07 忘れる… 恋人
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あの打ち合わせから。一週間。
携帯に彼からの着信は 一件もない。
前までは、頻繁にじゃないけど、
食事に誘ってくれたりもしたのに、
ちなみに章大さんからは
「この前はごめん、あのあと大丈夫やった?」
みたいな内容のメールが一件、
返事は、できなかった。
怒ってるとかじゃなく、
あのことまでは話せない…
あと、錦戸さんからも食事のお誘いの電話があったけど、
どうしてもそういう気分になれなくて、
お断りした。
“彼が好き”
そう自覚してから、本当に些細なことで
不安になったり舞い上がったり、
なんだかずっと、落ち着かない。
たとえば今だってそう。
たった一週間、連絡がないだけなのに
思考がどんどん悪いことばかりで埋め尽くされる。
嫌われちゃったのかな
私のこと忘れてるのかな
もしかして、
彼女とか、いるのかな…
私の中には、まだ、
あのときのあなたの熱が残ってるのに…
ねえ、
今、何をしてるの?
…あいたいよ。
なーんて、
センチメンタルな気分も束の間。
お仕事は、私にお休みなんてくれない。
今日もお仕事お受けしてるアーティストさんの元へ
できたばかりの詩を持って向かう。
曲と合わせて、
お相手と最後の微調整をすませて、
その流れで相手方のパーティーにお呼ばれ。
残念ながら、
かっこいいひといるかなっ
なんて気分でもない。
仕事先でのパーティーなんて
できればご遠慮したい、肩のこるもの。
終わったらマッサージにでも行こうかな~。
彼のこともあって
ここのところ、気を張りっぱなしだった。。
これが、恋をするっていうことなのかな。
片想いって、つらい。
そんなことを考えてたからかな、
あまり微調整に集中できなかった。
だめだな、私。
仕事に私情をはさむなんてありえない。
最近、こんなんばっか。
彼のことが頭から離れなくて、
気づけば何をするにも上の空。
小さい頃から歌が好きで、
一生の宝物にされるような詩を書くのが夢だった、
それなのに、
自分の夢だった仕事までおろそかにして、
私はいったい、何をしてるんだろう。
次の打ち合わせが最終。
それが終われば、
もう会う機会なんてないに等しい。
そろそろ、潮時なのかもしれないな。
彼だって、私みたいなガキに好かれたって
きっと困るに決まってる。
そもそも、彼はトップアイドル。
私は一介の作詞家で、ただの高校生。
最初から、次元が違いすぎる想いだった。
生きた時間も、生きてる世界も、
すべて違う。
そんな彼と、一時でも
一緒に笑いあえたこと、
それだけで、十分なのかな。
パーティーでは、せっかくのお料理も、
相手方から紹介されたお友達も、
ぜんぜん頭に入らなかった。
気づけば空には月が上りだして、
みんなすっかりお酒も入り、
楽しそうにおしゃべりしていた。
ーガッー
<ねえ、ちいちゃん、
この後ふたりで抜けない?>
え…誰?
相手方のお友達らしき人が、
突然なれなれしく肩を組んで話しかけてきた。
「あ、あのっ…離してください…っ(汗)」
慌てて肩の手を払おうとしたが、
男の人はしっかり握っていて離さない。
<いいじゃん、けちけちすんなよ。
そだ、俺にも詩、書いてよっ
ふたりっきりで打ち合わせしよう…?>
なに、この人…
お酒臭いし、言ってる意味がわからないっ
さっき紹介されたとき
あまり耳に入ってなかったから…
でも相手さんのお友達なら
無下にはできないし…っ(汗)
<なかなか、いい身体してんじゃん…(妖笑)>
男の人はなめるように私の身体を見て、
肩に乗せていた手を、胸に伸ばそうとした…
「やっ、(汗)
…やめてくださいってばっ!」
ーパチンッー
「…あっ(汗)」
しまった…
思わず、男の人の手を振りほどいてしまった。
<…ってぇ~、
いてぇよちいちゃ~ん、
見てよ、赤くなってんじゃん?
