06 過去 -後編-
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光ちゃんと付き合いだして、
雛ちゃんとも変わらず友だち…ううん、
親友でいられて、
あたしは、本当に幸せだった。
運命の歯車が狂いだしたのは、
いつから…?
『…ちゃん、?
光ちゃん!』
光[…ん、
あぁ、なん?]
『なん?じゃないよ!
どーしたの?ぼーっとして、
…ちゃんと寝てるの?』
ある時を境に、
光ちゃんはあたしといるとき
いつも心ここに非ずって感じだった。
その真実を知ったのは…
あたしたちが付き合って、
1年目の記念日の前日だった。
明日の記念日は光ちゃんと約束してるから、
今日は日ごろの感謝も込めて
光ちゃんにプレゼントを買おうと
一人で街へ出た時。
光ちゃんはその日、東京でお仕事のはずで、
それは前から確認してたから確実で、
だから、
大阪にいるなんて、
ありえないことだった。
はずなのに…
服とかにもあまりこだわらない光ちゃんが
唯一関心を示したブランド、クロムハーツ。
このお店なら、光ちゃんに喜んでもらえるはずって、
カタログ請求して、
いい感じのペアリングを見つけたから、
何か月も前からバイト代ためて、
やっとの思いで買いに来た。
店の前まで来たとき、
ブランドショップに一人で来るなんて初めてで
気後れしちゃって、
一度気を取り直そうと、
少し離れたところで深呼吸、
よし!
と意気込んで、お店に向かったとき、
信じられない光景に、
思わず我が目を疑った。
一瞬で、
根っこが生えたみたいに足が動かなくて。
そこには、
まさに今、あたしが向かおうとしていた
クロムハーツのショップから、
まさに、あたしが買おうとしていた
いい感じのペアリングをおそろいでつけて出てくる
仲良さげな、美男美女のお似合いカップル。
女の人は、あたしなんかよりずっと大人で、
スタイルよくてきれいなモデルさんみたいな人。
そして、
その人と腕を組んでいるのは…
見慣れた茶髪に
モノトーンの服。
見間違えるはずがない。
つい昨日も、
電話越しに[愛してる]って言ってくれた。
『…光…ちゃん…?』
目の前の現実が受け入れられずに
ただ茫然と立ち尽くしていると、
不意に、
カップルの会話が聞こえてきた。
【ねえ、光一、
今日はホテルに泊まるんでしょ?
明日は何時に起きるの?】
光[…ぁあ、明日は、
約束あるから…9時には起こして。]
【早いのね、
今夜は夜更かしできないじゃない…(拗)】
光[昨日いやっちゅーほどヤったやろ(笑)]
【や~だぁ、
言わないでよ恥ずかしい(照)
でも、
本当は毎日だって繋がってたいんだから…♪】
そういって、男の腕にぴったり寄り添う女の人。
明らかに、お友達の会話じゃないよね?
てゆーか、昨日もその人といたんだ?
その人とさんざん愛しあった後で、
白々しくあたしに、
“愛してる”なんて言ったの…っ?
なんでここにいるの?
その女の人だれ?
お仕事って嘘だったの?
ねえ、
あたしは光ちゃんの、なに…?
感情が溢れて止まらない…っ
悲しいのか、
悔しいのか、
自分でも、もうわからない…
帰ろう、
諦めかけた時、
光ちゃんと…
目があった…。
最後の望みをかけて、
キッ、と睨んでみるけど、
それも空しく、
光ちゃんはフッて笑うと、
見せつけるように、
隣の女の人に深く口づけ、
わざと、
あたしに聞こえるように、
大きめな声で言い放った…
【…っん、もう、
いきなりなぁに~?光一♪】
光[明日の約束はやっぱなしや。
今日も、
悲鳴あげるまで鳴かしたるわ(妖笑)]
【えぇ~?w
でも、いいの?
約束してたの、女の子なんでしょ?
あたし、知ってるんだから…】
女の人が少し拗ねたような表情を見せると、
光ちゃんは、その人の肩をぐっと抱き寄せて、
目は、思いっきりあたしを見ながら
光[…遊びは、
終わりや。]
真剣な目だった。
あぁ、終わったんだって、
瞬時に理解したあたしは、
早くその場を離れたくて、
必死に家に向かって走った。
ラッキー。
プレゼント代浮いちゃった。
買う前でよかったよ、ほんと。
このお金で、何かおいしいものでも食べようかな?
