出口
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とりあえず、走った。転んだ。血が出た。気にしないことにした。ノックした。
「は、は、ぃ……っい!イチぃっ!?ち、ち、血が出てるよっ!!?」
──叫ばれた。
オレはとっさにその口を塞ぐと、縺れ込むように家の中に入る。……フレイキーもろともに。
「フレイキー叫ぶと危ない」
ヒーローがまた来てしまうかもしれない。それは流石にちょっと辛い。
「い、イチ!お、おでこから血がでてる!」
「うん。でも多分大したことないよ」
「あるよぉ、流れてるよぅ!!」
流れてるのか。
触って確かめてみると、確かにぬるっとした感触が伝わってきた。
「ま、待ってて!きゅ、救急箱っ!持ってくる!!」
「え」
呼び止めるまもなく、フレイキーは走って行ってしまった。そんなに気を使う事ないのに。
流れで押し入ってしまったが……思えば押入強盗みたいなこ事をしてしまった。いや少し気が焦っていたのである。あまり良くない……ふう、と無理矢理息を吐いて、見渡せばフレイキーの家はオレの家より少しだけ小さいようだ。石造の壁に、煉瓦の装丁が趣味の良い部屋。昨日、空から少し見えただけだったから、きちんと辿り着けるか不安だったが。
「イチ、こっち、こっち向いてっ!」
ぼうっと回想に耽っていれば、小振りの箱を両手で抱えて持ってきたフレイキーが勢いのままにオレをソファーに座らせる。ひたひたに潤む赤い瞳に、オレは基本的に逆らえない。言われるがままに前髪を上げればフレイキーは慎重な手付きを以て、ガーゼでそっと額に触れる。
「……い、痛い?」
「痛くないよ。フレイキー、放っといても治るよ、これくらい」
言うとフレイキーは目を見開いて、信じられない、という顔をした。
そうして下を向いて少し震えたかと思えば、何かを堅く決意したようにばっと顔をあげる。
「ボ、ボク、なにがあってもイチを放っといたらダメだって、いまわかった……」
そう言うと、箱から消毒液やら絆創膏やら包帯やらを取り出し始めた。いや、いくらなんでも包帯は……そんなにひどいのかな。
フレイキーは小さい手で一生懸命オレの手当てをする。ぴょんぴょん跳ねた癖毛は、自分では上がらなかったのかポニーテールではなかったが、横にまとめられていて、オレがあげた黒い紐で縛ってあった。
「……謝りに来たんだ」
「ほぇ?」
「昨日──来られなかった」
せっかく呼んでくれたのに、ごめん。
絆創膏を張って貰いながら謝ると、フレイキーは見慣れた、困ったような笑いをする。
「この街だと、よくあることだよイチ。ボクは気にしてないよ」
「でも……約束してたのに、待ってた人が来ないのは嫌だ」
と、思う。
かつてのオレにもそんな事があったのだろうか。分からないけれど……来ない人を待っているのは、多分、とても悲しいことだと思う。
フレイキーはぱたんと救急箱の蓋を閉めた。
「来てくれたよ?」
「え?」
そう、思えばいつもオレを安心させてくれる赤毛の子は、こちらを見上げて今度こそにっこりと笑った。
「イチは来てくれたよ!ちょっと遅れたけど、でも走ってきてくれたから、ボクは嬉しいの」
えへへ、と首を傾けたフレイキーにオレは案の定すごく落ち着いて。
質問を一つしてからフレイキーの家を出た。フレイキーは「またきてね」と手を振ってくれた。
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