あ~あ、これ手当てくらいしてくれるんだよねえ?>
「あ…す、すみませ…っ」
<すみませんじゃねーっつの、
とりあえず、どっか空いてる部屋探そっか。
そこで、ゆーっくり手当てしてよ…(妖笑)>
そう言いながら、
男の人は私の腰に手を回し、
強引に引っ張っていった。
「っやっやだ!
誰か…っ」
ーガシッー
…え?
誰かが男の人の腕を引き剥がし、
よろめいた私を優しく抱きとめた。
私を抱いた肩越しに
低い声が響く。
[あかんやん、嫌がってる女の子、
無理やりつれてったりしたらさ…]
…彼?
瞬時に、身体が凍りつきそうになり、
跳ねるように顔を見上げた。
「錦戸…さん…?」
そこにいたのは見慣れないスーツを着て
私の方をみて微笑んでいる錦戸さんだった。
やだ、彼の声と聞き違えるなんて…
錦[びっくりしたー(笑)
なんでこんなとこおるん?]
「あ、私は、このパーティーの主催者の方と
お仕事ご一緒させていただいていて…
錦戸さんこそ…」
錦[へぇっ大変やなあ、
現役女子高生作詞家さんっ!
俺?俺はー普通にそいつと友達でっ]
世間って狭いな、
そんな偶然もあるんだ…
って、そんなことより…っ
<おいおいっ、誰だよお前?
困るんだよね。
その子、今俺と話してっからさ、
ほら、こっちおいで…>
ーガッー
「きゃっ!(汗)」
男の人が私に手を伸ばした瞬間、
錦戸さんは、
[ちょっとごめんな?]と耳元でささやいて、
私を放し、男の人に殴りかかった。
錦[困るはこっちのセリフや。
俺の女に手ぇだしてんちゃうぞ…(睨)]
そう、低いトーンで相手を威圧する姿は、
怒鳴り散らすよりも数倍の迫力を醸していた。
…って、お、俺の女?!
「…っちょ、錦戸さ…」
錦[しっ(照)]
戸惑う私を少し照れくさそうに小声で制圧し、
錦戸さんはまた男の人を鋭い眼でにらんだ。
<…っち!>
錦戸さんの迫力に圧倒されて、
ばつが悪そうに舌打ちをして男の人は去っていった。
錦[や~、災難やったなあっ(笑)
大丈夫?なんもされてない?
怪我とか…]
男の人を圧倒していた数秒前がうそのように
優しい笑顔で振り返って私を見つめる錦戸さん。
やっぱり、すごいひとだなあ…
「いえ、大丈夫ですっ
すみません、助けていただいて…
ありがとうございますっ」
錦[いやいや、
こんなくらいならいつでもっ
それより…ちょっと抜けやん?]
錦戸さんに促され
ふたりで晩ごはんを食べ直しに行った。
私が上の空であまりパーティーのお料理に
手をつけれないでいたことを
たぶんわかってくれていたのだろう…
錦[よかった~、
この前一回断られたから
めっちゃ勇気出したわ~(笑)]
「あ、この前は本当にすみませんでしたっ(汗)」
錦[いやいやっ気にせんとってっ]
お食事の席で、錦戸さんは
フランクな話から音楽の真剣な話まで、
いろんな話しをしてくれて、
私も久しぶりに、肩の力を抜いて、
思い切り笑った気がする。
「…あっはははは、錦戸さんっ
それってほんとなんですかぁ?!(笑)」
錦[…やっと、ほんまに笑ったなっ(笑)]
「…えっ?」
錦[や、この前楽屋で二人やったときは、
なんか緊張してて固まってもーてたし、
そのあとはすばるくん機嫌悪くて
ちい、ずっとびくついとったし、、
肩に力入りすぎて、疲れてたんちゃうかなーって。
で、今、めっちゃ普通に笑ってるからさ、
ちょっと安心したわっ(笑)]
知って、くれてたんだ。
こういうところ、錦戸さんって
すごく大人だなって感じる。
錦[すばるくんとさ、なんかあったん?