そーだ、
一人でごちそうもさびしいし、
雛ちゃんでも誘おう。
雛ちゃんは親友だもんね。
たまにはおいしいものごちそうしてやってもいいかな。
ープルルルルルル…プルルルルルル…っ
ガチャ
雛[…はい?]
『………』
あれ?おかしいな、
声…出ないや…
雛[もしもーし?
なに?いたずら?]
『………っ、』
なにしてるの、
なんか言わなきゃ…っ
今日はちいさんのおごりで
おいしいもん食べよっかって、
ほら…
言え…っ
雛[ええ加減喋れや。(笑)
…ちいなんやろ?]
あーそっか、
ディスプレイに名前出るもんね。
親友だもん、登録してないわけがない。
雛[…俺、飯まだやねん。
いつもの店に7時。
遅れんなよ!]プツッ
ープーッ、プーッ…
あーあ、切れちゃった。
あほだな、雛ちゃん。
あたし一言もしゃべんなかったのに…
もし本当にいたずら電話とかだったらどーすんの。
あれ?
なんで、
ケータイのディスプレイ歪んでんだろ?
故障かなぁ?
今何時かわかんないや。
いーや。
先行って、なんか食べてよ。
どーせあたしのおごりだもんね。
そのまま走って、お店の前に着いた。
雛[…遅いわ(笑)]
『…っひ、なちゃ?
…な、んで…
っ……(泣)』
雛[おっまえ、顔汚いぞ(笑)]
そういって、
雛ちゃんはあたしの頭を
自分の無駄にごつい胸に押し付けた。
『…っな、にすんの…ぉ…っ』
雛[…泣きたいんやろ?
がまんなんかすんな。
呼べばいつだってなぁ、
胸くらい貸したんねん。]
『あ、たし…
呼んで、な、い…っ』
雛[…そやったか?
俺には聞こえたけどな。
…“助けてー”って。お前の声。]
雛ちゃんの大きな手があたしの背中で
小刻みに刻むリズムが何だか優しくて、
涙、止まんないじゃん…
『…っふ、ぇ…っ(泣)』
雛ちゃんは、なにも言わない。
ただ、黙って、
あたしの背中で優しいリズムを刻むだけ。
だけどそれは、
どんな言葉で慰められるよりもよっぽど、
曇ってたあたしの心を晴れさせた。
しばらくそうしていると、
雛ちゃんはあたしの手を引いて
自分の家に向かって歩き出した。
部屋に着くと、
雛ちゃんは少しのブランデー入りの
ホットミルクを作ってくれて、
二人でソファーに座って飲みながら、
あたしは雛ちゃんにすべてを吐き出した。
言ってる時も、
雛ちゃんは何か意見を言うでもなく、
ただうなずきながら、
結構な時間、
ずっとあたしの目を見て、真剣に聞いてくれた。
あたしは、
受け入れられた気がして、
すごくほっとした。
全部話し終わる頃には、
すっかり夜も更けていて、
あたしはそのまま、
雛ちゃんの部屋に泊まることになった。
雛ちゃんは、
あたしにベッドを譲ってくれて、
あたしが眠るまで、
ずっと手を握ってくれてた。
翌朝、
目が覚めると、
雛ちゃんはとっくに起きていて、
トーストと目玉焼き、野菜スープを作ってくれてた。
とてもじゃないけど
食事をとる気分じゃなかったあたしは、
『いらない』って断ってみたけど、
[朝食べなパワーでぇへん!]って力説されて、
しょうがなく、野菜スープをのどに通した。
雛[…ちい、
いきなりこんなんゆーたら
追いつめてしまうかもなんやけど、
どうすんねん?
これから…]
どうする、か…
『…とりあえず、
今日の1年記念日はぶっちかな(笑)』
わざと、
明るくふるまった。
今さらだけど、
これ以上は雛ちゃんの負担になりたくなくて…
雛[…あほ。
わざわざ泣けとは言わんけど、
俺の前でまでそんなぶっさいくな顔すんなっ
正直に、気持ち出せ。
大丈夫や、俺はここにおるから…]
そういって、
あたしの頭をなでる。
『…あたし、
雛ちゃんを好きになればよかったなあ…』
雛[おーおー、
妹ちゃんにそう言われるとうれしいね(笑)
俺は好きやで?
