08 飲み込まれた真実
name change .
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【…堂本、光一くんだよね?
あたしは…】
次の日、
事務所に行くと
昨日の資料の女がいた。
悪いけど、名前なんて覚えられん。
【…でもよかったぁ♪
相手が光一でっ
仲良くしようね?】
なんや、馴れ馴れしい。
いきなり呼び捨てかい。
…今日から、
俺の隣には、
ちいじゃなくて、こいつがおるんや。
もう、
ちいに触れることはできない。
ちい…
会いたい…。
それからは、
ちいに嘘をつくことが多くなった。
仕事やと言って遠ざけては、
この女と会って、抱く。
でも、女を抱いた後、
必ずちいに電話した。
あの女のにおいでいっぱいになった体は、
苦しいくらい
ちいを求める。
ある日、女が言った。
【…ねぇ光一、
まだ、あの女と会ってるの?】
こいつは、社長とグルなわけやから、
当然のようにちいのことを知ってる。
なんやねん、
気安く“あの女”なんてゆーな。
光[…別に。]
【あっほらぁ、
いっつもそーやってはぐらかすっ
ね~ぇ、
あんな女さっさと切ってよ~】
うざい。
【…社長にちくっちゃうんだから。】
光[…っ]
【っや~だ、あわてちゃって…
か~わい♪
心配しないで、わかってる。
あたしのこと、愛してるでしょ?】
何も言わず、
女に深く口づける。
これだけで、
勝手に満たされて、簡単に黙る。
“愛してるでしょ”?
笑かすな。
俺が愛してるってゆーんは、
今も、今までも
これからも、
ちいだけ…
次の朝、
女は大阪に行きたいと言い出した。
しょうがなく、
新幹線のチケットを取って
大阪に行く。
…ちいのおる街。
それだけで、
空気があったかく感じる。
やば、
重症やな、俺(笑)
女はクロムハーツのショップに入っていき、
なんやアクセサリーを選んでいる。
…俺、とうとう末期かな。
何見ても、もはや
ちいしか浮かばへん。
これによー似たやつ、
ちい持ってたな、とか、
これちいに似合いそうやな、とか、
【ね~ぇ、光一、
どれがいい?】
光[…は?]
【だからぁ、ペアリング!】
ペアリング?!
【あっこれ可愛い~、
店員さん。これで!】
なんやねん、
振ったくせに意見聞かんのかい。
べつに、この女とのペアリングなんて
どーでもええけどな。
女は勝手に気に入ったリングを買ったみたいで、
強引に俺の左手の薬指にかたっぽをはめてきた。
…っふ、さすが。
みごとにサイズ合ってへんくてぶかぶか(笑)
まあ、
なんの思い入れがあるわけでもないからええけど。
【わ~ぴったり!
似合うよ~♪】
どこが。
吐き気するわ。
ああ、でも、デザインはええな。
ちいも好きそうや…
ほんまは、
ちいとペアでつけたかった。
喜んだやろな…
機嫌がよくなった女は、
俺の腕を組んで店を出る。
あ~、
ちいに会いたい。
【…ねぇ、
そろそろリミットだよ。】
光[は?]
【ちいちゃん。
いい加減、
切らないなら見切りつけるって
社長から伝言。】
光[なん…っ(汗)]
そんなこと、あってたまるか…っ
ちいだけはっ
そんなこと思ってたら、
女がいきなりよっかかっきて、
ちょっと大き目な声で話し出す。
【ねえ、光一、
今日はホテルに泊まるんでしょ?
明日は何時に起きるの?】
光[…ぁあ、明日は、
約束あるから…9時には起こして。]
そういえば、
明日はちいとの1年記念日。
約束しとったな…
その時が、
最後…
【早いのね、
今夜は夜更かしできないじゃない…(拗)】
光[昨日いやっちゅーほどヤったやろ(笑)]
ほんま、
でかい声でなにゆーてんねんこいつ。
【や~だぁ、
言わないでよ恥ずかしい(照)
でも、
本当は毎日だって繋がってたいんだから…♪】
うっとい。
くっついてくんな。
明らかに怪訝そうにした俺を
ふんっと鼻で笑って、
今度は小声で、俺に話しかける。
【ねぇ。
気づいてないの?
あたしの後ろの柱の影…
…
ラストチャンスだから…(妖笑)】
女の言った通りにするのは癪やったけど、
ちらっと言われた場所を確認すると…
うそやろ…
ちい?
なんで、こんなとこに…
っ!
やからこいつ、
あんなでかい声で…っ
見ると、
ちいは
キッと俺をにらんでた。
あぁ、
ほんまは今すぐ駆け寄って
抱きしめたい。
強がったあの鋭い瞳
その裏に隠したもろい心も
優しく包んで、安心させてやりたい…
愛してる…って…
ごめん…
俺は、
どうしようもできない自分を
あざ笑うかのように
フッと微笑みを浮かべ、
隣にいる女に深く口づけた。
そして、
ちいにも聞こえるように、
大き目な声で話した。
【…っん、もう、
いきなりなぁに~?光一♪】
白々しい。
光[明日の約束はやっぱなしや。
今日も、
悲鳴あげるまで鳴かしたるわ(妖笑)]
【えぇ~?w
でも、いいの?
約束してたの、女の子なんでしょ?
あたし、知ってるんだから…】
女がわざと、
少し拗ねたようにうつむく、
こうゆう強かなとこ、
ある意味尊敬するわ。
女の肩をぐっと抱き寄せて、
目は、
最後かもしれないちいを見つめながら、
光[…遊びは、
終わりや。]
悲しみが、滲み出てしまわんよう、
低い声で言い放った。
ちいは、
逃げるように走り去ってしまった。
…
【上出来よ。
光一…】
光[さわんな!
…吐き気する。
帰るわ…]
【…またね?(妖笑)】
俺のほほに手ぇ添えて唇を求める女を制して、
俺は一人、家に帰った。
あれだけゆーたら、
ちいは俺を忘れられるかな…
こんな男、
はよ忘れてくれてええ。
せめて記憶に残りたいなんて、
未練がましいことは言わん。
でもひとつだけ、
俺が勝手に、
ちいの幸せを願い続けんのは、
そして、
生涯、
ちい以外に愛を歌わんと
勝手に誓うことだけは、
どうか、
許してほしい。
翌週のフライデーの見出しは、
社長と相手方の狙い通り、
俺と、あの女の2ショット。
奇しくも、
あの大阪に行った日の帰りに撮られたもんやった。
これもあの女が仕組んだことか…
でもこれで、
もうあの女と会わずに済む…
いまだ薬指に卑しく光る指輪を投げ捨てて、
俺は、俺の中の自ら手放した
まぶしいくらいの輝きを思い出しながら、
目がくらむ思いで、
そっと瞳を閉じた。