…かは聞かんとくか。(苦笑)
けど、あんまり、無理しいなや?]
そんなに、優しい声で言わないで…
最近、疲れてるのかな、
ほんの小さなあったかい言葉が、
妙に胸を熱くさせる。
「ありがと…ございます…っ(泣)」
錦[…っ泣きなや~、(汗)
しんどかったんやな…]
そう言って、
錦戸さんは小刻みに震える私の肩を
優しく胸に抱き寄せた。
彼は私を、
壊れるほどに強く抱きしめるけど、
錦戸さんは、
まるで真綿で包むように
大事に、抱きしめてくれる。
泣き止むまでずっと、
錦戸さんは私を離さなかった。
そして…
錦[なあ…
俺と、付き合わへん?]
いきなりのその言葉に、
驚きを隠せなかった。
「…っえ?
今、なんて…?(汗)」
錦[だからっ、
…俺と、付き合お?]
頭の中はオーバーヒート。
心臓はパンク寸前。
私より一回りも年上で、
彼とおなじ、トップアイドルの錦戸さんが、
私と…付き合う…?
わけがわからなくて、錦戸さんの顔を見ると
錦[…っ、見んなってっ…!(照)]
そういった彼の顔は、真っ赤だった。
あぁ、
本気で言ってくれてるんだ。
それはすぐに伝わった。
でも、私は彼が好き。
届かない想いかもしれないけれど、
少なくとも、私の中に彼のぬくもりがある以上、
ほかの誰かと付き合うなんて、その人に失礼だ。
私が考えをまとめるより一瞬早く、
錦戸さんが待ちきれなかったように口を開いた。
「でも、でも私…っ」
錦[知ってる。
すばるくんが、好きなんやろ?]
…なんで?
そう思ったけど、聞けなかった。
それよりも、
知っててなお、
私のことを好きと言ってくれるの?
錦[ごめん。
…ちいはすばるくんが好きやのに、
こんなんゆうたら困るかなって思ったんやけど、
でも、それでも俺あきらめきれんからっ
…ああ、もうっかっこ悪いっ、
ごめん…ごめん…っ]
錦戸さんの必死の告白に、
私はまた、涙がこぼれた。
「私は、渋谷さんが好きです。
でも…っ
もう、だめな気がします……。
渋谷さん…私のことなんか…っ」
涙と嗚咽でいっぱいいっぱいになりながら。
でも、錦戸さんがこんなに真剣に言ってくれてる以上、
私も、本音をぶつけなきゃいけないんだ。
「もう…つらくて…、
でも……、それでも私っ…」
そう言った瞬間、
私はまた、錦戸さんの胸の中に吸い寄せられていた。
錦[なあ、
俺じゃあかんかな?
ちいが苦しんでる姿、もう見たないねん。
ちいの不安も、悩みも、俺が受け止める。
すばるくんのことも、忘れさしたるから…]
やめてよ、そんな優しいこと言わないで。
甘えたく、なっちゃうから…
「……錦戸さん…っ」
こんなにも、純粋に、
私を好きといってくれる。
この人を拒絶するなんて…できない。
返事の代わりに、
私は錦戸さんを優しく抱き返した。
錦戸さんはそれを確かめると、
ゆっくりと私を放し、
優しく、探るように、
唇を重ねた。
彼のことは忘れる。
そんな誓いもこっそりこめた
約束のキス。
「…本当に、
私なんかで、いいんですか?(汗)」
錦[もう、俺のもんやろ?
“なんか”とか…ゆうな。(照)]
そう言った錦戸さんの顔は、
まるで宝物を見つけた少年のように
無所気に綻んでいた。
錦[これからは、さ、
“亮”でいいから…。]
彼の熱は、いまだ私の中に息づく。
でもその上から、錦戸さんの優しい吐息が
私をそっと包み込んでく…
私は、亮さんの彼女になる。