観察日記
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「やぁ!覚醒くん」
「……てめぇか。死ねよ」
僕が声をかけると、覚醒くんは大抵こういう言葉を投げかけてくる。彼の周りは今日も既に血の海で、僕は救えなかった人達に心中で謝る。まあしょうがないとはいえ、次こそは救ってみせよう!
そう思って覚醒くんの、帽子が脱げた頭を見下ろして奇妙なことに気がついた。
「──それだけかい?」
いつもなら『ウザイ』とか『帰れ』とか『消し飛べクソヒーロー』とか言いながら何かしら投げてくるというのに、それどころか彼は沈黙したまま、どこかほっとした表情を浮かべたりするものだから、
「き、君もようやく僕に心を開いてくれ、」
「うぜぇよ死ねマゾ野郎」
なんだ、違うのかい?そこまで本気でもなかったけれどね。
「覚醒くん、僕はマゾヒストではないよ」
訂正を加えながら地面に降り立つけれど、やはり彼はナイフを持った手をだらりと下げたまま。ここまで来ると心配になってきてしまう。これは職業病だろうか。
「体調でも悪いのかい?」
「ねぇよ」
ようやくナイフは僕に向けられた。どうせ刺さらないのだからと手のひらで受け止めてやる。その行為が気に入らなかったらしく、彼はがつがつとナイフを僕の手に叩き込もうとする。まあ、効かないのだけれど。
「何かあったの、覚醒くん?」
眉間に皴を寄せて、刺さらないナイフを無言で動かし続ける彼は、割とわかりやすい。きっと何か考え事があるのだろうなと思う。僕だって伊達にヒーローをやっていないし、周りの、執拗なほどに五寸刻みにされた屍を見て何とも思わないほど野暮でもないのだ。
上辺だけで、彼らを救いたいと言っているわけではないのだ。
「おいクソヒーローてめぇ昔のことなんか覚えてるか?」
「……イチくんの話かい?」
記憶がないというイチくんが、その手掛かりを掴むために覚醒くんを追いかけていたというのは最早周知の事実だ。僕から見ていた限りでは、少なくともイチくんは当初の目的のみならず覚醒くん自体に友情というか、親愛の念を抱いているようにも見えたが。
「別に今から忘れたいとは思わねぇ、が、……要らない記憶だってあんだろ」
誰かに聞かせるためか、独り言か、その中間のような調子で吐き出した彼が、何の記憶を思い浮かべているのかは想像に難くない。同時に僕は理解する。
「──だから君は、イチくんの事を避けてるのか」
彼はもう何も喋らずに、惨状に気付かず紛れ込んできたランピーがやってくるまで僕の手のひらにナイフを突きたて続けた。
(なぁにそれ、掘削作業?)
(……るせぇよてめぇも死ね)
【end】
ヒーローそれ職業病って言わない。
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