…兄貴としてなw]
そう笑った雛ちゃんは、
面と向かっては恥ずかしくて言えないけど、
本当のお兄ちゃんみたいだったよ。
『あたしも…
大好き…(照)』
心地いい。
和やかで、落ち着く。
雛ちゃんといると、
あたしの心のささくれたとこが、
丸くなってくみたい。
でも、
そう簡単に、
あたしの心の中の
光ちゃんの抜けた穴は埋まってくれなくて、
あたしはそれ以来、
まるで別人になったように、
夜遊びにふけるようになった。
毎晩、派手な化粧をして、
濃い紅をひき、
無駄に露出の高い服で
適当な男を誘っては、
名前も聞かずに、寝る。
連絡先なんてもちろん聞かない。
もう会うこともないから。
さみしさを、埋めようと
必死だった。
誰かに、
あたしが今ここにいるって
感じさせてほしくて、
そこに感情なんて存在しない。
何人の男の人に抱かれたのかも、
もうわからない…
そんな、抜け殻みたいな毎日を過ごして、
2か月が過ぎようとしていたころ、
久しぶりに、雛ちゃんに呼び出された。
夜遊びのこと、
雛ちゃんにだけはばれたくなくて、
わざと、
ノーメイクでジャージのような服装で
雛ちゃんの家に行った。
でも…
雛[お前、
変わったな…。]
雛ちゃんには、すべてばれていた。
夜遊びのこと、
あたしの化粧や服装が変わったことも。
雛[…お前、
このままでええんか?]
『…もう、
いいんだ。
あたしなんか、
もう、どうなったって……っ?!』
ードサッ
次の瞬間、
強引に、
雛ちゃんのベッドに押し倒されて、
何が起こったのか理解するより先に、
雛ちゃんの唇に思考を奪われた。
『…っん?!
んぅ…、や…
ひ、なちゃ…っぁ(汗)』
拒んでも、
突き放そうとしても、
すごい力でねじ伏せられて、
押さえつけられた手首は、
ピクリとも動かない…
雛[…どーせ、
今日もこのあと
名前も知らんような男に抱かれんねやろ?
せやったら、
俺の相手でも一緒やんけ……っ]
そう言って、
あたしの上の服とブラを一気にたくし上げ、
胸の突起に吸い付いた。
『…んっ、やぁっ
…は、ひなちゃっ
…やめ、て…っ(泣)』
今まで感じたこともない感覚に襲われて、
思わず、
体が震え、
ほほには涙が伝っていた。
雛[…っ、
ほれ、みぃ…]
雛ちゃんは、
あたしの涙をぬぐうと、
乱れた衣服を整えて、
ベッドから降り、
あたしの肩を抱き上げて
真剣な顔であたしを見つめた。
雛[ちい。
もうこんなことやめ?
お前が、傷つくだけや。]
『…っでも、
こうでもしないと…
不安なの…っ』
雛[……っ]
『…光ちゃんが、そうだったように、
あたしは、
本当は誰からも
必要とされてないんじゃないかって…
あたしなんて、
本当は、
いないんじゃ、ないか…って…
…
だから…
誰かに捕まえててほしく……っ?!』
話してる途中で、
雛ちゃんに腕を引かれてバランスを崩し、
あたしは雛ちゃんの腕の中になだれ込む。
雛[…俺がおるやろ?]
そういった雛ちゃんの声は
ほんの少し震えていた、
雛[俺がおる限り、
お前は一人なんかじゃ絶対ない!
一人でおんのがさみしいんなら、
一緒に飯食うたるし、
いつでも泊まりに来てもええ。
お前が望むなら、
男としてでも接したるし、
…抱いて安心するんやったら、抱いたる。
俺は、お前のためならなんだってしたんねん!
やから…頼むわ…っ
もう、そんな悲しいことゆーて、
自分傷つけんのだけは…っ
お願いやからやめてくれっ!]
雛ちゃん…
泣いてるの…?
あたしの…ため?
まだ、
あたしなんかのために、
泣いてくれる人がいた…っ
『ひ、な、ちゃん…
あたし…っ(泣)』
その日から、
あたしは夜遊びの一切をやめた。
もともと遊んでたのはその場限りの人ばっかり。
後腐れなんてあるわけもなく、
服はすべて処分して、メイクも変えた。
自分のことを受け止めてくれる人がいる。
それだけで、
こんなにも強くなれるんだ。
想いはまだ、
こんなにも鮮やかにあるけれど、
大丈夫、
きっと忘れられる…
次に会うときは、
きっと、
笑ってみせるよ…