鳥籠製作中
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今日も、また来た。
「イチ」
声をかけると、「うん」とズレた返事が返ってくる。そいつは少し離れたところに丸まるように座って、真っ黒い小さい塊になる。
それを見届けてから、俺は仕事を再開した。昨日はやりかけのまま途中で死んだからな、気をつけないと。
視線を感じながら木材の調整を始める。
「……いつも遠くから見てるよな」
言ってみると、返事が返ってきた。
「モールさんが」
「ん?」
「あんまり近づいちゃいけませんよ、って」
「…………こんなの見てて楽しいか?」
訊くと、黒い塊はこっくりと頷いた。
俺は作業に戻る。こいつの、家を作るために。
この仕事を始めてもう十日。新しくやってきたというイチは大体毎日俺の仕事を眺めに来た。
最初は俺の、腕が無いから不安なのかと気に障ったが、どうもそうではないらしい。特に何をするでもなく、視察しているようでもない。仏頂面のまま、記憶が無いからなのかやけにとろんとした黒い目で家の枠組みが出来ていくのを眺めている。
──そして、たまに喋る。
「……毎日、」
「おお?」
「来るけどだいじょうぶなの」
語尾が上がっていない。でも問いかけだろう。イチは喋るのが下手だ。
「大丈夫?何がだ、俺か?」
「……他に仕事あるんじゃないの」
「──ああ、何だ。心配してくれてるのか」
そう言うと黒いのは沈黙した。こいつこそ大丈夫か?ちゃんと言葉通じてるんだろうな?
「問題ない、お前だって家がないと困るだろ?それにモールさんの頼みだしな!」
はは、と笑ってやる、するとまた頷いた。それだけだったが、こいつは表情を変えられないらしいことを知っているので、もう気を悪くしたりはしない。
俺はまた作業を再開する。
モールさんはいい人だ。俺の腕を可哀想とか言わないし……まあ、目が見えないせいか、たまに危ないけど。
初めて、あの人に頼み事をされた。
『小さくてもいいので、家を一軒建てもらえないでしょうか?』
もらえるも何も、俺は大工だ。仕事なら引き受けるに決まってる。『別荘ですか?』と訊くと、モールさんは優雅に微笑んだ。『違います』
『つい最近、巣から落ちた雛を拾いましてね』
その時は何の話かさっぱり分からなかったのだが、次の日、モールさんは一人の子供を紹介してくれた。華奢というのも躊躇うほど細く小柄なその子供が、俺と一つしか違わないと聞いて本気で驚いた。見た目はどちらかというと黒い猫みたいだったが──
その雛は、何をしているのかと思えば鉋屑を拾って陽に透かしたりしていた。妙なところで子供っぽい。ランピーみたい……というのさすがに失礼か。勿論、イチにだ。
あと三週間もすればこの家は完成するだろう。
──巣立つまで、精々居心地のいいのを造ってやるよ。
(ほら!できたぞお前の家)
(……ありがとう)
【end】
二日に一度は死んで毎日来る大工さんのお陰で『生き返り』システムを理解しました。
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