11 優しさ さよなら
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錦[どーぞ。
散らかってるけど…]
通されたリビングには、
たくさんの荷物が、
無造作に散らばっていた。
シンプルで
必要最低限のものだけが
きれいに整頓されていた
彼の部屋とは大違いの、
物がいっぱいの亮さんの部屋。
男の人の部屋にはいるのは
二回目だ。
初めては、彼の部屋。
酔っ払った私を介抱してくれて、
…彼と初めて、
キスをした。
今思えば、
あれはやっぱり
章大さんや大倉さんの言うとおり
“嫉妬”
だったりしたのかな…
錦[…ちい?
あ、もしかして
汚さに引いた…?(汗)]
「っち、違いますっ
すみません、ぼーっとしちゃってっ(汗)」
錦[や、ええけど…
なんか飲むかっ。
持ってくるし、
適当に座っといてやっ]
だめだ…
亮さんといるのに、
彼のことばっか考えちゃ…
気を取り直して、
ソファに腰を沈めた。
錦[…お待たせっ]
亮さんは
オレンジジュースとカクテルを持って
私の隣に腰掛けた。
テレビをみながら、
笑ったり、おしゃべりをしたり、
他愛のない穏やかな時間が二人を包む。
ふと、
亮さんの方を見上げたら、
亮さんも私を見つめていて、
瞳の中に、
お互いの姿が映りこむ距離
ゆっくり
私の反応を伺うように、
亮さんは、その唇を
私の唇に重ねた。
…足りない。
だめ、
こんなんじゃ、
彼の熱が冷めない。
「…もっと…」
自分でも知らないうちに、
言葉が沸いて溢れた。
亮さんはそれに応えるように、
もう一度、キスをくれた。
深く、長い
二度目のキス。
わずかに開いた唇の間から
吐息混じりに亮さんはささやく
錦[…ベッド、
行くか…]
そういうと、
私の身体をひょいっと持ち上げて、
ベッドルームへと運んでくれた。
抵抗は、しない。
亮さんの首に腕を回して、
決心がぐらつく隙を埋めるように、
今度は
私からキスをした。
それからは、
流れに身を任せるように、
私は静かに
まぶたを閉じた。
亮さんの唇が、
ためらいがちに、慈しむように
私の首筋に触れたのがわかる。
前にも、
こんなことがあった。
真っ暗な部屋に投げ込まれて、
彼に強引にキスされたとき。
でも、
彼とはぜんぜん違う。
彼の場合は…
「…っ!」
私、
なにやってるんだろう…
答えなんて
とっくに出てたのに。
ずっと気づかない振りしてた。
亮さんに触れられても、
頭に浮かぶのは
彼の顔。
いくら唇を重ねても
彼に抱きしめられた時のように、
亮さんの熱が芯までは届かない。
こんなにも、彼でいっぱいの身体で、
他の人と愛し合うことなんて
できるわけがなかったのに…っ
錦[…ちい…]
一筋の涙がほほを伝った。
言葉では言い表せない感情が、
行き場を求めて
涙となって流れ出た。
それは亮さんにとっては、
あるいは拒絶を意味したんだろう。
亮さんは
流れ出た涙を拭うように、
私の瞳にキスをして、
そっと、髪をなでた。
錦[ごめんな…]
小さくそういうと、
亮さんは身体を起こし、
私の隣に寝転がった。
「亮さん…
私…っ」
涙が邪魔をして、
言葉がうまく出てこない。
錦[あーあっ、
やっぱすばるくんには敵わんわっ(笑)
いいよ。
初めからわかってたし…
むしろ横槍入れたんは、
俺の方。
悪かったな、いじわるして。]
亮さんは、
すべてを察していた。
彼が言ってた。
『亮は人一倍優しくて、気ぃ使いぃやから』って…
亮さんは今、
私の気持ちと彼の気持ち、
メンバーの思い、
そして、
自分の気持ち。
すべてを抱えて、
自分だけが悪者になろうとしてる。
錦[すばるくん、
ほんまは優しいくせに不器用やからさっ、
ぐずぐずして、
見てられんくて、
つい、魔がさした…
ごめんな?(笑)]
うそつき。
亮さんが本気だったことくらい、
私にだってわかる。
優しいのは、
あなただって同じ。
亮さんのつく
愛おしいくらい優しい嘘を、
聞き流すことしかできない自分がもどかしくて、
亮さんの言葉をさえぎるように、
思わず抱きしめてしまった。
「……ごめんなさい…っ」
錦[…っな、
なにゆーてんの?!
俺は別に…
最初から…、っ]
「…うん、
ありがとう…
ありがと…」
亮さんの見る景色が
水面にゆれて歪んでいるのが
顔を見なくてもわかったから、
気づかない振りをして、
目を閉じ、
私はもう一度、
その震える身体をきつく抱きしめた。
亮さんも、
嗚咽を必死にこらえて、
唇を噛みしめ、
私の肩に頭を預けた。
私たちは抱き合いながら、
そのままベッドへ深く堕ちる。
どうして、
みんなが幸せになれないんだろう。
どうして私たちはすれ違い、
傷ついて、
それでもまた、
恋に落ちるんだろう。
答えのない自問自答を繰り返し、
抱き合ったまま、
目を開くと、いつのまにか朝が来ていた。