこに腰掛けて、悩んでた黒い頭を思い出す。
悩んでたっつうより、悩み方を探している感じだったが。
「あー、うん、それ。それなんだけどねぇ」
「またかよ」
「『その他』4人に副作用が出たのはよしとしてさっ、イチちゃんはホントに死んじゃったのかな。だってアレ『イチちゃんのために作られた薬』なんだよ?」
副作用をよしとして良いのか!
「それに3パターンも効果の種類がでたわけでしょー?なら、」
「『当人』に『本来の効果』がでてもおかしくないってか」
「そーそ-そゆことー!」
らっせる大せいかーい!とぱちぱち手を叩いている。
これが馬鹿にしているわけじゃないと気づくことが、こいつとの付き合いのコツだと思う。
俺は一応、と釣り針の餌を付け替えながら聞き返す。
「けど、イチはお前になんも言わねぇんだろ?」
「飲んだら死んだ、ってしか言ってくれなかったねぇ」
「仮に記憶が戻ったとしたら、お前には言うだろ。お前さんのことは主治医だと思ってんだから」
「そーだねぇー、イチちゃんってそーゆーとこフリッピーと似てるんだよねっ!」
「そういうとこ?お前さんが藪医者だって気づいてないとこか?」
「違うよ!藪医者じゃないよ!?」
いいやヤブだろ。
浮きは波に弄ばれてるだけで沈む気配がない。やっぱり今日は釣れない日だな。
そう思ってるとしばらく黙っていたランピーが急に口を開いたかと思えば訥々と何事か語りだす。
「……じゃあさ、例えば記憶が戻ったことも忘れちゃってるとしたら?」
「はぁ?」
俺は横を見て、不意に気づいた。
いつもぶら耳に下げてるピアスがない。──ピアスの穴さえ。
こいつは、確かに10年前の、ランピー。
「だってそもそもイチちゃんは昔のことを一切覚えてなかったわけでしょ?なら一気に10年も巻き戻って、それは本当に本人だと言えるのかな?」
「本人って、……本人なんだからそうなんだろ?」
「本当にそう?俺の場合とはまた別だ。ずっとずっと使ってなかった機械は急に引っ張り出したからってそんなに簡単には動かないでしょ?バグがあったっておかしくないよねぇ」
バグ……欠陥?誤り。誤作動?
でもあいつは──イチは機械じゃないだろ?
すると俺の困惑を掠め取るようにランピーはいつものようにへらりと笑った。
「なぁーんちゃって!!」
(ま、分かんないけどねっ?)
(適当にも程があるだろ!?)
【end】
17歳のランピーって……。
とりあえずあのままじゃ怪しげな小瓶がフリッピーさん宅の前に転がり続けちゃうのでお医者さんに回収してもらった。
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