泥棒
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目が覚めた。
この街、ハッピーツリータウンに来てから何度も死んで気づいた事。
死から目覚めた時は妙にぱっちりと目が開く。ただし眠気が無いわけでもなく、それは日によって異なるのだけれど。
意識が覚醒する時刻は大体朝方の四時から五時ごろ。
オレには大きすぎるくらいのベッドで、何故かオレの頭の下に枕は無い。そんなに寝相が悪いとも思えないのだが、いつも左側に寄って寝ているらしく、目を開けるとサイドテーブルの時計か、添い寝している枕か、どちらかが近距離に迫っている。今日は文字盤。四時五分。目覚めがてらに身を起せば、遮光のカーテンは曳いていないので朝日が差し込むと言わないまでに少し部屋が白んでいる。
モールさん宅を襲撃した記念すべき第一回目の蘇生を除いて、大抵の場合二度寝するのだが、今朝はなんとなく喉が渇いてそのまま起き上がると寝室のドアを開いた。
そこで見たのは、
「お?おおっ、イチじゃん!」
「おー、イチ。あいっかわらず何も盗るモンねーなこの家!」
「当たり前じゃん?びんぼーだもんコイツ!」
「ハッ、ざまぁねーなオイ!」
全くと言っても良いくらいそっくり同じ顔が二つ、金勘定をしているところだった。
「……知ってるなら来るなよ」
貴金属やらコインやら紙幣やら、楽しそうに広げてひゃっひゃと笑っている二人をひとまず無視して台所へ向かった。とりあえず喉が渇いた。
双子の泥棒。
ここはオレの家だよな。と、不安になるくらい我が物顔でリビングに居座るそれはいわゆる不法侵入なのが……特段、焦りもしていないのは、これが初めての事ではないからだ。
兄はシフティ。よく帽子を被り、スーツを着崩している。
弟はリフティ。よくベストを着崩し、ネクタイをしている。
姿形は本当に違いを見つけるのが難しいほどよく似ている。
──オレの家が建って一週間ぐらいした頃、二人は窓からやってきた。ちょうど今と同じぐらいの時間だったと思う。
その頃オレは既に金瞳の方のフリッピーに殺されまくっていたので、まあ当然の帰結として朝方に目覚める事も多く、結果的に『盗むものが無い』と何故か人の家で兄弟喧嘩している双子と鉢合った。それ以来の仲だ。
コップに二杯くらい水を飲み干して戻ると、双子はいつものように喧嘩をしつつ盗品の見定めを続けている。
「兄貴それメッキじゃん?マジ見る目ねーっつーの!」
「ハッ、テメェみてーな馬鹿に売りつける用だバカ!」
「バカって言うなっつーのバ、あっダイヤ!」
「は!?マジか!見せろ!」
「違ったわ、つかシフ食いつきパネェし!ばーか」
「間違ったのテメェだろうが死ね!!」
「いや、何でもいいんだけど喧嘩をするな」
思わず言うと、王冠を被ったシフティとブレスレットで腕が上がらないリフティが顔をあげた。
「ハッ、べっつに良いだろーが、減るモンじゃねぇし」
「イチのくせにケチケチすんなっつーの」
「分かった金勘定はここでしていい。喧嘩は他所でやれ」
はっきり言ってやると「「喧嘩とかしてねーし!」」と言いながらも二人とも少しだけ大人しくなった。
なんだろう、いや別にシフティもリフティも居てくれて良いんだけどそんなにもこの家は金勘定に都合の良い立地なのだろうか。最初に遭遇した時、無けなしの朝食を三人で食べたのでもしかしたら朝食堂だと思われているのかも知れない。
近寄ってみると、金ピカの山からコインが一枚はぐれている。拾ってみた。きらきらしていてそこそこ重い。
「……これって本物の金貨?」
「ッたりまえじゃねーか、偽モン盗んでどーすんだよ!」
よりによってさっき偽物を売りつける宣言していた方が答えていた。
「なに、見たことねーの?」
「うん。紙幣とか銅硬貨しか」
今度は弟が聞いてきたので素直に答える。
家に何も無いようなやつが、金貨が入用になるほど買い物するわけが無い。金は高価だと知識では知っているが、成る程、これは小銭なんかと違って持っているだけで心地の良い冷たさと重量がある。コイン収集を趣味にする人も居ると何かの雑誌で読んだが、その人たちもこんな気持ちなのだろうか。
掌で財を遊ばせていれば、ふとその向こうの深緑達と目が合った。
双子は一瞬、歳相応にきょとんとした表情になったかと思えば途端に顔を見合わせて、にやぁっと笑い────傍らの袋をぶちまけた。
じゃらざらじゃら、と辺りが金色に染まる。
「耳かっぽじって見ろよ、ぜーんぶホンモノだぜ!」
「ほんっと足りねえな愚弟耳じゃねえよ見るのは目だっつの」
「あ、言っとくけど見るだけだからな」
「「盗るなよ」」
「盗らないし」
そもそも盗ってきたのは双子だろう、と思ったが言わないでおいた。
あと眼も普通かっぽじらない。筈だ。少しは慣用句も勉強したのだ、オレは。
それでも俄かに出来上がった一財産の絨毯は少し欲の滲む夢のような光景で、思わずしゃがみ込んで魅入ってしまう。
「こんなにいっぱいどこから盗ってくるんだ」
「ハッ、安くしとくぜ?」
「……買わないよシフティ。ただの好奇心だ」
「そりゃお前、有るところから盗って来るんだっつの」
そうか、この街にも金持ちはいるんだな。
「ま、こんなのは美術館からだけどな!」
シフティがこんなの、と示すのは自分の被った王冠だ。
すると隣で弟が祈祷のように指を組んで唐突に言う。
「おい美術館に盗み入んなら気ぃつけろよ!呪いの人形なんつーモンがあるんだぜ!?」
「ああアレか!アレはヤバイぜ!いっぺんに五人は死ぬ」
「いや、だから盗まないって」
結局なんだかんだ言いながらも双子は盗品を全部見せてくれた。
見せびらかした、とも言う。
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